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付録・短編
第11話 後編
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44 けがれた黄金
第三章 港町での決斗
1
達洋は夏女の正体を突き止めようと、刑事時代の仲間や情報屋の力を借りたが、手掛かりは一切掴めなかった。また、夏女の記憶が戻る兆しがなく、そのまま月日が流れていくのだが…
達洋は夏女と生活していくうちに、不可解なことを感じていた。
夏女は記憶を失っている以外は特に欠点がない。英語の他、世界各国の言語を流暢に話せて、記憶力は優秀で学習能力が極めて高い。身体能力も常人以上で、何故か銃器が扱えた。達洋の相棒にしておくだけでは勿体ないくらいであった。
時は現在―――
「さて…ボチボチ帰るか」
釣り用のバケツには小魚一匹が泳いでいた。不漁でも達洋に悔いはなかった。彼は釣った小魚を逃がした後、和田岬を後にした。
その一方で…
夏女は達洋と別行動を取り、玲子のカフェバーで時間を潰していた。
「朝からずっといるけど…大丈夫?」
「やることが無いから、ここにいるのよ」
夏女はぼやきながらコーヒーを啜っていた。彼女は異常な量のカフェインを摂取していた。
「私が医者で良かったわね、最近、生活乱れてない?」
「体が丈夫なのが取柄ですから…私より所長を診てあげてよ」
「彼は墓場に足を突っ込んでいるようなものよ」
「今頃の時期、どうも様子がおかしいのよね、仕事がないのが原因じゃないみたいだけど…」
玲子は冗談で言ったつもりだが、夏女は真剣な眼差しで彼女の言葉を受け止めた。
「そういえば、あなたが流れ着いたのは梅雨時期じゃなかったっけ?」
「はっきり覚えてないけど…なんせ記憶がないもんだから…」
「もう、ここの生活長いよね」
「うん、すっかり、あなたたちと馴染んじゃって…」
「記憶はいつ戻るか…気にならない?」
「全然…もうどうでもよくなってきたわ、夏女として生きていくのも悪くないかも…」
玲子は夏女の思いを耳にするが、それが本心かと訊ねることはできなかった。
カラン♪~
夏女たちが雑談している最中、扉鈴が鳴って新たな客が来店したが…
「あら、いらっしゃい~」
玲子の店に来たのは、彩友だった。
「配達の帰りでね…さすがにこの時期は仕事量が少ないわ」
「紫陽花はキレイだけどね、また注文しますんで~」
玲子は彩友の勤め先の花屋を贔屓にしていた。
「おやおや、お得意様がもう一人いたか、達洋さんは一緒じゃないの?」
彩友は夏女の存在に気づき、隣の席に座り込んだ。
「さぼって釣りに行きました」
「あらそう、麻雀誘おうと思ったんだけど…」
「彩友さん、麻雀するの?」
玲子は、彩友の話に興味を持っていた。
「ええ、雀荘に配達することあるから…教えてもらったの」
「私も患者さんに好きな人がいて…面白いですよね~」
「あんたも来なよ…夏女ちゃんはどうする?」
「私は遠慮しておきます…すみません、お先に…」
「達洋さんに麻雀のこと言っといてね~」
夏女は彩友たちの話について行けなくなったのか、独り店を出た。
夏女が店を出ると、地面を叩きつけている雨の勢いは弱まっていき、しばし、天候が回復した。
太陽がひょっこり顔を出して、夏女を照らそうとする。彼女はモヤモヤしているものを吹き飛ばして、ひとまず歩いた。すると…
プァ…プァー♪
高架沿いの車道で、一台の車のクラクション音が鳴り響いていた。どうやら、夏女に呼びかけているようで、彼女が知っている車であった。
黒のフォルクスワーゲンは、達洋の愛車コレクションの一台である。
「よう、帰るのか?」
「まあ…そんなところ…乗せてってよ」
夏女は相棒の車だと分かり、助手席に乗り込んだ。
「家に帰ってもろくなものはないな…外で食うか?」
「そんな余裕あるの?」
「行きつけの食堂なら何とか…焼き魚定食が食いたい…」
「…仕事もお金もないし、調子狂うわね」
「博打みたいな商売だからな…副業でも始めるか?」
「これ以外に何ができるの、もう仕事の環境に慣れたわ…」
達洋たちは生活レベルを下げて、平穏な日々を送っていた。彼らはそれで満足だったが…
それから数日後、災いをもたらす者が舞い降りた。
場所は関西圏の空港。
国際線、ロサンゼルス発着便に搭乗していた渋い白人男性は極秘で来日していた。
「随分降っているな…これが梅雨の季節か…」
白人男性は迎えの高級外車に乗り込んで空港を後にした。白人男性の名はウォルター。彼はある野望のために日本を訪れた。達洋と夏女とは何かと因縁があり、神戸は戦場の標的となった。
第三章 港町での決斗
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達洋は夏女の正体を突き止めようと、刑事時代の仲間や情報屋の力を借りたが、手掛かりは一切掴めなかった。また、夏女の記憶が戻る兆しがなく、そのまま月日が流れていくのだが…
達洋は夏女と生活していくうちに、不可解なことを感じていた。
夏女は記憶を失っている以外は特に欠点がない。英語の他、世界各国の言語を流暢に話せて、記憶力は優秀で学習能力が極めて高い。身体能力も常人以上で、何故か銃器が扱えた。達洋の相棒にしておくだけでは勿体ないくらいであった。
時は現在―――
「さて…ボチボチ帰るか」
釣り用のバケツには小魚一匹が泳いでいた。不漁でも達洋に悔いはなかった。彼は釣った小魚を逃がした後、和田岬を後にした。
その一方で…
夏女は達洋と別行動を取り、玲子のカフェバーで時間を潰していた。
「朝からずっといるけど…大丈夫?」
「やることが無いから、ここにいるのよ」
夏女はぼやきながらコーヒーを啜っていた。彼女は異常な量のカフェインを摂取していた。
「私が医者で良かったわね、最近、生活乱れてない?」
「体が丈夫なのが取柄ですから…私より所長を診てあげてよ」
「彼は墓場に足を突っ込んでいるようなものよ」
「今頃の時期、どうも様子がおかしいのよね、仕事がないのが原因じゃないみたいだけど…」
玲子は冗談で言ったつもりだが、夏女は真剣な眼差しで彼女の言葉を受け止めた。
「そういえば、あなたが流れ着いたのは梅雨時期じゃなかったっけ?」
「はっきり覚えてないけど…なんせ記憶がないもんだから…」
「もう、ここの生活長いよね」
「うん、すっかり、あなたたちと馴染んじゃって…」
「記憶はいつ戻るか…気にならない?」
「全然…もうどうでもよくなってきたわ、夏女として生きていくのも悪くないかも…」
玲子は夏女の思いを耳にするが、それが本心かと訊ねることはできなかった。
カラン♪~
夏女たちが雑談している最中、扉鈴が鳴って新たな客が来店したが…
「あら、いらっしゃい~」
玲子の店に来たのは、彩友だった。
「配達の帰りでね…さすがにこの時期は仕事量が少ないわ」
「紫陽花はキレイだけどね、また注文しますんで~」
玲子は彩友の勤め先の花屋を贔屓にしていた。
「おやおや、お得意様がもう一人いたか、達洋さんは一緒じゃないの?」
彩友は夏女の存在に気づき、隣の席に座り込んだ。
「さぼって釣りに行きました」
「あらそう、麻雀誘おうと思ったんだけど…」
「彩友さん、麻雀するの?」
玲子は、彩友の話に興味を持っていた。
「ええ、雀荘に配達することあるから…教えてもらったの」
「私も患者さんに好きな人がいて…面白いですよね~」
「あんたも来なよ…夏女ちゃんはどうする?」
「私は遠慮しておきます…すみません、お先に…」
「達洋さんに麻雀のこと言っといてね~」
夏女は彩友たちの話について行けなくなったのか、独り店を出た。
夏女が店を出ると、地面を叩きつけている雨の勢いは弱まっていき、しばし、天候が回復した。
太陽がひょっこり顔を出して、夏女を照らそうとする。彼女はモヤモヤしているものを吹き飛ばして、ひとまず歩いた。すると…
プァ…プァー♪
高架沿いの車道で、一台の車のクラクション音が鳴り響いていた。どうやら、夏女に呼びかけているようで、彼女が知っている車であった。
黒のフォルクスワーゲンは、達洋の愛車コレクションの一台である。
「よう、帰るのか?」
「まあ…そんなところ…乗せてってよ」
夏女は相棒の車だと分かり、助手席に乗り込んだ。
「家に帰ってもろくなものはないな…外で食うか?」
「そんな余裕あるの?」
「行きつけの食堂なら何とか…焼き魚定食が食いたい…」
「…仕事もお金もないし、調子狂うわね」
「博打みたいな商売だからな…副業でも始めるか?」
「これ以外に何ができるの、もう仕事の環境に慣れたわ…」
達洋たちは生活レベルを下げて、平穏な日々を送っていた。彼らはそれで満足だったが…
それから数日後、災いをもたらす者が舞い降りた。
場所は関西圏の空港。
国際線、ロサンゼルス発着便に搭乗していた渋い白人男性は極秘で来日していた。
「随分降っているな…これが梅雨の季節か…」
白人男性は迎えの高級外車に乗り込んで空港を後にした。白人男性の名はウォルター。彼はある野望のために日本を訪れた。達洋と夏女とは何かと因縁があり、神戸は戦場の標的となった。
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