上 下
24 / 84
私から彼女達に話した内容は

6

しおりを挟む
「ど、どういう意味ですか?」
「文字通りの意味よ」
 私は思いもよらない言葉に混乱して聞き返した。でも、それに比べて滝田さんの顔は酷薄さすら感じとれるほどの平静なものだった。
「で、でも。転落したのはエリナですよ。それともあれが彼女ではない可能性があるってことですか」
 自分で言いながら何だか馬鹿みたいな物言いだなと思う。それが事実であることは私を誰よりも知っている。この目で見たのだから間違いないのだ。
「いいえ。彼女のご遺体は沢山の人が目にしているわ。それに熊谷しおり先生にも確認して頂いたの。間違いないということだったわ」
 万が一、見た目がそっくりで別の人間だったとしても、古くからの付き合いがある熊谷姉弟が気づかない訳がない。
「じゃあ、何で彼女が殺したいと思っていた相手がいたかなんて話になるんですか」
「まあ、落ち着いてよ。こちらとしても色々な可能性を考えたいの」
「正直言えば、彼女が自分で飛び降りたということは未だに信じられません」
 来月の文化祭に参加したいと言っていた。それにそうだ。彼女は『また、来週ね』とも言って出て行った。という事は来週もまたこの教室に登校するつもりがあったという事だ。その彼女がその直後飛び降りた。そんなの有り得ない。……でも、かといって。
「彼女が誰かを殺そうなんて事を考えていたとはとても思えません」
「それはどうしてそう思うの? 彼女の様な【良い人】が人を殺すなんて信じたくないとかそういう印象の話なのかな」
「いえ、違います」
 キッパリと私は首を振る。
 彼女が良い人だったか悪い人だったかと言えば私にとっては良い人だったと断言できる。クラスの中でも大多数が彼女を良い人だと思っていただろう。秋田日奈だって入学してすぐに彼女が良い人だと思ったのだろう。
 だから彼女を利用してクラスでのし上がろうと画策した。でも、彼女はひなが思う程与しやすい相手じゃなかった。
 日奈のグループと揉めた時、日奈達は彼女をハブにしようとしたしていた節もある。それは失敗したがもしそれが成功しても彼女は恐らく気にしなかっただろう。
 彼女は周りに流されている様に見せて自分をしっかりと持っていた。彼女の周りには常に人がいた。でも、そんな中で彼女は特定の一人と誰とも仲良くしたりつるんだりはしていなかった。幼馴染の優斗くんとすらフラットに見えた。誰かと接する時にも常に薄皮一枚くらい隙間を常に作って相対していた。
 でもそんな独特の空気、絶妙の距離を含めた彼女との関係性が私は好きだったのだ。恐らく秋田日奈の件以来クラスの中で言えば私が一番彼女と近い距離にいたと想う。でもだからこそ、彼女と友達かと聞かれると私はノーと答える。それは彼女が求めている関係性と違うものだと直感するから。
「中々面白いお話ね」
 非常に微妙な内容で上手く言葉で説明できてるかも分からない私の話を滝田さんは興味深そうに聞こえた。
「でも、だからこそ想うんです。彼女はこのクラスの誰とでも距離を置いていた。逆に言うと彼女が殺意を抱く程。それだけ感情の揺れを作り出す様な関係性を築ける相手が知っている限りではいません」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

特殊捜査官・天城宿禰の事件簿~乙女の告発

斑鳩陽菜
ミステリー
 K県警捜査一課特殊捜査室――、そこにたった一人だけ特殊捜査官の肩書をもつ男、天城宿禰が在籍している。  遺留品や現場にある物が残留思念を読み取り、犯人を導くという。  そんな県警管轄内で、美術評論家が何者かに殺害された。  遺体の周りには、大量のガラス片が飛散。  臨場した天城は、さっそく残留思念を読み取るのだが――。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は十五年ぶりに栃木県日光市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 俺の脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

声の響く洋館

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。 彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【連作短編集】東雲塔子の事件簿

山井縫
ミステリー
女子校生、東雲塔子が身の回りに起きる謎に挑む連作短編集。 拙作「あかね色に染まる校舎に舞い落ちた君は」と同じ世界観を共有した作品です。

処理中です...