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第3話 最終通告
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「ねえねえッ! これは、何でしょう!」
ロボットの液晶画面に小さな女の子の姿が映っていた。片手に木の枝を持っていて、ロボットに質問をしているようだ。
「ソレハ、カエデノキノエダ、デス」
博士の開発したロボットが音声で、的確な答えを教える。するとその女の子は、得意げな顔で口を大きく開いた。
「ぶっぶう~! ちがいま~すッ! これはね! 魔法の杖なの!!」
と自慢げに、ただの木の枝を振り始める。
その映像を見ていた博士は、ぼさぼさの頭を掻きむしり苛立ちをあらわにした。
こ、今度は『魔法の杖』ときたか……!
博士は今、自身が運営するロボット研究所で映像を確認していた。その映像とは、ロボットが幼稚園での活動を記録したものである。博士は顔をしかめながら、映像の続きを見る。
「ソ、ソレハ、カエデノエダ、デス」
「違うのッ! ほら! こう振ったら火が出ます」
「ソ、ソレハ、ショクブツデス。ヒハ、デマセン」
「火が出るのッ! 出るったら出るの!」
「キノエダ、カラ、ヒ、ヒハ、デナイ―――、ピーッ、ガガガッ!!」
ボンッ!
と何か小さな爆発音が響いた後、フッと、ロウソクの火を吹き消すかのように、液晶の映像が途切れた。
「あははははッ!! またボンッ! てちっちゃい火が出た~! 煙吹いた~!」「先生! ロボットまた動かなくなったよ!」「わあ~ん! 次は私がお話しようと思ってたのにッ!」
生き残った音声から、園児達が楽しそうに騒ぎ立て、泣きだす声が聞こえる。博士は顔をしかめ項垂れながらも、パソコンのキーボードを荒々しく打ち込み、教育ロボットのメモリーに新たな知識を書き加えた。
『楓の木の枝は、魔法の杖でもある』
「……、うがああああっ!! そんなわけあるかっ!!」
博士は大声を上げるも、こうするしかなかった。
幼稚園での試験運用が上手くいかず、気付けば早2ヶ月。このような日々を過ごしていた。園児達の質問に、博士の教育ロボットは的確な答えを教えていた。だが、子ども達は絵本や小説に出てくるような空想の答えをロボットにぶつけてくるのだった。もちろん博士の教育ロボットはそれを間違いと教え、正解を伝えるのだが、子ども達はそれを良しとしなかった。
『ホウキは空を飛ぶ道具』『草花で付けた色水は、動物に変身できる魔法の水』『綺麗なガラス玉は人魚がこぼした涙』など、無茶苦茶なことを言うのだ。ロボットがそんな答えを素直に受け入れられるわけがない。だからオーバーヒートして壊されてしまうのだ。
齢30の博士の目元には、濃いくまができている。博士の研究所には返品された故障ロボット達が列をなしていた。故障させられては、新たな知識(たわごと)をメモリーにインプットする、その繰り返し。研究所の窓からは、暗闇に煌めく星々が顔を覗かせている。もう真夜中だが、寝る暇なんてない。子ども達のたわごとを蓄積させなくてはいけないのだ。そうしなければ教育ロボットは答えに行き詰まり、壊れてしまう。
『園児達のための豊かな教育を課題とする』
壊されてしまっては、ロボット研究機構からの課題をクリアするどころではない。時間が無い。早く、教育ロボットのメモリーに知識(たわごと)をインプットさせなくては。
博士はこんな日々に嫌気がさしていたが、実用化のためには仕方がなかった。あともう一息なのだ、ん?
パソコン画面に1通のメールが表示された。ロボット研究機構からだった。
ロボットの液晶画面に小さな女の子の姿が映っていた。片手に木の枝を持っていて、ロボットに質問をしているようだ。
「ソレハ、カエデノキノエダ、デス」
博士の開発したロボットが音声で、的確な答えを教える。するとその女の子は、得意げな顔で口を大きく開いた。
「ぶっぶう~! ちがいま~すッ! これはね! 魔法の杖なの!!」
と自慢げに、ただの木の枝を振り始める。
その映像を見ていた博士は、ぼさぼさの頭を掻きむしり苛立ちをあらわにした。
こ、今度は『魔法の杖』ときたか……!
博士は今、自身が運営するロボット研究所で映像を確認していた。その映像とは、ロボットが幼稚園での活動を記録したものである。博士は顔をしかめながら、映像の続きを見る。
「ソ、ソレハ、カエデノエダ、デス」
「違うのッ! ほら! こう振ったら火が出ます」
「ソ、ソレハ、ショクブツデス。ヒハ、デマセン」
「火が出るのッ! 出るったら出るの!」
「キノエダ、カラ、ヒ、ヒハ、デナイ―――、ピーッ、ガガガッ!!」
ボンッ!
と何か小さな爆発音が響いた後、フッと、ロウソクの火を吹き消すかのように、液晶の映像が途切れた。
「あははははッ!! またボンッ! てちっちゃい火が出た~! 煙吹いた~!」「先生! ロボットまた動かなくなったよ!」「わあ~ん! 次は私がお話しようと思ってたのにッ!」
生き残った音声から、園児達が楽しそうに騒ぎ立て、泣きだす声が聞こえる。博士は顔をしかめ項垂れながらも、パソコンのキーボードを荒々しく打ち込み、教育ロボットのメモリーに新たな知識を書き加えた。
『楓の木の枝は、魔法の杖でもある』
「……、うがああああっ!! そんなわけあるかっ!!」
博士は大声を上げるも、こうするしかなかった。
幼稚園での試験運用が上手くいかず、気付けば早2ヶ月。このような日々を過ごしていた。園児達の質問に、博士の教育ロボットは的確な答えを教えていた。だが、子ども達は絵本や小説に出てくるような空想の答えをロボットにぶつけてくるのだった。もちろん博士の教育ロボットはそれを間違いと教え、正解を伝えるのだが、子ども達はそれを良しとしなかった。
『ホウキは空を飛ぶ道具』『草花で付けた色水は、動物に変身できる魔法の水』『綺麗なガラス玉は人魚がこぼした涙』など、無茶苦茶なことを言うのだ。ロボットがそんな答えを素直に受け入れられるわけがない。だからオーバーヒートして壊されてしまうのだ。
齢30の博士の目元には、濃いくまができている。博士の研究所には返品された故障ロボット達が列をなしていた。故障させられては、新たな知識(たわごと)をメモリーにインプットする、その繰り返し。研究所の窓からは、暗闇に煌めく星々が顔を覗かせている。もう真夜中だが、寝る暇なんてない。子ども達のたわごとを蓄積させなくてはいけないのだ。そうしなければ教育ロボットは答えに行き詰まり、壊れてしまう。
『園児達のための豊かな教育を課題とする』
壊されてしまっては、ロボット研究機構からの課題をクリアするどころではない。時間が無い。早く、教育ロボットのメモリーに知識(たわごと)をインプットさせなくては。
博士はこんな日々に嫌気がさしていたが、実用化のためには仕方がなかった。あともう一息なのだ、ん?
パソコン画面に1通のメールが表示された。ロボット研究機構からだった。
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