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  Final Moon 10

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 朱羽は眼鏡を外し、顔を覆うようにした手を滑らせながら、その漆黒の前髪を掻き上げた。

 そして見えるのは、男の欲情を強く宿した茶色い瞳。

 女の本能を煽る、フェロモンに満ちたその切れ長の目で、ゆっくりと……誘うように唇が薄く開く。

 ぞくりとする。

 眼鏡という氷の鎧を外したその顔は、氷を溶かすかのように情熱に溢れ、あたしのすべてを魅惑する。

 身体中から男の艶を滲ませて、どこまでも彼は妖艶な男になる。

「抱きたい」

 朱羽がいないのが寂しかった。
 朱羽の温もりが欲しくて、何度も朱羽の腕時計にキスをした。

 その朱羽が目の前にいて、あたしを求めている――。

 身体の芯が熱を持つ。

 女のあたしが悦んでいる。
 身体の細胞が、彼の熱に溶けたいと打ち震える。

 朱羽の欲情した濃厚の匂いに頭がくらくらする。

 だが、なけなしの理性がストップをかけた。

「っ、ここ朱羽の実家だし……」

「そうらしいね、俺とっては他人の家だけれど」

 朱羽はシャツを脱いで上半身裸になる。

「と、隣は専務の部屋で」

 朱羽は艶然と笑い、脱いだシャツの胸ポケットから銀色の包みを指先で出して見せる。

「渉さんからねじ込まれた。これであなたと心と体をきっちりと繋げろって。あなたを愛することが、あなたへの恩返しだって」

 あたしの顔がカッと赤くなる。
 
「いや、でも誰が聞いているかわからないし……」

「いいよ、聞かれてても。まとわりついてきて気持ち悪いあいつらに、俺が抱くのはあなただけなんだと思い知らせてやりたい。俺がどんなに陽菜を愛して、陽菜がどんな声で悦んでいるのか」

 朱羽があたしに抱きつくようにしてあたしの隣に横臥して、あたしの双肩に両手を置く。

「いや……でも、まだなにも解決していないのに……」

「不安じゃない? 大役引き受けて」

 朱羽が切なそうな顔で訪ねてくる。

「不安がないとは言えないけど……」

「だから俺がいるだろ?」

 朱羽はあたしを抱き寄せた。
 朱羽の匂い――。

「意気込みすぎるあなたを安心させてやりたい。俺は傍にいるんだって。たとえうまくいかなくても、俺はあなたのものだ。あなたが思っている以上に俺が、ずっとあなたに浸透しているということをあなたに教えたい」

 視線が絡むと、唇が重なる。

 最初は軽く、次第に激しく。それでも朱羽のリズムは崩れない。

 絡まる舌。肩をまさぐる手。
 息苦しいほどの朱羽の激情に身体を熱くさせながら、着物の裾をはだけるようにして足が動く。

 ああ、このひとがここにいてくれれば、不安なことはない。
 そう思えど、朱羽を知ってしまったあたしには、これだけでは足りない。

 足りないよ、朱羽――。

「ん……。そんな顔でおねだりしないの。俺は抱きたいって言ってたんだよ? 拒んでいたのはあなただ」

 甘い声があたしを誘惑する。

「あなたのナカに挿れさせて?」

「……っ」

「あなたとひとつになりたいんだ。もうふたつに別れないように、溶け合いたい」

 ああ、この甘く囁く声にぞくぞくする。
 求められることに、秘部がきゅんきゅん疼く。

 朱羽が欲しい。

「俺を、あなたのナカに帰らせて」

 朱羽とひとつになりたい。

「ん……」

 頷こうとしたあたしの顔を持ち上げるようにして、再びねっとりとした舌が、あたしの口腔内に暴れた。

 あたしの弱いところを知り尽くしている朱羽の舌に翻弄されて、声が止まらない。

 気持ちいい。
 気持ちいいよ、朱羽とずっとこうしていたい。

 キスだけで熱く蕩ける身体は、朱羽を求めて濡れ、それを感じたのか、銀の糸を作りながら離れた朱羽の唇は、微かに笑いを作る。
 
「キスだけで濡れちゃった?」

「……っ」

 真っ赤になるあたしの頬に朱羽がキスをする。

「可愛い」

 再びちゅっとキスをされ、唇の表面と上下の唇の間を朱羽の舌が滑り、あたしの官能の波をさざめかせる。

 視線を絡ませあいながら、互いの舌が伸び、触れあった瞬間、強い快楽の刺激に声を上げるが、朱羽が舌をくねくねと動かしながら、逃げるあたしの舌を搦め取ってくる。ひどく悩ましい声を出してきて、もうたまらなく秘部から蜜が零れてしまう。

 ああ、今は駄目だと思うのに、止まらない。
 このひとと触れあっただけでもう駄目だ。

「陽菜」

 とろりとした瞳が優しく細められた。

「この先、俺の子供、産んでね」

「……っ」

「かなりたくさん産むことになるだろうけど、がんばって。俺、結婚したら、ゴム使わないで、直のあなたと繋がることに溺れそうな自信がある。ちゃんと環境を見てだけどね」

 朱羽の手が、帯の下を弄るようにして裾を割ってくる。

「だから今は、ゴムの厚さの分離れちゃうけど、我慢して」

 具体的に想像してしまい、一気に羞恥が強まる。

「やああっ」

 あたしは両手で顔を覆って真っ赤になった。

 ふっと笑った声が聞こえた直後、肩を弄っていた朱羽の手が襦袢ごとぐいと着物の襟を大きく開き、露わになった肩に熱い唇で吸い付いた。

「ちょ……ああ……」

 あたしの肩にかぶりつくようにして、何度も吸い付き、何度も舌を這わせられ、朱羽の真向かいに横臥したあたしが声を上げて仰け反った瞬間、あたしの腰の帯に朱羽の手がかかった。帯の結んでいるところを取ろうとしているのか、ひどく身体が揺れる。

「なかなか、取れないものだね。こう、かな?」

「駄目、朱羽、帯といちゃ駄目!」

「なんで? 帯の下のあなたの身体が見たい」

「帯の中に、体型補正のために色々なものが入ってるの! あたしそれやって貰ったから、自分で出来ない」

「俺がしてあげる」

「駄目、見られたくない。まだ着物で美幸夫人のところに行くから、駄目!」

「時代劇みたいに、しゅるしゅるしゅると帯ってとれないんだ……」

 朱羽がため息をつく。

「あたしも、"あ~れ~お殿様~"を想像していたけど、現実は紐やら発泡スチロールみたいのやらタオルが出てくるの。なんか恥ずかしくて」
 
 朱羽の手は帯を諦めるようにして、代わりにあたしの尻を撫で、

「そうなんだ」

 いやらしく、尻の間の溝を指で触ってくる。

「そうなの、だから……」

 秘部に触れられそうで触れられないその距離に、息を乱して言った。

「……そうか、だったらあなたを抱けないね……って、俺が諦めると思う? 陽菜」

 朱羽が艶笑し、さらに襟を両側に、帯の上……肘近くまでぐいと下げる。
 襦袢も同様に。

「やああ……っ」

 襦袢の下にはなにもつけていない。
 大きく襟を下げられて、朱羽に乳房を突き出す格好になったあたしは、羞恥に声を上げた。

 朱羽が下がり、帯の上でひっかかっているようなあたしの乳房を丹念に舐め始める。

「は、ああ……朱羽、駄目……」

 赤子が母乳を飲むように、朱羽は胸の頂きに貪りつき、ちゅくちゅくと唾液の音をたてながら、喘ぐような短い声を時折混ぜる。

 反対の手でもう片方の乳房を揉み込まれれば、あたしの目尻に生理的な涙が溜まった。

「はあはあ、朱、羽、駄目ったら……」

 駄目だと言っているのに、あたしの手は朱羽の頭を抱えて、喘ぎ始めてしまう。
 何度も朱羽に愛されたあたしの身体は、朱羽の愛撫に敏感に反応して、もっと先を求めてしまう。

「朱羽、朱羽、んん、んぅぅ……」

 身体を揺らしながらも、朱羽の直の肌の熱に触れれば、全身の皮膚が甘く疼いてじんじんと激しい愛撫を望んでしまう。

 あちこちが疼いてたまらない。

 朱羽の片手が裾を割り、僅かに開いた太股を、大きく何度も焦らすように撫で上げてくる。

 やがて裾が大きく乱れ、朱羽の指先が太股の深層へと伸びた。

「下、穿いてるの?」

「うん。だから……」

 ショーツから手をどかせようとしたあたしの手は、朱羽に払われた。

「陽菜、これなに?」

 くちゅくちゅと粘着質のいやらしい音が響き、気持ちよさが鋭利なものとなる。

「朱羽、それは駄目、朱羽、あああんっ」

 あたしは和装用の股割れタイプのものを穿いていた。

 つまり股間を覆い隠しているその布は両側に開いて、トイレに行くは便利ではあるが、いやらしいことをして下さいと言っているような下着でもある。

 剥き出しの蜜に濡れた秘部を、朱羽の技巧的な指で撫でられ擦られ、与えられる快楽と、朱羽に触って貰っているという現実に、あたしは髪を振り乱しながら、朱羽の名を呼び喘いだ。

 たまらなく切なくなった。

 そんなあたしの姿を、朱羽はその透き通るような茶色い瞳でじっと見ている。

 見ていると思うだけで感度が上がる。

 名取川文乃から借りた……朱羽を助けるための着物を、こんなに淫らにさせながら、愛する男に愛撫されている――。

 朱羽の指が気持ちいいと、もっと朱羽にぎゅっとされて熱を感じてイキたいと、そう思いながら快楽に悶えるあたしを見抜かれたくなくて。

「見ないで、朱羽、見ないでっ」

 そう言いながら、自分で朱羽の目から逃れられないあたしに、

「もっと俺に見せて、あなたの女の顔」
 
 止めを刺すかのように、潤った蜜壷に入り込んだ中指は、膣壁を擦るように何度もぐるりぐるりと回り、やがていやらしい飛沫の音をたてて激しく抜き差しされていく。
 
「ああああんっ、ああ、あああっ」

 仰け反る乳房の頂きに朱羽が吸い付いた。

 あたしに傅(かしず)くような格好で、舌で蕾を揺らすいやらしいことをしていながらも、あたしを捕囚の身の上にしようとする支配者の顔で、あたしを見つめる朱羽は、筋肉のついたその腕を揺らしながら、あたしの花園の奥を擦り続ける。

 いつの間にかはしたなく足が開かれていることに気づくこともなく、足袋をはいた足先が、快楽にわなわなと震えていることに気づくことなく。

 朱羽のその背中の筋肉の隆起を手のひらで触っただけで、朱羽の男を感じたあたしの身体は、さらに新たな官能の波を感じてぶるぶると震え、あたしは身悶える。

 そんなあたしを切なそうに見ていた朱羽が、蜜壷を激しく指で抜き差ししながら、目がチカチカさせながら啼くあたしの唇を塞いでくる。

 びくびくと身体を震わせながら、朱羽の熱を感じる幸せに、涙が出てくる。

 男の顔をしてあたしに口づける朱羽を離したくない。

 あたしだけの男だ。

 震える両手で朱羽の頭を包み込み、あたしの好きを伝える。

 朱羽だからこそ感じている女のあたしを、もっと感じて。
 朱羽の男をもっと感じたくて、ひとつになりたいと波立つあたしの身体を感じて。

「イク、イっちゃ……ああああっ」

 片足を朱羽の身体になすりつけるように持ち上げながら、朱羽の胸に頬を寄せながら果てを迎えた。

 はぁはぁと苦しい息を整えているあたしのの頬を、人差し指でつんと突いた朱羽は、苦笑した。

「どこまでエロくなるの」

「……っ、朱羽、だから……」

「俺だとなに?」

 朱羽があたしを抱きしめるようにして、耳元で甘く囁く。

「朱羽に触られたら……えっちになるの。朱羽だけなの……」

 ちゅっとキスが唇に降った。

「なんで俺だとえっちになるの?」

 朱羽の声を聞いているだけなのに、身体が疼く。

「……っ」

 朱羽はあたしの頬に絡んだ黒髪を耳にかけてくれる。

「どうして?」

「好きだから。触られるとたまらないの」

 今度はあたしからキスをした。

「朱羽が好きなの。えっちは駄目? 嫌われる?」

 すると今度は朱羽からキス。
 
「好きだよ。俺の腕の中であなたが女になる瞬間、また俺はあなたを好きになってる。いいよ、もっとえっちになって。俺がいないといけない身体になれよ」

「ん……」

「俺みたいに、陽菜にしか感じないようになって?」

 ピリと、なにかが破られる音がする。

「あたしに、感じてるの?」

「ああ」

「もっと感じて? あたしだけの男でいて」

 そう言った途端、俯せにされて背中に朱羽を感じた。
 
 背中に朱羽の熱い唇が押し当てられる。 

「あなたのナカで、俺を男にして」

 そして腰が持ち上げられ、疼いてたまらない場所に、朱羽の欲の楔が打ち込まれた。

「ん……」

 耳に聞こえる朱羽の声に、繋がっているところがきゅんきゅんしてくる。
 朱羽とひとつになっていることを実感すると、感動がとまらない。

「こ……ら。もっとナカにいれてよ。追い出さないで」

 悪戯っ子を叱るように笑いながら、朱羽の質量あるものが根元まで胎内に押し込まれ、その息苦しさに浅い息をした。

「は……気持ち、いい……。あなたと繋がれて……幸せ……」

 朱羽はあたしを抱きしめながら、陶酔したような声を出した。

 あたしのお腹でドクドクと朱羽が息をしているようだ。
 赤ちゃんを育てている錯覚に陥り、愛おしさが増してくる。

「陽菜、こっち見て。ん……」

 頭を捻り唇を重ね合わせた瞬間、朱羽はゆっくりと動き出し、大きなそれであたしのナカの壁を大きく擦り上げてくる。

 擦り合う度に、ゾクゾクとした強烈な快感が止まらない。

「ああんっ、気持ちいい。朱羽、ああ、あああ……っ」

「はっ、は……陽菜、好きだよ。好き、だっ」

 朱羽はあたしを抱きしめたまま、苦しげな声をあたしの耳元で囁きながら、抽送を大きくさせる。

「ああああ……っ」

 目まぐるしい快感が、あたしの身体の芯から広がってくる。
 
 好きなひとと繋がれたこの感覚は、この上なく至悦。
 心も気持ちがいい。 

「朱羽……」

「いるよ、ん……っ」

「あああ、朱羽っ」

「どこまでも、いるよっ、あなたの隣に」

「居てね、ずっと、一緒だよ?」

 果てに向かって声も息も荒くなる。

「ああ。俺の……お嫁さんになってね。俺を幸せにして」

「うん、うん。朱羽のお嫁さんになる。朱羽の赤ちゃん産む」

 絡み合う舌。


「陽菜、陽菜っ」

「ああああっ、朱羽、朱羽――っ」


 朱羽の汗と共に濃厚さを増した彼の匂いに包まれながら、果ての到来は口づけをして同時に迎えた。

 朱羽が苦しげな顔をして、あたしに抱きついて、欲の塊をあたしから引き抜いた。

 それを見て、あたしは無性に泣きたい気分になった。

 ずっと朱羽と繋がっていたい――。
 朱羽が好きでたまらない。

「朱羽、凄く好き……。どうしよう、好きで好きで胸が張り裂けそう」
 
 朱羽は笑ってあたしを抱きしめながら、頭を撫でてくれた。

「もっと俺を好きになって? 俺も……いつもそうだよ。泣きたくなるほど、陽菜がもっと好きになる。触れなければ寂しくて仕方がないのに、触れたら好きでたまらなくなって寂しく思うこともある。陽菜をこうして俺の腕に閉じ込めれたらと思うよ」

「いいよ、閉じ込めて」

「……早く、あなたと結婚出来るように頑張る。もう俺は、あなたを恋人と呼ぶだけでは満足できなくなってしまった。……あなたを、俺の妻として俺の腕の中に閉じ込めるから」

「ん……」

 あたしは嬉しくなって、涙を見せまいと朱羽に抱きついた。


 ……頑張ろう。当主にわかって貰うために。

 
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