上 下
70 / 84
試食会の時に起きた出来事は

2

しおりを挟む
「ああ、私も聞いたよ。それ」
 私もそれを言ったエリナの姿を思い出し、少し切なくなった。
「ああ、それからあの時フル先も顔を出したんだよね」
「フル先が?」
 ああ、そういえば隣の理科準備室にいたっていってたっけ。
「うん。家政科室の扉、誰でも入れるように扉あけ放ってたの。で、トイレ行くときに前通ったのを香が気づいて声かけたのよ」
 部屋の並びとしては一番奥が理科室、隣が理科準備室、そして家政科室という並びだ。
 みんな扉に一番近いテーブルに陣取っていたので前に人が通れば気づいて当然だ。
「そっか……」
 私は一瞬【楽しそうで何よりだね】と言いかけてその言葉を呑み込んだ。今日のフル先の事を考えればそんな言葉は相応しくない事にきづいたからだ。
「で、みんな十七時二十分くらいまでいたんだって?」
「まあ、みんなっていうか、私と香にしょう子が最期まで片付けで残った感じ。で、全部終わったから一応フル先に声かけようと想って準備室覗いたら、何か電話かけてたんだよね」
「ああ、私もそんな話聞いたな」
 十七時から熊谷先生と電話で話をしていたんだっけ。
「うん。だから声はかけずにそのまま帰ったの」
「なるほどね、因みにエリナはその時にはいなかったんだよね」
「勿論、とっくに出て行ってたよ」
 時間的には転落の直前という事になるか。既に屋上にいた可能性が高いかな。
「因みに出てった時どこに向かったかとかは知らない?」
「うん。聞かなかった。けど……」
「なに? なんかしってるの?」
「ひょっとしたら理科準備室に寄ってるかも?」
「理科準備室って、フル先の所?」
「うん。扉を左に出ていったのを見たんだよね。あっちは理科室と準備室以外どん突きだし」
 確かに、他の場所にいくなら右へ折れるはずだ。
「もし理科準備室に行ったとしてどれくらいの時間かは分かる?」
「いや、わからないな。ずっと見てた訳じゃないからね」
「そっか。それって、フル先がこっちに来る前じゃないんだよね。呼びに行ったとか……」
「違う違う。後だったよ」
「そっか……。うん、それって警察に話した?」
 この間理科準備室で話を聞いた時はそんな話してなかった筈だ。エリナの事は家政科室に居るのを遠目に見たとしかいってなかった……。
「うんん……今思い出したから言ってないけど。言った方が良いかな」
「今から言いに言ったらまた時間取られるんじゃない? 私がついでにいっとくよ。もう今日は帰っちゃいなよ」
「わかった。ありがとう」
「いや。こっちこそ引き留めてごめんね」
 想えば今日彼女は二人の教師の死体を見てしまっている。相当な心労があった筈だ。それにも関わらず長々と話をしてしまった。何だか申し訳なく感じる。
「ううん。何か頭がごちゃごちゃしてたからさ、警察に話きかれただけで終わってたらもやもやしっぱなしだったと想う。こっちこそトーコと話せてよかったよ。じゃあ、今日は帰る。またね」
「うん、気を付けて」
 言ったと同時に、ガラガラガラと扉が鳴る。見るとそこには今日何度か見た光景。スーツ姿の男性がこちらに向かって話しかけてくる。
「東雲塔子さんですね。お待たせしました、こちらへどうぞ」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ヨハネの傲慢(上) 神の処刑

真波馨
ミステリー
K県立浜市で市議会議員の連続失踪事件が発生し、県警察本部は市議会から極秘依頼を受けて議員たちの護衛を任される。公安課に所属する新宮時也もその一端を担うことになった。謎めいた失踪が、やがて汚職事件や殺人へ発展するとは知る由もなく——。

おむつオナニーやりかた

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
おむつオナニーのやりかたです

春の残骸

葛原そしお
ミステリー
 赤星杏奈。彼女と出会ったのは、私──西塚小夜子──が中学生の時だった。彼女は学年一の秀才、優等生で、誰よりも美しかった。最後に彼女を見たのは十年前、高校一年生の時。それ以来、彼女と会うことはなく、彼女のことを思い出すこともなくなっていった。  しかし偶然地元に帰省した際、彼女の近況を知ることとなる。精神を病み、実家に引きこもっているとのこと。そこで私は見る影もなくなった現在の彼女と再会し、悲惨な状況に身を置く彼女を引き取ることに決める。  共同生活を始めて一ヶ月、落ち着いてきたころ、私は奇妙な夢を見た。それは過去の、中学二年の始業式の夢で、当時の彼女が現れた。私は思わず彼女に告白してしまった。それはただの夢だと思っていたが、本来知らないはずの彼女のアドレスや、身に覚えのない記憶が私の中にあった。  あの夢は私が忘れていた記憶なのか。あるいは夢の中の行動が過去を変え、現実を改変するのか。そしてなぜこんな夢を見るのか、現象が起きたのか。そしてこの現象に、私の死が関わっているらしい。  私はその謎を解くことに興味はない。ただ彼女を、杏奈を救うために、この現象を利用することに決めた。

暗闇の中の囁き

葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?

処理中です...