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転生美少女、迷子を送り届ける
26話
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「いりません」
にっこり笑って告げてもノイモン卿は返答が気に入らないらしい。
「しかし…っっ」
尚も続けようとした言葉は、チャックを閉じる様に縫い付けた。
「ノイモン卿
私
何度も
いらないと言ってますよね?」
きっと、耳垢でも詰まって馬鹿になってるんだ。
言葉を正しく理解できないその耳は、いっそ切り落として新しいのを作ってあげよう。
「マユラ殿!」
皇帝陛下の声に、耳へと伸ばしていた手をぴたりと止めた。
「宰相の非礼を詫びよう。余が宰相を説得する。だから、その手を収めてはくれないか」
「…良いんですか?ではお願いします」
部下の悪いところを治すのが上に立つ人間の責任。第三者の私が、治しちゃダメだよねぇ。
「私の為を思って下さってるのは承知してます。
ですが、常識は私には必要ないものです」
だって、常識はもう私じゃない。その枷はもう外れた。
人と肩を並べられる様に努力する事はもうしない。
誰かの為を思って何かを施す事はもうしない。
誰かの顔色を伺って自分を押し殺す事はもうしない。
「私の行動が気になるなら、貴方が教えて下さい」
私は他人に合わせる為に何かを学んで、何かをする必要はない。
気に触るのなら、貴方が私に教えろ。私は、誰にも教えを乞わない。
「お願いします」
今の私は、そう言う人間。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「全く!貴方が初めてですよ!太陽帝国の宰相である私に真っ向から教えろと申し出たのは!!」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄です」
「褒めていません!」
ツンデレかな?
ぷんすこ怒って先を歩くノイモン卿の横についてついていく。
「仕方が無いので教えて差し上げます!
貴方の能力値が普通より格段に高い事は理解しました。ですので…
まず!貴方のその能力は信頼の置ける人物以外に打ち明けてはいけません!あの規格外の魔法道具が作れる事もです!」
「分かりました。ノイモン卿」
「今日から私が貴方に学を教える師なのですから、先生と呼んで下さい」
「ノイモン先生ですね。私も殿は付けなくても良いですよ」
「はい、マユラさん。
初めての生徒が、常識はずれの人物で大変不本意ではありますが宜しくお願いします」
困った様にやれやれと笑って、メガネの縁を上げた。
常識はずれ?
諦めてください!
満面の笑みを作って、グッジョブサインを送った。
仕方ないか。って顔してるね。ちらり…横から観察され、ふむと顎に手を持っていく。
「一般的な素養は身につけている様ですね」
「はい、一通り。常識がないと言われたのは初めてです」
「誰も教えなかったのですね。
全く、外面だけ教育したのが見え見えです。
マナー講師がこれを見たら皆激怒しますよ」
「あはは」
外面…。
このひと、妙に確信をつくのが上手いと言うか、私の地雷を踏むのが上手いと言うべきか…。
「誰が教えたのですか?」
「祖母です。今はいません」
「そうですか、きっと取り繕うのが上手い方なのでしょう。
人を悪く言いたくはありませんが、貴方に悪影響を与えた人なのでしょうね」
「どうして、そう思うんですか?」
「分かりますよ、貴女を見ていたら…息が詰まっていたのでしょう?お祖母様の前では」
全く、その通りだった。
思わず立ち止まって、横に立つ人の顔をまじまじと見つめる。
なんだ?と片眉を上げるその姿は、さも今の言葉は大した意味も含んでいないと言う様な顔。
あは、可笑しい。
あんなに外面が良くて蛇の様に狡猾だった人が、ここでは貶されてる。
「ふふ」
きっと、祖母もその程度の人だった。
「ふふふ」
「どうしたんですか?」
些細な小枝を大蛇と勘違いして、あんなに怖いと思っていたあの時の私がまるで馬鹿みたいじゃないか。
「先生って余り好きじゃなかったけど、ノイモン先生は好きかも」
「なっ!?」
「あ、好きって先生としてって意味ですからね」
「っ!分かっていますっ!!」
あの人の事を思い出すのはもうやめよう。
きっと時間の無駄。
(シル、質問。
スキルの削除ってできる?)
『結論から言えば、主でしたら可能です。
削除しますか?』
(うん、宜くぅ)
『かしこまりました。スキル“基本礼儀”の削除を開始します』
ニヤリと唇に弧を描く。
スキルを消した所で、それまでの立ち振る舞いが消えるわけじゃない。
これからのそれは、処世術じゃない。
私が、私らしく振る舞うためのもの。
にっこり笑って告げてもノイモン卿は返答が気に入らないらしい。
「しかし…っっ」
尚も続けようとした言葉は、チャックを閉じる様に縫い付けた。
「ノイモン卿
私
何度も
いらないと言ってますよね?」
きっと、耳垢でも詰まって馬鹿になってるんだ。
言葉を正しく理解できないその耳は、いっそ切り落として新しいのを作ってあげよう。
「マユラ殿!」
皇帝陛下の声に、耳へと伸ばしていた手をぴたりと止めた。
「宰相の非礼を詫びよう。余が宰相を説得する。だから、その手を収めてはくれないか」
「…良いんですか?ではお願いします」
部下の悪いところを治すのが上に立つ人間の責任。第三者の私が、治しちゃダメだよねぇ。
「私の為を思って下さってるのは承知してます。
ですが、常識は私には必要ないものです」
だって、常識はもう私じゃない。その枷はもう外れた。
人と肩を並べられる様に努力する事はもうしない。
誰かの為を思って何かを施す事はもうしない。
誰かの顔色を伺って自分を押し殺す事はもうしない。
「私の行動が気になるなら、貴方が教えて下さい」
私は他人に合わせる為に何かを学んで、何かをする必要はない。
気に触るのなら、貴方が私に教えろ。私は、誰にも教えを乞わない。
「お願いします」
今の私は、そう言う人間。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「全く!貴方が初めてですよ!太陽帝国の宰相である私に真っ向から教えろと申し出たのは!!」
「ふふ、お褒めにあずかり光栄です」
「褒めていません!」
ツンデレかな?
ぷんすこ怒って先を歩くノイモン卿の横についてついていく。
「仕方が無いので教えて差し上げます!
貴方の能力値が普通より格段に高い事は理解しました。ですので…
まず!貴方のその能力は信頼の置ける人物以外に打ち明けてはいけません!あの規格外の魔法道具が作れる事もです!」
「分かりました。ノイモン卿」
「今日から私が貴方に学を教える師なのですから、先生と呼んで下さい」
「ノイモン先生ですね。私も殿は付けなくても良いですよ」
「はい、マユラさん。
初めての生徒が、常識はずれの人物で大変不本意ではありますが宜しくお願いします」
困った様にやれやれと笑って、メガネの縁を上げた。
常識はずれ?
諦めてください!
満面の笑みを作って、グッジョブサインを送った。
仕方ないか。って顔してるね。ちらり…横から観察され、ふむと顎に手を持っていく。
「一般的な素養は身につけている様ですね」
「はい、一通り。常識がないと言われたのは初めてです」
「誰も教えなかったのですね。
全く、外面だけ教育したのが見え見えです。
マナー講師がこれを見たら皆激怒しますよ」
「あはは」
外面…。
このひと、妙に確信をつくのが上手いと言うか、私の地雷を踏むのが上手いと言うべきか…。
「誰が教えたのですか?」
「祖母です。今はいません」
「そうですか、きっと取り繕うのが上手い方なのでしょう。
人を悪く言いたくはありませんが、貴方に悪影響を与えた人なのでしょうね」
「どうして、そう思うんですか?」
「分かりますよ、貴女を見ていたら…息が詰まっていたのでしょう?お祖母様の前では」
全く、その通りだった。
思わず立ち止まって、横に立つ人の顔をまじまじと見つめる。
なんだ?と片眉を上げるその姿は、さも今の言葉は大した意味も含んでいないと言う様な顔。
あは、可笑しい。
あんなに外面が良くて蛇の様に狡猾だった人が、ここでは貶されてる。
「ふふ」
きっと、祖母もその程度の人だった。
「ふふふ」
「どうしたんですか?」
些細な小枝を大蛇と勘違いして、あんなに怖いと思っていたあの時の私がまるで馬鹿みたいじゃないか。
「先生って余り好きじゃなかったけど、ノイモン先生は好きかも」
「なっ!?」
「あ、好きって先生としてって意味ですからね」
「っ!分かっていますっ!!」
あの人の事を思い出すのはもうやめよう。
きっと時間の無駄。
(シル、質問。
スキルの削除ってできる?)
『結論から言えば、主でしたら可能です。
削除しますか?』
(うん、宜くぅ)
『かしこまりました。スキル“基本礼儀”の削除を開始します』
ニヤリと唇に弧を描く。
スキルを消した所で、それまでの立ち振る舞いが消えるわけじゃない。
これからのそれは、処世術じゃない。
私が、私らしく振る舞うためのもの。
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