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逃走

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「ふぅー、ふぅー……!」

 非常に困った。

 俺は今パンツ(トランクス)一丁で、目の前にいる銀髪の美少女と対峙していた。
 
 はたから見たら、そく警察に通報の光景だ。いやそんな犯罪的なことはもちろん無い!! なにせ俺は勇者の教育係りとしてここにきているんだ。教育者として、それはありえん!!
 だから、すごく警戒している銀髪の彼女の誤解をとくのが必須だ。

「あの~……」
「で、出ていってください!!」

 詰んだ。時間にして、2、3秒だった。そりゃ、そうだよな、あはは……。

 もはやこれまでかと、思ったときだった。

【ライラ‼ 聞こえる⁉ 聞こえたら返事して⁉】

 突如、女性の声が辺りに響いたのだ。デパートの館内放送みたいに。

 この声は、聞き覚えがある。だってついさっきまで、聞いていた声だ。確か、紅蓮髪の、

「み、ミディアさん⁉」

 銀髪の美少女が、少しびっくりした様子で答える。

 ライラ、っていうのか。

 それが、銀髪の美少女の名前。

 そして、紅蓮髪の少女は、ミディアと言うんだな。

 やっと、勇者である少女たちの名前を知ることができた。
 
【ライラ‼‼ 良かった、通信魔法が繋がって!! 怪我とかはない‼‼】
「はっ、はい! 大丈夫です!」
【そう良かった! ごめんね!! ライラの部屋の方向に飛ばしちゃったから!! 心配で!! えっと……、そこに、まだ変態はいる!?】

 お、おいおい!? それ、俺のこと!? 通じるのか!?

「はい!! いますッ!!」

 めちゃくちゃ通じていた。そのことにすごくショック。いや、でもまあ、思い当たるふしがありありだからな……。
 
【ライラ!? そいつに、へ、へんなことされてない!? 大丈夫!?】
「ううっ!! ミディアさん!! わ、私!! こ、この人に、ぱ、パンツを見―――」
「わあ~!? ま、待ってライラさん!! それは不慮の事故といいますか!?」
 
 こ、これ以上、汚名を重ねたくなかった。俺は2人の会話に割ってはいる。

「ひっ!? ち、近づかないでください!?」
「えっ!? あいや、そ、そんなつもりは!?」
【ライラ!? ちょっと、ライラに手を出したら、灰まで残さず焼ききるわよ!! この変態!!】

 こわ!? てかむごすぎる!? ほんと、この子、勇者なの!? 
 
「パ、パンツしか履いてない恰好で、こ、こっちに来ないでください!!」

 突如、声を荒げるライラ。

「わーっ⁉⁉ ちょいちょい、余計なこというなって!?!?!?」

 ほんとに灰まで残さず焼かれるから!!

 俺はライラがさらに余計なことをいうのでは、という思いから、さらに近づいて、説得しようとしてしまった。すると、

「ひっ⁉ ち、近寄らないでください‼‼ 変態さん‼‼」

 ライラの指先から、一筋の稲光が走った。俺の体に触れると、

 ビリビリ‼‼
「あだだだっ⁉」

 俺はまたも電撃に悶える。な、なんで!? 痛みがある!? 異世界保険の能力が発動してない!?
 俺が混乱していると、小さなウインドウ画面が表示されていた。

 ※電撃のダメージは身体損傷の危険外のため、ご自身負担。

「まじで!?」

 すげえ痛いんですけどね!? 

 俺が驚愕している間にも、ライラは俺に指先を向け、攻撃しようとしている。ま、まじで勘弁してくれ!? こ、こうなれば!?

「ライラさん!!」
「ひっ!?」

 ひるんだライラに、俺は大きな声で叫んだ。

「もっと強いのを打ってきなさい! 遠慮せんとほら!! もっと刺激のある、強い電撃を打ってきなさいー‼‼」
「はわわわわっー!?!?」

 その言葉にライラは口をパクパク動かし、驚愕の表情を受かべる。顔を真っ青にし、がくがく震える体で大きく叫んだ。

「ど、ど変態さんですーーーー‼‼!」
【ライラ⁉⁉ ライラ‼‼ 落ち着いて⁉ くそっ!! もうすぐそっちに着くから待っていて!!】
 
 ミディアの大きな声が部屋に響く。ま、まじで!? もうすぐここに来るの!?

 やべ、逃げないと!? きっと、灰も残らず燃やされる!? あっ! でも異世界保険の能力でなんとかなるんじゃ! いやでも炎をあてられるのは恐いし、やっぱ嫌だ!!
 
 ライラが、俺に、指先を向けた。や、やべ!? 

 次々に俺へ電撃を放つ。

 ビリリ‼‼
「あだだだっ⁉」
 ビリリ‼‼
「あだだだっ⁉」
 ビリリ‼‼
「あだだだっ⁉」
 
 だ、ダメだ!! ライラは強いのを打ってこない!! なんて調整上手!! てかドSなの、この子!? 可愛いフランス人形みたいな顔してさ!!
 電撃に悶え身動きが取れずにいた。そしたら、

 ボン!!

「ライラ!!」

 げげっ!? み、ミディア!?

 紅蓮髪の美少女こと、ミディアが部屋のドアを炎で吹き飛ばし入ってきた。バスタオルだった姿ではなく、服を着ていた。そのことに、ちょっと安心する。いや、変態か俺は。

「み、ミディアさん!!」
「ごめんね、ライラ! 遅くなって!!」
 
 そう言い終えると、ミディアが、俺へ視線を向ける。ギロリ、という音が聞こえそうなくらいに。赤い眼光が、俺を鋭く睨む。
 ミディアが片手を俺に向ける。火球が出現し、どんどん、風船のように膨らんでいく。

 まずい、非常にまずい。俺、消し炭にされるのか。

 体が、震える。どうしたら、この窮地を逃れられるか。

 …………、あっ。そうか、これなら。

 「あっーーー!!」

 俺は大声を上げ、ミディアの後ろを指さした。

「えっ!?」

 ミディアの視線が俺から、後ろへ向く。

 い、今だ!!

 俺は、ライラに向かって全速力で走る。

「へっ!? わ、わわっ!?!?」
「ご、ごめん!! ライラさん!! ちょ、ちょっとだけ辛抱してくれ!!」

 俺はライラを、両手で抱えた。いわゆるお姫様だっこだ。

 ミディアが異変に気付き、こちらを向く。

「なっ!? ライラ!? こ、この変態!! ライラを放せ!!」

 それは、無理なご相談だっての!!

 俺は、今度ミディアに向かって全速力で走る。

「くっ!?!?」

 火球を構えたまま、動けないミディア。

 よし、俺の予想通りだ!!

 「あっ!! ま、待て!!」

 そう言われて待つ人はおらんよ!!

 俺はライラを抱えたまま、部屋のドアを無理やり通り、右手の真っ直ぐに伸びる道、城の廊下? といえばいいのだろうか、全速力で、ミディアから走って逃げだした。
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