宣誓のその先へ

ねこかもめ

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第一章

【十話】憤怒と運命。(4)

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ストロングホールドでの戦闘から三日。
俺とアイシャは一週間の休暇を申請し、例の墓へ向かった。

相変わらず隣に座る少女。

……念のため装備を着けているので、抱き着かれても痛いだけなのだが。


……馬車が停まった。

「着きましたよ」

馭者さんに呼ばれ、座席車から降りた。
今では、霊園のすぐ近くまでを制圧して結界が張られている。
五分も歩けばうちの墓に着くだろう。

「ありがとうございます。」

アイシャも会釈で礼をする。

「ところで、結界の外に行くんですよね?」
「ええ。」
「この辺はクモが出るらしいですよ。五年前には騎士の死亡事件も起きているみたいですから、気を付けてくださいね」
「ご心配、ありがとうございます。」


 ——少し歩いたころ。

「もう五年経ったんだね」

あの出来事は、ちょうど五年前の今日。
嫌に重なった、師匠の命日と「節目の日」とやら。

「……だな。」
「今の私たちを見たら、何て言うかな?」
「こら、訓練中にベタベタするな!」

誇張気味の声真似で再現した。

「ふふっ、言いそう。」
「……今のを披露したら素振り追加だな」

師匠の思い出話で盛り上がってはいるが、彼女はひっきりなしに周囲を警戒している。
クモが出る可能性があるからだろう。
何も言わずについて来てくれたが、この山は心に大きな傷を作った場所であるが故、当然だ。

「お、着いた着いた。あれだよ」

今見ても大きな墓石。

「あれ?大きいんだね」
「ね。」
「……だいぶコケまみれだね」
「……掃除するか」
「手伝うよ」
「助かる」


 一通り綺麗にし、花を供えた。

そして——

「確か……」

墓石の下の引き出しを開け、首にかけていたカギを使った。
すると、床の一部が観音扉のように開いた。

「あった、これだ。」

その扉の中から小さな箱を取り出した。

「なにそれ?」
「……分からん。」

箱を開けると、真紅の輝きを放つ宝玉が入っていた。
それを手に取る。ネックレスのようにひもが通してある。
首にかけ、さらに箱を調べる。

「……これだけ?」

小さな箱の底を手で探る。感覚が訴えてくるのはただの平面構造だけ。

「二重底とかなってない?」
「あり得るな」

箱の裏を見ると、中央辺りに小さい穴が開いていた。

「はい。これで押せる?」

桃色の髪飾りを外して渡してくれた。

「ありがとう」

受け取り、穴へ。

すると……

「おお、二重底ビンゴ!天才。」
「知ってる」

髪飾りを返し、動いた板を取り外す。
その下に入っていたのは、小さな紙きれだった。
かなり古ぼけている。

「これって……座標?」
「みたいだな。」
「どこのだろう?」
「うーん……。馭者さんが地図を持ってるかもな。」
「じゃ、もどろっか」
「だな」

箱や、空けた扉を元に戻して馬車に戻ることに。



「ご無事でしたか」
「はい。それより、馭者さん。地図ってありますか?」
「地図ですか?はい、ありますよ」

馭者さんは、荷物の中から紙の筒を取り出して地面に広げた。

「えーっと……」

先ほどの紙と、地図を見比べる。

「……ここか?」
「そこだね」

座標が示していたのは、アルプトラオム基地から南西に進んだ場所だった。
しかし、地図上では何もない平原だ。

「その辺って確か……」

馭者さんは何か知っている様子。

「遺跡があったと思います」
「遺跡ですか?」
「ええ。五百年前の戦争で魔物の長が拠点に使っていたという、あの遺跡です。」
「ああ……聞いたことはあります」
「こんな所にあったんだ……。」

なぜそんな場所の座標が……。

「すみません、アルプトラオム基地まで送ってくれませんか?そこからは勝手に行くんで。」
「わかりました。ただ、いったんストロングホールドに寄りましょう。」

……朝から走っている。そろそろ馬が可哀相だ。

「お腹すいちゃって」
「あ、そっち」
「確かに、私も。」


ストロングホールド南部に立ち寄り、昼食と馬の交代を済ませた。
再び馬車が走り始めて数時間。アルプトラオム基地に到着した。

「すみません、ここまで付き合わせちゃって。」
「いえいえ。では、私は兵舎を借りていますので。お戻りになられたら声をかけてください。」
「了解です」



 二人乗り出来る馬を借りて座標へ。馭者さんの言った通り、遺跡があった。

「確か、開けられない扉があるんだっけ?」
「強固な結界って聞いた気がする」
「結界か……。」

練り歩き、遺跡の真ん中くらいまで来た。
すると、崩れた周辺とは違い、不自然に形が残ったままの大扉を見つけた。
しかも、巨大な結界に護られている。

「ここに行けばいいのかな?」
「でも、この結界があったら入れないよ」
「だよな……。」

……。

「もしかして、これか?」

首にかけた宝玉。
恐る恐るそれを結界に近づける。

「——っ⁈」
「……いったい何?」

一瞬、目をふさぐほどの閃光が走った。

「あれ、ユウ。結界が……」
「ホントだ……」

目を開くと、さっきまで大扉を覆っていた結界は消えていた。

「……行くか」
「うん。」

石の扉がひとりでに開く。
舞う砂埃にむせながら払って中を見ると、長い階段が続いていた。
窓も灯も無い。仕方ないので一段一段気を付けながら降りた。

「ゴールか?」
「……っぽいね」

最奥らしき空間に出た。
松明などはないが、どうしてか仄かに明るい。

「なんだ……あれ?」

部屋の中心付近に倒れた十字架があった。
その交差部分には、長い包帯が落ちている。

「なに、ここ……?」
「何の部屋だろうな……。」

周辺を捜索しても、十字架と包帯以外は何も見られない。
だがここで、祖父の言葉を思い出した。

「アイシャが霊視能力を獲得したのは運命だ」だったか……。

辛い記憶だが、そこに答えがあった。

「アイシャ、霊視してみてくれ」
「はーい。」

彼女の身体が青白い光を放つ。

「どう?」
「……誰かいる。」
「なるほど……これがじいちゃんの言ってた「運命」ってやつか」
「見えるようにするね」
「お願いします」

霊がいるらしい方向に手を向け、数秒経つと俺にも人影が見えるようになった。

——まではよかったんだが……。

「……えっ?」
「うそ、昔のユウにそっくり……?」

その霊は、少年時代の俺に瓜二つな子供だった。
何が起きているのか解らずあたふたしていると、その子供が口を開いた。

「ユウ。アイシャ。ボクは君たちに会える時をずっと待っていたよ。」
「……待ってた?」
「そうさ。五百年間、ずーっとね。」
「五百年って……君は人魔戦争の頃の人ってこと?」
「そうだよ、アイシャ。けど、あの戦争はまだ終わっちゃいない。カイブツたちが永いことお留守だっただけなんだ。奴らは逃げてなんかない。」

……何を言っているのか、何一つとして分からなかった。
昔、魔王が倒されて魔物たちは逃げて行った。それは降伏であると解釈され、人類の勝利となった。
そう教わってきた。だが、この子の話ではそれは違うということになる。

そもそもこの子が何者なのかもわからないし、やけに俺たちに詳しいのも疑問だ。

「二人の事はユウ、君のおじいちゃんから色々と聞いているよ。同時に、君たちに大戦の真実を伝えてほしいともね。」

——ここでも祖父がかかわっているのか。

「真実?」
「そうさ。結論から言えば、戦争はボクが止めたんだ。」
「止めた……?」
「うん。まあ、人類を救いたいとか世界のためとか。そんな大それた理由は無かったけどね。あ、話すより見てもらった方が早いよね。アイシャならそれが出来るんだろう?ご覧、ボクの記憶を。」
「えっと……じゃあ、お邪魔するね?」
「どうぞ」

アイシャが少年の頭に触れる。

彼女の肩に手を置き、俺も景色を共有させてもらった。
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