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第4章:ふたりの想い、消えゆく笑顔
171話
しおりを挟むふと、視線を感じてバッグミラーを見ると、七瀬専属のドライバーの男と目が合った。
「……」
僅かに口端をあげながら、不敵な笑みを浮かべるドライバーの男に、龍司は無表情のまま睨みつける。
昔小さい時にも何度か会った事のある男。
月嶋財閥の七瀬専用の執事兼ドライバーを務める呉橋瞬は、昔から龍司に対して突っかかってきていた。
とはいっても、月嶋財閥の執事をやってあるだけあって、面と向かって失礼な態度を取ったり、暴言をはいたりということはなかった。
しかし、目が合えば人を殺しそうな程恐ろしい形相で睨まれるのだ。
当時はどうして睨まれなければいけないのか、理由が分からなかった。
自分の何が気にくわないのか。
執事如きになぜあんな風に睨まれなければいけないのか。
なにか言いたい事があるのならば、面と向かって言いにくればいいものを、それすらも出来ない。
ただの根性なしだ。
だから当時は、龍司も呉橋が好きではなかった。
だが、呉橋を見ていると龍司を睨む理由が少しずつ分かってきた。
龍司や家族に向ける表情と、七瀬に向ける表情が全然違うのだ。
最初は自分の雇い主だからそうなのかとも思ったが、敬意を抱いているだけの執事の顔つきじゃない。
呉橋が七瀬を見る時の表情は、好意を抱いている人に向ける表情だ。
そこでようやく分かった。
呉橋は、七瀬の事が好きなんだと。
龍司を睨む理由は、龍司に対する嫉妬心だ。
その後、龍司は七瀬に呉橋の事を聞いてみた。
すると七瀬は、なぜか嬉しそうに何でも話してくれた。
呉橋は、月嶋財閥専用の執事を生業とする家柄の長男だそうだ。
なんでも、龍司と知り合うずっと昔から一緒に生活をしてきたという。
いつからかは分からないが、俺の予想だと呉橋は昔からすでに七瀬の事が好きだったんだと思う。
でも七瀬と呉橋では立場や家柄が違う。
気持ちを伝えたくても簡単に伝えられる関係性じゃない。そんな中、急に現れた俺に七瀬を獲られてしまったことで、恨まれているのではないか…これが俺の推測だ。
(すでに婚約破棄をしているのに、よく分からない男だ……)
未だにバッグミラー越しに睨んでくる呉橋に、内心呆れながら視線を逸らした。
龍司と七瀬の婚約破棄は、月嶋財閥の執事をしているなら知っていてもおかしくはない。
今度はなにが気に入らないんだと考えれば、すぐにその答えは出た。
「…なるほど…。今回は依頼の内容が気に入らないという訳か…」
「え?…龍司様、何か仰いました?」
きょとんとした表情で七瀬が顔を覗き込んでくる。
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