吼える月Ⅰ~玄武の章~

奏多

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第5章 脆弱

 同じ顔の女のそれぞれ覚悟

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*※*※*※*※*※*※*※*※*

 赤い月の光に照らされて、女の嫋やかな白い裸体は男の上で揺れた。

『いいぞ、いいぞ、この女――。まるで生娘のように締め付けてくる!!』

 屈強な男の肉棒が、女の胎内を激しく掻き乱す。やがて肉棒がぶわりと質量を増し、女の胎内の奥めがけて、欲の濁流が勢いよく放たれた。

『どけ、交代だ!!』

 間髪入れずに別の男が女の尻を突き出させて、後ろから、どろりとした白濁液にまみれた女の蜜壷に、滾ったモノを突き入れる。

 ぐちゃぐちゃと、愛のない性交は、まるで動物の交尾のように。

『思わぬ拾いものだな。はぁはぁ……っ、どこの娼婦だよっ!! 女、顔の布を取れ』

 後ろからとられる、女の顔を覆っていた布。
 慣れぬ痛みを必死に堪えていた女は、その顔を男に向け、誘うような流し目で笑う。
 
『……おぉ……美人じゃないか。やべ、この顔だけで……イク……っ』
『ああ、もう待ちきれねぇ。口に咥えろ』
『俺は後ろだ』

 多くの兵士達に蹂躙され、穴という穴を塞がれ、それでも女は笑みを浮かべていた。
 それは快楽から出たものではなく、これからの未来を思ってだということに、兵士達は気づかない。

『女、一度きりでは惜しすぎる。お前の名前は……? どこに住んでいるんだ?』

 女は、生臭い肉棒を口から離して言った。

「言ったら……、お願いを聞いてくれる?」

 男達は魅入られたように頷いた。

「……私の名前はユウナ、黒陵の姫よ。私が気に入ったのなら、早く黒崙に迎えに来て。男に飢えて飢えて、体が疼いて仕方が無いの」

 女の指には、高価な黒水晶の指輪。

「どうせ五日後に捕まえにくるのなら、その前に白昼堂々捕まえにきて。こんな気味悪い月の下ではなく、お天道様の下で皆で輪姦してよ。沢山の兵士達と、思い切り楽しませてよ」

 兵士達はにやりと笑って頷くと、各々一斉に抽送を激しくさせ……、獣のように吼えながら、己の欲を吐き出した。

*※*※*※*※*※*※*※*※* 
 

■□━━━・・・・‥‥……

 シェンウ家の皆様、
 こんな形で消え去ること、お許し下さいませ。
 今までのご厚情、決して忘れません。
 そして大好きな貴方達を巻き込んだご無礼、お赦し下さい。
 貴方達がまっすぐで限りない愛に溢れているから、その愛であたしを護ってくれようとしたから、ようやくあたしも自分のすべきことを見つけました。
 今までサクをお借りしていて、ありがとうございました。
死にたいと思った中、サクだけは本当にあたしの救いでした。
 あたしは、これ以上サクを危険に巻き込みたくありません。
 サクが本当に幸せになれるところに、サクをお返しします。
 どうか、いつまでも幸せでいて下さい。

 ハン――。
 本当は大恩ある貴方には、手紙よりまず先に言おうと思っていたんだけれど、サクとずっとお話中だから、言わずに旅立つことにしました。

 あたしね……、貴方がサクの父親で、サラの夫で、黒陵国の武神将であること、心から誇りに思っているの。
 その貴方に、最後まで色々迷惑かけてしまい、ごめんなさい。
 貴方の片腕の代償は、必ずあたしがなんとかします。
 あたしのために、本当に本当にごめんなさい。
 そして、今まで温かく見守っていてくれてありがとう。
 今までお父様に仕えてくれていてありがとう。
 そして、長き遠征……、本当にお疲れ様でした。
 どうか、サクを、サラを、黒崙を、黒陵国の民を護って下さい。
 ハンは、あたしの大好きな、第二のお父様でした。
 いつまでも健やかに。

 サラ――。
 久しぶりに会ったのに、可愛くない態度でごめんなさい。
 せっかくの鶏粥、食べれなくてごめんなさい。
 色々お話して元気づけてくれようとしたのに、笑えなくてごめんなさい。
 せっかくお手伝いを任せて貰えたのに、役立たずでごめんなさい。
 サラはすごく若くて可愛らしい、あたしのお姉様のようでした。
 そしてハンとサクを護ろうとする勇ましさは、あたしの憧れとなり、これからの指針となりました。
 おいしい料理と、色々と気遣いありがとう。
 サクを生んでくれて、本当にありがとう。
 ハンといつまでも幸せにね。

 サク――。
 貴方に会えて本当によかった。
 貴方といれて本当に楽しかった。
 ユマと幸せにね。
 あたしと同じ顔だから、ユマは可愛いし……とは言いづらいけど、何でも良く出来てサクを一途に愛していて、ユマならあたし、サクを託せる。
 貴方の子供を見たかったわ。
 きっと、小さい頃のサクにそっくりなんでしょうね。
 サクだって、ハンにそっくりだったもの。
 それから、あたしの初めて作ったあの歪なおにぎり、食べてくれたんですってね、サラから聞きました。
 お腹、壊さないといいなぁ……。

 サク、本当に大好きだったよ。
 今まで、あたしを護ってくれてありがとう。
 あたしを生かしてくれてありがとう。
 本当に感謝しています、口には出せなかったけれど。
 だから今度は。
 サクが生かしてくれた「あたし」で、サクを護りたい。
 役立たずの姫だったけれど、生きている姫だからできることがある。
 姫だから貴方を自由にしてあげられる。
 それだけは、姫という身分に生まれついてよかったと思う。
 いつまで姫なのかわからないから、まだかろうじて姫と呼ばれる今、決断しました。

 サク、いつまでもお元気で。
 今度は自分の幸せを第一に考えて生きて下さい。
 護衛役だからとあたしに遠慮して、この先ユマを泣かせちゃだめだよ?
 サクが天邪鬼なの、あたし知っているんだからね?
 ユマを見る眼差し、正直ちょっと妬いちゃった。
 ずっとずっとユマの傍で、素直に愛してあげてね。
 お似合いだよ、サクとユマ。



 サク=シェンウ。
 汝の主、黒陵国の祠官の娘、ユウナの名において――
 今ここで、護衛役の任を解く。


                     ユウナ
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