上 下
27 / 43

明日は

しおりを挟む
「なあなあ、それよりもさ、今日会った水瀬さんだけど」
「んん……、あぁ……」
「リアルなギャルゲーヒロインだなっ!」
「ブフッ!? ゴホッ、ゴホッ!?」

 盛大に吹いてむせた。祐介のせいで落ち込んでた気持ちが一気に晴れたよ。というか、いきなりそんな発言あるか。

 俺の戸惑いをよそに、祐介は活き活きと話し続ける。

「いや~、めっちゃ可愛いよっ! 水瀬さん! なにあの黒髪の清楚系美少女! ギャルゲーに出てくるヒロインみたいっ!!」
 
 そういう意味かよ……。たく……。そこは普通に可愛いだけでいいだろ。
 
 俺は嘆息しながら口を開いた。

「あのな、加奈はギャルゲーのヒロインじゃない」
「えぇ!? なんでだ!?」
「いや、そりゃそうだろ」

 ゲームと現実をごちゃ混ぜにするなっての。

「まじか……、水瀬さん、ギャルゲーのヒロイン並みに可愛いのに…………」
「いやいやだから、それが余計―――」
「あっ!? お、お前まさか……!?」
「んっ?」

 なんだよ?

「水瀬さんを可愛いと思ってないのか!?」
「はあっ!?」

 なんだそれ!? いや、てかなんでそうなる!?

 俺の驚きを打ち消すように、祐介が怒涛の勢いで話してくる。

「さ、最低だな!! お前は!! 水瀬さんのあのレベルを可愛いと思ってないなんて!! この―――」
「いや待てっ……! それはちが―――」
「クズ野郎ッ!!」
「なっ!?」
「すけこまし!!」
「はあっ!?」
「女性の敵!!」

 ぼろくそだった。たくっ! 言わせておけば!! 

 俺は苛立ちを吐き出すように、声を張った。

「加奈は可愛いっ!!」
「おうっ!?」

 祐介の戸惑う声が聞こえた。良し、声が止まった今がチャンスだ。
 俺はアホな祐介に諭すように話しかける。

「あのな、加奈が可愛いのは俺も思う」
「えっ? お、おう」
「で、俺が言いたいのは、普通に可愛いだけでいいだろってこと。ギャルゲーのヒロインみたいは余計だ」

 しばしの沈黙。そして、祐介の悩ましげな声が漏れた。

「う~ん、そうかなぁ……。ギャルゲーのヒロインは全男子の理想像だぜ? 最高の褒め言葉だと思うんだけど?」
「そんなわけあるか……!」
「かぁ~! これだから女子に興味ない奴は! ダメダメだ、まったくの、だめだめ」

 やれやれ、困った奴だよ、お前は。と、言わんばかりの口調だった。なんか知らんが、腹立つ……! ちっ! やっぱ電話切ろう! こいつと話してたらストレスしかたまらん。

「あのさ―――」

 バイトで疲れてるから寝る、と言おうとした時だった。

「でもお前も、水瀬さんは可愛いって思ってんだなあ~」
「ゴフッ!? ゴホッ、ゴホッ! は、はあっ!? い、いやそれは」

 こいつ、いきなり何言って!? た、確かに言ってしまったが!? 

 俺の戸惑いを察したのか、祐介は含みのある声音で話してくる。

「いや~、『加奈は可愛い』ねぇ~」
「あ、あれは!? そ、その、お、お前に半ば言わされたみたいなもんだ!」
「ん~? そうかあ?」
「ぐっ……! そ、それに、お、俺が言ったのは、世間一般的な目でみたら、的なことだから……! わ、分かるだろ?」
「ん~? まっ! そうだな。そういうことにしとくよ。でも、やっぱお前も、女子に興味、うっしっしっ」

 ぐぐっ、わ、笑いやがって。ふん、勝手に思ってろ。

「じゃあ、俺明日も早いから、もう寝るな」
「あっ! 待て待てって!」
「待たない。じゃあな―――」
「お前今困ってんじゃねえの?」

 ピクッ! 

 俺の耳が過敏に反応する。今こいつなんて言った?

「はは~ん、電話切らないってことは図星だな。ふふっ、分かる、分かるぜ! きっとお前は困ってるって思ったからさ。それもあって電話したんだぜ?」
「えっ……!? あっ、いや……!?」

 俺の脳内が慌ただしい。祐介の自信ある声から勝手に推理してしまう。も、もしかしてこいつ……、不審者が俺と加奈の帰り道に、ついてきたこと知ってるのか!? こいつも近くにいた!? つっ! そ、それだったら捕まえろ! い、いや待て! ゆ、祐介もきっと怖かったんだろ。だって、不審者は強盗犯みたいな風貌出しな。……、あっ、まさか祐介、実は不審者の後をつけて、捕まえれるような手がかりをつかんだとか! 家をつきとめたとか、顔をみたとかさ! それなら、この自信ある声に納得できる!

 俺はどこか弾んだ声で、祐介に伝えた。

「祐介の言う通りだ、俺、今困ってる」
「ふふっ、そうだよな。よかったぜ、電話して。でも、もう安心だ」
「おおっ! じゃあ、俺の困りごとも」
「ふっ、もちろん、今日で解決さ」
「ゆ、祐介!」

 こいつ! やるときはやる奴だったんだな! 見直したよ。

 期待を胸に膨らませ、俺は祐介の答えを待つ。そして自信たっぷりの声が、俺の耳に届いた。

「水瀬さんが可愛すぎて困ることは、もうない!」
「………、はい?」

 えっ、こいつ、何を言ってる?
 
 俺は呆気に取られていた。だが、祐介の声が頭に流れ込んでくる。

「ふふん~♪ ギャルゲーで鍛錬した、美少女との過ごし方、お前にも伝授するぜ。へへっ、女子に免疫のないお前も、これで大丈夫! テンパることもなく、仲良しになれるぜ! まあ、お前に美少女である水瀬さんとの接点があるのは悔しすぎるがな……。しかも幼馴染で、まさかの名前呼びとか、ちっ、くそがっ……! でも友達のよしみってやつだ。そこは目をつむるさ。あっ、でもお前が水瀬さんと仲良くなれたらさ、そのなに? 友達を紹介してもらえると……、俺は嬉しい……、です。はい」
「………………、そうか」

 結論、期待した俺がバカだった。ていうか、

「このクズ野郎」
「なっ!? なんでそうなる!?」
「そうなるんだよ」
「んだと!? ごらあ!!」

 祐介があらぶっていた。受話器ごしに騒いでる、騒いでる。まあ良いや、ほっておこう。そんなことよりもさ、

「はあ~……、ほんとどうしよ……、不審者……」
「あん? なんだよ、不審者って?」
「あっ」

 やべっ、心の声が出てしまった。

「な、なんでもないさ、なんでも。そ、そんなことより、『美少女との過ごし方』とは何か話したらどうだ?」
「ん? か~、なんだよ、やっぱ興味あるんじゃんか」
「ま、まあ……」

 いやほんとはどうでもいい。話をそらすために聞いてるだけだし。

「ふふっ、まあお前がそう言うなら聞かせてやんよ」
「あぁ、そうしてくれ……」
「まあ、まずは基礎を教えておく必要があるな」
「んっ……?」

 基礎って、そんなもんあんのかよ。はあ~……、無駄な時間だな。

「まずは親密度!」
「はいはい……」
「これは出来るだけ毎日顔を合わせることが大事だが、まあこれに関してはお前はクリアしてるよな。だって、毎日バイト先で顔を合わせるわけだし」
「あぁ、そうだな……」

  俺は適当に合わせる。そして、ふと思う。明日、俺は加奈といつもどおり会えるのだろうか……。もし、不審者が朝に待ち伏せでもしてたら……。
 胸の奥が変にざわつく。

「んでだな、次はイベント!」
「っ!? お、おう?」
「これはだな、同じ場所じゃマンネリして関係性が変化しない。そこで、いろんな場所にヒロインと行って、思い出を作る! これにより2人だけの特別な感情が育まれるわけですよ! まあ、今のお前にはハードル高いけどな!」
「あぁ、はいはい……」

 いろんな場所にねぇ……、加奈と。まだ、俺は家に送るくらいしかしてない。でもそのせいで、不審者に、加奈の家をバラしてしまった。特別な感情なんてとんでもない。ただ、俺は加奈を危険に晒してしまって……。

 また後悔と、悩みが、沸々と湧き上がる。

「んでここが一番のポイント! ハプニング!」
「おう…………、ん?」

 ハプニング?

 その言葉に、思わず反応してしまった。だって、今の俺が直面している状況が、さ。

 耳は自然と祐介の話に傾いていた。

「ふふん、そう。いろんな場所に行ったらさ、いつもとは違う事が起きるわけですよ。まあ、分かりやすいのは恋のライバル登場とかな! 仲良くしてる主人公を目の敵にするわけですよ。後をずっとつけてさ」
「おっ!? おう……!?」

 そ、それ! 今、俺と加奈が直面してることにち、近い! ま、まあ不審者が恋のライバルとかではないだろうけど!

「んでさ、まあこれはゲームの例になるが、ヒロインのために家まで送ってあげたり」
「そ、それはやった!!」
「わわっ!? な、なんだよ、急に!?」
「えっ!? あっ」

 し、しまった!? お、俺は何口走ってんだ!?

「い、いや、何でもない!! き、気にするな……!」
「お、おう? そ、そうか……、まあ、えっと、どこまで話したっけ?」
「ヒ、ヒロインを家まで送ってあげたり、で止まったな……!」
「あぁ、そっか、そっか」
「おう……!」

 今の俺は、ギャルゲーの主人公と似てると感じた。きっと、ゲームの主人公も、今の俺みたいに悩んで、悔やんで………、どうしようもできない現状に動けないで―――、

「んで朝は迎えに行ってあげたりしてさ」
「そうか…………、ん?」

 え? 祐介? 今、なんて言った?

「んでだな、そうすることで! 2人だけの特別な感情はより深まって、ここで盛り上がるわけですよ!! ギャルゲーのメインである恋へと―――」
「祐介!!」
「わわっ!? んだよ!? 急に! せっかく盛り上がってたのにっ!!」
「さっ、さっきな、なんて言った!?」
「あん? さっきって? いやだからギャルゲーのメインテーマである恋―――」
「そ、そこじゃなくて!!」
「はい?」
「だ、だから、それよりも前にさ、言ったこと!」
「えぇ? えっと……、それはあれか?」
「お、おう……!?」

 胸の奥がざわつく。知りたかった答えが、聞き逃した答えが、すぐそばにあるんだから。
 祐介は、何事もないように、平坦な口調で答えてくれた。

「朝、迎えに行くとか」
「そっ!? それだっー!!」

 俺のテンションが上がる。そうだよ、なんでこんな簡単なことにきづかなかったのか。不審者が加奈の家付近で待ち伏せする危険があるのなら、俺も加奈の家付近で待機してれば良い。加奈が朝にバイト先へ向かう道のりを、俺も一緒に着いてく! これなら加奈を不審者から守れる!!

「つっ!? んだよいきなり!? 大声出して!!」
「えっ!? あっ、すまん!? つい!?」

 祐介の苦情にハッとした。でも気持ちは浮き足立っていて。
 部屋の時計を見た。時刻は夜の11時半を過ぎていた。これ以上遅くなるのは……、明日は出来るだけ早く家を出たい。バイトの疲れや、加奈を家まで送った疲れもある。もう、早く寝たいところだ。

「なっ、なあ、祐介! 俺、明日も早いからさ! 話はまた今度にさ」
「え~? ここからが良いとこなのに、んだよ急に」
「いや、そのだな……」

 加奈を朝迎えに行くためとか絶対言えない。何かないか、何か! あっ、そ、そうだ!!

「お、俺好みのギャルゲー、探してくれ!」
「おぉ!? ど、どうした急に!?」
「い、いや、祐介の話聞いてたら、や、やりたくなって! だ、だから俺が好きそうなのをさ!」
「ま、まじか……、か、感動したぞ! そうかそうか!」
「あ、あぁ、だ、だからさ、そのなに? ギャルゲー探す時間がほしいだろ? ゆ、祐介のこと思ってさ」
「た、太一!! くぅ~、まかせろ! お前好みの究極の品を見つけるぜ!」
「あっ、ありがと……。じゃ、じゃあさ、た、タノシミニシテルカラ~」
「おっけー!! へへっ、んじゃ、また近いうちに!」
「お、おう。じゃ、じゃあまたな」
「おう!! またなっ!!」

 プツリ、ツー、ツー、ツー。

 通話が切れた音を合図に、スマホのアラームをすぐさまセット。寝坊は許されない。
 部屋の電気を消して、ベッドに潜り込む。
 やばい、まだ鼓動が激しい。寝付けるだろうか。いや、寝るんだ、無理矢理にでも!! 
 明日は加奈を迎えに行く、明日は加奈を迎えに行く……。明日は加奈を迎えに行く……。

 羊を数えるかのごとく頭の中でつぶやく。

 一体いくつつぶやいたか分からない頃になると、ぼんやり睡魔がやってきて。

 俺はこの長い1日を、なんとか答えを見つけて、眠りについたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

処理中です...