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続・呪われた英雄様と私

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「魔女殿……レーナ殿……」


 死にそうな顔をして〈塔〉に転がり込んできた英雄様に、私はびっくりして駆け寄った。


「英雄様? どうなさったんですか?」


 呪いを解いてほしいと依頼に来た英雄様にうっかり襲われて、結果的に呪いを軽くしたのは昨日のことである。私が呪いを解くのに使える手段が手段なので、他の魔女を紹介したのも記憶に新しい。

 だからもう英雄様との縁は切れたとばっかり思っていたのだ。なのにどうして英雄様がここに。


 英雄様ははぁはぁと息を荒くして、何かに耐えているようだった。私はちょっと嫌な予感がした。


「……魔王が……」

「魔王が?」

「『妾の呪いを解こうだなんて、千年早いわ』と言って……また……」

「……もしかして、呪われました?」


 こくん、と英雄様は頷いた。声を出すのもつらいらしい。
 つまり英雄様が何かに耐えているふうなのはアッチ方面の意味合いだと察せられて、私はどうして英雄様がここに来たのかわかった気がした。


(どうしても誰かとヤッちゃいそうになるなら、呪いを軽くできた方がいいと思ったとかなんだろうな……)


 合理的というか何というか。むしろその状態でよくそんな気が回ったというか。


「……一応聞きますが、すごく誰かとシたい気分?」


 英雄様は頷く。


「誰かを襲う前に私のところに来た?」


 またも英雄様は頷く。


「……私とヤりに来た?」


 ちょっと躊躇う素振りを見せたけれど、英雄様は頷いた。


「そうですか……」


 私も若干成り行きっぽかったとはいえ、一度致してしまった身だ。呪いを解くための行為ならまあ仕方ないだろうと肚を決めた。
 しかし前回みたいなことにならないようにしたい。あれはなんかちょっと呪いを解くためから外れ気味だった気がする。
 呪いを解くのに無理矢理要素も愛撫も要らないのだ。言ってしまえば中に入れる行為が大事なわけで。

 英雄様の下半身をちらりと見る。それはもう服の上からわかるほどにそそり立っていた。


「ええと、ちょっと待っててくださいね」


 英雄様が疑問の色を湛えて私を見遣る。


「ヤるのはいいです。ここで追い返したりはしません。呪いを解くためにできることはします。……なので準備をさせてください」


 こく、と英雄様が頷く。辛そうなのに申し訳ないが、私だって準備をしないとちょっと……無理である。そういう開発が済んでるとかじゃないので。

 まずは英雄様の下穿きを下ろしてくつろがせる。英雄様はちょっと腰を引いたけれど大人しくされるがままになってくれた。
 ここで手淫とか口淫とかしてあげられたらいいのだけど、そこまで私も思い切れない。

 次いで私は自分のスカートの中に手を入れた。英雄様が目を丸くする。そんなに見ないでほしい。


「準備、とは……そういう……」

「何だと思ってたんですか……」


 ちょっと間抜けな会話をしながら、下着を脱ぎ去る。中途半端に着ていても汚れるだけだ。
 それから、膝立ちになって自分の指をナカに入れる。二本がぎりぎりだった。
 ごくり、と英雄様の喉が動いた。……な、なんかこれ変な空気になってきたな。選択を間違えたような気がする。


「ぅ……は、……はっ……」


 自分の指でナカを掻きまわすのは思ったより難しかった。根本までなかなか入らないし、それほど奥にも届かない。
 だけどここで頑張っておかないと絶対痛い。痛いのは嫌だ。
 その一心で私は必死に自分のイイところを探す。
 陰核に触れるのはなんだかこわくて、ナカだけを弄る。ある一点に触れたとき、体が自然と跳ねた。ここだ。


「っ、は、はぁ……あ、……ぅん……」


 英雄様の視線が痛い。熱い視線に嬲られるような心地になりながら、私は見つけた場所を何度もひっかくようにする。

 ぐちゅぐちゅとした音がし始めた。挿しこんだ指にぬるぬるとしたものがまとわりつくのを感じる。私は指を三本に増やした。
 ……な、なんとか入った!


「はッ……あ……ンん……」


 ぐちゃぐちゃとナカを掻きまわす。こ、これはほぐれてきたんじゃないかな? 大丈夫なんじゃないかな?


「……魔女殿」


 と、いやに平坦な声で英雄様が私を呼んだ。


「……ッ、ん、なん、で、すか……?」

「これは、俺を試しているのか?」


 私は指を動かすのも忘れてきょとんとした。
 試す? 何を?


「……その顔は、そういうつもりではなかったようだが……」


 英雄様に腰をとられてそのまま床に仰向けにされる。乱雑に指が抜ける感覚に身震いする。両足首をぐいっと持ち上げられた。
 ……あれ?


「貴女のそんな姿を見て、我慢できるはずがないだろう……!」


 足を体の前で折りたたまれて、まるで秘部を見せつけるような体勢にされる。羞恥にかっと赤くなった私をよそに、英雄様はそこにそそり立ったモノを当てた。


「え、あ、ちょ、待って、」

「待てない。煽った貴女が悪い」


 ずん!と一突きで奥まで貫かれる。頑張ったおかげか幸い痛みはそれほどでもなかったけど、圧迫感がすごくて私ははくはくと喘いだ。


「くっ……少し、きついか」


 そりゃあ私の指三本より明らかに太いものがいきなり入ってくればきついに決まっている。
 とかいうツッコミも口にできる余裕はなかった。


「……苦しいか? ほら、ゆっくり息をして」


 無茶を言う。言うが、そうするしかないので私は必死に息をした。突然の暴挙にこわばっていた体が少し緩む。……ナカも、少し緩んだ。

 その機を待っていたように、英雄様はゆっくりと腰を動かした。ナカの壁と擦りあって、言いようのない感覚が襲ってくる。


「あっ、……んン……、ンッ」

「わかるか? 貴方のナカが私のモノを咥えこんで、奥へ奥へと誘っている」

「そんな、の、言わなっ、い、で……!」


 前回も思ったけど、この英雄様、ちょっと言葉責めの気質があるよね……!?

 抽送が速まって、私はそれ以上抗議することはできなかった。意味のある言葉を紡げないのだ。どうしようもない。


「あっ、あっ、あンッ、あっ、ああ!」

「気持ちいいか? もっと声を聞かせてくれ。貴女の声は耳に心地いい」

「やっ、アッ、あ、ンんッ」


 奥を何度も突き上げられる。その度にあられもない声をあげてしまって、私は自分で決めたこととはいえ気を失いたくなった。恥ずかしいものは恥ずかしい。


「はっ、はッ、はぁッ……ぁっ」


 英雄様の欲に塗れた吐息が耳を犯す。ぐちゅっ、ぐちゅっ、と淫猥な音が部屋に響く。
 私は高まる感覚に無意識に声をあげた。


「あっ、やだ、クるっ、……イく、イッちゃう……!」

「ああっ……俺も、イきそうだ……!」

「あン、待って、やだ、イッちゃう、イッちゃうぅ……!」

「イっていい、ほら、一緒、に……!」


 ずん!と一際強く突き上げられて、一拍の後に熱いものがお腹の奥に広がる。頭が真っ白になって、視界がチカチカと瞬いて、背筋が、体が、指先までピンとしなる。
 快楽の波に打ち震えていると、英雄様がまた律動を開始した。


「ぁ、あ、なんで、また……!」

「貴女の顔を見たら、だめだ、まだ、ッ……はっ……はぁっ!」


 一度達した体は容易く高みに近づいて、私はいやいやと首を振った。


「も、もうやだ、やめて、イッちゃ、イッちゃう……!」


 ちゅ、と眦に口づけが落とされる。溢れた涙を舐めとられて、今度は唇を塞がれる。


「んぅ、ん、ンんッ」

「はっ、ん、ぅん、魔女、殿……!」


 空気を求めて開いた唇を割り入って、ぬるりと温かいものが口の中に入ってきた。咄嗟に逃げようとした舌を絡めとられて、吸われる。


「――んンッ、ン……!」

「……貴女の唾液は、甘いな……っ」


 びりびりと体の奥から痺れるような感覚に身を震わせた私をよそに、英雄様はそんなことを言って、また唇にかぶりついてきた。

 下からは激しい律動、上からは息を奪う口づけで、ろくに息もできない。快楽とは別の原因で頭が真っ白になりそうだ。

 じゅっ、じゅるる、と淫らな音を立てて、英雄様が私の唾液を啜る。もう恥ずかしいを通り越して死にたい。死なせてほしい。

 抽送の間隔が狭まって、英雄様の息遣いも切羽詰まったものになってくる。私は二度目の快楽の波に、為されるがまま攫われてしまう。

 ぎゅう、とナカが英雄様のモノを締め上げる。またお腹の奥に熱いものが広がる感覚がした。断続的に続くそれが止むまで、英雄様は私を抱きしめて離さなかった。






「……すまなかった」


 なんだか昨日も聞いたような台詞である。しかしそれに返す私の言葉も昨日と同じだ。


「……いえ、呪いのせいですし……」

「だが、その……ああいうのは刺激が強いので、今後は控えてもらえたらと思う」


 真剣な様子で英雄様が言った。それが『準備』のことだとわかって、私は真っ赤になる。

 ……よく考えなくてもあれ、その……いわゆる自慰を見せつけてたことになるよね……なんであの時の私はそれでいいと思ったんだ……。

 考えるまでもなく強まっていた呪いのせいだろう。その気になった英雄様と同じ空間にいるだけで影響を与えてくるとか、やばすぎる。
 今はまた呪いが薄まっているし、英雄様も落ち着いているので、尚更にその時の自分の思考の飛びっぷりに遠い目になる。


「次回からは気を付けます……」


 悄然と言った私に、英雄様は目を見開いた。……ん?


「次、もあると思っていいのか」

「……! こ、言葉の綾です言葉の綾!」

「…………」


 英雄様は無言になった。その目が何かを期待しているように見えるのは気のせいだ。気のせいだと思いたい。


「――俺は、このまま貴女に呪いを解いてほしい。……その、この方法で」


 気のせいじゃなかった……!


「な、なんで……」


 ちょっと引きながら訊ねる。英雄様がぐっと私を引き寄せた。


「――貴女を、好きになってしまった」


 ………………は?


「え…………?」


 聞こえた言葉を処理できずに、唇から意味のない音が漏れた。
 それに構わず、英雄様は熱っぽい瞳で私を見つめる。


「貴女との行為は今までの誰としたものよりも気持ちがいい。俺を気遣って自慰までしてくれたその様を好ましいと思った。――何より貴女は、俺を『英雄様』と呼びながら英雄扱いしない」


 いやいやそんな女性探せばたくさんいると思うよ! 確かに救国の英雄って肩書はいろいろ先入観を持ちやすいけども! ……っていうか最初に来るのがそれなのはどうかと思う。

 性行為の具合を第一に持って来られてええーと思ったけれど、そういえばこの世界は私の間隔より性に開放的なのだった。そういえば恋愛相手も夜の相性に重きを置くって聞いたことがあるようなないような……。

 そういう感覚の違いならばドン引きするのは躊躇われる。私は英雄様の言葉を真面目に受け取ることにした。


「ええと……私はまだあなたのこと好きとか嫌いとか言う段階じゃないんですが」


 英雄様が目に見えてしょげた。


「呪いを解く手助けをするのは、いいです。引き受けます」


 これも乗りかかった船である。というか今回魔王が即座に現れたことからして、イタチごっこになりそうな予感がひしひしする。そうなると他の魔女に任せるのもなんだかなという感じだ。うっかり英雄様が襲ってしまったら、紹介した者として申し訳ない。……いや、こんないい男に襲われるんだから喜ぶ魔女もいそうだけど。そういう世界なのだ。

 私の言葉に、英雄様はぱっと表情を明るくした。


「それは、……口説く機会をくれるということだろうか?」

「そこは、あの、好きにしてください」


 そうとしか言えない。
 口説かれたいというわけではないけれど、呪いを解く手助けをする以上、そういう機会は多くなるわけで。というか、その、致すのは確定なわけで。


「わかった。――全力で、篭絡させてもらう」


 その言葉の選択はいかがなものだろうか。『口説く』はどこへ。
 なんてツッコミを飲み込んでしまうほど、英雄様の浮かべた笑みは色気ダダ漏れの凶器じみたものだった。
 色気にあてられて赤くなった私の顎をとり、英雄様は宣戦布告する。


「覚悟しておいてくれ。俺は、欲しいと思ったものは必ず手に入れる主義だ」

「……肝に銘じておきます」


 迫りくる色気に、私はそう答えるのが精いっぱいだった。

 そうして私の、呪いを解く手助けをすると共にあの手この手で口説かれる日々は始まったのだった。



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