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妙な感情、妙な気持ち
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ミエガさんが帰ってくるまでの間に、少し先ほどの事を整理しようとしたが、やはりどうにも頭がうまく動かない気がした。
ベッドから外を眺めているくらいしかやれそうな事はなく、だがそれすらも少し億劫になってくる。
考えたいような考えたくないような妙な気分に少し酔いそうになってきた頃、ミエガさんが戻ってきた。
木で出来た少し大きめのお椀の中身を見せながら教えてくれる。
「ユズル様。こちらは……あー……パンのスープでございます」
「パンのスープ?」
俺が思い浮かべるのはクルトンのようにパンが浮いているスープだ。
だが目の前にあるのは、茶色のドロドロした液体?のようなもの。
ミエガさんには悪いが、お世辞にも美味そうには見えなかった。
「お口に合うかはわからないのですが」
「い、いえ食べ……飲みま……す? とにかくいいただきますよ!」
そう言って腕を伸ばす俺。
「それは良かったのでございますっ」
そう言いながら俺の腕から椀を遠ざけるミエガさん。
「…………」
「…………」
無言の時間。
「あー……ミエガさん?」
「ユズル様。先程も言わせていただきましたが、ベッドから起き上がってはなりませんよ」
ミエガさんの笑顔は非常に優しいと思う。
思うのに何故だろう。
何故か少し怖かった。
「だだ大丈夫ですよ。このまま食べますので」
「それでは食べづらいでしょう」
「それはまあ」
「そうですよね? 食べづらいですよね? ね!?」
ミエガさんによる笑顔の圧力。
これはあれか。
あれなのか。
「で、では、あの、み、ミエガさん」
「はいなんでございましょうか?」
「た、食べさせて……も、らえ」
「喜んで!!」
俺は正解を引いたようだった。
口角ばか上がりでぶつぶつと何か呟きながらお椀の中身をサジですくう。
なんとなく右利きなんだなぁとか思いながら、眺めていると、そのサジを自分の口元まで持っていき……食べた。
「ってええ!?」
俺のじゃねえの!?
と、そのままミエガさんは持っていたお椀とサジを置いて、俺に覆い被さ
「待って! ちょっと待って! って力強いな!!」
「ん? んーーーー」
「んーーじゃないから! ちょほんとにストップ! ググググググ!!!」
凄まじい力で俺の両肩を押さえ込んでくるミエガさんの顔がドンドン近づいてくる。
触れるまで後数センチの距離。
ようやくミエガさんは離れてから口の中身を飲み込んだ。
「どうかなさいましたか?」
「なさったわ! なさりまくりだわ! 何したんだホントに!」
「食べにくいと思われますので、口移しで」
「なんで!?」
「ユズル様は病人ですので」
えーすっごい真面目な顔してるよこの人。
素で言ってるよ。
「あのですね、ミエガさん」
「ユズル様。先程のような口調でお話ししていただけますと私嬉しいのですが」
「話変えないでくれます!?」
「なんだかこう、非常に距離の近さを感じます」
「聞けよ!」
「あ、それでございます!」
ございますじゃないっての!
しかもまた食ってるし!
「ミエガさん! 出来ればというか本当にそれはやめてください」
「ん? にゃじぇでしょうみゃ?」
「飲み込んでください」
「んっ……。なぜでしょうか? こちらでしたら食べやすいと思うとですが」
「嫌だからです。せめてサジでください。それが無理なら自分で食べます」
「さようでございますか?」
なんでちょっと悲しそうなんだよ。
ミエガさんって感情は分かりやすいな。
思考は全くの謎だが。
ミエガさんはまた匙でスープを掬い、おずおずと俺の顔に近づけてくる。
独特の酸味混じりな香りはおそらく麦のソレだろうか。
「あむ」
「はわっ」
少しだけ覚悟を決めて口に含む。
ドロっとした液体が広がると、先程も感じた香りがまだ口から鼻に抜けていく。
食べ慣れていない味だからか、違和感はあるけれど、普通に飲み込む事ができた。
「美味しいです」
「あわわわわわわ……は! それはら良かったのでございます」
ミエガさんは頬を赤らめながらさっきみたいにまた口をニヨニヨさせている。
何をそんなに嬉しいのだろうか。
「どうぞー」
「あむ」
「はうっ」
また匙を口に入れてもらう。
「はわぅ」
入れてもらう。
「ふわぁ」
…………。
「はぅぁ」
「…………ミエガさん」
「はぁい? なんでございましょうかぁ?」
もはや隠す気もないくらいに顔が蕩けていた。
「あー……いえ。おかわりいただけますか?」
「どうぞぉ」
なんかもう諦めて、俺はスープを全て飲み終えるまで我慢する。
どうにもむず痒い気分だが、それが何故なのかは最後までわかることはなかった。
ベッドから外を眺めているくらいしかやれそうな事はなく、だがそれすらも少し億劫になってくる。
考えたいような考えたくないような妙な気分に少し酔いそうになってきた頃、ミエガさんが戻ってきた。
木で出来た少し大きめのお椀の中身を見せながら教えてくれる。
「ユズル様。こちらは……あー……パンのスープでございます」
「パンのスープ?」
俺が思い浮かべるのはクルトンのようにパンが浮いているスープだ。
だが目の前にあるのは、茶色のドロドロした液体?のようなもの。
ミエガさんには悪いが、お世辞にも美味そうには見えなかった。
「お口に合うかはわからないのですが」
「い、いえ食べ……飲みま……す? とにかくいいただきますよ!」
そう言って腕を伸ばす俺。
「それは良かったのでございますっ」
そう言いながら俺の腕から椀を遠ざけるミエガさん。
「…………」
「…………」
無言の時間。
「あー……ミエガさん?」
「ユズル様。先程も言わせていただきましたが、ベッドから起き上がってはなりませんよ」
ミエガさんの笑顔は非常に優しいと思う。
思うのに何故だろう。
何故か少し怖かった。
「だだ大丈夫ですよ。このまま食べますので」
「それでは食べづらいでしょう」
「それはまあ」
「そうですよね? 食べづらいですよね? ね!?」
ミエガさんによる笑顔の圧力。
これはあれか。
あれなのか。
「で、では、あの、み、ミエガさん」
「はいなんでございましょうか?」
「た、食べさせて……も、らえ」
「喜んで!!」
俺は正解を引いたようだった。
口角ばか上がりでぶつぶつと何か呟きながらお椀の中身をサジですくう。
なんとなく右利きなんだなぁとか思いながら、眺めていると、そのサジを自分の口元まで持っていき……食べた。
「ってええ!?」
俺のじゃねえの!?
と、そのままミエガさんは持っていたお椀とサジを置いて、俺に覆い被さ
「待って! ちょっと待って! って力強いな!!」
「ん? んーーーー」
「んーーじゃないから! ちょほんとにストップ! ググググググ!!!」
凄まじい力で俺の両肩を押さえ込んでくるミエガさんの顔がドンドン近づいてくる。
触れるまで後数センチの距離。
ようやくミエガさんは離れてから口の中身を飲み込んだ。
「どうかなさいましたか?」
「なさったわ! なさりまくりだわ! 何したんだホントに!」
「食べにくいと思われますので、口移しで」
「なんで!?」
「ユズル様は病人ですので」
えーすっごい真面目な顔してるよこの人。
素で言ってるよ。
「あのですね、ミエガさん」
「ユズル様。先程のような口調でお話ししていただけますと私嬉しいのですが」
「話変えないでくれます!?」
「なんだかこう、非常に距離の近さを感じます」
「聞けよ!」
「あ、それでございます!」
ございますじゃないっての!
しかもまた食ってるし!
「ミエガさん! 出来ればというか本当にそれはやめてください」
「ん? にゃじぇでしょうみゃ?」
「飲み込んでください」
「んっ……。なぜでしょうか? こちらでしたら食べやすいと思うとですが」
「嫌だからです。せめてサジでください。それが無理なら自分で食べます」
「さようでございますか?」
なんでちょっと悲しそうなんだよ。
ミエガさんって感情は分かりやすいな。
思考は全くの謎だが。
ミエガさんはまた匙でスープを掬い、おずおずと俺の顔に近づけてくる。
独特の酸味混じりな香りはおそらく麦のソレだろうか。
「あむ」
「はわっ」
少しだけ覚悟を決めて口に含む。
ドロっとした液体が広がると、先程も感じた香りがまだ口から鼻に抜けていく。
食べ慣れていない味だからか、違和感はあるけれど、普通に飲み込む事ができた。
「美味しいです」
「あわわわわわわ……は! それはら良かったのでございます」
ミエガさんは頬を赤らめながらさっきみたいにまた口をニヨニヨさせている。
何をそんなに嬉しいのだろうか。
「どうぞー」
「あむ」
「はうっ」
また匙を口に入れてもらう。
「はわぅ」
入れてもらう。
「ふわぁ」
…………。
「はぅぁ」
「…………ミエガさん」
「はぁい? なんでございましょうかぁ?」
もはや隠す気もないくらいに顔が蕩けていた。
「あー……いえ。おかわりいただけますか?」
「どうぞぉ」
なんかもう諦めて、俺はスープを全て飲み終えるまで我慢する。
どうにもむず痒い気分だが、それが何故なのかは最後までわかることはなかった。
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