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幼馴染との再会

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 商店街のアーケード内をゆったり進みながら、俺はバイト先である『まさやんの本屋さん』に辿り着いた。入り口側に自転車を止める。ガラスドアの向こうは電気が付いていなくて薄暗い。もちろん誰もいない。
 その光景がなんだか新鮮に思えた。いつもなら明るい店内で、まさやんがマイペースに働いてるのを目にするから。
 少し気持ちが高ぶっている。誰も足を踏み入れてない未開の地に進む感覚、と言えばいいのだろうか。

 手にしている鍵を使い、ドアのロックを外した。
 カチャリ、と小気味いい音が鼓膜をくすぐる。

 よし、入るか。

 ドアを開けた瞬間、蒸し暑さが俺を襲った。

「うおっ……!?」

 いつもなら涼しい空気が出迎えてくれるのだが。ああ、そうか。冷房つけてないんだから、あたりまえだよな。

 俺は苦笑しながらも、店内へ進んでいく。

 熱気がこもっている店内は、夏の外の熱さをぎゅっと詰め込んだような感じだ。でも外の空気にはない独特の匂いが混ざっている。紙の匂いだ。なんとも言えない、淡い香りが鼻をくすぐる。

「なんか、図書館みたいだな」

 しばらくこの空気感を味わいたいと思ったが、そうもいかない。俺は店番で来てるのだから。

「とりあえず、電気つけるか。んで、冷房も効かせないとな」

 俺は店内のバックヤードに向かった。照明やエアコンのスイッチに電源を入れる。店内が一気に明るくなった。見慣れた本屋の風景が広がる。冷房も慌ただしく働き、徐々に涼しく快適になっていく。

 レジカウンターに行くと、ある物に目が止まった。紺色のエプロンと、タブレットだ。まさやんが、俺用のエプロンを用意してくれたんだろう。

「ん?」

 俺はつい疑問の声が漏れた。エプロンがなぜか2着あったからだ。汚れた時用の予備か? でもおかしい。 
 俺は1着づつ手に取り、ファサっと広げる。そしてレジカウンターに置いて見比べる。

「サイズが違うよな……」

 大きい方のエプロンを、洋服店で服のサイズを確かめるみたいに自分の体に重ねたら、丈が膝より少し上で丁度いい具合だ。でも、もう1着は明らかに小さい。丈が腰辺りにきて、これじゃあ前掛けみたいだ。

「たく、まさやん……、何やってんだか」

 チラリとタブレットに目を向ける。何かあったときは連絡をくれ、と言っていたから。
 片手を伸ばし、タブレットを取ろうとして、辞めた。別に大したことじゃないんだ、連絡する必要もないだろ。
 俺は自分に合ったエプロンをサッと身に付ける。サイズが一回り小さいエプロンは、まあ使わないからバックヤードにしまっておけばいい。
 俺は手に取って、バックヤードに向かおうとした。その時だった。

 ふわっ。

 っと、熱風が背中を撫でた。そして微かに混じる、爽やかな甘い香り。

 えっ?

 思わず振り返ると、店の入り口が開いていた。そこには1人の少女がいた。と言っても、俺と同じ高校生くらいだろうか。清楚な雰囲気の、綺麗な人。

 目が合った。

「あっ! す、すみません! もしかして遅刻しちゃいました?」

 申し訳なさそうな声音に、どこか懐かしさを感じたのはなぜだろう。あっ、そうか、まさやんが電話で話してた声に、似ている。
 彼女がバツの悪そうな表情でこちらをうかがう。でも、ハッと何かに気付いたように俺の顔を凝視しだした。小さな両肩が跳ね、肩までかかった艶のある黒髪が揺れる。

 あっ……。

 トクン、と俺の心音が跳ねた。

 さらりと揺れる綺麗な黒髪に、俺の過去の思い出が、顔を覗かせる。楽しそうに笑う、幼い少女の笑顔を。その子が名前を呼ぶ、あの懐かしい声とともに。

 茫然としている俺に、彼女の淡くて薄い唇が、そっと開いた。

「太一、くん?」

 俺の胸が高鳴る。と同時に声を発していた。

「加奈?」

 彼女の瞳が大きく見開く。丸い瞳で俺のことを見つめていた。その表情はとてもビックリしているといった様子だ。今の俺と同じ。

 いっ、一体これは、どういうことなんだ……!?

 必死に考えをめぐらすも何も答えは出てこない。

 「「あっ、あの、その、え、えっと……」」

  突然の再開に、加奈と俺は、互いに声にならない声を重ね合わせ、しばらくの間立ちすくんでいた。
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