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第1章
第72話 対馬迎撃戦
しおりを挟むアリエルにお仕置きをしたあと、彼女が落ち着くのを待ってから両親に連絡をさせた。
娘の無事な姿を見た途端。元王妃のティニエルは泣き崩れ、それを見たアリエルもごめんなさいと泣きながら謝っていた。
前王のリンドールは日本で戦闘中らしく、Eアーマーの中からアリエルとティニエルを見つめていた。
そんな二人に、アリエルを救うという約束を果たしたし、月のダグルも全て殲滅したと伝えると驚きつつも何度も俺に感謝の言葉を口にしていた。
俺はそんなことよりも、次元の穴の守りに付いている軍を世界各国に派遣するようにリンドールに言った。月からダグルがやってくることはもうないんだから、手が空くはずだと。だったらついでに地球を救えってね。
リンドールは至急各国に連絡しますと言い、その後すぐにアガルタの軍が地球国家の救援に向かうことが決定した。その時にカブトムシとクワガタ。そして芋虫型には手を出すなと忠告した。それはお前らじゃまだ敵わないから俺が後で狩るので、居場所だけ調べて手を出すなってね。
それでどの国から行くかという話になり、俺はアガルタの各国の軍には発展途上国を優先に助けてやってくれと伝えた。
アメリカやロシアに欧州に中国とインドは、大型対空レールガンでダンゴムシをある程度海に落とすことに成功したみたいだしな。内陸部に数体のダンゴムシと三葉虫型の母船が上陸したみたいだけど、無防備だったアフリカに比べれば時間がある。まずはパワードスーツ部隊が少数しかいない発展途上国が優先だ。
現在九州沖で半島からやってくるレベル2のバッタ型と、今回初上陸のレベル3の蜂型を迎撃しているリンドールが率いる軍には、北海道と東北の日本海側の防衛を頼んだ。
どうもマッハで飛ぶ蜂型を戦艦で撃ち落としきれなくて、結構な数を上陸させてしまっているらしい。それでも今のところは福岡で小長谷の部隊と協力し、地上で対応できているそうだ。リンドールも今は福岡で戦っているらしい。
蜂型の外皮はバッタより柔らかいらしいんだけど、なんか魔力弾みたいなのも吐くらしい。そういえば月にもいたかも。他のダグルと一緒にまとめて重圧で落とした時に潰れてたから、あんまり気になんなかったわ。
まあ俺がもうすぐ着くからその辺は心配ないと言って、リンドールには北海道に向かうように指示をした。ロシア方面からやってくるかもしれないしな。
そしてリンドールと通信を切った後、必死の形相で戦っている小長谷に連絡して対馬へ移動する準備をするように言った。小長谷はそんな余裕無いぞとか言ってたけど、俺が現れればダグルは俺に向かってくるから心配するなといって、東北で待機中の森高1尉の部隊と対馬に来いと伝えて通信を切った。
「さて、こんなもんかな。レイコ、九州の福岡上空をゆっくり通りながら対馬に向かってくれ。そこで大陸から来るダグルを集めて殲滅する」
「わかったわ。結界は張ってくれるのよね? 蜂型のエーテル弾はそこまで強力じゃないけど、この船のエーテルシールドじゃいつまでも耐えられないわよ? 」
「ああ、結界は張る。それに追ってくる蜂はカレンが落とすから大丈夫だ。カレン、後部ハッチに移動してくれ。アリエルも親衛隊と一緒に迎撃してくれ」
俺は母親との通信が終わったアリエルと、彼女の涙を拭ってあげていたカレンに迎撃するように頼んだ。
「ん……わかった」
「は、はいっ! 全て撃ち落として見せます! 」
「遊びだよ遊び。魔力弾なんかで結界は破られないよ。カレンと撃墜スコアでも競っていてくれ」
俺がそう言うとカレンの目が光った。
「んふっ……ハンデでフィロテスも付ける……合格点だったらこのマジックポーチをあげる」
「マジックポーチをですか!? 欲しいです! がんばります! 」
カレンの提示した報酬に、アリエルは両手を胸もとで組んで目をキラキラさせている。
「ん……その目……リーゼそっくり……がんばる」
「ははっ、ほんとにそっくりだな」
「聖女リーゼリット様を知っている方に、そう言って頂けるのは光栄です。聖女様のような人格者ではありませんが、民を守るために先頭になって戦います! 」
「……人格者? 」
「アリエル。歴史ってのは美化されるもんだ。リーゼリットは確かに優しい子だったが、アリエルくらいの頃はいつもボケーッとしていてそのうえ頑固で、お前と同じ親のいうことを聞かなくて人格者とはほど遠かったぞ? 」
俺たちがいなくなり子を持つ親になったことで落ち着いたのかもしれないけど、その前はとても世話の焼ける子だった。
「聖女様がお若い時はそんな……でしたら私も聖女様のようになれる可能性があると言うことですね! 勇者様と常に一緒にいた聖女様に……私が勇者ワタル様と……」
「ワタル……この子面白い」
「ははは、そうだな。これが素なのかもな」
王女という地位と責任感から、肩肘を張り民を守るためにと強引な行動を取ったりしてたんだろうな。なんか余裕無かったしな。でも、こうして見れば普通の女の子なんだよな。
なんだかなぁ、本当にリーゼリットそっくりで憎めないんだよな。
俺は何が嬉しいのかニヤニヤしているアリエルをカレンとフィロテスに連れて行かせ、そのあと船体の半分を覆うように結界を張った。
そして宇宙戦艦『リーゼ』は地球の大気圏へと突入し、俺とカレンはエーテルを全開放しながら九州の福岡へ向かった。
※※※※※※※※※※
「おーおーおー、結構速いな」
福岡上空に到達すると、海岸線でバッタと蜂型のダグルを迎撃している自衛隊の対空レールガン部隊と、小長谷率いるEC連隊がモニターに映し出された。
対空レールガンはまったく当たっていない。むしろ蜂から対空砲を守るために、小長谷たちが盾になって思うように戦えていない様子だ。
リンドールの部隊を下げてから、まだそんなに経ってないのに劣勢になりすぎだろ。やっぱもっと鍛えないとな。
「ゴシュジンサマ、蜂型のダグルは月での飛行速度より速いぜ? 」
「多分風に乗ってるとかじゃないか? お? 小長谷と戦闘中の蜂とバッタもこっちに来たな」
俺がリカと話していると、モニターに映っていた蜂とバッタが次々とこっちへやってきた。
「小長谷! 輸送機に乗って対馬に来い! 島の北の海岸で狩る! 」
《わ、わかった! 森高1尉がこっちに向かっている。合流してから対馬へ向かう! 》
「急いで来いよ? エーテルボーナスタイムだ。強くなるチャンスだぞ! 」
俺がそう言うと小長谷は青ざめた顔で頷いていた。まあ半島や大陸から、続々とダグルが俺とカレンのエーテルめがけてやってくるだろうしな。丸一日とんでもない数のダグルと戦いづくめになると思ったんだろう。うん、それは恐らく正解だ。
そして俺は一足先にゆっくりと対馬へと向かった。船尾ではカレンとフィロテスたちが追ってくる蜂とバッタを次々と撃ち落としている。俺はトワの尻を撫でながらそれをモニター越しに見ていた。
「ご主人様。セクハラでやす」
「知らないのか? 相思相愛ならセクハラじゃなくてスキンシップになるんだよ」
「……なら問題ないでやす」
俺は無表情で頷いたトワが可愛くて、下着の中に手を入れてスキンシップをエスカレートさせた。
それから20分ほどして対馬に着き、海岸沿いに着陸した。そして小長谷に現在地のデータを送り、カレンとアリエルたちの部隊と共に宇宙船から外へと出た。上空を見上げると、追ってくるダグルは一匹もいなくなっていた。
「ワタル……マジックポーチあげた」
「お? そんなにがんばったのか。よかったなアリエル」
俺は嬉しそうにマジックポーチを胸に抱いているアリエルの頭を撫でた。
「はい! カレン様は圧倒的でしたが、なんとか私も撃ち落とせました。その……ありがとうございます。ずっと欲しかったんです」
「そうだったな。そのために俺たちを襲撃したんだもんな」
「あっ! も、申し訳ございませんでした……」
「冗談だって。そんなんでいいなら普通に頼んでくればやったって事だ。これから欲しいものがあったら、それがどんなに必要な物だとしてもちゃんと頭を下げてお願いするんだぞ? 」
「はい……わたし本当に馬鹿だ……こんなに優しい方たちにあんな……ううっ……」
あ、また泣いちゃったよ。尻を叩いてからずいぶん泣き虫になったな。まるで子供に戻ったみたいだ。
「アリエル……泣いてばかり……いい子だから泣かない」
「ぐすっ……はい……カレン様」
カレンに頭を撫でられて涙を拭われて、百歳以上アリエルの方が年上なんだけどな。
ああ、リーゼリットもこんな感じだったな。
「さて、それじゃあ小長谷たちがくるまでに、ちょっと大陸と半島の近くに行ってくるか。カレン、二手に分かれるぞ」
「ん……数は? 」
「調整無しだ。アリエルたちもいるからな」
確か半島と中国には、レールガンで軌道を変えて海に落とした4体のダンゴムシが上陸したはず。その中で飛行型はせいぜい3千てとこだろ。インドでの実戦訓練の時よりはダグルのランクは高いけど、アリエルの親衛隊が26機もいるんだしなんとかなるはず。
「重圧は使う? 」
「そんなの使ったら訓練にならないだろ? 」
「んふっ……ここは地獄の一丁目」
「小長谷たちのな」
「みんな強くなる……死ににくくなる……かんぺき」
「そうだな。死んだ顔にはなりそうだな」
そんな掛け合いをした後に、俺とカレンはお互いニヤリと笑って大陸方面へと飛び立った。
※※※※※※※※※※
《連隊長! 第3中隊の2機が魔弾を受け行動不能! 回収して臨時基地にて乗り換えさせます! 》
《了解! すぐ戻るように伝えろ! 森高1尉! 第2中隊は第3中隊を援護せよ! 》
《りょ、了解! 第1小隊行ける!? 》
《む、無理です! 3機被弾しました! 救援を要請します! 》
《ええ!? 連隊長! 第2中隊は動けません! 援護お願いします! 》
《ぐっ……こ、こちら日本国自衛隊小長谷2佐! アリエル様、ご助力お願いします》
《わ、わかったわ! マグワイア、小隊を連れてワタル様のご友人を助けに行ってあげて! 》
《ハッ! 承知いたしま……ひ、姫様! 500ほどの蜂型ダグルが新たにレーダーに! 我々の担当するエリアに向かってきております! 》
《なっ!? まだ400は残ってるのに……コナガヤさん、ごめんなさい。ちょっと行けないわ》
《ぐふっ……わ、航! ちょっとカレンちゃんと散歩に行ってきてくれ! 》
「ええ~、モモにコーヒーいれてもらったばかりなんだよなぁ」
「ん……おいしい」
俺が海沿いで戦っている皆を眺めながら、カレンたちと宇宙船の甲板で優雅にお茶をしていると、小長谷から悲痛な声で散歩に行けと言われた。
《おいっ! わかってるんだろ! 本当に散歩に行けと言ってるわけじゃないのを! エーテルを抑えてくれって頼んでるんだよ! インセクトイドがどんどん寄ってきて手が回らないいんだ! バッタ型ならまだしも、蜂型はなかなか落とせないんだ。頼む! 時間をくれ! 》
「なんだよもうギブかよ。今回はエルサリオンの精鋭もいるんだぞ? はぁ~、しょうがねえな。一回だけだぞ? 『重圧』! ほらっ、これでいいだろ」
俺はまだ予定の半分も倒してないのに、早々にギブアップした小長谷たちの部隊の上空のダグルに重圧の魔法を放った。
それにより数百体のバッタと蜂型のダグルが地上に落ち、地面に押さえつけられたかのように動きを止めた。
《助かる! 今だ! 第1中隊は落下したインセクトイドを! 第2第3中隊は被弾した機体を後方に下げよ! 》
《了解! 》
小長谷たちは上空にダグルがいなくなった隙に、80機の第1中隊で落下したダグルに剣でトドメを差しに行った。
アリエルたちはさすが経験値の差か、なんとかさばいてる。でもこのままじゃ小長谷たちを鍛えられないな。アリエルたちを休ませるか。
ったく、まだ4時間しか経ってないのに。
「アリエル。宇宙船で休憩しておいで。客室使っていいから、ほかの女性騎士とお風呂でも入っておいで」
《え? い、いいのですか? 私たちが抜けてしまうとご友人が……》
「大丈夫大丈夫。いつもこんな感じだから。即死さえしなければ回復させられるし。一応俺たちも見てるからさ」
《そ、即死……は、はい。それでは補給に戻ります。ごめんなさいねコナガヤさん》
《なっ!? 航ぅぅぅ! 》
「しょうがないだろ。アリエルたちよりエーテル保有量が少ないんだし。ほら、終わったら今回仕入れた魔結晶を連隊にやるから。さあ、新手の500体逝ってみよう! 」
《《《鬼ぃぃぃぃ! 鬼教官! 》》
「ん……みんなのために鬼になる……ここは地獄の一丁目」
《カレンちゃん!? 》
「さあ、隊列を整えろ! レールガンは使うなよ? 今回やってくるダグルを全部近接戦闘で倒せば、今のままの見た目であと5年はいられるぞ! 30になっても25歳だ! がんばれ! 」
《え? 30になってもこのまま!? 》
《うそ……それに今後はあの強力な魔結晶の武器が増える? 》
《そしたらもっとエーテルが増えやすくなるかも》
《ねえ、もしかして……40になっても20代とかありえるんじゃない? 》
《!? 》
《第2中隊展開せよ! 一匹たりとも逃すな! 》
《第3中隊やるよ! 美魔女になるために! 》
《了解! 美魔女になるために! 》
俺のリアルで具体的な情報に、20から28歳の女性ばかりの第2と第3中隊の160人の乙女たちは奮起した。
そしてなぜか小長谷が率いる第1中隊の女性自衛官40名も合流し、さらに小長谷と残された40人の男たちはトドメを差す事を禁止させられていた。
この辺は獣人女性たちとそっくりな行動だよな。種族が違えどみんな若いままでいたいのは同じだな。
「凄いですね……先ほどと動きが全然違います」
隣で紅茶を飲んでいたフィロテスが、呆気にとられた顔で彼女たちの戦いぶりを見て言った。
「人族は寿命が短いからね。ずっと綺麗なままでいれるならがんばれるんだよ」
「ん……私もワタルのためにずっと綺麗なままでいる」
「カレンはただでさえ700年は寿命がある種族な上に、エーテル保有量まで高いんだ。心配することはないだろ。千年以上は生きるんじゃないか?」
「ん……ワタルと一緒」
「まあな。俺もそんくらい生きそうだな」
膨大なエーテル保有量と、老化速度が10分の1になる特級の老化停滞の魔結晶を身に付けてるからな。仙人になるのは免れないだろうな。
「千年……私もエーテル保有量を上げないと……」
「フィロテスには3等級の老化停滞の魔結晶を融合するから心配しなくていい。老化速度が2分の1になるから、ちょうど千年は生きられる。ずっと一緒だ」
「あ……ずっと……はい……」
あれ? なんかプロポーズみたいになっちゃたな。まあどうせいずれするつもりだったし、訂正する必要も無いか。避妊もしてないし。
「私はメンテナンスさえすれば寿命がないでやす。仕方ないからご主人様を看取ってやるでやす」
トワは本当に仕方なさそうな顔をしてるけど、俺には聞こえてるんだよ。ご主人様と一生一緒にいたいっていう心の声がな。可愛い奴め。
「あたしも無いんだよなぁ。仕方ねえ、ゴシュジンサマの介護をしてやるか」
「ボケたご主人様の介護も仕事のうちかぁ。だいぶ先なのが救いよね」
「ボケねえよ! 」
ルリはなんちゅう失礼なことを言うんだ! ダグルを片付けたら海での続きをしてやるからな。待ってろよ!
「ん……みんなずっと一緒……楽しい」
「そうだな。ずっと一緒だ」
俺はそう言ってカレンとフィロテスの肩を抱いた。
新たに現れたダグルに囲まれ、悲鳴を上げている小長谷の声を聞き流しながら。
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