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第22話 対立

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「はい……関東からもですか……はい……ええギルド員には注意を呼び掛けます……はい……いつもありがとうございます……そうですね、そろそろ大掃除をしようかと。その際はご迷惑をお掛けします……ははは、わかりました。皆に長崎で買い物をするように言っておきます……はい……失礼します」

「コウ、佐世保市長はなんて? 」

「関西だけではなく、関東の特別警察隊員も佐世保署と別府署に集まっているらしい。恐らくうちのギルド対策だね」

「先週の乱闘が原因かしら? 当事者の引き渡しにうちが応じないから、今度は人数を増やして現行犯で捕まえるつもりね」

「新人にS-ランクのギルド員を付けているとは思わなかったんだろうな。ダークエルフ1人に12人がのされたんじゃ引くに引けなくなったか? 沖田にこの間日本総督を脅させた時は相当ビビってたと言ってたけど、俺が貴族になったからモンドレットがキレてケツを叩いたのかもな」

 俺たちがメレスロスの治療を終えて帰ってきた翌日に、ギルド警察隊のヤンヘルを付けていた新人パーティが特別警察に因縁を付けられた。そして魔石や素材を出せという要求を断った新人が、特警の奴らに剣を突きつけられたところでヤンヘルが無双した。俺はあらかじめギルド員には正当防衛なら殺さない程度に暴れていいと伝えてあったので、それはもう遠慮なくやったそうだ。

 最初3人だった特別警察はあっという間に12人に増えたが、所詮は機動隊上がりのC-ランク程度の者たちだ。ヤンヘル1人で全員の腕をへし折り精霊魔法で縛り上げ、緊急時に待機させてあるギルド車両に乗って桜島に戻ってきた。

 その後に佐世保特別警察署と日本総督府の警察局からヤンヘルの引き渡し要求があったが、ギルド員が録画していたスマホの映像を突き付けて、逆に因縁をつけてきた12人を引き渡すよう要求した。まあそれからは音沙汰なしだ。こっちはそれと同時に佐世保署と別府署にギルド員から押収した魔石と素材を返すように言っているんだが、それもまだ捜査中ということで返してもらっていない。

 そしてそろそろ集金に行こうかと思っていたところで、大分県知事に別府市長、そして長崎県知事に佐世保市長と立て続けに連絡が来た。その内容は関西と関東の特別警察署からの応援部隊が、九州へと続々と入ってきているというものだった。

 特別警察は日本総督府の直轄の組織だ。探索者の犯罪防止のための組織だと言ってはいるが、実際のところは私兵だ。その特別警察が九州に集まっているということは、日本総督府の命令があったということになる。沖田が日本総督府の外交局長に、前政権の者たちのようになりたいのかと言ったら震え上がっていたらしいがモンドレットには逆らえないんだろうな。

「それでどうするのコウ? 日本でのダンジョンは探索は諦めて、台湾や東南アジアのダンジョンにギルド員を行かせることもできるけど」

「まさか、特別警察を潰すよ。もしもそこでモンドレットが管理地内の紛争解決のために出てきたら一緒に潰せばいい。その時は女子供はダンジョンの階層転移室に避難させて、その他の住人は陸路で鹿児島県に避難させるよ」

 古代ダンジョンの61階層と71階層転移室には、一時避難用の設備を設置してある。帝国人でこのダンジョンの最高到達階層は、魔帝を除けばロンドメル公爵と冒険者たちによる59階層だ。だから誰も避難した住人を追ってくることはできない。

 71階層の階層転移室へは俺以外でも行けるようにしてある。恋人たちはもちろんだけど、ギルド警察隊の隊長のヤンヘルと、副隊長のライガンに分隊長クラスの隊員も行ける。これは俺が70階層まで同行した。

 当然1階層から順に攻略していった訳ではなく、11階層へ階層転移して10階層のボスを倒し、次に21階層へ階層転移をして20階層のボスを倒しの繰り返しで70階層のボスを倒し権利を得させた。要は10階層毎にいるボスを倒した時にその場にいれば、階層転移室を使うことができるからな。

 もともとランクの高い者が多かったこともあり、その時のパワレベでA-ランクに新たに10人ほどが昇格した。ヤンヘルとライガンなんてS-ランクだ。ギルド警察隊はギルド員を監視する役目もあるし、俺の私兵だから徹底的に鍛えている。もちろんスキル書に装備も優遇している。彼ら90名の隊員は俺が留守の時のこの島の最終防衛部隊だ。

 それに島の南東から陸続きの鹿児島県知事や、各市長も住人の受け入れを約束してくれた。そのうえ避難施設も用意してくれた。俺は後方を気にすることなくモンドレットを叩き潰せるというわけだ。持つべきものはご近所さんだよな。

「そうね。九州はうちのギルド員も溶け込んでるし、色々優遇してもらっているから離れにくいわよね」

「そうそう。うちの住人を快く受け入れてくれて、ギルド員たちも九州の探索者と仲がいいからね。温泉街の人たちも良くしてくれてるし、今さら他の国に行くのもね」

 12月にギルドを発足してもう4ヶ月だ。ほぼ毎日2000人いるギルド員の半分以上がダンジョンへ潜っている。桜島からの移動手段は電車かトラックの荷台に乗ってというのがほとんどだが、各ダンジョンの近くには県の用意してくれた元団地のギルドの寮があり、新人たちはそこで寝泊まりしてダンジョンに挑んでいる。

 別府の中級ダンジョンに挑んでいるC+ランク以上の者たちは、リッチなのでほとんど利用せずダンジョン内やホテルや温泉旅館で寝泊まりしているけどな。

 毎日ダンジョンに誰かしらが入っていれば当然地元の探索者たちとも関わる。基本うちのギルド員は装備がいいし、新人には高ランクの者を付けてるからな。ダンジョン内で探索者たちを助けたりする機会が多い。外でもあまりうちに強く出れない特警から、絡まれている探索者を助けたりもしているようだ。そういったことから九州でうちのギルドは人気があるらしい。

 そのうえとにかくギルド員たちは金遣いが荒い。寮を仮のギルド支店として職員を置いて換金ができるようにしてからは特に酷い。もうさ、宵越しの銭は持たねえってのを地でいってるんだよ。今までお金を持ってなかった人間に、大金を持たせるとこうなるんだなと思った。

    ただ、そのおかげでダンジョンのある街とその周辺は助かっているらしく、探索者以外の人たちからの印象が良い。金遣いの荒らさは別の問題を引き起こしているが、まあ結果としては良い方向にいってるから多少は目をつぶっているよ。

 各県の知事や市長にも帝国からの食糧を安い中間マージンで横流ししていることもあり、この不景気な日本で九州だけは景気が良いそうだ。もう毎日のように貨物船がフェリー乗り場の南にある港に出入りしているよ。おかげで荷下ろしや積み替えの荷役の仕事で、島の住人は仕事に困らない状態だ。

 飲食業やスーパーなども総督府が作り、住人に経営をさせているから対岸の鹿児島市に行かなくてもそうそう不便を感じないくらいにはなってきている。ちなみにスーパーは三井にやらせているよ。アイツはその人の良さから、獣人のパートの奥様たちに人気があるみたいだ。三井は若い子が好きなのにな。ままならないものだな。

 三井の親父さんとお袋さんは、鹿児島市の店で竜肉やダンジョン産の肉の販売で相変わらず忙しくしている。毎日竜肉ばかり食べてるせいか少し若返ったみたいで、元気いっぱいだって三井が言ってた。

 まあそんなこともあり、俺たちはもうどっぷりこの九州に浸かっていて、今さらギルド員たちを台湾や東南アジアのダンジョンには行かせられないってわけだ。今後ギルド員のランクが上がれば四国、関西、関東と進出するつもりだが、モンドレットがいる限り危なくてできやしない。今回の日本総督府との揉めごとに首を突っ込んできたら一緒に潰そうと思う。

「あとはどうやって特別警察を潰して日本総督府にも責任を取らせるかだけど、何か考えがあるの? 」

「いやまったく。できれば正当防衛から騒ぎを大きくしていきたいんだけど、乱戦になると新人たちや街に被害が出そうなんだよね。何か策を考えないとな」

「そうよね。街中は避けたいわよね。とりあえずは長期攻略申請を出しているパーティ以外の現地のギルド員たちには、こっちに戻ってくるかダンジョンには近づかないように言っておくわ。相手も人数が多いみたいだし万が一があるから」

「ああ、そうしてくれ。あと休業補償も出すと伝えておいてよ。借金で首が回らない馬鹿がダンジョンに入りそうだしね」

「はぁ~あの子たちはもうほんとにしょうがないわよね。いいわ、経理のシーナに言っておくわ。リズにまた叱らせないと駄目ね」

 ティナがため息を吐いてそう言ったが、俺はティナたちの金遣いの荒さには言及しない。ティナの部屋のクローゼットに、ブランドのバッグが50個以上あることもだ。それが恋人たちと上手く付き合うために必須のスキルだからだ。

 まあ新しい物を買う度に、俺に嬉しそうに見せる恋人たちを見るのも幸せな気分になれるしな。えっちな下着も買う度に見せてくれるし。リズなんて黒のレースの下着にガーターベルト姿でさ、もう猫と言うより女豹って感じなのに恥ずかしそうに俺に見せるんだぜ? 

 それにティナのTバックのスケスケキャミソールも最高だし、シーナのそれ紐だよなってくらい隠せてない特殊なランジェリーも俺を興奮させてくれる。こんな刺激的な毎日が送れるならいうらでも買ってくれていいさ。

「あの問題児たちはそのうち見せしめに俺が教育するよ。次にギルド員同士で金で揉めたら動くからもうちょっと様子を見よう。賭けを始めた鼠獣人もしっかり釘を刺しておくよ」

「そう、コウが動くならいいわ。リズにもそう言っておくわ。それじゃあリズとシーナのところに行ってギルド員たちに連絡させてくるわね」

「ああ頼むよ」

 ティナはそう言って執務室を出て2階にあるギルドの事務所へと向かった。

「さて、どうやって特警を潰すかな……」

 プルルルル

 プルルルル

 俺が特警を潰す方法を考えていると、執務室の内線が鳴った。ディスプレイを見ると3階にいるオリビアからの内線だった。

「はいよ。オリビアどうかしたか? 」

 《 お忙しいところ失礼します。アクツさんとお話がしたいという者から魔導通信が入っておりまして……》

「オリビアを通してか? てことは帝国の人間か……誰だ? 」

 《 それが……フォースター準男爵でして……》

「フォースター? あのモンドレットの腹心の? 」

 俺はオリビアから伝えられた意外な名前に驚いていた。
 俺はモンドレットに敵対視されている。その俺と連絡を取るなんて、考えられることは宣戦布告くらいしかない。

 《 はい。どうしても伝えたいことがあるそうでして……》

「宣戦布告かね? オリビアはどう思う? 」

 宣戦布告なら先制攻撃を今すぐしに行かないといけない。横須賀の基地を襲撃して次にゲートキーでコビールの領地に飛び、北にあるらしきモンドレットの小領を急襲してモンドレットを殺すか軍を壊滅させれば終わりだ。寄親はまだ見つからないらしいから、すぐに決着が着くだろう。

 《 宣戦布告は考え難いかと。アクツさんは男爵になったばかりですし、領地もありません。そのような成り立ての貴族に先を手を出せば、モンドレット子爵は臆病者と帝国中の笑い者になります。ですので別件かと思います 》

「そうか。俺としては宣戦布告でも良かったんだけどな。まあ話したいというなら話すさ、繋いでくれ」

 確かに成り立てで、領地も軍備もない貴族に戦争は吹っ掛けられないか。つまりは俺から戦争を吹っかけさせるためにギルドに嫌がらせをしてるってことだな。いいぜ? そんなに戦いたいならその手に乗ってやるよ。

 《 はい。それではお繋ぎいたします。あ、アクツさん。昨晩エスティナとクッキーを焼いたのであとでお持ちしていいですか? 》

「そういえば昨日はオリビアの家にティナが遊びに行ってたな。クッキーを焼いてたのか。ああ、楽しみにしてるよ。あとで食べさせてくれ」

 《 はい! お電話が終わった頃にお持ちします。それでは転送致します 》

 オリビアは嬉しそうにそう言ってフォースターからの魔導通信を繋いだ。

 なんだか初対面の頃の面影は見る影も無くなったな。それに本当によく笑うようになった。ティナとも買い物にちょくちょく行ってるみたいだし、ほんといい女になったよな。

 おっと、それよりフォースターか。いったい俺になんの話があるってんだ?

 俺はモンドレット側の人間からの連絡を疑問に思いつつも、オリビアから転送された魔導通信機の受話器を取ったのだった。



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