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第十四話 初恋
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――最初は、変な奴だと思った。
綾樹が結羽に対する第一印象だった。
入学式を終え、指定された教室でつまらなそうに窓の外を眺める結羽の顔を綾樹は覚えている。
そして、入学式の次の日に新入生たちはそれぞれグループを作り、連絡先の交換を始めた。
綾樹もその中に混ざって、仲良くなった男子生徒と連絡先を交換したり、他愛のない話をする。
(あ……)
けど、結羽はその中に混ざらず、鞄を肩に掛け、速攻で教室を出て行った。
(天野だっけ……? あいつ、誰かと連絡先交換しねぇのか?)
周りは友達を作っていくのに、結羽だけは距離を置くように一日を送っていた。
そんな結羽を見て、妙に気になってしまった綾樹は、彼女のことを目で追うようになった。
◇ ◇ ◇
高校生活に慣れ始めた頃、綾樹は休み時間になると、グループのメンバーとはしゃいでいる。
(あ……また壁、作ってる)
結羽は休み時間になる度、ワイヤレスイヤホンを耳に取り付け、スマホの画面を眺める。
夢中でスマホをタップしながら操作する結羽に、綾樹は何をしているんだろうと気になった。
そんなことを考えていると、二人の女子生徒が結羽に話し掛けてきた。
結羽は彼女たちに気づき、耳からワイヤレスイヤホンを取り外した。
視線が合うと、彼女たちは結羽に「何見てたの!」や「天野さんって、どんな俳優が好き?」
と、矢継ぎ早に問い掛けてきた。
結羽はいきなり声を掛けられて戸惑っていたが、すぐに笑みを浮かべて彼女たちの質問に答え始めた。
「…………」
綾樹はその光景を呆然と眺めた。
(……楽しく、なさそうだな)
綾樹はそう思った。
結羽は一見楽しそうに笑っているが、綾樹から見て、相手との空気を合わせて笑っているように見えた。
(心の底から笑っている天野って……どんな顔なんだろう)
いつも仏頂面で、相手が話し掛けたら愛想笑いを浮かべるだけの結羽のことを綾樹はより一層気になってしまった。
(顔、結構可愛いし……笑ったら、もっと可愛いんだろうな)
◇ ◇ ◇
夏休みが明けた頃、クラスに変化が起きた。
クラスで美人と言われている花梨がクラスメイトから避けられるようになったのだ。
綾樹は疑問に思ったが、すぐにどうでもよくなり、一学期の頃から変わらず自分の世界に浸っている結羽を目で追っていた。
「女子の嫉妬って怖ぇよな」
「あの噂、絶対にデマだな」
昼休みになり、綾樹は空き教室でグループのメンバーと昼食を取っていた。
「好きな人に振られた原因が森西さんだからって、やり過ぎだろ」
「でも、俺らの誰かが庇ったところで余計に女子の嫉妬を煽るだけだもんな」
「そうそう。なぁ、綾樹はどうする?」
「え?」
突然話を振られ、綾樹は食していた焼きそばパンから顔を上げる。
「どうするって……熱りが冷めるのを待つしかないんじゃね?」
「まぁ、そう結論になるな……」
綾樹の意見にその場の全員は頷くのだった。
◇ ◇ ◇
昼休みを終え、午後の授業が始まろうとする。
(……?)
綾樹はふと結羽の席を見る。
そこには授業の準備をしている結羽がいるが、顔色が今朝より悪いように見えた。
(体調悪いのか……?)
顔色からしてそう判断した綾樹。
綾樹は心配の声を掛けたかったのだが、大して親しくもない結羽を目の前にすると気が引けてしまう。
(話し掛けても迷惑になるだけだよな……)
綾樹はそのまま自分の席に座って授業の準備をした時、結羽が席から立ち上がった。
「森西さん……ちょっといいかな?」
結羽は教科書を手に花梨の席に来た。
「天野さん? どうしたの?」
「森西さん、教科書忘れた?」
「え、うん……それがどうしたの?」
怪訝な表情を浮かべる花梨の前に、結羽は持っていた教科書を差し出す。
「よかったら、私の教科書使って」
「え⁉︎ い、いいよ……! それじゃあ、天野さんが使えなくなるじゃん!」
「私、体調が良くなくって……午後は保健室で休むんだ」
「そうなの……天野さん、いいの?」
「もちろん。その代わり……今日の授業のコピー取らせてもらっていいかな?」
「全然いいよ! 教科書貨してくれるんだし」
「ありがとう」
「ううん、こちらこそありがとね!」
花梨は差し出された教科書を受け取ると、結羽は教室を出た。
この光景を見て、クラスメイトたちはひそひそと話をしていた。
「噂になっている森西さんのイメージが違う」や「全然性悪じゃなくない?」
とクラスメイトたちは意外そうに言った。
「…………」
綾樹はクラスメイトたちとは反対に、結羽の行動に驚きを感じていた。
花梨の噂に流されず、自然と話し掛けた結羽の姿に綾樹は胸が波打つのを感じた。
◇ ◇ ◇
綾樹が驚いたのはそれだけじゃなかった。
結羽が教科書を貸したその日から、花梨は休み時間なると、結羽の席へ来るようになった。
(無駄だって、どうせ話し掛けても……天野が見せる笑顔はただの愛想笑いって……は?)
そこには綾樹の思っていた光景がどこにもなかった。
結羽がスマホ画面を花梨に見せると、花梨も同じように自分のスマホ画面を見せた。
花梨のスマホ画面を見た結羽は「え、え?」と驚きと喜びが入り混じった表情をしていた。
綾樹は二人が何を話しているのか聞き取れないが、様子からして同じ趣味で意気投合し、盛り上がっているのだろうと思った。
(天野って……あんな風に笑うんだな)
綾樹がずっと見たかった結羽の心の底からの笑顔があった。
(……可愛い)
と、綾樹は思った。
同時に、結羽の色々な表情を見たいと思うようになった。
◇ ◇ ◇
「好きなんじゃん、それって」
放課後、ファミレスで一緒に寄り道している晃が言い出した。
「え!」
晃の言葉に、綾樹は目を丸くする。
「だって目で追っちゃうくらい気になるんだろ? それ、好きって証拠じゃん」
「そう、なのか……」
「まさか自覚なし?」
「俺……マジで人を好きになるのは初めてなんだよ」
「お前……中学の頃、女とっかえひっかえしてたじゃん」
「人聞悪いこと言うな。向こうから告ってきたから、何となく付き合ってただけだ」
「それをとっかえひっかえっていうんじゃねぇ? てことは……今まで付き合った中で本気になった女はいなかったってことか?」
「付き合ったら好きになるかもって思ったけど、そうはならなかったんだ……。結果、『来るもの拒まず、去るもの追わず』な付き合い方になった感じ」
「ふーん……まさか、綾樹の口から恋バナが聞けるとはねぇ~」
晃は半分残ったコーラを一気に飲み干す。
「でも、今のままじゃダメだぞ」
空になったコップを置いて、晃はそう言う。
「何でだ?」
「お前……バカか?」
疑問符を浮かべる綾樹を見て、晃は呆れるように溜め息を吐く。
「単刀直入にいうと、お前は天野さんに嫌われている」
「は?」
晃の衝撃的な発言に、綾樹の眉がピクッと動く。
「お前……天野さんのことからかってばっかで一度でも優しくしたことあったか?」
「うぐっ……」
「お前の良いところを見せていない。天野さんの良いところを褒めない。そんな男を好きになる女なんかいねぇよ」
晃の容赦ない言葉の刃が綾樹の胸にグサグサと突き刺さる。
同時に、結羽にしてきた数々の悪行が蘇る。
「見た感じ、天野さんって恋愛とか疎そうじゃん。つまり、綾樹の好意に気づいていない!」
「もうやめろ……俺のライフゲージがなくなる」
「天野さんに好かれたいなら、もっと努力しろ」
「努力って……具体的に何すれば良いんだよ?」
「まずは、さりげない優しさを見せるところだな」
「さりげない優しさ?」
「ま、今やったところで手遅れだと思うけどな。じゃあ俺、この後彼女と会うから」
「おいおい! 見捨てるなよ!」
会計簿を手に去ろうとする晃の腕を綾樹は咄嗟に掴む。
「きっかけは自分で見つけろよ」
「きっかけって……」
晃はポンと綾樹の肩に手を置く。
「まぁ、そこは頑張れ」
「…………」
◇ ◇ ◇
学年が上がり、綾樹は高校二年生になった。
クラス替えでは結羽と同じクラスで、綾樹の胸は高鳴った。
だが、晃のアドバイス通りにはいかなかった。
結羽を前にすると緊張してしまい、それを隠すために思ってもない皮肉を口走ってしまうのだ。
結局、綾樹は去年と変わらず、結羽の気を引くためにからかって接することしかできなかった。
「あ、ヤベェ……」
放課後になり、綾樹は自宅に辿り着く。
自室で課題をやろうとしたところ、担任の先生に渡されたプリントがないことに気づく。
「明日は絶対当てられる日付なんだよな……」
ない以上学校に戻って、取りに行かないといけない。
綾樹は億劫そうに外へ出て、学校までの道のりを歩き出す。
徒歩二十分の距離だからか、程無くして学校に到着する。
外靴から上履きに履き替えて、綾樹は急足で教室に向かう。
(あれ……?)
教室に到着した時、綾樹は教室の向こうに誰かいることに気づく。
綾樹はそっと教室の窓を覗くと、そこには結羽がいた。
(天野? あいつ何やってんだ?)
結羽は何故か冬真の席で呆然と立ち尽くしていた。
(……!)
綾樹はハッと目を見開いた。
何気なく静観していると、結羽は思わぬ行動に出たのだ。
結羽はそっと椅子に掛けてあった冬真のブレザーを手に取ると、顔をうずめるように抱き締めたのだ。
――きっかけは自分で見つけろよ。
結羽の行動を見て、頭の中でいつか言った晃の言葉を思い出す。
それと同時に、綾樹の胸中にふつりと出来心が生まれる。
綾樹は制服のポケットに入れていたスマホを取り出し、結羽を撮影した。
我ながら最低なことをしていると綾樹は自覚があった。
でも、結羽を繋ぎ止める方法は今目の前にあった。
これを逃すわけにはいかない。
それが、『歪な繋がり』だとしても……――。
綾樹が結羽に対する第一印象だった。
入学式を終え、指定された教室でつまらなそうに窓の外を眺める結羽の顔を綾樹は覚えている。
そして、入学式の次の日に新入生たちはそれぞれグループを作り、連絡先の交換を始めた。
綾樹もその中に混ざって、仲良くなった男子生徒と連絡先を交換したり、他愛のない話をする。
(あ……)
けど、結羽はその中に混ざらず、鞄を肩に掛け、速攻で教室を出て行った。
(天野だっけ……? あいつ、誰かと連絡先交換しねぇのか?)
周りは友達を作っていくのに、結羽だけは距離を置くように一日を送っていた。
そんな結羽を見て、妙に気になってしまった綾樹は、彼女のことを目で追うようになった。
◇ ◇ ◇
高校生活に慣れ始めた頃、綾樹は休み時間になると、グループのメンバーとはしゃいでいる。
(あ……また壁、作ってる)
結羽は休み時間になる度、ワイヤレスイヤホンを耳に取り付け、スマホの画面を眺める。
夢中でスマホをタップしながら操作する結羽に、綾樹は何をしているんだろうと気になった。
そんなことを考えていると、二人の女子生徒が結羽に話し掛けてきた。
結羽は彼女たちに気づき、耳からワイヤレスイヤホンを取り外した。
視線が合うと、彼女たちは結羽に「何見てたの!」や「天野さんって、どんな俳優が好き?」
と、矢継ぎ早に問い掛けてきた。
結羽はいきなり声を掛けられて戸惑っていたが、すぐに笑みを浮かべて彼女たちの質問に答え始めた。
「…………」
綾樹はその光景を呆然と眺めた。
(……楽しく、なさそうだな)
綾樹はそう思った。
結羽は一見楽しそうに笑っているが、綾樹から見て、相手との空気を合わせて笑っているように見えた。
(心の底から笑っている天野って……どんな顔なんだろう)
いつも仏頂面で、相手が話し掛けたら愛想笑いを浮かべるだけの結羽のことを綾樹はより一層気になってしまった。
(顔、結構可愛いし……笑ったら、もっと可愛いんだろうな)
◇ ◇ ◇
夏休みが明けた頃、クラスに変化が起きた。
クラスで美人と言われている花梨がクラスメイトから避けられるようになったのだ。
綾樹は疑問に思ったが、すぐにどうでもよくなり、一学期の頃から変わらず自分の世界に浸っている結羽を目で追っていた。
「女子の嫉妬って怖ぇよな」
「あの噂、絶対にデマだな」
昼休みになり、綾樹は空き教室でグループのメンバーと昼食を取っていた。
「好きな人に振られた原因が森西さんだからって、やり過ぎだろ」
「でも、俺らの誰かが庇ったところで余計に女子の嫉妬を煽るだけだもんな」
「そうそう。なぁ、綾樹はどうする?」
「え?」
突然話を振られ、綾樹は食していた焼きそばパンから顔を上げる。
「どうするって……熱りが冷めるのを待つしかないんじゃね?」
「まぁ、そう結論になるな……」
綾樹の意見にその場の全員は頷くのだった。
◇ ◇ ◇
昼休みを終え、午後の授業が始まろうとする。
(……?)
綾樹はふと結羽の席を見る。
そこには授業の準備をしている結羽がいるが、顔色が今朝より悪いように見えた。
(体調悪いのか……?)
顔色からしてそう判断した綾樹。
綾樹は心配の声を掛けたかったのだが、大して親しくもない結羽を目の前にすると気が引けてしまう。
(話し掛けても迷惑になるだけだよな……)
綾樹はそのまま自分の席に座って授業の準備をした時、結羽が席から立ち上がった。
「森西さん……ちょっといいかな?」
結羽は教科書を手に花梨の席に来た。
「天野さん? どうしたの?」
「森西さん、教科書忘れた?」
「え、うん……それがどうしたの?」
怪訝な表情を浮かべる花梨の前に、結羽は持っていた教科書を差し出す。
「よかったら、私の教科書使って」
「え⁉︎ い、いいよ……! それじゃあ、天野さんが使えなくなるじゃん!」
「私、体調が良くなくって……午後は保健室で休むんだ」
「そうなの……天野さん、いいの?」
「もちろん。その代わり……今日の授業のコピー取らせてもらっていいかな?」
「全然いいよ! 教科書貨してくれるんだし」
「ありがとう」
「ううん、こちらこそありがとね!」
花梨は差し出された教科書を受け取ると、結羽は教室を出た。
この光景を見て、クラスメイトたちはひそひそと話をしていた。
「噂になっている森西さんのイメージが違う」や「全然性悪じゃなくない?」
とクラスメイトたちは意外そうに言った。
「…………」
綾樹はクラスメイトたちとは反対に、結羽の行動に驚きを感じていた。
花梨の噂に流されず、自然と話し掛けた結羽の姿に綾樹は胸が波打つのを感じた。
◇ ◇ ◇
綾樹が驚いたのはそれだけじゃなかった。
結羽が教科書を貸したその日から、花梨は休み時間なると、結羽の席へ来るようになった。
(無駄だって、どうせ話し掛けても……天野が見せる笑顔はただの愛想笑いって……は?)
そこには綾樹の思っていた光景がどこにもなかった。
結羽がスマホ画面を花梨に見せると、花梨も同じように自分のスマホ画面を見せた。
花梨のスマホ画面を見た結羽は「え、え?」と驚きと喜びが入り混じった表情をしていた。
綾樹は二人が何を話しているのか聞き取れないが、様子からして同じ趣味で意気投合し、盛り上がっているのだろうと思った。
(天野って……あんな風に笑うんだな)
綾樹がずっと見たかった結羽の心の底からの笑顔があった。
(……可愛い)
と、綾樹は思った。
同時に、結羽の色々な表情を見たいと思うようになった。
◇ ◇ ◇
「好きなんじゃん、それって」
放課後、ファミレスで一緒に寄り道している晃が言い出した。
「え!」
晃の言葉に、綾樹は目を丸くする。
「だって目で追っちゃうくらい気になるんだろ? それ、好きって証拠じゃん」
「そう、なのか……」
「まさか自覚なし?」
「俺……マジで人を好きになるのは初めてなんだよ」
「お前……中学の頃、女とっかえひっかえしてたじゃん」
「人聞悪いこと言うな。向こうから告ってきたから、何となく付き合ってただけだ」
「それをとっかえひっかえっていうんじゃねぇ? てことは……今まで付き合った中で本気になった女はいなかったってことか?」
「付き合ったら好きになるかもって思ったけど、そうはならなかったんだ……。結果、『来るもの拒まず、去るもの追わず』な付き合い方になった感じ」
「ふーん……まさか、綾樹の口から恋バナが聞けるとはねぇ~」
晃は半分残ったコーラを一気に飲み干す。
「でも、今のままじゃダメだぞ」
空になったコップを置いて、晃はそう言う。
「何でだ?」
「お前……バカか?」
疑問符を浮かべる綾樹を見て、晃は呆れるように溜め息を吐く。
「単刀直入にいうと、お前は天野さんに嫌われている」
「は?」
晃の衝撃的な発言に、綾樹の眉がピクッと動く。
「お前……天野さんのことからかってばっかで一度でも優しくしたことあったか?」
「うぐっ……」
「お前の良いところを見せていない。天野さんの良いところを褒めない。そんな男を好きになる女なんかいねぇよ」
晃の容赦ない言葉の刃が綾樹の胸にグサグサと突き刺さる。
同時に、結羽にしてきた数々の悪行が蘇る。
「見た感じ、天野さんって恋愛とか疎そうじゃん。つまり、綾樹の好意に気づいていない!」
「もうやめろ……俺のライフゲージがなくなる」
「天野さんに好かれたいなら、もっと努力しろ」
「努力って……具体的に何すれば良いんだよ?」
「まずは、さりげない優しさを見せるところだな」
「さりげない優しさ?」
「ま、今やったところで手遅れだと思うけどな。じゃあ俺、この後彼女と会うから」
「おいおい! 見捨てるなよ!」
会計簿を手に去ろうとする晃の腕を綾樹は咄嗟に掴む。
「きっかけは自分で見つけろよ」
「きっかけって……」
晃はポンと綾樹の肩に手を置く。
「まぁ、そこは頑張れ」
「…………」
◇ ◇ ◇
学年が上がり、綾樹は高校二年生になった。
クラス替えでは結羽と同じクラスで、綾樹の胸は高鳴った。
だが、晃のアドバイス通りにはいかなかった。
結羽を前にすると緊張してしまい、それを隠すために思ってもない皮肉を口走ってしまうのだ。
結局、綾樹は去年と変わらず、結羽の気を引くためにからかって接することしかできなかった。
「あ、ヤベェ……」
放課後になり、綾樹は自宅に辿り着く。
自室で課題をやろうとしたところ、担任の先生に渡されたプリントがないことに気づく。
「明日は絶対当てられる日付なんだよな……」
ない以上学校に戻って、取りに行かないといけない。
綾樹は億劫そうに外へ出て、学校までの道のりを歩き出す。
徒歩二十分の距離だからか、程無くして学校に到着する。
外靴から上履きに履き替えて、綾樹は急足で教室に向かう。
(あれ……?)
教室に到着した時、綾樹は教室の向こうに誰かいることに気づく。
綾樹はそっと教室の窓を覗くと、そこには結羽がいた。
(天野? あいつ何やってんだ?)
結羽は何故か冬真の席で呆然と立ち尽くしていた。
(……!)
綾樹はハッと目を見開いた。
何気なく静観していると、結羽は思わぬ行動に出たのだ。
結羽はそっと椅子に掛けてあった冬真のブレザーを手に取ると、顔をうずめるように抱き締めたのだ。
――きっかけは自分で見つけろよ。
結羽の行動を見て、頭の中でいつか言った晃の言葉を思い出す。
それと同時に、綾樹の胸中にふつりと出来心が生まれる。
綾樹は制服のポケットに入れていたスマホを取り出し、結羽を撮影した。
我ながら最低なことをしていると綾樹は自覚があった。
でも、結羽を繋ぎ止める方法は今目の前にあった。
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