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フィリップ家の使用人

第三話 レミア・フィリップ

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屋敷は、意外にも質素なものだった。馬車でゆれること数時間フィリップ家の屋敷につく。とんでもない広さの屋敷だ。
海外にでる高級ホテルのよう。

「さぁ、アグウェル。ついてきなさい。荷物は、君の部屋に届いているはずだ。」
「は。はい!!」
「むッ」

突然、顔を顰めるヴィンセント。
どうしたのかと彼の向ける方向を見るとパンツが見えた。否、いや、あれだ。2階のバルコニーの手すりに登る少女がこちらを見下ろしていて、風によって一瞬…コンマ数秒だけ見えたのをアグウェルが見逃さなかった。

(む、白だ。清楚だ。)

だが、高校生からの思考が中々抜ききれていない精神年齢が30代に迫っている俺とはいえ、この程度で興奮するほど盛っているわけでもないし、なんならロリコンでもない。
そして、それよりも気になるものがあった。
横断幕である。


『レミア・フィリップは、家庭教師にアグウェルにするのは断固反対です!!お願いしますから、そこら辺の家庭教師で大丈夫です!!』


ヴィンセントから聞いていた話とは、まるで違っていた。
お淑やかとは、如何?
これから家庭教師を迎えるのが相当嫌らしい。子供にとって見れば、これから遊ぶ時間を割く人物が来ているのだ。抵抗はするだろう。
だが、横断幕とは…。

「レミア様。そこは、危ないですのですぐに降りてください。じぃ、怖くて見てられません!!」
「むむむ、わかりましたわ、じぃ。」

突然、猫撫で声でヴィンセントさんが注意する。レミアはというと横断幕を掲げた状態で降りていった。結構、物わかりがいい。
え、一人称、じぃ?
ジト目でヴィンセントを見つめていると自分が何を言ったのか理解したのか、少し…恐らく、ヴィンセントにとって見れば数時間にも感じたであろう間が広がった。

「おっほん。失礼しました。…ついてきなさい。」

いきなり威厳を取ってつけた。
流石に無理があるだろうと感じたが、へんに弄ると辞めさせられそうと考えてやめた。

「あ、はい。」

ふと、庭を見ると使用人だろうか、幾人かが陰からのぞき込んでひそひそと顔を寄せて内緒話をしていた。気になった俺は、聴覚に強化魔術をかける。まずは、この家のことを知るのが先だ。

「見て、見て、例の旦那様が雇った家庭教師よ。男の子よ。顔は普通ね。」
「そうね。見た目は落ち着いた性格ですけど…レミア様と同い年くらいじゃない?ほんとにあの子が家庭教師?顔は普通ね。」
「聞く話では、の弟子ですってよ。顔は普通ね。」

予想道理、話していることは自分のことだった。そして、すべての会話の終わりにトランシーバーの『どうぞ』の感覚で『顔は普通ね』という言葉で相手に話す権利を渡していて、額に青筋が現れる。
腹立つなあいつら、そもそも顔の良さと魔術師の力量は比例しねーよ。
そんなことを口からでそうになるのをぎりぎりで抑える。

「さぁ、旦那様がお待ちです。」
「あ、どうも。」

ヴィンセントが扉を開こうとすると扉の反対側から人の声が聞こえてきた。どうやら、お出迎えがいるようだ。
そこで、聴覚強化を解くのを忘れていたことに気づいた。慌てて、解除《ディスペル》する。
別に相手には気付かれないと思うがこれからお仕えする人相手に盗聴じみた事は控えた方がいいだろう。変にこの家に対魔術を操る人間がいたら、真っ先に危険因子にされてしまう。
信頼に関わる。

「だ、だから、お父様。私、大丈夫ですから、きっちりとちゃんとしますから小説ばっかり読まずに勉強しますから。」

扉を開けた先には、恐らくこの屋敷の主である男性が足下でだだをこねている少女に困った様子であった。豪華で突飛なデザインの服はそれだけで彼の出自の良さが伺えるが足下の子は欠片もないように感じた。
ふと、その子に目を向けると眩さに思わず目を細めた。
まず、目に入ったのは、黄金の色。
孤児院のシャンデリアよりも眩しく、輝く髪を荒々しく靡かせて彼女は嫌々と首を振っていた。
同い年という話だったが、まだ幼いようにも感じる。
転校生が、学校に馴染めるか不安になって学校に母親と一緒にやってきたのは良いものの母親と別れたくなくて涙ぐむような感じ。

「レミア。お願いだ、私に困らせるようなことはやめておくれ。ほら、アグウェル君と仲良くしてくれないかい?」
「むむむ………くっ、やはり美形の頼み事にNoといえる度胸が私にはかけていたようだ。ここは、破滅が近づくとしても避けようがないことだというの…」

言葉の終わりで口早に何か言うと、突然、駄々を捏ねるのをやめた。あまりにすっぱりと割り切るあたり先ほどのは演技だったのではないかと疑いたくなる。

「そ、その。れ、レミア・フィリップですわ。ゴキゲンウルマシュウ。」

どうやら、噛んでご機嫌麗しゅうのうるわをうるまになってしまったようだ。噛んだことがわかって顔を赤らめて小さく何かを呟く。
早くて、どうも聞き取りづらい。

「………むりむりむり、流石に無理があるいくら、元レミアだとしても恥ずい。声優さんやべぇこんな恥ずいことしてるの!?メンタル鋼ちゃう?!」

顔を伏せたまま、一切上げようとしない。困った様にアグウェルはこの屋敷の主人であるジョン・フィリップと執事のヴィンセントに目を配ると二人とも両手で顔を覆っていた。それは、娘が挨拶の言葉を噛んだことへの羞恥という訳でなかった。
寧ろ。

「やっば、ヴィンセント見たか?噛んだぞ。我が娘が…噛んだぞ。しかも、天使級の可愛さの噛み具合だぞ?『うるましゅう』だぞ?パナくない?ヴィンセントよ…まさか、見逃してはあるまい……な!」
「パねぇっす主。『うるましゅ』…。しかと、この魔視に抑えましてに御座います。」

ドヤ顔で片方の手のひらで顔を覆いつつ、腰を曲げてヴィンセントと目を合わせる。ヴィンセントはというとどこから持ってきたのか映像を記憶する機能を持つ魔道具である『魔視』を取り出してその様子を既に録画し終えていた。
そんな中、俺はというとあまりの二人のレミアに対する溺愛っぷりが感じ取れた数秒の出来事に顔を引き攣らせている。
そして、撮られていたということに気付いたのか…、レミアはゴミを見る様な目を二人へと向けると一目散にその場から駆け出していった。

「おや、うぅーん。嫌われちゃったねアグウェルくん。」
「え、今の反応で僕が彼女に嫌われているって結論に至るの?おかしくない?」
「それでは、まず初めの仕事だアグウェルくん。レミアとお友達になりたまえ。」

屈託のない笑顔を向けるジョン伯爵。
(これ、子供が悪いんじゃなくて親が悪い様な気がする。)

「お、仰せのままに…。」



この後、アグウェルはレミアを書庫まで追い詰めたのちに彼女が同じ日本人だと分かるまでの出来きごとであった。






アグウェルのいなくなった孤児院の書斎にて



「……これでいいんでしょう?司教様。」
「うむ!」

ジーナが誰かに話しかけると見た目がジーナよりも幼い真っ黒な修道服を着た少女が物陰から現れた。彼女がこの【アデル】の司教であり、アグウェルの魔術の師であり、赤ちゃんプレイ常習者であった。

「まぁ、予想どうりといえば予想通りだ。しかも、即答とはなぁ。判断が早いのはいいことだ。……また、寂しくなるな。」
「はい。彼に機会を与えた貴方を許しません。」
「私は、夢見る子に弱いからな。」
「もう二度と貴方を癒しません。」

冷酷に言い放ったジーナに司教は悍ましい何かを見るように顔を強張らせた。

「え、うそ……。そんな、……外であんなことをして、僕を君なしじゃいられない体にしたというのに!?」
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