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静寂と狂乱が渦巻く教室では

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「へえ。どんな感じのなん?」
 香が興味深げに尋ねた。
「んっと、そうだな。例えば……」言って彼女はスマホを取り出すと「こんなんとかあるよ」差し出してくる。
「へえ、これ仏花なんだ。何かイメージと違う」
 そこにはドーム状の透明な器の中に飾られた花が映し出されていた。かなりの種類があるらしい。
「確かに、可愛くて華やかだね。最近ではこういうのが多いの?」
「人によりけりだね。頼まれればウチでもアレンジメントを受けたりするよ」
 普段、彼女はひなグループ以外とお喋りする印象がない。でも、今この瞬間だけは彼女の専門領域の為、口数が多くなっている印象だ。そんな彼女に香が尋ねる。
「それって本宿さんもやってるの?」
「うん。私もお店に出てる時に何度かやったことはあるよ」
「へえ、凄いね。フラワーアレンジメントとかできるんだ。じゃあ、本宿さんに造ってもらおうよ」
 こういう時に香の積極性はありがたい。クラス委員の私も熊谷君もどちらかというと慎重派だ。そこへ行くと彼女はアイディア出しや提案など必要な時に声を上げてくれる。私も賛成だったので本宿さんに続けて言った。
「それはいいね。良かったらお願いできるかな」
「わ、私が? いいのかな」
 お花の事については堂々と説明していた彼女だが途端にあたふたしてしまった様だ。だからこそ、今度は私が後押しするつもりで言葉をかける。
「エリナもさ、やっぱり知っている人の手が入った物の方が嬉しい筈だよ」
 実際死んだ人間がどう想ってくれるかなんて分からない。でも、遺された者がそれをどう捉えるか。彼女の死をどう悼むか自分達で考えて実行したいと想った。その為にも本宿さんがやってくるのが相応しい気がする。
「わ、私でも……。かな」
「勿論だよ。お願いするね」
未だ躊躇を見せる彼女に対して私は多少強引に迫ってしまう。彼女が躊躇するのも分かる。エリナと揉めていた日奈達のグループの一人だ。
 そして当の日奈や麻衣は先ほども少し教室内の空気を悪くしたりしていた。でも、だからこそ、この空気を変えるきっかけが欲しい。その為に日奈グループに居た彼女に参加してもらうのは意味がある気がする。
 私の気持ちが伝わったのか、クラスメイト達(日奈や麻衣も含めて)異存はない様だった。
「わかった……。じゃあ、ある程度予算組みしてお花を選ぶってことでいい? 四千円から六千円くらいかな」
「オッケー、それなら皆二百円くらい出せば十分だよね。決まったら私が取りにいって持って行くよ」
 そんなやり取りが終わり話も一区切りしたということもあって、居残り組み以外は皆、三々五々散っていく。
 後に残ったのは私と日奈、まいを含めて五人。残りの二人は真田元気君と調理部部長ありさだった。
 暫くすると警察の人がありさと元気君に声を掛けにきた。そして言われるがままに二人は教室を出て行く。
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