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第38話 チートスキル

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「どうしたのじゃフランベル! 」

「い、いえ……急に鎧が重くなったように……申し訳ございません。もう大丈夫のようです。いったい……陛下、とんだ醜態を……」

「急に鎧が重く? ……よい、もう立っておれ」

「はっ! 」

  おっと、なにか勘付かれたか? 
  ポーカーフェイスポーカーフェイス。
  このデビルマスクがあれば、俺は突然目の前に全裸の痴女が現れても無反応でいられる。
  表情だけはな。

  しかしなるほど……魔素が吸えなくなると鎧が重く感じるのか。
  これは滅魔で身体の魔力を抜いた時と同じ症状だな。
  つまり魔素を吸い込むことで身体の魔力を循環させてるってことか。
  そして循環しているうちに魔力となって吸収される感じかな?

  今まで身体にある魔力は止まってると思ってたけど、骨や筋肉や内臓なんかを循環して強化してたんだな。
  それが止まったから魔力によって強化されていた筋肉が、鍛錬で鍛えた分の筋肉パワーのみになったと。
  この魔人騎士が鍛えてないというより、アダマンタイトの鎧が重過ぎるんだろうな。
  そしてついでに循環が止まってるから身体から魔力も出せないと。スキルまで封じれるのは嬉しい誤算だな。

  俺は心中を悟られないよう、魔人騎士をなにしてんだコイツという顔で見ながら魔帝へと話しかけた。

「アダマンタイトの鎧は相当重そうだな。無理せず脱げばいいんじゃないか? なんなら手伝ってやるぜ? 」

「……魔王よ。この鎧を着ておらねばならぬほど、そなたはこの帝国にとって危険な存在よ。しかしその力はこれからの帝国には無くてはならぬ力でもある。だからこそ破格の待遇で迎え入れると申しておるのだ。これ以上欲を出すものではないぞ? 」

「だから世界なんていらねえんだよ。いらねえもんくれると言われたって迷惑なだけなんだよ。俺は奴隷を解放させるためにこの帝城まで乗り込んできた。だから俺が求めるのはそれだけだ。今なら追加要求はしないでおいてやる。俺を敵に回したくなかったら全ての奴隷を解放しろ」

「それはできぬと言っておろう。かつてこの大陸に余の先祖たちが降り立った時、人族とエルフ、そして獣人とドワーフの連合との激しい戦いとなった。先祖たちは魔王の出現により多大な犠牲を払いながらも人族を滅ぼし、それに味方した亜人どもを奴隷とした。帝国ができる数千年以上も前からエルフと獣人は奴隷であったのだ。建国後もその存在は帝国に深く浸透しておる。先祖の犠牲により得た戦利品を手放すわけにもいかぬ。そして解放などして帝国に混乱をもたらすわけにもいかぬのだ」

  帝国ができる前からかよ……日本でいう神話の時代から奴隷だったって、どんだけ気の遠くなる期間虐げられてきたんだってんだ。

  確かに戦争に負けて奴隷となることは地球上でも過去によくあったことだ。
  信じられないことにそれが数千年以上も続いているのは、ダンジョンを独占し一番力のあるエルフ種を隷属の首輪で押さえこんでいるからだろう。
  俺がここでそれを終わらせてやらなければ、これからまた千年単位でエルフや獣人たちは奴隷のままだ。

「戦利品ねえ……もう数千年以上魔人に、そして二千年以上帝国に虐げられてきたんだ。過去に敵対した代償にしちゃ払い過ぎなんじゃねえか? 獣人たちが労働力として必要なら補助金を出して通常雇用すればいい。ほかの国民と同じように扱えばいいだけだろ。地球を征服してんだ。経済的な打撃なんかたいしたことねえだろ。それに混乱と言うが国民は信仰に厚いんだろ? あんたは神のように崇められてんだろ? だったら神のお告げとかなんとか言って納得させればいいだけだ。先住民であり同じ土地に住み、同じ言語を話すエルフと獣人を人として扱う。たったそれだけの事だ。それがなんでできねえんだ」

「できぬな。増え過ぎた民を統治するうえでも獣人は必要な存在よ。エルフは帝国にとって危険な存在ゆえなおさら人としては扱えぬ」

  この野郎……自分たちより下等な存在がいるということで、国民の不満を逸らすために獣人を奴隷にしてんのかよ。それにエルフは危険だ危険だと言うが何が危険なのかさっぱりだ。ダークエルフは知らないがエルフは好戦的な種族じゃない。隷属の首輪を外して制御できなくなると何か困ることでもあんのか?
  それと人としては扱わないことにどんな関係があるってんだよ。

  いずれにしろ話し合いじゃ解決しそうもないな。

「平行線だな」

「平行線よな」

「こういう時は魔人は力がある者のいうことをきくんだよな? 」

「滅魔を封じられた魔王など恐るるに足らぬ。虚勢はやめ余にくだれ ! 」

「断る! 魔族に飼われるなんてバッドエンド以外見えねえんだよ! 」

「……そうか。余の誘いを断るか。ならば力で押さえつけねばなるまい。滅魔は視界を封じれば使えぬ。四肢を切断し目隠しをし、余の必要な時に使うこととしよう。魔王が大切にしておるそこの者は人質として確保しておこうかの」

「おめでたい妄想はもう済んだか? 俺はあんたの魔道具になんかならねえよ」

「フンッ! 余に歯向かったことを後悔するがよい! 十二神将よ。なにかほかのスキルを隠しているやもしれぬ。警戒しつつ魔王の動きを封じよ。連れの女は抵抗するならエルフを残して殺せ! 」

「「「 ハッ! 」」」

「誰を殺すだってこの野郎! クソ魔帝! すぐそこに行くから待ってろよ! ティナ、リズ、シーナ! 武器を! 扉まで下がるぞ!  」

「え? ええ! 」

「え? 下がるのか!? わ、わかった! 」

  俺は前に出て迎撃する気だったのか、戸惑うティナたちを連れて扉まで下がった。
  
  両手剣を椅子の前に突き刺し発した魔帝の号令により、魔人の騎士は左右に3人ずつ二列で盾を構え、前後で重なりながら盾で目もとを隠しゆっくり前進してきた。
  よく研究しているなほんと。

『氷河期』

  俺は徐々に距離を詰めてくる魔人を視界に収めつつ、氷河期のスキルを後方の扉に向かうように発動し扉を完全に凍らせた。
  魔帝は退路を自ら塞いだ俺を見て一瞬眉をひそめていた。

  万が一扉を開けられたら魔素が入ってくるからな。
  玉座の斜め後ろにある扉はどうしようもないが、外へと繋がっている一番大きなこの扉を塞げば十分だろう。

  そして扉を凍らせた俺は、空間収納の腕輪から直径1mはあるヴリトラのひし形の魔石を取り出し床に置いた。
  それを見たティナたちが目を見開いている。やっぱデカイよなこの魔石。

  これより少しだけ小さい90階層ボスの火竜王と80階層ボスの風竜王の魔石もそうだけど、ティナたちと出会ってからは突っ込まれると思って見せていなかったからな。

  でもこの空間にどれだけの魔素があるのか俺には見えない。ならやっと黒くなった程度のこのヴリトラの魔石なら、まだまだ余裕で吸収できるはずだ。
  火竜王と風竜王の魔石は満タンだからヴリトラ君しかいないんだ。頼むぜ?

  俺は謁見の間全てを視界に収め、ヴリトラの黒い魔石に左手を乗せながら右手を宙に突き出した。

「クソ魔帝! 俺がお前ら帝国がティナたちに与える理不尽をぶっ潰してやる! この空間にある全魔素よ! 俺に集まれ! 『滅魔』! 」

「なっ!?  グッ…… 」

  

  俺が滅魔を発動すると右手に粒子状の物が次々と入ってくる感覚があり、それをそのまま左手に通してヴリトラの魔石へと流し込んだ。

  全ての魔素を吸収し終えると、正面の段上で玉座に座り剣に両手を置いていた魔帝が、膝をつき剣に寄りかかり倒れないよう耐えていた。

  そして俺たちの方へ向かってきていた魔人騎士たちは盾の重さに耐えきれず手を離し、両膝をついていた。  
  その両腕はダラリとぶら下がり、小手の重みで剣を持ち上げることも難しそうに見えた。
  さらにヘルムの重みで前のめりに倒れないためなのか、どうぞ刈ってくださいと言わんばかりに顎を上げて頭のバランスを取っていた。

  魔人騎士たちは重い鎧を持ち上げるほどの筋力が無く、膝立ちのまま立ち上がることができないどころか倒れないよう身動きも取れないでいるようだ。

「皆! 右側を頼む! ダンジョンの時と同じだ! ティナは目を! リズとシーナは2人で首を! 」

「わ、わかったわ! 」

「な、なにが起こったのかわかんねえけどチャンスだ! シーナ! 一撃入れて兜をひっぺがしてくれ! 」

「ふえっ!? は、はい! チャンスですぅ! 」

  俺はティナたちに指示をしたあと、ヴリトラのあんまり色が変わっていない魔石を空間収納の腕輪に戻した。
  そしてすぐに横に置いていた魔鉄の剣を手に取り、剣に魔力を限界まで込めて左側の魔人騎士6人へ向かって走り出した。

「よう150歳! 最初はお前からだ! 魔物の分際で人間様を見下ろしてんじゃねえ! 」

「あ……ああ……あぎょっ! 」

「剣よ伸びろ! そのがん首まとめて刈ってやらあ! 経験値よこせようらあっ! 」

  俺は真っ先に一番手前にいたフランベルとかいう魔人の首をね、そのまま隣にいる魔人と2列目の魔人に向かって剣を水平に振った。

  魔鉄の剣の特殊能力で斬れ味が上がり、さらに刃の先に魔力の刃が発生してリーチが伸びたことで一人を残して4人の首を同時に刎ねることに成功した。
  そして剣を振り切った体勢のまま最後の一人に走り寄り、そのまま返す剣で首を刎ねた。

  繋ぎ目の鎖かたびらなのに硬かったな。あれもアダマンタイト製かよ。
  俺の腕でこれが普通の魔鉄の剣だったら、こうまで簡単に刎ねるのは難しかったかもしれない。
  さすがダンジョンの最下層にあった装備だ。魔力を込めた分だけ斬れ味が上がりリーチが伸びるとか最高かよ。

  俺は魔帝のところへと走り出しながら、右側のティナたちをチラリと見た。するとティナがレイピアを魔人の目に深々と突き刺し、さらにえぐっている姿が見えた。
  その後ろではシーナが持ち前の素早さで魔人の兜を下から蹴り上げ、兜が脱げたところにリズが双剣を突き刺していた。
  ティナとリズたちの周りには、血だらけとなり倒れている3人の魔人の亡骸があった。

  俺はティナたちは問題ないと判断し、そのまま玉座の前で片膝をつきながら剣を構えている魔帝のもとへと階段を駆け上がった。

「オラァ! クソ魔帝! 宣言通りきてやったぞ!  」

ギンッ!

「グッ……おのれ……まさか魔素を……ぬかったわ! 」

  俺が階段を駆け上がりその勢いのまま魔帝の肩目掛けて剣を振り下ろすと、魔帝は手にしていた魔鉄の剣を肩の位置まで水平に上げ両手を刃に添えて防いだ。

「研究が足らなかったな。まあよく研究したと褒めてやるよ。それにその筋力。魔力がないのにたいしたもんだ。俺の前じゃ無意味だけどな」

「ぐぬおお! 余は負けぬ! 600年にも及ぶ修練と、神話級まであと一歩というところまできたこのSS+ランクの余が! このままなにもできぬまま果てるなどあってはならぬ! 」

「教えてやるよクソ魔帝。その全てをガン無視するスキルをチートスキルってんだ。ズルいよなぁ? 一方的だよなぁ? でもそれはお前らが隷属の首輪を付けてエルフたちにやってきたことと同じなんだよ! 一切の抵抗もさせず、一方的に殺してきた獣人たちにしてきたことと同じなんだよ! 次はテメエらの番だ下等種! 」

  俺は剣を引き子供のように駄々をこねる魔帝の右腕を蹴り上げた。
  そしてバンザイをするように両腕を上げた魔帝の右脇へ、剣をすくい上げるように下から振るい肩から先を斬り飛ばした。

「ぐあぁぁぁぁ! 」

「チェックメイトだ」

  俺は後ろに倒れこみながら失った右肩を左手で押さえようとする魔帝の手を払いのけ、右肩の切断部分に手を添えて滅魔を放つのだった。




  

  
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