上 下
5 / 59

5話 対面 2

しおりを挟む
 シグレ・クエイルン第五王子殿下と私は対面のソファに座っていた。王子殿下が上座で私は扉に近い下座。

 ルック兄さまやドレーク兄さまは、私の後ろに立っている。


「ドレーク副団長。彼女との対話の時間を設けていただいたことに感謝するぞ」

「勿体ないお言葉でございます、王子殿下。我が妹との対話を望まれていらっしゃったわけですにで、私の選択肢は1つしかございませんでした」

「うむ、そう言ってもらえて何よりだ」


 ドレーク兄さまとシグレ王子殿下との会話を聞く限り、私とシグレ王子殿下との対話は、シグレ王子殿下の方から望まれたことなの? それってつまり……そういうことよね? まあ、最初から私のことが気に入っていたと言われていたけれど。


「急に呼び出したことは済まなった、レミーラ嬢。改めて礼を言わせてもらいたい」

「いえ、王子殿下からのお呼び出しでございましたので、すぐに向かった次第でございます」

「ふむ、そうだったか。私の為に来てくれたと考えると、非常に嬉しいな」

 シグレ様は長髪を後ろで束ねている格好をされている。服装は正装を少し着崩しているけど、全体的に黒い衣装だった。少し話してみて感じた印象は……ちょうど、ドレーク兄さまとルック兄さまの間くらいの気概をお持ちの方のような気がする。

 ドレーク兄さまは騎士団の副団長をされているだけあって、話し方も雰囲気もとても怖そうに見える。ルック兄さまはどちらかというと賢人に該当する。

 彼ら二人の雰囲気と比べると、シグレ王子殿下は本当に真ん中……確か、武人としても賢人としても優秀な方だと聞いているから、合っていると思う。

「既に其方の兄二人から聞いていると思うが……私が其方を呼んだ理由についてだ」

「は、はい……一応は伺っておりますが、まだ信じられない気持ちです……」

「はは、いきなり気に入ってしまったとか、レミーラ嬢からしたら不快だったかもしれないな」

「いえ、不快だなんて、それだけはありません……シグレ王子殿下」


 確かにちょっと戸惑っているけれど、彼と少し話しただけでも不快な気持ちなんて消え去っていた。そもそも、ドレーク兄さまから出してくれた時点で、不快な気持ちになるわけはないんだけど。まあ、単純に王子殿下に好かれるというのは光栄なことだしね。

「はははっ、それを聞けて安心したよ。レミーラ嬢に不快な気持ちを持たれたままでは、この対話自体が意味がなくなってしまうからな」

「でも、シグレ王子殿下……私のことを気に入っていただけるのは、とても光栄なのですが……なぜ、私のことを?」


 面識はそこまで多くはない第五王子殿下。私のことを好きになった理由は気になるところであった。一体、何で私だったのだろう?


「レミーラ嬢はパーティーなどで、使用人に対する態度が素晴らしいものだったからな。そういった場面を何度か見ている間に好きになってしまったのだと思う」

「えっ? その場面ですか……?」


 確かに私は使用人、執事やメイドの人達には敬意を払っている方だとは思うけど。まさか、その部分を見られていたなんて……。

「自分達よりも下の身分の者である裏方。メイド達に敬意を払う貴族、王族は少ない。しかし、私はそういった裏方で頑張っている者達にこそ、敬意を表するべきだと考えていた。貴族達が集まる華やかな舞踏会は、彼らの裏からの支えがあって初めて成り立つのだからな」

「はい、それは間違いないと思っておりました」

「やはりそうか」


 そうか、シグレ王子殿下は私と感性が似ているのかもしれない。だから、私のことを気に入ってくれたのか。そう考えると、納得がいった。


「私が其方を気に入った理由はそういったところにあるが……ところでレミーラ嬢はこの前、マグロ・フォルクス公爵と婚約解消をしたそうだな?」

「はい。やはり、シグレ王子殿下にも伝わっていましたか。噂話も色々と錯綜しているようでございまして……」

「錯綜しているのは、確かにその通りだろう。しかし、婚約解消の理由はマグロ殿が幼馴染のシエナ・ウィンドミル公爵令嬢を優先していたから、だそうだな。それを注意しても、マグロ・フォルクス公爵は考えを改めることはなかった、と聞いているが」

「はい、その通りでございます……」

「そうか……大変だったな、気の毒に思うよ」


 シグレ王子殿下は私の予想以上に話の顛末を知っていた。情報源はドレーク兄さまだと思う。というより、兄さまは思った以上に王子殿下に詳細を話していたのね……。


 そういえば、マグロ様と別れてから2か月近くが経過しているのね。今頃、彼はどうしているのかしら? なるべく考えないようにはしていたけれど、こうして彼の話が出て来ると思い出してしまうわね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どーでもいいからさっさと勘当して

恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。 妹に婚約者?あたしの婚約者だった人? 姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。 うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。 ※ザマアに期待しないでください

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

【本編完結】実の家族よりも、そんなに従姉妹(いとこ)が可愛いですか?

のんのこ
恋愛
侯爵令嬢セイラは、両親を亡くした従姉妹(いとこ)であるミレイユと暮らしている。 両親や兄はミレイユばかりを溺愛し、実の家族であるセイラのことは意にも介さない。 そんなセイラを救ってくれたのは兄の友人でもある公爵令息キースだった… 本垢執筆のためのリハビリ作品です(;;) 本垢では『婚約者が同僚の女騎士に〜』とか、『兄が私を愛していると〜』とか、『最愛の勇者が〜』とか書いてます。 ちょっとタイトル曖昧で間違ってるかも?

処理中です...