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転生美少女、逃げるが勝ち
14話
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_____消え入りそうな声を聞き入れる。
(シル、どの位経った?)
『一時間ほどです』
(外の様子は?)
『二人は問題なく護衛をしていました。魔物避けの効果もあり魔物は出ませんでした』
(よかった…シルもありがとう。月女神様と繋げてくれて)
『説得されたのは主です。素晴らしかったですよ』
(ありがとう)
さて、お寝坊さんも起こしてあげようかな。
「少年起きて」
肩を軽くゆすって覚醒を促せば、長いまつげに縁取られた瞼がピクリと痙攣し、ゆっくりとその目を開ける。
太陽を詰め込んだ、美しい色合いの瞳。
「おはよう。私の名前はマユラ」
「うん、知ってる…時々夢に出てくる泣いたり怒ったりしてるお姉さんを、慰めた人」
「うん。お姉さんは大事な宝物を取られちゃった人なの」
「可哀想」
「優しい人だよ。
私はそのお姉さんに頼まれてたんだ。君をお家に帰してあげてって。
そう頼まれたけど、君が嫌なら帰らなくても良いと思うよ。いつか帰らないといけないなら、今は帰らなくて良いとも思う。
折角外に出たんだし、君がしたい事をしよう。
君が望む事をできるだけ叶えてあげる」
少年はぱぁと輝く笑顔を浮かべた。
「ほんと!?あのね、僕、外で猫?って言う魔獣を触ってみたくて、あと、キャンディーとか綿菓子?が食べたい!あとねあとね!」
指を折りながら、あれもあれもと言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃん、ほんとに叶えてくれるの?」
おねえちゃん!!!!
「勿論。お姉ちゃん、ちょっと凄い人なんだよ?」
「マユラお姉ちゃん、僕はセリニオス。セリって…お姉ちゃんなら特別に呼んでも良いよ」
まろいほっぺを真っ赤に染めて、特別を口にした。
ませてる。
可愛い。
天使。
お姉ちゃんだって、うれしい。
「特別、許してくれてありがとう。とっても嬉しい」
ぎゅっと抱きしめれば、お日様の匂いと、爽やかな緑の匂い。
「可愛い」
「二人の世界でいるところ悪いんだが、状況説明頼むわ」
「右に同じく~」
「ぴっ!」
「わっ!」
可愛い声を上げた横で、色気ない声を上げたのは私だ。
びっくりした声まで可愛いのか、最強かよ。
大人の男の人は怖いのか、私のお腹にぎゅうぎゅう抱きつくセリくん。天使!プライスレス!ありがとうヴァルフゴール!アンタレスはノーカン!!
グッジョブサインを送っておいた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「_____と、言う事でありまして…」
ガタガタと揺れ動く荷馬車に揺られながら事の次第を端折り、濁して二人に伝えてからふぅと一息つく。
舌を噛みそうだったよ。
「つまり、そのチビ…第一皇子殿下は、月女神の加護を受けた事により太陽神の加護を受けられなかった」
「マユラは、同じく加護持ちだから、状況を理解して、魔法で加護の意思に説得を試みた」
「んで、殿下を帝国まで帰して欲しいと頼まれる…」
深く考え込んだ様な表情をしたあと、呆れた様に大きくため息を吐かれた。
「とんでも無くヤバい奴だとは思ってたけど、まさかここまでだったとは」
「ある意味才能だね」
言葉の節々がディスりに聞こえる。
『私もお二人と同意見です』
(シルも!?)
悲しい。
私、この三人の主人なのに。
膝に乗せて抱きしめたままのセリくんの頭のふわふわ具合を頬で感じながらシクシクと流れない涙をこぼす。
「二人(+一人?)が酷いの。セリくん慰めてー」
「マユラお姉ちゃん、よしよし?」
「殿下、間に受けちゃ駄目ですよ。コイツのこれは絶対嘘泣きです。俺の妹も良くやるんですよ」
「そうなの?」
「私悲しくても涙が出ないの」
「そうなんだ…お姉ちゃん泣けないなら、泣きたいと思う時は言ってね」
うっ…ちょっと悲しそうに、でも本気で心配する目に心が痛む。
良心が痛いとはまさにこの事。
天使になんて顔させてるの私!!
「お姉ちゃん、ちょっとの事ではへこたれないから大丈夫!一人でもちゃんと乗り越えてきたから!」
セリくんは優しいね!
ふわふわの頭を撫でて、子供体温を両手でギュッと包み込めば、心が幸せだと感じる。
あぁ、しあわせ。
「ねーお腹空いてない?ご飯食べる?」
「そこの食料をか?俺等ならいいが、殿下が口にするには硬いし不味いしでちっと厳しい物だと思うぜ…」
「え?何言ってるの?あんなの食べないに決まってるでしょ??」
「じゃあ何食べるんだよ」
「それはねー、
じゃん!
じゃん!!
じゃじゃん!!」
例の如く、鞄から腕を突っ込みリングから食料をポンポンと取り出す。
パン、ベーコン、蜂蜜、串肉、飲み水、その他色々。
ついでにクッションとか、タオルケットとかも出しておいた。粗悪品の魔物避けは外して新しいのを魔法で作ってかけた。
これならどんなタイプの魔物でも寄ってこない。
「魔法鞄…マユラは貴族の出なの?家出令嬢とか?」
「いや?これは、貰い物。安く譲って貰ったの。私が貴族令嬢に見える?」
「見た目ならそう見える。世間知らずな所とかも、箱入りの令嬢そのもの。所作もそんな感じがする」
「魔力も多くて魔法も凄ぇしよ」
「成程。でも、貴族じゃ無いよ。教育とかには恵まれたけど、家は平民と変わらない」
まぁこの世界の平民と比べたら裕福なのかもねー。あながち間違いじゃない?
パンの上にベーコンを乗せて炙ったやつを齧る。
美味しい。分厚めにベーコンを切ったからボリューミーでこれだけでお腹いっぱいになりそう。
これに蜂蜜かけても美味しいの知ってた?
本当?みたいな顔で実践するアンタレスに、マジマジと頷いておく。
「おいしい?」
「うん!」
「親子だな…」
「そこは姉弟でしょ」
「いや、親子だ!俺にはそう見える!!」
精神年齢的には合ってる…。
なんて、口が裂けても言えない。
ヴァルフゴールの野生の勘、竜族の勘は鋭いみたい。
流石。
一口サイズにカットした林檎もどきをセリくんの口の中に運びながら、色々とバレない様にしないとなーと考える。
(シル、どの位経った?)
『一時間ほどです』
(外の様子は?)
『二人は問題なく護衛をしていました。魔物避けの効果もあり魔物は出ませんでした』
(よかった…シルもありがとう。月女神様と繋げてくれて)
『説得されたのは主です。素晴らしかったですよ』
(ありがとう)
さて、お寝坊さんも起こしてあげようかな。
「少年起きて」
肩を軽くゆすって覚醒を促せば、長いまつげに縁取られた瞼がピクリと痙攣し、ゆっくりとその目を開ける。
太陽を詰め込んだ、美しい色合いの瞳。
「おはよう。私の名前はマユラ」
「うん、知ってる…時々夢に出てくる泣いたり怒ったりしてるお姉さんを、慰めた人」
「うん。お姉さんは大事な宝物を取られちゃった人なの」
「可哀想」
「優しい人だよ。
私はそのお姉さんに頼まれてたんだ。君をお家に帰してあげてって。
そう頼まれたけど、君が嫌なら帰らなくても良いと思うよ。いつか帰らないといけないなら、今は帰らなくて良いとも思う。
折角外に出たんだし、君がしたい事をしよう。
君が望む事をできるだけ叶えてあげる」
少年はぱぁと輝く笑顔を浮かべた。
「ほんと!?あのね、僕、外で猫?って言う魔獣を触ってみたくて、あと、キャンディーとか綿菓子?が食べたい!あとねあとね!」
指を折りながら、あれもあれもと言葉を紡ぐ。
「お姉ちゃん、ほんとに叶えてくれるの?」
おねえちゃん!!!!
「勿論。お姉ちゃん、ちょっと凄い人なんだよ?」
「マユラお姉ちゃん、僕はセリニオス。セリって…お姉ちゃんなら特別に呼んでも良いよ」
まろいほっぺを真っ赤に染めて、特別を口にした。
ませてる。
可愛い。
天使。
お姉ちゃんだって、うれしい。
「特別、許してくれてありがとう。とっても嬉しい」
ぎゅっと抱きしめれば、お日様の匂いと、爽やかな緑の匂い。
「可愛い」
「二人の世界でいるところ悪いんだが、状況説明頼むわ」
「右に同じく~」
「ぴっ!」
「わっ!」
可愛い声を上げた横で、色気ない声を上げたのは私だ。
びっくりした声まで可愛いのか、最強かよ。
大人の男の人は怖いのか、私のお腹にぎゅうぎゅう抱きつくセリくん。天使!プライスレス!ありがとうヴァルフゴール!アンタレスはノーカン!!
グッジョブサインを送っておいた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「_____と、言う事でありまして…」
ガタガタと揺れ動く荷馬車に揺られながら事の次第を端折り、濁して二人に伝えてからふぅと一息つく。
舌を噛みそうだったよ。
「つまり、そのチビ…第一皇子殿下は、月女神の加護を受けた事により太陽神の加護を受けられなかった」
「マユラは、同じく加護持ちだから、状況を理解して、魔法で加護の意思に説得を試みた」
「んで、殿下を帝国まで帰して欲しいと頼まれる…」
深く考え込んだ様な表情をしたあと、呆れた様に大きくため息を吐かれた。
「とんでも無くヤバい奴だとは思ってたけど、まさかここまでだったとは」
「ある意味才能だね」
言葉の節々がディスりに聞こえる。
『私もお二人と同意見です』
(シルも!?)
悲しい。
私、この三人の主人なのに。
膝に乗せて抱きしめたままのセリくんの頭のふわふわ具合を頬で感じながらシクシクと流れない涙をこぼす。
「二人(+一人?)が酷いの。セリくん慰めてー」
「マユラお姉ちゃん、よしよし?」
「殿下、間に受けちゃ駄目ですよ。コイツのこれは絶対嘘泣きです。俺の妹も良くやるんですよ」
「そうなの?」
「私悲しくても涙が出ないの」
「そうなんだ…お姉ちゃん泣けないなら、泣きたいと思う時は言ってね」
うっ…ちょっと悲しそうに、でも本気で心配する目に心が痛む。
良心が痛いとはまさにこの事。
天使になんて顔させてるの私!!
「お姉ちゃん、ちょっとの事ではへこたれないから大丈夫!一人でもちゃんと乗り越えてきたから!」
セリくんは優しいね!
ふわふわの頭を撫でて、子供体温を両手でギュッと包み込めば、心が幸せだと感じる。
あぁ、しあわせ。
「ねーお腹空いてない?ご飯食べる?」
「そこの食料をか?俺等ならいいが、殿下が口にするには硬いし不味いしでちっと厳しい物だと思うぜ…」
「え?何言ってるの?あんなの食べないに決まってるでしょ??」
「じゃあ何食べるんだよ」
「それはねー、
じゃん!
じゃん!!
じゃじゃん!!」
例の如く、鞄から腕を突っ込みリングから食料をポンポンと取り出す。
パン、ベーコン、蜂蜜、串肉、飲み水、その他色々。
ついでにクッションとか、タオルケットとかも出しておいた。粗悪品の魔物避けは外して新しいのを魔法で作ってかけた。
これならどんなタイプの魔物でも寄ってこない。
「魔法鞄…マユラは貴族の出なの?家出令嬢とか?」
「いや?これは、貰い物。安く譲って貰ったの。私が貴族令嬢に見える?」
「見た目ならそう見える。世間知らずな所とかも、箱入りの令嬢そのもの。所作もそんな感じがする」
「魔力も多くて魔法も凄ぇしよ」
「成程。でも、貴族じゃ無いよ。教育とかには恵まれたけど、家は平民と変わらない」
まぁこの世界の平民と比べたら裕福なのかもねー。あながち間違いじゃない?
パンの上にベーコンを乗せて炙ったやつを齧る。
美味しい。分厚めにベーコンを切ったからボリューミーでこれだけでお腹いっぱいになりそう。
これに蜂蜜かけても美味しいの知ってた?
本当?みたいな顔で実践するアンタレスに、マジマジと頷いておく。
「おいしい?」
「うん!」
「親子だな…」
「そこは姉弟でしょ」
「いや、親子だ!俺にはそう見える!!」
精神年齢的には合ってる…。
なんて、口が裂けても言えない。
ヴァルフゴールの野生の勘、竜族の勘は鋭いみたい。
流石。
一口サイズにカットした林檎もどきをセリくんの口の中に運びながら、色々とバレない様にしないとなーと考える。
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