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第3章 ニートと帝国動乱

第52話 復活

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『死者蘇生』 

  
 俺は白い死装束をまとい眠っている魔帝と宰相へ聖剣を向け、蘇生のスキルを発動した。 
  
 同時にスキルの効果を増幅する聖剣を通し発動したにも関わらず、かなりの量の魔力が俺の身体から抜けていった。

 そして次の瞬間。それぞれの棺の上に白い魔方陣のような物が現れた。 
  
 魔方陣はゆっくり回転をしていき、やがてスポットライトのように光がそれぞれの棺を照らした。 
  
 それから数秒ほどの後に光は消え、役目を終えたのか魔方陣も消えていった。 
  
「魔力が……成功したのか? 」 
  
 俺は魔帝と宰相の棺から見覚えのある魔力を感じそう口ずさんだ。 
  
 本当に死んだ人間が生き返った? 
  
 これが蘇生のスキルだということはわかっている。けど、俺は本当に死者が生き返ったということに実感が持てないでいた。 
  
「ま、魔力が! 陛下! 」 
  
「ああ……陛下ぁぁぁ! 」 
  
 俺が魔帝と宰相が蘇生したことが信じられないでいると、階段の下で見守っていたマルスとハマールが棺へと駆け寄ってきた。 
  
 そしてマルスが涙ながらに魔帝の肩を激しく揺らし、魔帝の頬を叩いた。 
  
「うぐっ……む……」 
  
 すると魔帝の口からうめき声が聞こえた。 
  
「陛下! 陛下ぁぁぁ! 」 
  
 マルスは魔帝のうめき声が聞こえたことに感極まったのか、さらに激しく頬を叩いていた。 
  
「ぶっ……痛っ……だ、誰じゃ! 余の顔を叩く無礼者は! 」 
  
 そして次の瞬間。魔帝が目を覚まし棺の中から身を起こし怒鳴り散らした。 
  
「陛下! マルスです! お、おわかりになりますか? 」 
  
「おのれマルスが余の顔を叩いておったのか! いま斬ってやるから待っ……ん? ここはどこじゃ? 城の地下か? ハマール? お主は捕まったのではなかったのか? いやそもそも余はなぜこんな所に……」 
  
「ああ……陛下……よかった……姉さん……よかった……」 
  
 はは……本当に生き返りやがったよ。心配掛けやがってこの野郎…… 
  
 俺は目の前で後頭部をさらしている、二度と聞くことができないと思っていた魔帝の声を聞き心が温かくなっていくのを感じていた。 
  
「……騒がしいですぞ陛下。今何時だと……マルス公爵にハマール公爵? ここは……」 
  
 魔帝の耳障りな声に起こされたのだろう。隣で眠っていた宰相も目を覚まし身を起こした。 
  
「よう二人とも。現世に戻ってきた気分はどうだ? 」 
  
「ぬ? 魔王? なぜ貴様がここにおる……いや待て……余は死んだはずでは……それにこれは死装束……ぬおっ? 棺じゃと!? な、何がどうなっておるのじゃ! 余は確かにロンドメルに……」 
  
「これは……私も確かにロンドメルの手によってあの時……」 
  
「だから現世に戻ってきた気分はどうだって聞いたろ? お前らは生き返ったんだよ。【冥】の古代ダンジョンを攻略して手に入れた、俺の死者蘇生のスキルでな」 
  
 俺はやっと生前の記憶を思い出したのか、混乱する二人に死者蘇生により生き返らせたことを告げた。 
  
「死者蘇生? 余が生き返ったじゃと? 」 
  
「蘇生ですと? そのような神の奇跡のようなスキルが古代ダンジョンに? 」 
  
「陛下、リヒテンラウド伯爵。アクツ殿の言っていることは本当です。私はこの目で死者蘇生のスキルにより、陛下の身体に魔力が再び灯るのを見ました」 
  
「私も見ました。アクツ様の神のような奇跡をこの目で……」 
  
「まあそういうことだ。信じられないかもしれないが、二人が生きていることがその証明だ」 
  
「信じられん……しかし確かに生きておる。なにより胸にあったデルミナ様の加護を失っておる…………む? ランクも下がっておるな……蘇生の影響か」 
  
「……私もかなり下がっております。恐らく一度死に、魂の一部がロンドメルに渡ったからでしょう」 
  
 ん? 蘇生するとランクが下がるのか?  
  
 俺は鑑定を自分に掛けて確認したのか、二人の言葉に首をかしげた。 
  
 そんなことスキル説明に無かったけどな。もしかしてゲームでよくある死亡ペナルティ。デスペナってやつか? 宰相が言っていたように、殺された時に魂の一部が経験値としてロンドメルに渡ったのが原因の可能性が高いな。 
  
 人族や獣人やエルフ同士では、殺し合ったとしても相手の魂は得られないんだけどな。まあ魔物や魔族に殺されたら魂の一部を奪われるし、逆もそうなんだけどな。だからランクが上がるんだけどな。しかし魔族同士でも魂が持っていかれるのは、さすが魔族というところだな。 
  
「なあ、どれくらい下がったんだ? 」 
  
「SSになっとるから1ランクという所じゃな。魔力だけは加護を失ったゆえ2ランク下がっておるのう」 
  
「私はC-ランクになっているので2ランクですな」 
  
「なるほど。元のランクによって違うのか……」 
  
 まあ高ランクになればなるほど上がりにくいしな。デスペナが同じじゃ不公平か。ますますゲームみたいだな。 

「なに、ランクなどまた上げればよい。それよりも魔王。余を生き返らせてくれたことに感謝する。おかげで余はまたメレスに会うことができる。しかしよもや余を生き返らせるとはのう……意外じゃ」 
  
「気にするな。生き返らせられるスキルを俺が持っていて、生き返らせたいと思った。だから生き返らせた。魔帝……俺たちは喧嘩もしたけどさ、お互い命を懸けて戦った友だろ? 俺さ、魔帝が生き返ってくれて嬉しいんだ」
  
 俺はゾンビにして操ろうとしていたことは無かったことにして、魔帝へ微笑みながらそう答えた。 
  
 お前には皇帝として俺の盾になってもらわなきゃ困るんだよ。見たところ知能は変わってなようだし、宰相とセットなら余裕でこの混乱を抑えてくれるだろう。 
  
「魔王……余のことをそのように思っていてくれたとは……余のメレスを嫌らしい目で見る魔王に死んで欲しいと思っていた余を……帝国だけでは無く、世界中にアクツ男爵は魔王だと広めた余を友と思ってくれておったとは……余は魔王を誤解していたようじゃ。すまぬ……」 
  
「こっ……い、いいんだ。気にするなよ。お互い不幸なすれ違いがあったってことだ……ハハハ」 
  
 この野郎! どうりであっという間に広まったと思ったらお前が広めてたのか! しかも世界中にだと!? 

 くっ……耐えろ……加護を失ったコイツに再び皇帝として、帝国民の前に立ってもらうまでの我慢だ。国民の前に立たせちまえばコイツはもう逃げられない。その後にキッチリ報復してやる。
  
「魔王……さすがメレスが惚れた男というところか。なんと器の大きな男よ……しかし死者蘇生か、とんでもないスキルを手に入れたのう」 
  
「そうだな。制限はあるがとんでもないスキルであることは間違いないな」 
  
「制限じゃと? それはどのようなものじゃ? 」 
  
「何を期待しているのか知らないが、魂が輪廻の輪に入ってしまった者は蘇生できないんだ。恐らくだけど、現世によほど未練が無ければ一ヶ月くらいで輪廻の輪に入るんじゃないかと思う」 
  
 四十九日っていうしな。さすがに1年とか経過していたら無理だろう。 
  
「そうか……それはそじゃろうのう……残念じゃ」 
  
 やっぱ生き返らせたい人がいたか。メレスの母親かな? でもさすがに200年前に亡くなった人は無理だろ。 
  
「まあここにいるお供の十二神将と、魔帝の一族も遺体があれば生き返らせてやるよ。遺体の損傷が激しいのは無理だけどな」 
  
「そういった制限もあるのか。いや、それでもありがたいのう。何から何まですまぬ」 
  
「いいって。それより二人が死んでからのことを説明するわ」 
  
「そうじゃ! ロンドメルは……魔王がここにいるのであればもう死んだか」 
  
「ああ、ほらこの通り仇はとってやったぞ」 
  
 俺はそう言って空間収納の腕輪からロンドメルの亡骸を取り出し、棺の前に置いた。 
  
「ロンドメル……言ったとおりになったのう。魔人化までしおって……相当苦しんで死んだようじゃな。魔王、余の仇まですまぬの」 
  
「いいっていいって」 
  
 俺は超絶恩を感じている魔帝に気にするなと言い、ロンドメルの亡骸を再び空間収納の腕輪に入れたあと、これまでの経緯を二人へと説明した。 
  


 ※※※※※※※※※※

  

「見えない飛空艦のカラクリはそういうことじゃったのか。ぬかったわ……しかしロンドメルに付き、領地を襲ったオズボードを殺さず支配下に置くとはの。魔王らしくないのう」 
  
「殺すさ。今は生かして利用しているだけだ。オズボードの一族は滅ぼす。奇襲してきた貴族もな」 
  
「ククク……そうか。利用したあとに殺すか。やはり魔王よな」 
  
「全方位敵だらけだったからな。そもそもお前があっさり負けなきゃ、こんなことしなくて済んだんだけどな」 
  
「グッ……言い返せんのう……」 
  
「しかしアクツ殿は必ずロンドメルを倒すと信じておりましたが、たった二日で倒し帝都まで奪還するとは……さすがとしか言いようがありませんな」 
  
「飛空要塞の超魔導砲は少しびっくりしたけどな。でも結界はビクともしなかったし、そのまま鹵獲して帝都の上空で警戒させている。魔帝を裏切った皇軍の兵たちにな」 
  
「やはり通用しなかったか。魔王の結界はとんでもない強度じゃのう……皇軍は仕方あるまい。余が死んだとなれば、次の皇帝に従わざるを得まい。帝都を抑えられた以上は、ロンドメルがそうなる可能性が高かったからのう」 
  
「魔帝がいいならいいんだけどな。それより今後のことなんだけどさ、加護を失いはしたけどそれを知っている者はここにいる俺たちとロンドメルの兵くらいなもんだろ? ロンドメルはいま見たように死んだし、奴の兵は今ごろ俺の連れてきた者たちに皆殺しにされている。なら魔帝がそのまま皇帝になってもバレないと思うんだ。ということでまた皇帝として頑張ってくれ」 
  
「むっ……確かに余が皇帝として号令を掛ければこの混乱は収束しよう。そして反乱を起こしたという、調子に乗ったチキュウの元国家群も一掃できよう。じゃが問題がある。遅くとも数日以内には新たに加護を得るものが現れる。そうなれば余が偽りの皇帝であることが発覚しよう。それがマルスであれば良いが、もしも違う者であったなら帝国が再び混乱するのは目に見えておる」 
  
「か、加護のことは心配しなくていい。大丈夫だ」 
  
 しまった! ゾンビにするつもりだったから加護のことを考えてなかった。どうする? どうやってごまかす? 
  
「何を馬鹿なことを言っておる。大丈夫なはずがなかろう。加護はデルミナ神様から魔人をまとめる者としての信任の証じゃ。それをそのように軽く考え……魔王よ、何か様子がおかしいのう? 何か余に隠しているのではないか? 」 
  
「そ、そんなことねえよ。なあマルス? 加護のことは心配する必要ないよな? な? 」 
  
 俺はマルスに顔を向け、バチコンッとわかりやすくウィンクをした。

 魔帝に加護のことは気にしなくても大丈夫だと、納得させてやってくれという願を込めて。
  
 俺の合図にマルスはフッと笑みを浮かべ、任せろといわんばかりにうなずいてくれた。 
  
「そうです陛下。アクツ殿の言うように心配ありません。なんといっても決して殺されることのないアクツ殿が加護を得たのですから。陛下は安心して再び皇帝として国をお治めください。私もハマールも全力でお仕えさせていただきます」 
  
「ちょっ! 」 
  
 おおぅいぃぃぃ! なに言っちゃってんの!? 違うだろ! そうじゃないだろ! 俺が隠したがってるくらいわかんねえのかよ! 空気読めよ!  
  
「なっ!? ま、まさか魔王が加護を? それは本当なのか!? 」 
  
「なんということだ……人族にデルミナ様のご加護が与えられるなど……」 
  
「マ、マルスなに言ってんだよ。ハハハ……冗談にしちゃキツいって! 魔帝も宰相も何を信じてんだよ。そんなことあるわけないだろ? 俺は魔人じゃなく人族だぞ? ほ、ほらっ! 俺の胸を見ろよ! な? 加護なんて無いだろ? 」 
  
 俺は慌ててマルスの発言を冗談ということにして、装備を外しシャツの胸もとを開いて魔帝と宰相に見せた。 
  
「むっ……確かに無いのう。やはり人族には無理じゃったか……」 
  
「驚きましたぞ……マルス公爵。冗談もほどほ……アクツ殿? 背中が光っているようだが? ハッ!? その赤い光はもしや……」 
  
「は? え? おわっ! な、なんでこのタイミングで!? 」 
  
 宰相の言葉に首を背に向けると、背中のシャツの隙間から強烈な勢いで赤い光が漏れ出ていた。 
  
 なんでだよ! 魔力を流さなきゃ光らないって話じゃなかったのかよ! よりにもよってなんでこのタイミングで光るんだよクソ魔神! 
  
「そ、その光は! 魔王! 余に背中を見せるのじゃ! 」 
  
「うおっ! よせっ! 抱きつくんじゃねえ! 」 
  
 俺は棺の中から突然飛びかかってきた魔帝の気味悪さに反応が遅れ、背後を取られてしまった。 
  
 そして一瞬でシャツをまくり上げられ、腰の加護を見られてしまった。 
  
「これは!? なんと、こんな場所に加護が!? むっ? これは尻にまで達しておるのか? なんという罰当たりな男じゃ! 」 
  
「知らねえよ! テメェんとこの魔神が勝手に紋章を彫っていきやがったんだよ! お、おい! よせっ! パンツはやめろ! このっ! 離れやがれ! 」 
  
 俺は加護の紋章が尻にも達していることに勝手にキレたうえに、パンツを脱がそうとする魔帝を振りほどいた。 
  
「ぬう……間違いなくデルミナ神様の加護の紋章じゃ。そうか……デルミナ様は余の願いを聞きとげてくださったということか……そうか、魔王に加護が……そういうことか……じゃから魔王は余を……ククク……そうか、これは愉快じゃな。わははははは! これは愉快じゃ! 」 
  
「は? 願い? なんだそりゃ? 」 
  
 俺は楽しそうに笑う魔帝をぶん殴りたかったが、それよりも魔帝が口ずさんだ言葉の方が気になった。 
  
「ククク……死の間際にの。デルミナ様に魔王に加護を与えるようお願いしたのじゃ。魔王ならばデルミナ様の悲願を叶えてくれると言っての。さすがに魔人でもない者に加護を与えるのは厳しいと思ったがの。まさか本当に人族に加護をお与えになるとはのう……デルミナ様のご加護じゃ。誇るがよい」 
  
「ふざけんなよテメー! 勝手に推薦してんじゃねえ! デルミナの悲願だかなんだか知らねえが、そんなの俺には関係ねえだろうが! おいっ! デルミナ! 加護を返すから魔帝に再度この紋章をつけろ! オラッ! クソ魔帝! 胸を出せ! 加護を移してやる! 」 
  
 この野郎! 自分が死ぬからって勝手に俺を巻き込みやがって! こうなったら意地でも加護を戻してやる! 
  
「ぬおっ! 汚い尻を出してこっちに来るな変態め! よせ! やめるのじゃ! 尻を近づけるな! ハマ-ル! マルス! 助けるのじゃ! 」 
  
「あ……アクツ様のお尻……尊い……」 
  
「は、ハッ! アクツ殿! 落ち着け! 加護はそんなことをしても移植などできない! 陛下から離れてくれ! 」 
  
「邪魔するな! こんな加護なんか! こんな加護なんかぁぁぁぁ! 」
  


※※※※※※※※※※



「ハァハァハァ……酷い目にあったわ。まさか男の尻を押しつけられる日が来ようとは……こんな屈辱初めてじゃ」 
  
「フゥフゥ……クソッ! 加護が移らなかった……」 
  
「当たり前じゃ変態魔王! 切っても焼いても加護は消えぬ! 諦めい! 」 
  
「それじゃあ加護というより呪いじゃねえか! くそっ! もう加護のことはいい。それよりさっき帝都を制圧したと連絡があった。皇軍基地と防衛軍の基地もな。捕らえられていた兵士も解放した。飛空艦も残っているそうだ。皇帝が健在だということを伝えに行くぞ」 
  
 俺は魔帝とのやりとり中に、念話で受けた報告内容を伝えた。 
  
「ふむ……なぜ余が皇帝にならねばならんのじゃ? 加護は魔王が持っておる。魔王がなればいいじゃろ」 
  
「なっ!? テメェはさっき自分が皇帝に復権すれば混乱を収められるって言ったじゃねえか! テメエの国だろ! 俺に振るんじゃねえ! 」 
  
「あれは一般論じゃ。余はもう皇帝などやりたくないんじゃ。せっかく後継者が現れたんじゃしの、今後はメレスと二人で余生を過ごすことにしたんじゃ」 
  
「へ、陛下? 」 
  
「始まったな……本当にお人が悪いお方だ」 
  
「悪い顔をしてますわね。すごく楽しそうだわ」 
  
「クソ魔帝……誰のおかげで生き返ったと思ってんだ? 調子こいてるとまたあの世に送るぞ? 」 
  
 俺はニヤニヤしている魔帝に聖剣を向け、殺気を放ちそう警告した。 
  
「よく言う。自分が皇帝になりたくないから余を蘇生したんじゃろ? 何が友じゃ。すっかり騙されたわ! 余の心を弄びおって魔王が! ククク……しかし魔王にしてはすぐバレる悪知恵だったのう? その剣はなんじゃ? 余を殺したら皇帝ルートじゃがいいのか? 」 
  
「くっ………な、なら取引だ」 
  
「ほう、懐かしいのう」 
  
「欲しがっていた2等級の停滞の指輪をやる。メレスと長い時間いたいんだろ? これをやるから皇帝をやれ」 
  
「2等級か……【冥】の古代ダンジョンを攻略したんじゃったな? もっとほれ、あるんじゃないのかのう? 」 
  
「へ、陛下。おやめくだされ」 
  
「この野郎……」 
  
 足もと見やがって! いっそのこと魂縛で隷属させるか?  
  
 いや、メレスに知られたらマズいな。父親が隷属させられたなんて知ったら嫌われるかもしれない。 せっかくキスまでいったのに、それだけは駄目だ。
  
「余は別に皇帝にならなくてもいんじゃぞ? ここで余を殺せばメレスに知られよう。魔王とメレスの仲を裂けるなら本望じゃ」 
  
「くっ……一等級の停滞の指輪があるがこれは譲れねえ。ティナを一人にできねえからな。その代わりこれをくれてやる」 
  
 俺はそう言って空間収納の腕輪から、時戻りの秘薬と身代わりのアムレットを取り出し魔帝に渡した。 
  
「む? 金色のポーション? こ、これはまさか! 『鑑定』……やはり伝説の時戻りの秘薬じゃったか! それに身代わりのアムレットじゃと!? 」 
  
「なんと! 勇者が持っていたというあの! 」 
  
「それを飲めば10年若返る。2等級の停滞の指輪と合わせて70年寿命が延びる。そして身代わりのアムレットがあれば一度だけ死を回避できる。あとこれもやる。欲しがっていた幻身のネックレスだ。これで人前に出る時は胸に加護を出現させておけ。いいか? これ以上足もとを見るならこっちも奥の手を使うぞ? 」 
  
 これで断るなら魂縛を使おう。メレスにはハマールに仕方なかったと説明してもらえばいい。ここまで足もとをみたんだ。メレスもわかってくれる。 
  
「ふむ……悪くないのう。これで手を打とうかのう」 
  
「なら契約だ。皇帝になることと、俺の加護のことは黙っていろ」 
  
「うむ。いいじゃろう」 
  
「よし、『契約』  」
  
「え? 」 
  
「ぬ? 」 
  
 俺は契約のスキルを発動しようとしたが、スキルが発動しなかった。 
  
 どうしてだ? なんで発動しないんだ? 
  
 それから数度発動しようとしたが、全て不発に終わった。宰相にもやってもらったが、こちらも同じく発動しなかった。 
  
「こんなことは初めてですな。いったいなぜ……」 
  
「契約のスキルが発動しないなど初めて見たぞ」 
  
「私も初めて見たわ」 
  
「うむ、蘇生が関係しているのやもしれぬな」 
  
「そうとしか考えられねえか……チッ」 
  
 魂が戻ってきたばかりだからか? でも心臓に激痛が走る神の呪いみたいなこのスキルと魂が関係あるのか? 
  
「ククク……残念じゃったな魔王。まあ余を信じよ。約束はたがえぬ」 
  
「にやついた顔で言ってんじゃねえよ! いいか? 絶対に破るなよ? 破ったら帝国を滅ぼしてやるからな! 」 
  
 くそっ! 魔人との約束なんか不安しかねえ。なんで発動しねえんだよ…… 
  
「ククク……魔王はマゾなのかのう? そんなことをすれば困るのは魔王じゃろうて」 
  
「うるせえ! やるったらやる! 破るんじゃねえぞ! 」 
  
「わかったわかった。守ってやるゆえ、安心するがよい。さて、いい気分になったところでそろそろ地上に出るかのう。余の装備を持っておるのじゃろ? 」 
  
「……ほらよ」 
  
 俺は空間収納の腕輪からオリハルコンの鎧一式と、ロンドメルが持っていた魔帝のマジックポーチを取り出し渡した。 

 そしてそれから魔帝と宰相が着替えるのを待ち、十二神将の棺を回収して地上に出たのだった。 

  
 ふう……なんとか魔帝に皇帝を再びやらせることができた。余計な出費をしたが、身代わりのアムレットと幻身のネックレスは最初から渡すつもりだったしな。また死なれてもめんどくさいし、万が一の時のために加護を偽装しなきゃならないからな。女を抱いている時にバレましたとか、あのボケ老人ならやりそうだ。
  
 時戻りの秘薬はできればやりたくなかったけどまだ10本残っているし、30年若返る高級バージョンも6本ある。停滞の指輪も2等級ならまだ5個あるしな。指輪はどうせいつかやろうと思ってたんだ。帝国のいざこざこざから逃れられるなら安いもんか。また取りに行けばいいしな。 
  
 よし、ならあとは後始末だ。 
  
 そのあとは苦労した分、たんまり報酬を搾り取ってやる。

 もう二度と数の力に苦戦することがないようにな。



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