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刹那編
第十七話 交わした約束
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風の強さは増し、噎せ返るような鉄錆の臭いが舞う。
緑がかった草木が赤黒く染まっており、その中に青年――刹那が足元に広がった血溜まりの前で呆然と佇んでいた。
刹那の周囲には、自身を襲おうとした男四人が無惨な肉塊の姿になっていた。
「…………」
全身を奮い立たせた衝動が収まると、胸にぽっかりと穴の空いた虚しさが刹那を包み込んだ。
この感覚に刹那は慣れてはいたが、何をしても満たされないもどかしさを覚えている。
(また同じか……)
それでもこの行為をやめられなかった。
優位に立って見下していた者が歪んで落ちていく様に、それが刹那にとって堪らなく快感だった。
初めてこの快感を覚えたのは、野生のヒグマだ。
飢えを満たそうと、ようやく見つけた獲物である刹那に襲い掛かろうとしたところ、大鎌を一振りであっけなく絶命させられた。
獲物に殺されたヒグマの落差に、刹那は言葉では言い表せないくらいの興奮を覚えた。
成長につれて、刹那は背が伸び、体に筋肉がつき始めた頃、気づけば対象が四足歩行の動物から人間と妖怪に移り変わった。
今までとは違う抵抗して来る遊び相手に、刹那の心は踊った。
いつしか暴力に抵抗がなくなり、次第に人間だった頃の記憶と感情が徐々に薄れてしまった。
✿ ✿ ✿
「う……ぐっ……」
あっという間だった。
刹那に襲い掛かった盗賊の男が大鎌に切り裂かれて絶命する。
「相手が悪かったな」
息を引き取った男の体を刹那は爪先で軽く蹴る。
男の切り裂かれた腹から血が流れ、地面を赤く汚していく。
それを呆然と見ていると、刹那は内側から何かが抜けていく感覚に陥る。
「ハァ……」
刹那は嘆息を吐く。
先ほどまで抱いていた快感は一瞬で消え、どうしようもない虚しさだけが残っていた。
刹那は暴力が好きと言うわけではなかった。
自身に目をつけてきた相手が獲物に飛び掛かるような勢いで来ると本能的に壊したくなるのだ。
その繰り返しだった。
決まっては一瞬の快感と胸に渦巻いていた衝動が収まるだけで、刹那に何かをもたらしたことはなかった。
「オレは何がしたいんだ……」
自分で自分がわからなかった。
こんなことを繰り返してまで、何を望んでいるのか……。
「――こんにちは」
軽く柔らかな声が聞こえ、刹那はハッと振り返る。
視線の先には、美しい艶やかな銀色の髪に白い和服を着た二十代前半の男性がいた。
「何だ、テメェは……」
「悪名高い野盗の集団がたった一夜で殲滅された噂を耳にしたんだ」
男性は惨状な光景が目の前にあるにも関わらず、穏やかな口調と浮かべている笑みを崩さず淡々と話を続けた。
「もしかして……君の仕業かな?」
「どれのことかわかんねぇー」
男性に問い掛けられ、刹那は面倒臭さそうに答える。
「つーかお前、人間でも妖怪でもねぇな。何もんだ?」
人間と妖怪とは異なる男性の雰囲気と容姿に刹那は怪訝になる。
「聖獣といえばわかるかな……種族は真神で名は夕凪」
「聖獣……用は神に仕える獣ってことか」
「まあそうなるね」
夕凪と名乗った男性はふっと失笑する。
「聖獣がオレに何の用だよ……って、聞くまでもねぇな。善良な聖獣のことだ。わざわざこうして目の前に現れたってことは、オレを滅しに来たんだろ?」
「思いの外、自分のしていることに理解しているようだね。でも、僕は君を滅しに来たんじゃない。単純に君に興味があってね」
「あ?」
夕凪の言葉に、刹那は面食らった顔をする。
「質問してもいいかな? 君は屈強な野盗相手に殺戮を繰り返している。もしかしてどこかに雇われた暗殺者なのかな?」
「んなわけねぇだろ。そもそも誰かの下につくとか虫酸が走る」
「それとも腕試しのつもりかな? やり方は残虐だけど」
「そんなんじゃねぇよ。余裕持って吹っ掛けて来た奴の顔を見ると、衝動的にぶっ壊したくなるんだよ。それが情けなく恐怖に歪む姿を見るのが好きなんだ」
「なるほどね……」
刹那の答えに夕凪は得心する。
「でも……君はそれで満たされているわけでもなさそうだね」
「っ!」
「いつも何かが足りない。食で腹を満たしたり、野盗から巻き上げた金品を手に入れても何も感じない。次第に空っぽな自分が嫌で仕方ないんじゃないかな?」
自分の心情を見事に当てられ、刹那は衝撃を受ける。
「……随分な物言いだな。つうか、それを聞くためにわざわざオレの前に現れたわけじゃねぇだろ」
刹那は動揺を隠そうと、夕凪にあえて質問を返す。
「僕が君に興味が湧いたのはね……欠落している君が何によって完成するのかこの目で見てみたいと思ってね」
夕凪は「そこで提案なんだけど……」と含みの笑みを浮かべる。
「君……僕の眷属にならない?」
「はぁ?」
夕凪の思いがけない言葉に、刹那は素っ頓狂な声を出してしまう。
「オレの話聞いてたか? オレは誰かの下につくとか虫酸が走るんだよ」
「安心して。君を縛るようなことはしないし、今やっていることも別に咎めない」
「テメェの眷属になって、オレに何の得があんだよ」
「このまま暴れ続ければ、いずれ弓削家の陰陽師や異界の烏天狗警務部隊に狙われる。でも、僕の眷属に入れば、身を守りながら行動できる」
「ふ……オレは守られる必要はねぇ。自分の身は自分で守れる」
そう言う刹那に、夕凪は変わらぬ表情でこう言う。
「それなら、僕と手合わせしてみる?」
「あ?」
「僕が君に勝ったら、眷属に入ってもらう。それでどうかな?」
思わぬ申し出に刹那は目を見開いたが、すぐに「ふっ」と笑う。
「威勢だけで余裕ぶってる奴を相手にするのは飽きてきたんだ。いいぜ、やってやるよ」
刹那は大鎌を構え、戦闘態勢に入る。
鋭く研ぎ澄まされた刃がギラリと威圧な光を放つ。
沈黙の中、強い風が吹く。
それを合図に、夕凪の目の前から刹那の姿が消えた。
と、思いきや、刹那は夕凪の間合いを詰め、彼の胴目掛けて大鎌を横一線に振った。
刃が夕凪の体を分裂し、上下の体が宙に舞う。
「……?」
あまりにもあっけない手応えに刹那が怪訝に感じた時、血飛沫で真っ赤になった夕凪の体が空気に溶けるように消えた。
「いいね、その大鎌……」
「⁉︎」
驚いて振り返ると、そこには笑みを湛える夕凪の姿があった。
「幻術か……」
先ほどの空気を切り裂くような感覚に納得する刹那。
「その大鎌から、念のようなものを感じる。まるで生きているみたいだね」
「へぇー、お前にはわかるんだな。この大鎌は元々ただの小せぇ鎌だったんだが、何人か斬って生き血を浴びせたら形状だけではなく、強度も増したんだ」
そう説明する刹那は何かを思いついたかのようにニヤリと笑う。
「テメェが勝ったら、オレが眷属に入るんだよな。だったらオレが勝ったら、大鎌の生贄になってもらうぜ。聖獣の血を浴びせたら、更に強度が増すだろうな」
「僕の血を浴びたら、錆びつくと思うなぁ……」
茶化して笑う夕凪の言葉を聞き流し、刹那は再度大鎌を構える。
先ほどと同じように、刹那は電光石火ごとくの速さで夕凪との距離を詰める。
夕凪は大鎌が自身の肌に触れる寸前、腰に掛けていた日本刀を素早く引き抜き、三日月の形状した刃を防いだ。
「そんな小せぇ刀で、オレに勝てるわけ――」
刹那が言い掛けた時、背筋に悪寒が走った。
突然、目の前が暗くなったかと思いきや、全身に何かが這いずり回る感覚に襲われる。
「っ……⁉︎」
その感覚を振り払おうとした時、刹那は気づいた。
目の前にいる夕凪の背後から黒い靄が現れ、それが刹那に纏わりついていた。
黒い靄は紐状に伸びたかと思いきや、先頭が二つの赤い両眼が爛々と光り、人一人を丸呑みできるような口がカァーッと大きく開けている。
まさに大蛇だ。
(幻術……? いや、違う……)
幻術とは違う生々しい気配に、刹那は本能的に危機を感じた。
早くこの正体不明の気配を切り離そうとした時、目の前に白い閃光が走った。
「うっ……!」
その光が何を意味するのかわからぬまま、刹那の全身にびりびりとした衝撃が走った。
刹那は絶叫を上げ、激しく身を捩る。
やがて、衝撃が収まると、刹那の体がドサッと地面に沈んだ。
「――僕の勝ちだね」
苦痛で頭が回らない中、柔らかな声が聞こえ、刹那は反射的に閉じていた目を開ける。
視界に入ったのは、鋭い日本刀の切先が刹那の顔に向けられている。
よく見ると、刃全体に白い稲妻が帯びており、威圧な光を放っていた。
(あの時……)
眩しい電光を見て、先ほど自身に襲った衝撃は刃から放出されたものなのだと刹那は理解した。
「これでも、自分の身は自分で守れるのかな?」
夕凪は穏やかな口調で言うが、その声音に侮蔑が入り混じっていることに刹那は見逃さなかった。
「チッ……」
雷撃の余韻で体が思うように動かず、刹那は舌打ちする。
夕凪はおもむろに刀を鞘に戻し、刹那を見据える。
「僕の勝ちだから、約束は守ってもらうよ」
「…………」
刹那は少し黙ったが、かったるそうに自分の頭を掻く。
「あ~、わーったよ。テメェの眷属に入りゃいいんだろ」
「君を歓迎するよ」
夕凪は手を差し出す。
「テメェの眷属に入ったら、オレが求めているものが見つかるのか?」
「僕も見つかるように協力するよ。約束する」
「物好きな奴……」
刹那はそう言いつつ、向けられる笑みに不思議と引き寄せられるように夕凪の手を取った。
緑がかった草木が赤黒く染まっており、その中に青年――刹那が足元に広がった血溜まりの前で呆然と佇んでいた。
刹那の周囲には、自身を襲おうとした男四人が無惨な肉塊の姿になっていた。
「…………」
全身を奮い立たせた衝動が収まると、胸にぽっかりと穴の空いた虚しさが刹那を包み込んだ。
この感覚に刹那は慣れてはいたが、何をしても満たされないもどかしさを覚えている。
(また同じか……)
それでもこの行為をやめられなかった。
優位に立って見下していた者が歪んで落ちていく様に、それが刹那にとって堪らなく快感だった。
初めてこの快感を覚えたのは、野生のヒグマだ。
飢えを満たそうと、ようやく見つけた獲物である刹那に襲い掛かろうとしたところ、大鎌を一振りであっけなく絶命させられた。
獲物に殺されたヒグマの落差に、刹那は言葉では言い表せないくらいの興奮を覚えた。
成長につれて、刹那は背が伸び、体に筋肉がつき始めた頃、気づけば対象が四足歩行の動物から人間と妖怪に移り変わった。
今までとは違う抵抗して来る遊び相手に、刹那の心は踊った。
いつしか暴力に抵抗がなくなり、次第に人間だった頃の記憶と感情が徐々に薄れてしまった。
✿ ✿ ✿
「う……ぐっ……」
あっという間だった。
刹那に襲い掛かった盗賊の男が大鎌に切り裂かれて絶命する。
「相手が悪かったな」
息を引き取った男の体を刹那は爪先で軽く蹴る。
男の切り裂かれた腹から血が流れ、地面を赤く汚していく。
それを呆然と見ていると、刹那は内側から何かが抜けていく感覚に陥る。
「ハァ……」
刹那は嘆息を吐く。
先ほどまで抱いていた快感は一瞬で消え、どうしようもない虚しさだけが残っていた。
刹那は暴力が好きと言うわけではなかった。
自身に目をつけてきた相手が獲物に飛び掛かるような勢いで来ると本能的に壊したくなるのだ。
その繰り返しだった。
決まっては一瞬の快感と胸に渦巻いていた衝動が収まるだけで、刹那に何かをもたらしたことはなかった。
「オレは何がしたいんだ……」
自分で自分がわからなかった。
こんなことを繰り返してまで、何を望んでいるのか……。
「――こんにちは」
軽く柔らかな声が聞こえ、刹那はハッと振り返る。
視線の先には、美しい艶やかな銀色の髪に白い和服を着た二十代前半の男性がいた。
「何だ、テメェは……」
「悪名高い野盗の集団がたった一夜で殲滅された噂を耳にしたんだ」
男性は惨状な光景が目の前にあるにも関わらず、穏やかな口調と浮かべている笑みを崩さず淡々と話を続けた。
「もしかして……君の仕業かな?」
「どれのことかわかんねぇー」
男性に問い掛けられ、刹那は面倒臭さそうに答える。
「つーかお前、人間でも妖怪でもねぇな。何もんだ?」
人間と妖怪とは異なる男性の雰囲気と容姿に刹那は怪訝になる。
「聖獣といえばわかるかな……種族は真神で名は夕凪」
「聖獣……用は神に仕える獣ってことか」
「まあそうなるね」
夕凪と名乗った男性はふっと失笑する。
「聖獣がオレに何の用だよ……って、聞くまでもねぇな。善良な聖獣のことだ。わざわざこうして目の前に現れたってことは、オレを滅しに来たんだろ?」
「思いの外、自分のしていることに理解しているようだね。でも、僕は君を滅しに来たんじゃない。単純に君に興味があってね」
「あ?」
夕凪の言葉に、刹那は面食らった顔をする。
「質問してもいいかな? 君は屈強な野盗相手に殺戮を繰り返している。もしかしてどこかに雇われた暗殺者なのかな?」
「んなわけねぇだろ。そもそも誰かの下につくとか虫酸が走る」
「それとも腕試しのつもりかな? やり方は残虐だけど」
「そんなんじゃねぇよ。余裕持って吹っ掛けて来た奴の顔を見ると、衝動的にぶっ壊したくなるんだよ。それが情けなく恐怖に歪む姿を見るのが好きなんだ」
「なるほどね……」
刹那の答えに夕凪は得心する。
「でも……君はそれで満たされているわけでもなさそうだね」
「っ!」
「いつも何かが足りない。食で腹を満たしたり、野盗から巻き上げた金品を手に入れても何も感じない。次第に空っぽな自分が嫌で仕方ないんじゃないかな?」
自分の心情を見事に当てられ、刹那は衝撃を受ける。
「……随分な物言いだな。つうか、それを聞くためにわざわざオレの前に現れたわけじゃねぇだろ」
刹那は動揺を隠そうと、夕凪にあえて質問を返す。
「僕が君に興味が湧いたのはね……欠落している君が何によって完成するのかこの目で見てみたいと思ってね」
夕凪は「そこで提案なんだけど……」と含みの笑みを浮かべる。
「君……僕の眷属にならない?」
「はぁ?」
夕凪の思いがけない言葉に、刹那は素っ頓狂な声を出してしまう。
「オレの話聞いてたか? オレは誰かの下につくとか虫酸が走るんだよ」
「安心して。君を縛るようなことはしないし、今やっていることも別に咎めない」
「テメェの眷属になって、オレに何の得があんだよ」
「このまま暴れ続ければ、いずれ弓削家の陰陽師や異界の烏天狗警務部隊に狙われる。でも、僕の眷属に入れば、身を守りながら行動できる」
「ふ……オレは守られる必要はねぇ。自分の身は自分で守れる」
そう言う刹那に、夕凪は変わらぬ表情でこう言う。
「それなら、僕と手合わせしてみる?」
「あ?」
「僕が君に勝ったら、眷属に入ってもらう。それでどうかな?」
思わぬ申し出に刹那は目を見開いたが、すぐに「ふっ」と笑う。
「威勢だけで余裕ぶってる奴を相手にするのは飽きてきたんだ。いいぜ、やってやるよ」
刹那は大鎌を構え、戦闘態勢に入る。
鋭く研ぎ澄まされた刃がギラリと威圧な光を放つ。
沈黙の中、強い風が吹く。
それを合図に、夕凪の目の前から刹那の姿が消えた。
と、思いきや、刹那は夕凪の間合いを詰め、彼の胴目掛けて大鎌を横一線に振った。
刃が夕凪の体を分裂し、上下の体が宙に舞う。
「……?」
あまりにもあっけない手応えに刹那が怪訝に感じた時、血飛沫で真っ赤になった夕凪の体が空気に溶けるように消えた。
「いいね、その大鎌……」
「⁉︎」
驚いて振り返ると、そこには笑みを湛える夕凪の姿があった。
「幻術か……」
先ほどの空気を切り裂くような感覚に納得する刹那。
「その大鎌から、念のようなものを感じる。まるで生きているみたいだね」
「へぇー、お前にはわかるんだな。この大鎌は元々ただの小せぇ鎌だったんだが、何人か斬って生き血を浴びせたら形状だけではなく、強度も増したんだ」
そう説明する刹那は何かを思いついたかのようにニヤリと笑う。
「テメェが勝ったら、オレが眷属に入るんだよな。だったらオレが勝ったら、大鎌の生贄になってもらうぜ。聖獣の血を浴びせたら、更に強度が増すだろうな」
「僕の血を浴びたら、錆びつくと思うなぁ……」
茶化して笑う夕凪の言葉を聞き流し、刹那は再度大鎌を構える。
先ほどと同じように、刹那は電光石火ごとくの速さで夕凪との距離を詰める。
夕凪は大鎌が自身の肌に触れる寸前、腰に掛けていた日本刀を素早く引き抜き、三日月の形状した刃を防いだ。
「そんな小せぇ刀で、オレに勝てるわけ――」
刹那が言い掛けた時、背筋に悪寒が走った。
突然、目の前が暗くなったかと思いきや、全身に何かが這いずり回る感覚に襲われる。
「っ……⁉︎」
その感覚を振り払おうとした時、刹那は気づいた。
目の前にいる夕凪の背後から黒い靄が現れ、それが刹那に纏わりついていた。
黒い靄は紐状に伸びたかと思いきや、先頭が二つの赤い両眼が爛々と光り、人一人を丸呑みできるような口がカァーッと大きく開けている。
まさに大蛇だ。
(幻術……? いや、違う……)
幻術とは違う生々しい気配に、刹那は本能的に危機を感じた。
早くこの正体不明の気配を切り離そうとした時、目の前に白い閃光が走った。
「うっ……!」
その光が何を意味するのかわからぬまま、刹那の全身にびりびりとした衝撃が走った。
刹那は絶叫を上げ、激しく身を捩る。
やがて、衝撃が収まると、刹那の体がドサッと地面に沈んだ。
「――僕の勝ちだね」
苦痛で頭が回らない中、柔らかな声が聞こえ、刹那は反射的に閉じていた目を開ける。
視界に入ったのは、鋭い日本刀の切先が刹那の顔に向けられている。
よく見ると、刃全体に白い稲妻が帯びており、威圧な光を放っていた。
(あの時……)
眩しい電光を見て、先ほど自身に襲った衝撃は刃から放出されたものなのだと刹那は理解した。
「これでも、自分の身は自分で守れるのかな?」
夕凪は穏やかな口調で言うが、その声音に侮蔑が入り混じっていることに刹那は見逃さなかった。
「チッ……」
雷撃の余韻で体が思うように動かず、刹那は舌打ちする。
夕凪はおもむろに刀を鞘に戻し、刹那を見据える。
「僕の勝ちだから、約束は守ってもらうよ」
「…………」
刹那は少し黙ったが、かったるそうに自分の頭を掻く。
「あ~、わーったよ。テメェの眷属に入りゃいいんだろ」
「君を歓迎するよ」
夕凪は手を差し出す。
「テメェの眷属に入ったら、オレが求めているものが見つかるのか?」
「僕も見つかるように協力するよ。約束する」
「物好きな奴……」
刹那はそう言いつつ、向けられる笑みに不思議と引き寄せられるように夕凪の手を取った。
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