宣誓のその先へ

ねこかもめ

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第一章

【十話】憤怒と運命。(3)

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消耗しつつも、なんとか魔物への攻撃を続ける。
今のところ右腕、両脚、兜の破壊に成功している。
相手の肘にダメージを与えた甲斐があり、攻撃力が非常に弱っている。

「し……しぶといわね……‼」
「ちょっと……きつい……かも……。」

お姉ちゃんとアイシャの消耗が特に激しい。
二人とも動きが鈍ってきている。まずいな……。

「エリナさん、二人がバテ気味です。俺たちで何とか!」
「そうですね。なるべく我々が引きつけましょう。」

魔物は、歯をむき出しにして俺たちを睨んでいる。それを無視して、エリナさんと左右から挟み撃ち。
魔物が盾を持っている方に回り込んだ。しかし盾の面積が大きく、やはり懐に潜り込まなければ破壊は困難を極める。
だがここで、あえて盾に向かって剣を振り上げ——

「これで……!」

——攻撃を防ごうと、大盾を構える。

——剣は、エリナさんの猛攻のおかげで俺に向けている場合ではない。

——絶好のチャンスだ‼

「どうだ‼」

——右足で地面を蹴る。

——魔物の背後をとった。

——頭の上で構えた剣を左から回し。

——魔物の首を捉えた。

《……‼》

「はあ……はあ……どうだ、ざまぁ見ろ」

魔物の頭が宙を舞い、数秒後、地面に落ちる。

《コロ……ス‼》

それでも魔物は生きていた。
やはり、コアを破壊しなければならないようだ。

「……⁈」

魔物が一瞬体をひねったかと思うと、そのまま回転攻撃に転じた。

「ぐあぁ!」
「くぅ!」

防御はした。しかし、散々こいつの攻撃に耐えてきた剣が限界を迎え、砕けた。
俺の鎧に魔物の剣が直撃し、胸部に亀裂が入った。
体への直撃こそしなかったものの、衝撃がすさまじく肋骨へのダメージが大きい。
そして、勢いそのまま後方へ吹っ飛ぶ。エリナさんも似たような状況に見える。

目に映った星空がゆがみ始める。

「ユウ!エリナちゃん!」
「ユウ!ユウ!しっかりしてよ、ユウ!」
「アイ……シャ……‼」

アイシャの声を聞き、必死に意識を繋ぎとめた。
こっちまで走ってきた彼女が、心配そうな視線を向ける。

「名前を呼んでくれてありがとう、助かったよ」
「よかった……‼」
「エリナさんは……。」

彼女が飛ばされた方を見ると、お姉ちゃんが介抱していた。
胸を押さえている。ダメージが大きいらしい。

「魔物も、結構消耗してるみたい」

地面に膝をつき、肩を上下させている。

「……首を斬ったんだから、死んでくれた方が助かるんだけどな……。」
「確かに……。」
「けどまあ、無意味ではなさそうだな……。」
「あっ!」

首の断面を見ると、コアが露出していた。

「コア、出てるね」
「ああ。けど剣、やられちゃったな……。」
「ご主人様……これをっ!」

セリフと同時に、エリナさんの剣が地面を滑ってこちらへ。

「エリナさん」
「ダメージが大きく……今の私では、お役に立てそうにありません……ので。お使いください。」
「……すみません、借ります」

その剣を拾い上げ、構える。

「アイシャ、やれるか?」
「……分かんない。けど、今出せる力は全部出しきるよ」
「よし。じゃあ……」

——深呼吸をひとつ。

「行くぞ!」
「うん!」

二人同時に駆け出した。それに対して、魔物も重い腰を上げる。
挟み撃ちを狙うと、先ほどのように回転攻撃の餌食になりかねない。
その反省を活かし、今度は二人で正面から連続攻撃を浴びせる。

だが——

「っ!」
「アイシャ!」

足がもつれたようだ。
やはり、もう普段通りの動きは出来なさそうだ。

「ごめん……。大丈夫!」

アイシャに手を差し伸べて立ち上がるのを補助。
大きな隙だが、魔物は追撃をしてこない。
もう一押しってところだろう。


 アイシャに続いて、俺もそろそろ辛くなってきた。
疲弊していることもあり、なかなかコアに攻撃できないでいた。

「ユウ……私……結構来てるかも……。」
「アイシャ……」

なんとか踏ん張っているが、相当無理をしているのが分かった。
今も、気を抜けば倒れてしまうだろう。

「無理しないで、ちょっと休んでろよ」
「うん、そうする……ごめん。」
「まあ任せろって」

……とは言ったものの。
俺とお姉ちゃんも限界が近い。敵もそうなのだが、果たして耐えられるだろうか……。
それに、エリナさんの剣も若干ヒビが入り始めている。

《ニンゲン……コロス……ワタシガ……‼》
「……‼」

突然、そう叫んだ魔物。

次の瞬間——

「こいつ!」

——身に着けた重い鎧をパージして飛ばして来た。

大砲ほどの威力は無いだろうが、ヒットすれば大ダメージは間違いない。

慌てず。

冷静に。

一つずつ剣で防ぐ。かなり重厚な鎧だ。一つ一つの重みが違う。

「はあ……はあ……これで、最後か……?」

状況を確認する。必死に防いだお陰で、アイシャへの被弾はない。俺も無事だ。

あとは——

「……‼お、お姉ちゃん!」

——倒れている。その近くには、魔物が装備していた大盾。
あんなものに当たれば大けが間違いなしだ。
起き上がろうとしているが、力が入らないようだ。

「お姉ちゃん!無理しないでください!」
「く……‼悔しいわ……。」

その手に握られた剣は、柄だけになっている。

——俺がやるしかない……‼

《コロス……コロス……コロス……‼》

この位置で戦うのはまずい。アイシャに被害が出てしまう。

「こっちだ!」

俺から見て右の方におびき寄せる。
鎧を外した魔物の肉体は細く、とてもあれだけの攻撃力を生み出せるようには見えない。

——速い⁈

鎧を脱ぐとこんなにも……‼

「くそっ、負けるかぁ‼」

——突き。

——防御、はらい。

——回避。

《シネ‼シネェ‼》

魔物の剣が俺に振り下ろされる。

——防御……いや、避ける!

防ぐのはもうダメだ。剣が耐えられない。
迷ったせいで少し体勢が崩れたが、これはチャンスだ。

コイツは、攻撃後に大きな隙が——

「な、なに⁈」

——出来ると思っていたのだが、しかし、魔物は勢いそのまま攻撃に転じた。

「避けきれない……‼」

——仕方なく防御。

——やはり、剣は限界に到達して粉砕される。

必死に後方へ回避。
当たらずに済んだが、本能的に行ったその行動は緊急回避。

「ぐう⁈」

避ける事だけを考えていた俺は、着地時に足をくじいてしまった。

「畜生、た、立て……ない……‼」

——魔物が切先を向けてきた。

——引いて。

——突く。

グシャと、肉体が貫かれる音が聞こえた。

……。

「……ん?」

痛みが無かった。

……これは?

目を開けると、俺と魔物の間に人影があった。

黒いフード。

白い仮面。

魔物の剣がその胸を貫通していた。

「あ……あんた……一体何を……?」

仮面が落ち、フード男の素顔が月明りに照らされる。

「じい……ちゃん……」
「ユウ……何を……している……。早く……トドメを!」

フード男——もとい、祖父の剣を受け取り、脚を引きながら魔物の背後に回る。

「——終わりだ。」

首の断面に剣を振り下ろす。

もう聞き慣れた、コアの割れる音。

《オノレ……‼オノレェ……‼》

魔物の身体が淡い光と共に灰になり、消えた。
魔物が消えるのと同時。祖父の身体が地面に崩れ落ちた。

「じいちゃん!」
「よく、やったな……ユウ。」
「いいんだ、そんな事!魔物なんていい!じいちゃん、どうしてこんな!いったい何をして……っ‼」
「人類が……勝つためなんだ。このままでは、人間は敗北する……。」
「敗北するって……?人類はこんなに優勢なのに?」
「今攻めてきている魔物は……氷山の一角に過ぎない。」
「そんな……。」
「もうじき、魔物たちは我々への攻撃に戦力を割くだろう。その中心となる右腕は……君たちが倒したが……。」

祖父の話を聞いていると、ほかの班員たちが合流した。
魔物は死んだ。能力が使えない状態を脱し、お姉ちゃんの能力が使えるようになった。

「ユウ。あなたも。」

お姉ちゃんが俺の肩に手を置き、緑色の光に包まれる。体の痛みや気怠さが癒えた。

「ありがとうございます。……あの、この……俺のじいちゃんも治せませんか?」

皆、俺が祖父と呼んだ人物の格好を見れば、状況は理解できよう。
特にアイシャは、祖父の顔を知っているからなおさらだ。

「ええ。」
「お願いします」

お姉ちゃんが祖父の胸に手を当て、能力を使う。
しかし、状態は一向に良くならない。

「……私の肉体はほとんど魔物と同じ。君の力は……人間にのみ効果があるようだな」

祖父は周囲を見て、アイシャに向かって言った。

「アイシャちゃん……。墓参りに付き合わせてしまった日……あの日はすまなかった……。彼を亡くすことになるとは……思ってもみなかった。」
「謝らないでください。……あれは私に力が無かったから……です。」
「二人の成長を……さぞ喜んでいるだろう……。」

やがてまた俺の方に向き直り、つづけた。

「ユウ……。墓のことは……覚えているか?」
「うん。」
「そうか……。では、これを……受け取れ……。節目の日は……近い……。」

そう言うと、懐から「鍵」を取り出し、俺の手へ。

「わかったよ。墓に行けばいいんでしょ?それは分かったから、じいちゃん!」
「ユウ。最後にもう一つ、伝えたいことが……ある。」
「最後なんて……言わないでくれよ!」
「いいから……よく聞きなさい……。墓へ行けば分かるが……。お前がアイシャちゃんと出逢い……そのアイシャちゃんが霊視能力を持ったことは……もはや「運命」としか言いようがない……。その奇跡を……大切に……しなさ…………」

握った祖父の手から力が抜け、地面に落ちた。

……やがて、淡い光に包まれる。

「じいちゃん?……じいちゃん!」

脚の方から次第に霧散し始める。

「そんな……‼なんで……なんで、こんな……っ‼」

——悲しみの雫は、祖父の身体を通り抜けて地面を濡らした。

——いつになったら。

——どれだけ力を付けたら。

——俺は、大切な人をこの手で守れるようになるんだ。

——そう、己を責めた。
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