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百鬼夜荘の住人達

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 その口調や振る舞いが果たして本当にお嬢様の振る舞いなのかも怪しいものだが、何とかして自分を変えようと努力していることは見て取れた。

 しかし、そんな上機嫌の妹に対して修二の冷たい言葉が突き刺さる

「ふん、そんなのいつまで続くもんか。後で泣き見る前にやめといたほうじゃいいんじゃないか」

「な、なんですの?さっきから。あなたこそ私や康太お兄様を見習ってはどう?」

「ふん。生憎オレは好きに生きるのが信条でね。自由でいることこそ価値があるんだよ。自分を型にはめて窮屈な思いをするなんてごめんだよ」

「別に窮屈なんて思いませんわ。これは私の自由意志よ」

「へっ。どうせ兄貴の女から余計なこと吹き込まれたんだろう」

 兄貴の女とは康太の婚約者、畑名恵の事だ。小規模ながらチェーン展開している飲食店を経営している会社の社長令嬢だが、それを鼻にかけず美奈穂を可愛がってくれた。
 恵は聖蘭女子学園の卒業生でありそのことが美奈穂の進路選択に影響を及ぼしたのは間違いない。

「兄貴の女なんて下品な言い方やめてくださる?恵さんとお呼びなさいよ」

 修二は恵を良く思っていなかった。なんとなく馬があわない。それは恵側の問題ではない。ただ、人間界でちゃらんぽらんに生きている妖怪の自分と、彼女の立ち居振る舞いの余りの差に会うと居心地が悪くなるのだ。

 「あの女って言って何が悪いんだよ。兄貴もお前も毒されやがって。俺らは鎌鼬、妖怪だぜ。人間に媚びて生きるなんて情けない!」

 「人間の子供に媚びて五千円せびった癖によくいうよ」あゆみはジト目になり脇からつっこっみを入れた。

 「あゆみちゃん、ちょっと黙っててよ」妹以外には強く出れず、修二の口調が弱弱しくなった。そこへ畳かけるように美奈穂が続けた、

 「全く、情けないわね。あきなさんとあゆみお兄様の借金。康太お兄様に立て替えるように伝えましょうか」

 あきなは、なんであゆみやひみかにはお兄様お姉さまでわたしはさんなのかと思わないでもなかった、

(私もお姉さまって呼んでくれないもんかしら)

しかし今はそれを口にする状況でもないと思いこういった。

 「いや、それは大丈夫。何なら私があゆみの分立て替えてもいいよ。それできっちり取り立てるから。康ちゃんが立て替えたらそれっきりになるでしょ」

 その話はなんとかごまかして先延ばしにした筈なのに、またその話になるのかと修二は焦りつつ問う。

 「き、きっちりって、どうするの?」

 「返すまで利子つけてもらうよ。で、これから絶対に。いくら困ってても貸さないからね」

 「そ、そんな」あきなの厳しい言葉にわざとらしく哀れっぽい声を出して俯く修二。

 「それがよろしいかと思います。皆さんもこんなのにお金貸すのはお止めなさい。溝に捨てた方がましですわ」そんな兄の姿を汚いものをみるように一瞥。

 そこで修二、よせばいいのに最後の反撃にでた。

 「何を!ふん、兄貴が出すお前の学費も無駄になるから、行くのやめた方がいいんじゃないのか」

 「な、なんですって」

 「お前に使う金も無駄金になるって言ったんだよ」それは美奈穂にとっては鎌鼬の鎌のように鋭い刃となって突き刺さる。言われた美奈穂はすうっと無表情になった後、静かにその言葉を吐き出した。

 「……黙れ」それは極寒地獄から響くかのように冷たく響く。
  
 「あん?なんだよ」

 修二も一瞬言い過ぎたかと思ったが引っ込みがつかず、更に挑発するように言った。
 

 「黙れっていったんだよ!!」
 
 美奈穂は離れて暮らしながらも自分の面倒を見てくれている康太も恵のことも大好きだった。
 
 昨日も康太の家に遊びに行き、恵とも話をした。
 修二の言う通り彼女の言葉に影響されたのは否定できない。
恵が通っていた学校に行くことで彼女のようになりたいと思ったし、安くない学費を援助してくれるという康太の想いに報いたいという想いもある。だから、こそ変わろうと決意したのだ。

 それを否定するようにぶつけられた修二の言葉。
 その余りの物言いに堪忍袋の緒が切れたのだろう、
 「い・い・か・げ・ん・に・し・ろ」それまでの優雅さをかなぐり捨てて吠えた。

 そして猛然と修二に襲い掛かり、首を締めあげる。
 
 修二はその状態のままなんとか平静を保ようと声を上げた。
 「く、苦しい。ほ、ほら言わんこっちゃない。やっぱり地金がでた、言ったとおりだ……」

「……………………」

 美奈穂は手は緩めずに無言で睨みつける。逆にそれが怖い。

 流石に修二も耐え切れなくなったとみて、

 「ちょっちょっと、美奈穂、く、苦しいよ。洒落にならないって、わかった。俺が言い過ぎたよ。くっああああ……」叫び声をあげたかと思うと白目をむき、そこに倒れ伏した。

 途端にドロンっと煙が巻き起こる。 その煙が晴れた後に現れたのは白く手が鎌のようになっている鼬の姿。修二の鎌鼬としての本性だった。
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