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きっかけ
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俺とミエガさんしかいない教会の中で、俺は髭面爺さんの石像を眺めていた。
「神様ってのはこの人なんですよね」
「ええ」
髭面の爺さんはの顔は正面を向いているはずなのだが、目線が謎だ。
光の加減なのかは分からないが、俺達の事を見下ろしているようで、どこか明後日の方を見ているようにも思える。
俺には分からない何か特別な技術で作られていることだけはなんとなく理解できた。
「神はとても気まぐれでございます」
「え?」
「ユズル様は、神に祈りを捧げたことはございますか?」
「まあ、初詣とか葬式だとかでは。祈りってほど心を込めていたかは微妙ですけどね」
「何か、良いことはありましたか?」
「そうですねぇ。特には……無いですね」
むしろ就職失敗していたな。
毎年の賽銭返せと言いたい。
「大概はそのようなものでございます。神は願いを叶える存在では無いのですから」
ん?
どういうことだ?
さっきはミエガさんの願いを叶えてくれたとか言っていたような……。
「広義的にはそうも取れますが、私たちの考えですと、『神は気まぐれにきっかけをくださる』なんですよ」
「気まぐれにきっかけ」
「ええ。そのきっかけを活かすも殺すもそれは本人次第。そもそもそのきっかけをくださることすら稀ですが」
わかるようなわからんような。
「なんか難しい? のか? うーん」
「正直なところ、この石像もただ分かりやすくするための道具にすぎません。実際に神を見たものはいないので。少なくとも私は見たことがありません」
「…………ごめんなさい。やっぱりよくわからないです」
「大丈夫でございますよ。神の概念は人それぞれ。いないと考える人にとっては神は存在しませんし、そういった方々にはまた別の何かがあります」
とりあえず、妙な宗派であることは理解できた。
「私にとっては神が与えてくださったきっかけが、ユズル様であるということでございます」
俺がきっかけねー。
待てよ?
じゃあ俺を活かすも殺すもミエガさん次第ってことか?
そんな考えが浮かんだ途端。
隣で優しげに微笑むミエガさんが何故か少し怖くなった。
*****
「さ、口を開けてくださいませっ」
現在俺はミエガさんの手でミートボールを食べさせてもらっている。
もう身体は元気なのだが、赤くなった翠眼に見つめられては断れなかった。
ミートボールを食べ終え、哺乳瓶で水を飲ませてもらっている時にふと思う。
哺乳瓶を認めていいものだろうか。
考えてみると、あの時は仕方なしに哺乳瓶で飲ませてもらったが、もう断って良いのではなかろうか。
「ミエガさん」
「なんでございましょう?」
「哺乳瓶じゃなくて普通のコップ、せめてストローとかってあります?」
「そうですか。では次からはコップを持って参りますね」
おやあっさり。
「ありがとうございます」
「ただ、そうなるとこのままの体勢では飲ませにくくなりますね。練習しないとっ」
んん?
「あの、ミエガさん? 水くらい自分で飲みめません是非飲ませてください」
だいぶ彼女の機嫌を悟ることが出来る様になってきた気がする。
「そうでございますかっ。やはり私がお手伝いさせていただきますねっ」
とっても嬉しそうなご様子で、ミエガさんは食器類を片付けに行った。
「ふぅ」
息を吐きながらベッドに寝転ぶ。
天井を見ながら顔を触って、そこで髭があまり伸びていないことに気がついた。
そういえばさっき懺悔室で、髭だとか髪だとか切ったって言ってたな……はっ!
確かに切ってくれてた!
それに身体を拭いたりしていた!
この一ヶ月間の記憶がだんだんと復活していくのがわかる。
凄く気持ちが悪い……。
思い出すという行為を、さっきまで身体が拒否していたのだろう。
だが色々と思い出してきた。
なんかもう世話になりっぱなしどころじゃなかった。
恥ずかしすぎるっ!!
「あの……どうかなさいましたか?」
「あ」
悶え苦しんでいるとミエガさんが帰ってきていた。
「もももしかしてご病気が悪化を!?」
「違いますよ! ただ羞恥に悶えていただけです!」
「羞恥……? 何か恥ずかしがることがおありに?」
「…………まあ……色々と……」
「そうでございましたか」
それにしても、ミエガさんはキョトンとした顔も可愛らしいな。
なんとなくじーっと見つめていると、彼女も見返してくれる。
改めてよく見ると美人だよなあミエガさん。
目鼻立ちが尋常じゃなく整っている。
まつ毛も長いし、あ、今気がついたけど、まつ毛の色もちょっと白がかって見えるな。
それに翠眼なんて産まれて初めて見た。
天然なんだよな。カラコンなんて無さそうだし。そもそもする意味が無いか。
少し垂れ目気味の目尻や二重目蓋のおかげか、優しい性格が顔に出ているのかもしれない。
顔立ちってやっている行動が作るっていうし、きっとシスターっていうのはこういう顔になるのだろう。
今は被り物で覆われているが、銀の長髪だって……。
「ユズル様?」
「はッ?」
なんか飛んでた気がする。
「どうかなさいましたか? やはりまだ……」
「いや大丈夫ですって!」
「本当でございますか?」
「ええほんっとうに」
そうでございますか、と何故か少し落ち込み気味な返事が返ってきたが気にするのはやめておこう。
「そうでした。ユズル様。私、少し買い出しに行かなくてはなりせん」
「あ、じゃあ私も行きますよ」
「いえいえユズル様はゆっくりお休みくださいませ。大した荷物もありませんし」
そう言いながらミエガさんは俺の事をとてもとても力強くベッドに押し倒した。
「いいですか?」
「……はい」
ミエガさんはもう一度念押ししてから買い物に出かけて行った。
「神様ってのはこの人なんですよね」
「ええ」
髭面の爺さんはの顔は正面を向いているはずなのだが、目線が謎だ。
光の加減なのかは分からないが、俺達の事を見下ろしているようで、どこか明後日の方を見ているようにも思える。
俺には分からない何か特別な技術で作られていることだけはなんとなく理解できた。
「神はとても気まぐれでございます」
「え?」
「ユズル様は、神に祈りを捧げたことはございますか?」
「まあ、初詣とか葬式だとかでは。祈りってほど心を込めていたかは微妙ですけどね」
「何か、良いことはありましたか?」
「そうですねぇ。特には……無いですね」
むしろ就職失敗していたな。
毎年の賽銭返せと言いたい。
「大概はそのようなものでございます。神は願いを叶える存在では無いのですから」
ん?
どういうことだ?
さっきはミエガさんの願いを叶えてくれたとか言っていたような……。
「広義的にはそうも取れますが、私たちの考えですと、『神は気まぐれにきっかけをくださる』なんですよ」
「気まぐれにきっかけ」
「ええ。そのきっかけを活かすも殺すもそれは本人次第。そもそもそのきっかけをくださることすら稀ですが」
わかるようなわからんような。
「なんか難しい? のか? うーん」
「正直なところ、この石像もただ分かりやすくするための道具にすぎません。実際に神を見たものはいないので。少なくとも私は見たことがありません」
「…………ごめんなさい。やっぱりよくわからないです」
「大丈夫でございますよ。神の概念は人それぞれ。いないと考える人にとっては神は存在しませんし、そういった方々にはまた別の何かがあります」
とりあえず、妙な宗派であることは理解できた。
「私にとっては神が与えてくださったきっかけが、ユズル様であるということでございます」
俺がきっかけねー。
待てよ?
じゃあ俺を活かすも殺すもミエガさん次第ってことか?
そんな考えが浮かんだ途端。
隣で優しげに微笑むミエガさんが何故か少し怖くなった。
*****
「さ、口を開けてくださいませっ」
現在俺はミエガさんの手でミートボールを食べさせてもらっている。
もう身体は元気なのだが、赤くなった翠眼に見つめられては断れなかった。
ミートボールを食べ終え、哺乳瓶で水を飲ませてもらっている時にふと思う。
哺乳瓶を認めていいものだろうか。
考えてみると、あの時は仕方なしに哺乳瓶で飲ませてもらったが、もう断って良いのではなかろうか。
「ミエガさん」
「なんでございましょう?」
「哺乳瓶じゃなくて普通のコップ、せめてストローとかってあります?」
「そうですか。では次からはコップを持って参りますね」
おやあっさり。
「ありがとうございます」
「ただ、そうなるとこのままの体勢では飲ませにくくなりますね。練習しないとっ」
んん?
「あの、ミエガさん? 水くらい自分で飲みめません是非飲ませてください」
だいぶ彼女の機嫌を悟ることが出来る様になってきた気がする。
「そうでございますかっ。やはり私がお手伝いさせていただきますねっ」
とっても嬉しそうなご様子で、ミエガさんは食器類を片付けに行った。
「ふぅ」
息を吐きながらベッドに寝転ぶ。
天井を見ながら顔を触って、そこで髭があまり伸びていないことに気がついた。
そういえばさっき懺悔室で、髭だとか髪だとか切ったって言ってたな……はっ!
確かに切ってくれてた!
それに身体を拭いたりしていた!
この一ヶ月間の記憶がだんだんと復活していくのがわかる。
凄く気持ちが悪い……。
思い出すという行為を、さっきまで身体が拒否していたのだろう。
だが色々と思い出してきた。
なんかもう世話になりっぱなしどころじゃなかった。
恥ずかしすぎるっ!!
「あの……どうかなさいましたか?」
「あ」
悶え苦しんでいるとミエガさんが帰ってきていた。
「もももしかしてご病気が悪化を!?」
「違いますよ! ただ羞恥に悶えていただけです!」
「羞恥……? 何か恥ずかしがることがおありに?」
「…………まあ……色々と……」
「そうでございましたか」
それにしても、ミエガさんはキョトンとした顔も可愛らしいな。
なんとなくじーっと見つめていると、彼女も見返してくれる。
改めてよく見ると美人だよなあミエガさん。
目鼻立ちが尋常じゃなく整っている。
まつ毛も長いし、あ、今気がついたけど、まつ毛の色もちょっと白がかって見えるな。
それに翠眼なんて産まれて初めて見た。
天然なんだよな。カラコンなんて無さそうだし。そもそもする意味が無いか。
少し垂れ目気味の目尻や二重目蓋のおかげか、優しい性格が顔に出ているのかもしれない。
顔立ちってやっている行動が作るっていうし、きっとシスターっていうのはこういう顔になるのだろう。
今は被り物で覆われているが、銀の長髪だって……。
「ユズル様?」
「はッ?」
なんか飛んでた気がする。
「どうかなさいましたか? やはりまだ……」
「いや大丈夫ですって!」
「本当でございますか?」
「ええほんっとうに」
そうでございますか、と何故か少し落ち込み気味な返事が返ってきたが気にするのはやめておこう。
「そうでした。ユズル様。私、少し買い出しに行かなくてはなりせん」
「あ、じゃあ私も行きますよ」
「いえいえユズル様はゆっくりお休みくださいませ。大した荷物もありませんし」
そう言いながらミエガさんは俺の事をとてもとても力強くベッドに押し倒した。
「いいですか?」
「……はい」
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