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転生美少女、先生をしようと思う

34話

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『『あの軟膏売って下さい!!』』


これは、マロウさんにハンドクリームセットを渡して早翌朝のことだった。
朝起きて、身支度を済ませ客室を出たと同時のこと。

私の前にはメイド服の下女さん使用人さん達、更にはセリくん付きの侍女まで。

「えーっと、使い心地どうでした?」

あまりの迫力に少々たじろぎながらもなかなか良い反応だと内心ほくそ笑む。

「最高でした!」
「あの軟膏…ハンドクリーム?は、塗ってもベタベタせずスッと馴染みましたし!」
「それに僅かにいい匂い!」
「仕事柄匂いのきついのは付けにくいんですけどアレなら気にもならないし!」
「何より赤切れが嘘みたいに薄くなっちゃいました!!」
「ハーブティーも夜飲んだらぐっすり眠れて朝スッキリ起きられましたし!」

中々の効果だったらしい。

うんうん、やっぱりこういう反応は女の子の方がわかりやすいね。

「じゃあ売ります。
ハンドクリームは2ヶ月分銅貨4枚、香油は1瓶銅貨3枚、ハーブティーは1ヶ月分パックの彩セット分銅貨1枚鉄貨5枚。
セットのご注文銅貨6枚。どうですか?」
『セットで買わせて下さい!!!』

「毎度あり~。
宣伝宜しくお願いします」

事前に作っておいた詰め合わせセットの箱を渡す。皆お金持ってきてたみたいだし、お仕事前だったみたいだからこのまま部屋まで戻るそう。
セット五人分、ハンドクリーム3個、香油1瓶、ハーブティー2セット…計51,000円。
売れた売れた。

「目標は安く量産できるとこかなぁ。この金額だと平民が買うには尻込みしちゃう」

取り敢えず今の優先は、貴族様達に売れるようなやつを作っていこう。
貴族間で流行れば、平民も気になって手を伸ばしやすいものになる。

宣伝は、名家の貴族のご令嬢に頼むのが一番良いと思う。例えば…、
社交界で今一番注目を浴びてるご令嬢…とか。

そう言えば、来週セリくんのデビュタントだったよね?

私には関係ない事だったんだけど……。

少し考えてから、口元を指で隠しながらニヤリと笑う。

効果があっても、見た目が悪かったら駄目だよね。
可愛い容器作らないと。
今夜は寝不足だぁ……、また、二人に怒られちゃうな。

 ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆    ◆

ここ数日、何か忘れてると感じてる。
そう、本当に何か忘れてる違和感…ヴァルフゴール見てると思い出せそうなのに、あいつ私のこと避けてやがる。

目を合わせてばサッと逃げていく。

妹さん達の容体が良くなって後は目が覚めるのを待つだけなのに最近は、騎士団の訓練に参加するようになったし、周りとの交流も良いと思うけど、その分顔を合わせる時間が減る。

そう、本当に何か忘れてる。

「何でだろ」
「何がー?」

セリくんとの授業も終わった休憩時間。
メイドさん達の新商品の催促に、あの人達とうとう遠慮しなくなったとゲンナリしていた休憩時間。

何でこんな疲れないといけないのよ。

ちょっとぬるくなった紅茶に口をつけて深くため息を吐いた。

「どうしよう」

地道にコツコツ、そう言うの得意だったんだけど最近はそうも行かなくなった。
行き詰まるってこう言うことだったと最近思い出したよ。

「だから何が?」
「んー?色々……って、アンタレスいつの間に」
「ずっと居たよ」
「そう言えばいたねぇ。」

アンタレスの顔を見て、また溜息をひとつ。

こう…モヤモヤが晴れないのって凄く嫌。具体的に言語化出来ないもどかしさに苛々する。

爪でトントンとテーブルを叩けば小気味の良い音を鳴らす。

「あー、イライラするぅ」

ケーキスタンドのストベリーのミニタルトに手を伸ばしながら囁く。
そう、無性にイライラして仕方がない。無性に糖分を欲している。

「あー、美味しいけど太るやつ~」

魔法を使えばカロリー消費とかそんなご都合な展開はない。減るのは魔力と気力だけ。

「薬草も良い感じに育ってるしアンタレスにもそろそろ手伝って貰おうかな」
「手伝う手伝う。何すれば良い?」
「取り敢えず土地の管理。この間大公閣下に土地を安価で譲って貰ってね、その土地にハーブを色々植えたのよ」
「へぇ。大公とコソコソ会ってると思ったらそんな事してたんだぁ。言ってくれたらよかったのに。
それでそれで、具体的には?」
「商品の在庫第一陣の製作及び、在庫管理」
「…それ僕にできる?」

不安そうに首を傾げる。

うーん、出来ると思うんだけどなぁ。

「製作は割と簡単な奴から始めてくれて良いから。大丈夫、機材は揃えてる」
「在庫管理は?」
「簡単簡単。少ないのバンバン作って、容器とかはバンバン発注すれば良いだけだから」
「売れ残ったりはー?」
「売れ残りはそのあと考えれば良いよ。別に食べる物とかじゃ無いし、期限もあってないような物だし」
「………マユラが言うと説得力ある」

なんか出来るような気がしてきた。

やる気が出てきたのか握り拳を作るのを見て、溜息じゃ無い息をホッと吐く。
一応、最初の内は詳しい人に指導をお願いするし、大丈夫大丈夫。

「ヴァルフゴールは訓練ばっかりで……何で私の側にいないのよぉ。手伝えー」
「マユラの悩みはそれかー」
「コレもそのひとつ」
「心配しないでも、直ぐに戻って来るよ。くっついて片時も離れなかったりしてー」

「それは暑苦しくてヤダ」

筋肉だるまの熱気を想像して、なんかちょっと熱い。

あー、熱い。

頭いたい。

しんどい……。

あー、分かった。このイライラの原因。

そっか、この世界に来てそろそろ二ヶ月だ、油断したぁ。
環境が急に変わったから遅れてるんだなってのは分かってたけど……これ、来てるわ。

「ごめんアンタレス、ちょっと寝るねぇ」
「えっ!ちょっ⁉︎マユラっ!!」

ぐらりと体が傾いた。
ちゃんと支えてくれた体温を感じて、そっと目を閉じる。


そうだ、痛み止め…作ろう。
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