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初恋が忘れられない
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海合宿イベント当日。
世間は夏休み真っ只中ということで、二泊三日のスケジュールにも関わらず、多くの参加者が集まった。ジムの総合イベントなので、水泳コースを選択していない生徒も参加している。
よって、合宿と銘打ってはいるものの、練習メニューはほとんどない。生徒同士の交流とレクリエーションを、主な目的としているからだ。
「一日のスケジュールはお配りした資料の通りです。随時、安全確認のために集合してもらうことになりますが、怪我や事故に気を付けて、思い切り楽しんでください。まだ泳ぎが苦手な人は、決して無理をしないように」
「はーい」
「では、解散です」
各インストラクターからの説明が終わり、生徒たちが思い思いの方へと散っていく。波音の担当する女性たちは、普段の競泳用水着ではなく、各々が気合いの入ったファッション水着を準備していた。
波音も、いつもとは違って花柄のビキニにしたのだが、海水浴場でそれを皆に見せるのが恥ずかしく、上からジャージを着用して隠している。
「姫野先生」
「はい! あ……深水先生」
しばらくの間、生徒たちのはしゃぐ様子をパラソルの下で微笑ましく見ていたら、大和が話しかけてきた。職場では、便宜上、敬称をつけて互いに呼んでいる。二人の関係を周囲に知られると、後々面倒だからだ。
「今年も無事に終わるといいね。合宿」
「そうですね」
大和は、波音に何かを話したいようだ。生徒たちを見守るようにして、ごく自然に波音の隣に座った。今すぐにでも、大和に接触したいという女性たちがたくさんいるだろうに。
気後れした波音は、ほんの少しだけ、大和から距離を取った。
「碧の命日、今年も墓参り行くでしょ?」
「……うん」
「波音はまだ……碧のことが好きなの?」
「大和兄ちゃん、それ聞くの何回目? それに、今は仕事中」
小声での、秘密の会話。幼馴染み同士の時間に、一瞬だけ戻る。そういった話は、仕事中ではなく、プライベートな時間にしてくれればいいものを、なぜこんな人目がある場所で波音に聞いてきたのか。
不思議に思いながら、波音は大和の顔を見た。
(え……)
なんと例えたらいいのか。寂しそうな、苦しそうな――それでいて、その双眸は熱をたたえて波音を見つめている。碧があのまま大人になっていたら、この顔にそっくりだったのだろう。
大和と碧の顔は、よく似ている。心臓がドクリと音を立て、波音はふと、顔を正面へと戻した。
海合宿イベント当日。
世間は夏休み真っ只中ということで、二泊三日のスケジュールにも関わらず、多くの参加者が集まった。ジムの総合イベントなので、水泳コースを選択していない生徒も参加している。
よって、合宿と銘打ってはいるものの、練習メニューはほとんどない。生徒同士の交流とレクリエーションを、主な目的としているからだ。
「一日のスケジュールはお配りした資料の通りです。随時、安全確認のために集合してもらうことになりますが、怪我や事故に気を付けて、思い切り楽しんでください。まだ泳ぎが苦手な人は、決して無理をしないように」
「はーい」
「では、解散です」
各インストラクターからの説明が終わり、生徒たちが思い思いの方へと散っていく。波音の担当する女性たちは、普段の競泳用水着ではなく、各々が気合いの入ったファッション水着を準備していた。
波音も、いつもとは違って花柄のビキニにしたのだが、海水浴場でそれを皆に見せるのが恥ずかしく、上からジャージを着用して隠している。
「姫野先生」
「はい! あ……深水先生」
しばらくの間、生徒たちのはしゃぐ様子をパラソルの下で微笑ましく見ていたら、大和が話しかけてきた。職場では、便宜上、敬称をつけて互いに呼んでいる。二人の関係を周囲に知られると、後々面倒だからだ。
「今年も無事に終わるといいね。合宿」
「そうですね」
大和は、波音に何かを話したいようだ。生徒たちを見守るようにして、ごく自然に波音の隣に座った。今すぐにでも、大和に接触したいという女性たちがたくさんいるだろうに。
気後れした波音は、ほんの少しだけ、大和から距離を取った。
「碧の命日、今年も墓参り行くでしょ?」
「……うん」
「波音はまだ……碧のことが好きなの?」
「大和兄ちゃん、それ聞くの何回目? それに、今は仕事中」
小声での、秘密の会話。幼馴染み同士の時間に、一瞬だけ戻る。そういった話は、仕事中ではなく、プライベートな時間にしてくれればいいものを、なぜこんな人目がある場所で波音に聞いてきたのか。
不思議に思いながら、波音は大和の顔を見た。
(え……)
なんと例えたらいいのか。寂しそうな、苦しそうな――それでいて、その双眸は熱をたたえて波音を見つめている。碧があのまま大人になっていたら、この顔にそっくりだったのだろう。
大和と碧の顔は、よく似ている。心臓がドクリと音を立て、波音はふと、顔を正面へと戻した。
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