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明日は
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「なあなあ、それよりもさ、今日会った水瀬さんだけど」
「んん……、あぁ……」
「リアルなギャルゲーヒロインだなっ!」
「ブフッ!? ゴホッ、ゴホッ!?」
盛大に吹いてむせた。祐介のせいで落ち込んでた気持ちが一気に晴れたよ。というか、いきなりそんな発言あるか。
俺の戸惑いをよそに、祐介は活き活きと話し続ける。
「いや~、めっちゃ可愛いよっ! 水瀬さん! なにあの黒髪の清楚系美少女! ギャルゲーに出てくるヒロインみたいっ!!」
そういう意味かよ……。たく……。そこは普通に可愛いだけでいいだろ。
俺は嘆息しながら口を開いた。
「あのな、加奈はギャルゲーのヒロインじゃない」
「えぇ!? なんでだ!?」
「いや、そりゃそうだろ」
ゲームと現実をごちゃ混ぜにするなっての。
「まじか……、水瀬さん、ギャルゲーのヒロイン並みに可愛いのに…………」
「いやいやだから、それが余計―――」
「あっ!? お、お前まさか……!?」
「んっ?」
なんだよ?
「水瀬さんを可愛いと思ってないのか!?」
「はあっ!?」
なんだそれ!? いや、てかなんでそうなる!?
俺の驚きを打ち消すように、祐介が怒涛の勢いで話してくる。
「さ、最低だな!! お前は!! 水瀬さんのあのレベルを可愛いと思ってないなんて!! この―――」
「いや待てっ……! それはちが―――」
「クズ野郎ッ!!」
「なっ!?」
「すけこまし!!」
「はあっ!?」
「女性の敵!!」
ぼろくそだった。たくっ! 言わせておけば!!
俺は苛立ちを吐き出すように、声を張った。
「加奈は可愛いっ!!」
「おうっ!?」
祐介の戸惑う声が聞こえた。良し、声が止まった今がチャンスだ。
俺はアホな祐介に諭すように話しかける。
「あのな、加奈が可愛いのは俺も思う」
「えっ? お、おう」
「で、俺が言いたいのは、普通に可愛いだけでいいだろってこと。ギャルゲーのヒロインみたいは余計だ」
しばしの沈黙。そして、祐介の悩ましげな声が漏れた。
「う~ん、そうかなぁ……。ギャルゲーのヒロインは全男子の理想像だぜ? 最高の褒め言葉だと思うんだけど?」
「そんなわけあるか……!」
「かぁ~! これだから女子に興味ない奴は! ダメダメだ、まったくの、だめだめ」
やれやれ、困った奴だよ、お前は。と、言わんばかりの口調だった。なんか知らんが、腹立つ……! ちっ! やっぱ電話切ろう! こいつと話してたらストレスしかたまらん。
「あのさ―――」
バイトで疲れてるから寝る、と言おうとした時だった。
「でもお前も、水瀬さんは可愛いって思ってんだなあ~」
「ゴフッ!? ゴホッ、ゴホッ! は、はあっ!? い、いやそれは」
こいつ、いきなり何言って!? た、確かに言ってしまったが!?
俺の戸惑いを察したのか、祐介は含みのある声音で話してくる。
「いや~、『加奈は可愛い』ねぇ~」
「あ、あれは!? そ、その、お、お前に半ば言わされたみたいなもんだ!」
「ん~? そうかあ?」
「ぐっ……! そ、それに、お、俺が言ったのは、世間一般的な目でみたら、的なことだから……! わ、分かるだろ?」
「ん~? まっ! そうだな。そういうことにしとくよ。でも、やっぱお前も、女子に興味、うっしっしっ」
ぐぐっ、わ、笑いやがって。ふん、勝手に思ってろ。
「じゃあ、俺明日も早いから、もう寝るな」
「あっ! 待て待てって!」
「待たない。じゃあな―――」
「お前今困ってんじゃねえの?」
ピクッ!
俺の耳が過敏に反応する。今こいつなんて言った?
「はは~ん、電話切らないってことは図星だな。ふふっ、分かる、分かるぜ! きっとお前は困ってるって思ったからさ。それもあって電話したんだぜ?」
「えっ……!? あっ、いや……!?」
俺の脳内が慌ただしい。祐介の自信ある声から勝手に推理してしまう。も、もしかしてこいつ……、不審者が俺と加奈の帰り道に、ついてきたこと知ってるのか!? こいつも近くにいた!? つっ! そ、それだったら捕まえろ! い、いや待て! ゆ、祐介もきっと怖かったんだろ。だって、不審者は強盗犯みたいな風貌出しな。……、あっ、まさか祐介、実は不審者の後をつけて、捕まえれるような手がかりをつかんだとか! 家をつきとめたとか、顔をみたとかさ! それなら、この自信ある声に納得できる!
俺はどこか弾んだ声で、祐介に伝えた。
「祐介の言う通りだ、俺、今困ってる」
「ふふっ、そうだよな。よかったぜ、電話して。でも、もう安心だ」
「おおっ! じゃあ、俺の困りごとも」
「ふっ、もちろん、今日で解決さ」
「ゆ、祐介!」
こいつ! やるときはやる奴だったんだな! 見直したよ。
期待を胸に膨らませ、俺は祐介の答えを待つ。そして自信たっぷりの声が、俺の耳に届いた。
「水瀬さんが可愛すぎて困ることは、もうない!」
「………、はい?」
えっ、こいつ、何を言ってる?
俺は呆気に取られていた。だが、祐介の声が頭に流れ込んでくる。
「ふふん~♪ ギャルゲーで鍛錬した、美少女との過ごし方、お前にも伝授するぜ。へへっ、女子に免疫のないお前も、これで大丈夫! テンパることもなく、仲良しになれるぜ! まあ、お前に美少女である水瀬さんとの接点があるのは悔しすぎるがな……。しかも幼馴染で、まさかの名前呼びとか、ちっ、くそがっ……! でも友達のよしみってやつだ。そこは目をつむるさ。あっ、でもお前が水瀬さんと仲良くなれたらさ、そのなに? 友達を紹介してもらえると……、俺は嬉しい……、です。はい」
「………………、そうか」
結論、期待した俺がバカだった。ていうか、
「このクズ野郎」
「なっ!? なんでそうなる!?」
「そうなるんだよ」
「んだと!? ごらあ!!」
祐介があらぶっていた。受話器ごしに騒いでる、騒いでる。まあ良いや、ほっておこう。そんなことよりもさ、
「はあ~……、ほんとどうしよ……、不審者……」
「あん? なんだよ、不審者って?」
「あっ」
やべっ、心の声が出てしまった。
「な、なんでもないさ、なんでも。そ、そんなことより、『美少女との過ごし方』とは何か話したらどうだ?」
「ん? か~、なんだよ、やっぱ興味あるんじゃんか」
「ま、まあ……」
いやほんとはどうでもいい。話をそらすために聞いてるだけだし。
「ふふっ、まあお前がそう言うなら聞かせてやんよ」
「あぁ、そうしてくれ……」
「まあ、まずは基礎を教えておく必要があるな」
「んっ……?」
基礎って、そんなもんあんのかよ。はあ~……、無駄な時間だな。
「まずは親密度!」
「はいはい……」
「これは出来るだけ毎日顔を合わせることが大事だが、まあこれに関してはお前はクリアしてるよな。だって、毎日バイト先で顔を合わせるわけだし」
「あぁ、そうだな……」
俺は適当に合わせる。そして、ふと思う。明日、俺は加奈といつもどおり会えるのだろうか……。もし、不審者が朝に待ち伏せでもしてたら……。
胸の奥が変にざわつく。
「んでだな、次はイベント!」
「っ!? お、おう?」
「これはだな、同じ場所じゃマンネリして関係性が変化しない。そこで、いろんな場所にヒロインと行って、思い出を作る! これにより2人だけの特別な感情が育まれるわけですよ! まあ、今のお前にはハードル高いけどな!」
「あぁ、はいはい……」
いろんな場所にねぇ……、加奈と。まだ、俺は家に送るくらいしかしてない。でもそのせいで、不審者に、加奈の家をバラしてしまった。特別な感情なんてとんでもない。ただ、俺は加奈を危険に晒してしまって……。
また後悔と、悩みが、沸々と湧き上がる。
「んでここが一番のポイント! ハプニング!」
「おう…………、ん?」
ハプニング?
その言葉に、思わず反応してしまった。だって、今の俺が直面している状況が、さ。
耳は自然と祐介の話に傾いていた。
「ふふん、そう。いろんな場所に行ったらさ、いつもとは違う事が起きるわけですよ。まあ、分かりやすいのは恋のライバル登場とかな! 仲良くしてる主人公を目の敵にするわけですよ。後をずっとつけてさ」
「おっ!? おう……!?」
そ、それ! 今、俺と加奈が直面してることにち、近い! ま、まあ不審者が恋のライバルとかではないだろうけど!
「んでさ、まあこれはゲームの例になるが、ヒロインのために家まで送ってあげたり」
「そ、それはやった!!」
「わわっ!? な、なんだよ、急に!?」
「えっ!? あっ」
し、しまった!? お、俺は何口走ってんだ!?
「い、いや、何でもない!! き、気にするな……!」
「お、おう? そ、そうか……、まあ、えっと、どこまで話したっけ?」
「ヒ、ヒロインを家まで送ってあげたり、で止まったな……!」
「あぁ、そっか、そっか」
「おう……!」
今の俺は、ギャルゲーの主人公と似てると感じた。きっと、ゲームの主人公も、今の俺みたいに悩んで、悔やんで………、どうしようもできない現状に動けないで―――、
「んで朝は迎えに行ってあげたりしてさ」
「そうか…………、ん?」
え? 祐介? 今、なんて言った?
「んでだな、そうすることで! 2人だけの特別な感情はより深まって、ここで盛り上がるわけですよ!! ギャルゲーのメインである恋へと―――」
「祐介!!」
「わわっ!? んだよ!? 急に! せっかく盛り上がってたのにっ!!」
「さっ、さっきな、なんて言った!?」
「あん? さっきって? いやだからギャルゲーのメインテーマである恋―――」
「そ、そこじゃなくて!!」
「はい?」
「だ、だから、それよりも前にさ、言ったこと!」
「えぇ? えっと……、それはあれか?」
「お、おう……!?」
胸の奥がざわつく。知りたかった答えが、聞き逃した答えが、すぐそばにあるんだから。
祐介は、何事もないように、平坦な口調で答えてくれた。
「朝、迎えに行くとか」
「そっ!? それだっー!!」
俺のテンションが上がる。そうだよ、なんでこんな簡単なことにきづかなかったのか。不審者が加奈の家付近で待ち伏せする危険があるのなら、俺も加奈の家付近で待機してれば良い。加奈が朝にバイト先へ向かう道のりを、俺も一緒に着いてく! これなら加奈を不審者から守れる!!
「つっ!? んだよいきなり!? 大声出して!!」
「えっ!? あっ、すまん!? つい!?」
祐介の苦情にハッとした。でも気持ちは浮き足立っていて。
部屋の時計を見た。時刻は夜の11時半を過ぎていた。これ以上遅くなるのは……、明日は出来るだけ早く家を出たい。バイトの疲れや、加奈を家まで送った疲れもある。もう、早く寝たいところだ。
「なっ、なあ、祐介! 俺、明日も早いからさ! 話はまた今度にさ」
「え~? ここからが良いとこなのに、んだよ急に」
「いや、そのだな……」
加奈を朝迎えに行くためとか絶対言えない。何かないか、何か! あっ、そ、そうだ!!
「お、俺好みのギャルゲー、探してくれ!」
「おぉ!? ど、どうした急に!?」
「い、いや、祐介の話聞いてたら、や、やりたくなって! だ、だから俺が好きそうなのをさ!」
「ま、まじか……、か、感動したぞ! そうかそうか!」
「あ、あぁ、だ、だからさ、そのなに? ギャルゲー探す時間がほしいだろ? ゆ、祐介のこと思ってさ」
「た、太一!! くぅ~、まかせろ! お前好みの究極の品を見つけるぜ!」
「あっ、ありがと……。じゃ、じゃあさ、た、タノシミニシテルカラ~」
「おっけー!! へへっ、んじゃ、また近いうちに!」
「お、おう。じゃ、じゃあまたな」
「おう!! またなっ!!」
プツリ、ツー、ツー、ツー。
通話が切れた音を合図に、スマホのアラームをすぐさまセット。寝坊は許されない。
部屋の電気を消して、ベッドに潜り込む。
やばい、まだ鼓動が激しい。寝付けるだろうか。いや、寝るんだ、無理矢理にでも!!
明日は加奈を迎えに行く、明日は加奈を迎えに行く……。明日は加奈を迎えに行く……。
羊を数えるかのごとく頭の中でつぶやく。
一体いくつつぶやいたか分からない頃になると、ぼんやり睡魔がやってきて。
俺はこの長い1日を、なんとか答えを見つけて、眠りについたのだった。
「んん……、あぁ……」
「リアルなギャルゲーヒロインだなっ!」
「ブフッ!? ゴホッ、ゴホッ!?」
盛大に吹いてむせた。祐介のせいで落ち込んでた気持ちが一気に晴れたよ。というか、いきなりそんな発言あるか。
俺の戸惑いをよそに、祐介は活き活きと話し続ける。
「いや~、めっちゃ可愛いよっ! 水瀬さん! なにあの黒髪の清楚系美少女! ギャルゲーに出てくるヒロインみたいっ!!」
そういう意味かよ……。たく……。そこは普通に可愛いだけでいいだろ。
俺は嘆息しながら口を開いた。
「あのな、加奈はギャルゲーのヒロインじゃない」
「えぇ!? なんでだ!?」
「いや、そりゃそうだろ」
ゲームと現実をごちゃ混ぜにするなっての。
「まじか……、水瀬さん、ギャルゲーのヒロイン並みに可愛いのに…………」
「いやいやだから、それが余計―――」
「あっ!? お、お前まさか……!?」
「んっ?」
なんだよ?
「水瀬さんを可愛いと思ってないのか!?」
「はあっ!?」
なんだそれ!? いや、てかなんでそうなる!?
俺の驚きを打ち消すように、祐介が怒涛の勢いで話してくる。
「さ、最低だな!! お前は!! 水瀬さんのあのレベルを可愛いと思ってないなんて!! この―――」
「いや待てっ……! それはちが―――」
「クズ野郎ッ!!」
「なっ!?」
「すけこまし!!」
「はあっ!?」
「女性の敵!!」
ぼろくそだった。たくっ! 言わせておけば!!
俺は苛立ちを吐き出すように、声を張った。
「加奈は可愛いっ!!」
「おうっ!?」
祐介の戸惑う声が聞こえた。良し、声が止まった今がチャンスだ。
俺はアホな祐介に諭すように話しかける。
「あのな、加奈が可愛いのは俺も思う」
「えっ? お、おう」
「で、俺が言いたいのは、普通に可愛いだけでいいだろってこと。ギャルゲーのヒロインみたいは余計だ」
しばしの沈黙。そして、祐介の悩ましげな声が漏れた。
「う~ん、そうかなぁ……。ギャルゲーのヒロインは全男子の理想像だぜ? 最高の褒め言葉だと思うんだけど?」
「そんなわけあるか……!」
「かぁ~! これだから女子に興味ない奴は! ダメダメだ、まったくの、だめだめ」
やれやれ、困った奴だよ、お前は。と、言わんばかりの口調だった。なんか知らんが、腹立つ……! ちっ! やっぱ電話切ろう! こいつと話してたらストレスしかたまらん。
「あのさ―――」
バイトで疲れてるから寝る、と言おうとした時だった。
「でもお前も、水瀬さんは可愛いって思ってんだなあ~」
「ゴフッ!? ゴホッ、ゴホッ! は、はあっ!? い、いやそれは」
こいつ、いきなり何言って!? た、確かに言ってしまったが!?
俺の戸惑いを察したのか、祐介は含みのある声音で話してくる。
「いや~、『加奈は可愛い』ねぇ~」
「あ、あれは!? そ、その、お、お前に半ば言わされたみたいなもんだ!」
「ん~? そうかあ?」
「ぐっ……! そ、それに、お、俺が言ったのは、世間一般的な目でみたら、的なことだから……! わ、分かるだろ?」
「ん~? まっ! そうだな。そういうことにしとくよ。でも、やっぱお前も、女子に興味、うっしっしっ」
ぐぐっ、わ、笑いやがって。ふん、勝手に思ってろ。
「じゃあ、俺明日も早いから、もう寝るな」
「あっ! 待て待てって!」
「待たない。じゃあな―――」
「お前今困ってんじゃねえの?」
ピクッ!
俺の耳が過敏に反応する。今こいつなんて言った?
「はは~ん、電話切らないってことは図星だな。ふふっ、分かる、分かるぜ! きっとお前は困ってるって思ったからさ。それもあって電話したんだぜ?」
「えっ……!? あっ、いや……!?」
俺の脳内が慌ただしい。祐介の自信ある声から勝手に推理してしまう。も、もしかしてこいつ……、不審者が俺と加奈の帰り道に、ついてきたこと知ってるのか!? こいつも近くにいた!? つっ! そ、それだったら捕まえろ! い、いや待て! ゆ、祐介もきっと怖かったんだろ。だって、不審者は強盗犯みたいな風貌出しな。……、あっ、まさか祐介、実は不審者の後をつけて、捕まえれるような手がかりをつかんだとか! 家をつきとめたとか、顔をみたとかさ! それなら、この自信ある声に納得できる!
俺はどこか弾んだ声で、祐介に伝えた。
「祐介の言う通りだ、俺、今困ってる」
「ふふっ、そうだよな。よかったぜ、電話して。でも、もう安心だ」
「おおっ! じゃあ、俺の困りごとも」
「ふっ、もちろん、今日で解決さ」
「ゆ、祐介!」
こいつ! やるときはやる奴だったんだな! 見直したよ。
期待を胸に膨らませ、俺は祐介の答えを待つ。そして自信たっぷりの声が、俺の耳に届いた。
「水瀬さんが可愛すぎて困ることは、もうない!」
「………、はい?」
えっ、こいつ、何を言ってる?
俺は呆気に取られていた。だが、祐介の声が頭に流れ込んでくる。
「ふふん~♪ ギャルゲーで鍛錬した、美少女との過ごし方、お前にも伝授するぜ。へへっ、女子に免疫のないお前も、これで大丈夫! テンパることもなく、仲良しになれるぜ! まあ、お前に美少女である水瀬さんとの接点があるのは悔しすぎるがな……。しかも幼馴染で、まさかの名前呼びとか、ちっ、くそがっ……! でも友達のよしみってやつだ。そこは目をつむるさ。あっ、でもお前が水瀬さんと仲良くなれたらさ、そのなに? 友達を紹介してもらえると……、俺は嬉しい……、です。はい」
「………………、そうか」
結論、期待した俺がバカだった。ていうか、
「このクズ野郎」
「なっ!? なんでそうなる!?」
「そうなるんだよ」
「んだと!? ごらあ!!」
祐介があらぶっていた。受話器ごしに騒いでる、騒いでる。まあ良いや、ほっておこう。そんなことよりもさ、
「はあ~……、ほんとどうしよ……、不審者……」
「あん? なんだよ、不審者って?」
「あっ」
やべっ、心の声が出てしまった。
「な、なんでもないさ、なんでも。そ、そんなことより、『美少女との過ごし方』とは何か話したらどうだ?」
「ん? か~、なんだよ、やっぱ興味あるんじゃんか」
「ま、まあ……」
いやほんとはどうでもいい。話をそらすために聞いてるだけだし。
「ふふっ、まあお前がそう言うなら聞かせてやんよ」
「あぁ、そうしてくれ……」
「まあ、まずは基礎を教えておく必要があるな」
「んっ……?」
基礎って、そんなもんあんのかよ。はあ~……、無駄な時間だな。
「まずは親密度!」
「はいはい……」
「これは出来るだけ毎日顔を合わせることが大事だが、まあこれに関してはお前はクリアしてるよな。だって、毎日バイト先で顔を合わせるわけだし」
「あぁ、そうだな……」
俺は適当に合わせる。そして、ふと思う。明日、俺は加奈といつもどおり会えるのだろうか……。もし、不審者が朝に待ち伏せでもしてたら……。
胸の奥が変にざわつく。
「んでだな、次はイベント!」
「っ!? お、おう?」
「これはだな、同じ場所じゃマンネリして関係性が変化しない。そこで、いろんな場所にヒロインと行って、思い出を作る! これにより2人だけの特別な感情が育まれるわけですよ! まあ、今のお前にはハードル高いけどな!」
「あぁ、はいはい……」
いろんな場所にねぇ……、加奈と。まだ、俺は家に送るくらいしかしてない。でもそのせいで、不審者に、加奈の家をバラしてしまった。特別な感情なんてとんでもない。ただ、俺は加奈を危険に晒してしまって……。
また後悔と、悩みが、沸々と湧き上がる。
「んでここが一番のポイント! ハプニング!」
「おう…………、ん?」
ハプニング?
その言葉に、思わず反応してしまった。だって、今の俺が直面している状況が、さ。
耳は自然と祐介の話に傾いていた。
「ふふん、そう。いろんな場所に行ったらさ、いつもとは違う事が起きるわけですよ。まあ、分かりやすいのは恋のライバル登場とかな! 仲良くしてる主人公を目の敵にするわけですよ。後をずっとつけてさ」
「おっ!? おう……!?」
そ、それ! 今、俺と加奈が直面してることにち、近い! ま、まあ不審者が恋のライバルとかではないだろうけど!
「んでさ、まあこれはゲームの例になるが、ヒロインのために家まで送ってあげたり」
「そ、それはやった!!」
「わわっ!? な、なんだよ、急に!?」
「えっ!? あっ」
し、しまった!? お、俺は何口走ってんだ!?
「い、いや、何でもない!! き、気にするな……!」
「お、おう? そ、そうか……、まあ、えっと、どこまで話したっけ?」
「ヒ、ヒロインを家まで送ってあげたり、で止まったな……!」
「あぁ、そっか、そっか」
「おう……!」
今の俺は、ギャルゲーの主人公と似てると感じた。きっと、ゲームの主人公も、今の俺みたいに悩んで、悔やんで………、どうしようもできない現状に動けないで―――、
「んで朝は迎えに行ってあげたりしてさ」
「そうか…………、ん?」
え? 祐介? 今、なんて言った?
「んでだな、そうすることで! 2人だけの特別な感情はより深まって、ここで盛り上がるわけですよ!! ギャルゲーのメインである恋へと―――」
「祐介!!」
「わわっ!? んだよ!? 急に! せっかく盛り上がってたのにっ!!」
「さっ、さっきな、なんて言った!?」
「あん? さっきって? いやだからギャルゲーのメインテーマである恋―――」
「そ、そこじゃなくて!!」
「はい?」
「だ、だから、それよりも前にさ、言ったこと!」
「えぇ? えっと……、それはあれか?」
「お、おう……!?」
胸の奥がざわつく。知りたかった答えが、聞き逃した答えが、すぐそばにあるんだから。
祐介は、何事もないように、平坦な口調で答えてくれた。
「朝、迎えに行くとか」
「そっ!? それだっー!!」
俺のテンションが上がる。そうだよ、なんでこんな簡単なことにきづかなかったのか。不審者が加奈の家付近で待ち伏せする危険があるのなら、俺も加奈の家付近で待機してれば良い。加奈が朝にバイト先へ向かう道のりを、俺も一緒に着いてく! これなら加奈を不審者から守れる!!
「つっ!? んだよいきなり!? 大声出して!!」
「えっ!? あっ、すまん!? つい!?」
祐介の苦情にハッとした。でも気持ちは浮き足立っていて。
部屋の時計を見た。時刻は夜の11時半を過ぎていた。これ以上遅くなるのは……、明日は出来るだけ早く家を出たい。バイトの疲れや、加奈を家まで送った疲れもある。もう、早く寝たいところだ。
「なっ、なあ、祐介! 俺、明日も早いからさ! 話はまた今度にさ」
「え~? ここからが良いとこなのに、んだよ急に」
「いや、そのだな……」
加奈を朝迎えに行くためとか絶対言えない。何かないか、何か! あっ、そ、そうだ!!
「お、俺好みのギャルゲー、探してくれ!」
「おぉ!? ど、どうした急に!?」
「い、いや、祐介の話聞いてたら、や、やりたくなって! だ、だから俺が好きそうなのをさ!」
「ま、まじか……、か、感動したぞ! そうかそうか!」
「あ、あぁ、だ、だからさ、そのなに? ギャルゲー探す時間がほしいだろ? ゆ、祐介のこと思ってさ」
「た、太一!! くぅ~、まかせろ! お前好みの究極の品を見つけるぜ!」
「あっ、ありがと……。じゃ、じゃあさ、た、タノシミニシテルカラ~」
「おっけー!! へへっ、んじゃ、また近いうちに!」
「お、おう。じゃ、じゃあまたな」
「おう!! またなっ!!」
プツリ、ツー、ツー、ツー。
通話が切れた音を合図に、スマホのアラームをすぐさまセット。寝坊は許されない。
部屋の電気を消して、ベッドに潜り込む。
やばい、まだ鼓動が激しい。寝付けるだろうか。いや、寝るんだ、無理矢理にでも!!
明日は加奈を迎えに行く、明日は加奈を迎えに行く……。明日は加奈を迎えに行く……。
羊を数えるかのごとく頭の中でつぶやく。
一体いくつつぶやいたか分からない頃になると、ぼんやり睡魔がやってきて。
俺はこの長い1日を、なんとか答えを見つけて、眠りについたのだった。
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