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9話 暴力
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「お、オデッセイ様……? 一体、何をなさるおつもりなのですか……!?」
「何をするつもりだと? エルミナ……お前は本当に頭の中身が空っぽだな。ここまでくれば分かるだろう? 鉄拳での制裁を下してやるのさ」
「て、鉄拳制裁……!?」
「その通りだ」
予想はしていたけれど、本当に鉄拳制裁を考えていたなんて……この男は信じられない。最早、オデッセイ「様」とすら呼びたくはなかった。ランバーが危険に晒される……それだけは止めなければならない。私の可愛い弟だし、私の為にオデッセイに怒りをぶつけてくれたのだから。
お父様もオデッセイの言葉には流石に驚いていたけれど、右往左往しているだけだ。次期当主候補のランバーが殴られようとしているのよ? 何も行動をしないなんてあり得ない。
「お父様! ランバーを守る気はないのですか……!? お父様の息子なんですよ!?」
「そ、それは分かっているがしかし……オデッセイ様が、鉄拳制裁を下すと言っているのだし、それを私が止めることは……」
「お父様……」
駄目だこの人は。まったく頼りにならない……私よりもお父様が直接、割って入った方が効果的かと思って言ったことだけれど、どうやら悠長に待っている時間はないようだ。
オデッセイは私達のやり取りに意識を向けながらも、確実にランバーに近づいていたのだから。周囲の執事もお父様がこの様子なので、割って入って来る気配はなかった。仕方ない、こうなったら……。
「……何のつもりだ、エルミナ?」
「それは出来ません、オデッセイ様」
「ね、姉さま……!」
私はオデッセイとランバーの間に立った。オデッセイ「様」と言葉では言わなければならないので、吐き気がしてしまっていた。でも、そんなことを考えている余裕はない……今はなんとしても、ランバーを守らなくちゃ。
「どういうつもりだ? ランバーに制裁を加えられないではないか」
「ランバーは何も悪いことはしていません。私の為に言ってくれていただけです」
「それが問題なのだ……侯爵令息の私に向かって生意気な。そういう態度が許されては、大人になってから苦労するだろう。だから今の内に、分からせておいた方が良い」
この人は本当に何を言っているのだろうか……自分の胸に手を当てて聞いて欲しいくらいだ。
「オデッセイ様……それはご自分を顧みた方が良いと思います。その考えは……間違っています」
「お前……子爵令嬢の分際で」
「その言葉は前にも聞きましたね……子爵令嬢の分際? どういう意図で言っているのかは分かりませんが、子爵令嬢如きに言い包められるオデッセイ様は、何様なのでしょうか?」
「お、お前は……! いいだろう、まずはお前から制裁を加えてやる! エルミナ!」
オデッセイの拳が私の前で大きく振り上げられた。私は歯を食いしばる……これでランバーが守られるのであれば、安いくらいだわ。
しかしその時、私の後ろに立っていたはずのランバーが前に出て来たのだ。
「姉さま! ここは僕が受けます!」
「はっ、前に出て来たのか、良い姉弟愛だな! では望み通りお前からだ!」
オデッセイはとても醜く笑っていた。そして、ランバー目掛けて拳を振り下ろしたのだ。
「……!!」
「ランバー!」
振り下ろされたオデッセイの拳はランバーの顔面にヒットし……たはずだったけれど。おかしい……明らかに目の前の光景はおかしかった……私の予想とはかなり異なっている。
「……?」
「あ、あれ……?」
「正当防衛ですね、オデッセイ様。ごめんなさい」
「なっ、馬鹿な……うわっ!!」
私が次に見た時、確かにランバーはオデッセイの拳を簡単に受け流していた。えっ、嘘でしょ……? それから、オデッセイは宙を舞うことになる。ランバーに思いっきり投げられていた。
「何をするつもりだと? エルミナ……お前は本当に頭の中身が空っぽだな。ここまでくれば分かるだろう? 鉄拳での制裁を下してやるのさ」
「て、鉄拳制裁……!?」
「その通りだ」
予想はしていたけれど、本当に鉄拳制裁を考えていたなんて……この男は信じられない。最早、オデッセイ「様」とすら呼びたくはなかった。ランバーが危険に晒される……それだけは止めなければならない。私の可愛い弟だし、私の為にオデッセイに怒りをぶつけてくれたのだから。
お父様もオデッセイの言葉には流石に驚いていたけれど、右往左往しているだけだ。次期当主候補のランバーが殴られようとしているのよ? 何も行動をしないなんてあり得ない。
「お父様! ランバーを守る気はないのですか……!? お父様の息子なんですよ!?」
「そ、それは分かっているがしかし……オデッセイ様が、鉄拳制裁を下すと言っているのだし、それを私が止めることは……」
「お父様……」
駄目だこの人は。まったく頼りにならない……私よりもお父様が直接、割って入った方が効果的かと思って言ったことだけれど、どうやら悠長に待っている時間はないようだ。
オデッセイは私達のやり取りに意識を向けながらも、確実にランバーに近づいていたのだから。周囲の執事もお父様がこの様子なので、割って入って来る気配はなかった。仕方ない、こうなったら……。
「……何のつもりだ、エルミナ?」
「それは出来ません、オデッセイ様」
「ね、姉さま……!」
私はオデッセイとランバーの間に立った。オデッセイ「様」と言葉では言わなければならないので、吐き気がしてしまっていた。でも、そんなことを考えている余裕はない……今はなんとしても、ランバーを守らなくちゃ。
「どういうつもりだ? ランバーに制裁を加えられないではないか」
「ランバーは何も悪いことはしていません。私の為に言ってくれていただけです」
「それが問題なのだ……侯爵令息の私に向かって生意気な。そういう態度が許されては、大人になってから苦労するだろう。だから今の内に、分からせておいた方が良い」
この人は本当に何を言っているのだろうか……自分の胸に手を当てて聞いて欲しいくらいだ。
「オデッセイ様……それはご自分を顧みた方が良いと思います。その考えは……間違っています」
「お前……子爵令嬢の分際で」
「その言葉は前にも聞きましたね……子爵令嬢の分際? どういう意図で言っているのかは分かりませんが、子爵令嬢如きに言い包められるオデッセイ様は、何様なのでしょうか?」
「お、お前は……! いいだろう、まずはお前から制裁を加えてやる! エルミナ!」
オデッセイの拳が私の前で大きく振り上げられた。私は歯を食いしばる……これでランバーが守られるのであれば、安いくらいだわ。
しかしその時、私の後ろに立っていたはずのランバーが前に出て来たのだ。
「姉さま! ここは僕が受けます!」
「はっ、前に出て来たのか、良い姉弟愛だな! では望み通りお前からだ!」
オデッセイはとても醜く笑っていた。そして、ランバー目掛けて拳を振り下ろしたのだ。
「……!!」
「ランバー!」
振り下ろされたオデッセイの拳はランバーの顔面にヒットし……たはずだったけれど。おかしい……明らかに目の前の光景はおかしかった……私の予想とはかなり異なっている。
「……?」
「あ、あれ……?」
「正当防衛ですね、オデッセイ様。ごめんなさい」
「なっ、馬鹿な……うわっ!!」
私が次に見た時、確かにランバーはオデッセイの拳を簡単に受け流していた。えっ、嘘でしょ……? それから、オデッセイは宙を舞うことになる。ランバーに思いっきり投げられていた。
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