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付録・短編
第1話 前編
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44 けがれた黄金
第一章 凍てついた欲望
第一話
出所した卓也は姑息な手段で小遣いを得て、神戸の繁華街に顔を出した。彼は他人の金や盗んだクレジットカードで支払いを済ませた。その時の卓也はブランド品を身につけて、さっきまでの小汚い格好が嘘のようであった。
卓也の悪行は激化していく一方で、堅気に戻る気は一切なかった。
日が沈み、神戸のネオン街は活気が溢れて、大人しか楽しめない空間を生み出していた。その夜、卓也は豪遊しようと、三宮の高級クラブに入店していた。
「こうやって、キレイなネエちゃんと会うのは何年ぶりかな~」
卓也はホステス嬢に囲まれると、酒が進んで頬を赤く染めて、ご満悦のようであったが…
「…お客様、ちょっと止めてもらえませんか?」「あ?」
卓也を接客しているホステス嬢の一人が苦痛を訴えていた。彼女は酔っ払っている卓也に強く抱きしめられて、胸やお尻を触られていた。それは完全なる性的暴力行為である。
この時代、〝セクシャルハラスメント〟という言葉は定着していなかった。
「キャー!」
卓也がキスを迫ろうとすると、ホステス嬢は抵抗した。彼はホステスの接客態度に苛立ち、髪の毛を引っ張るなど、かまわず暴力を振るいだした。
ホステスは思わず悲鳴を上げて、それは店内に響いた。
「お客様、止めてあげてください!他のお客様のご迷惑にもなります」
騒ぎの現場に現れたのは、美しい白ドレスを身に纏ったベテランのホステス嬢であった。
「何だ、俺が悪いっていうのか?」
「はい、大変申し上げにくいんですが、当店はお客様に合ってないように思います…気に入らない点があるのならお引き取り下さい」
卓也の前に現れたホステス嬢の名はミナ(源氏名)。彼女は冷静に対応して、卓也を店内から追い出そうとした。
「ちっ分かったよ、俺の負けだ、悪かったな」
「お支払いは結構ですので…」
「そうはいかん、お詫びとして、ちゃんと払うよ」「………」
卓也は紳士を気取って、大人しく店を後にした。彼が去ったことで店はいつもの和やかな雰囲気を取り戻したが、ミナは独り、思い詰めた表情を浮かべるのであった。
その一方で、卓也は酔ったまま宿泊先に戻るかと思われたが、彼の夜は長かった。
「よう、待たせたな」
卓也は華やかな夜街から離れて、裏路地で待ち合わせをしていた。
「やっと出てきたんだな、あんたがいない間、良いネタを仕入れていた」
卓也を待っていたのは裏社会に詳しい情報屋であった。二人は寒い中、密談を交わして、その場で別れた。
卓也の寄り道は続き、次の待ち合わせ相手も裏社会に通じる人物であった。彼は取引した男から角底袋を受け取った。その中には拳銃一丁が入っていた。
卓也は悪だくみを進めて、達成に力を注ごうとしていた。ただし、独りで実現できることではないため、助け船が必要だった。そして…
季節は本格的な冬を迎えようとしていた。神戸市内も冷え込んでいて、厚着でも体を震わせている通行人が目立っていた。
港町の繁華街に有名な花屋がある。そこに独りの二十代前半の女性が訪ねてきていた。彼女は常連である。
「こんにちは~この紙に書かれた花を買いに来ました…」
女性常連客の名は夏女。彼女は完璧な容姿をベージュのコートで包み、自慢の黒長髪を靡かせて、お遣いで花屋にやってきた。
「いらっしゃい、そろそろ来ることだと思ったわ」
花屋の女性店員の名は彩友。外見は気品のある女性だが。陸上自衛隊に入隊していた過去あり。除隊後は両親が営む花屋で働いていた。
「私も花は好きですが、彼ほど詳しくありません、意外な才能と言っていいのか…」
「うちも驚いているわ、贔屓にしてくれているからありがたいけど…」
夏女たちはいつものように世間話をして、気づけば、冬を代表する花々、クリスマス・ローズ、シクラメン、ローズマリー、ツバキが包装紙に包まれていた。
「どうも~また来ます、店長によろしく」
夏女は会計を済ませて、行きつけの花屋を後にした。
第一章 凍てついた欲望
第一話
出所した卓也は姑息な手段で小遣いを得て、神戸の繁華街に顔を出した。彼は他人の金や盗んだクレジットカードで支払いを済ませた。その時の卓也はブランド品を身につけて、さっきまでの小汚い格好が嘘のようであった。
卓也の悪行は激化していく一方で、堅気に戻る気は一切なかった。
日が沈み、神戸のネオン街は活気が溢れて、大人しか楽しめない空間を生み出していた。その夜、卓也は豪遊しようと、三宮の高級クラブに入店していた。
「こうやって、キレイなネエちゃんと会うのは何年ぶりかな~」
卓也はホステス嬢に囲まれると、酒が進んで頬を赤く染めて、ご満悦のようであったが…
「…お客様、ちょっと止めてもらえませんか?」「あ?」
卓也を接客しているホステス嬢の一人が苦痛を訴えていた。彼女は酔っ払っている卓也に強く抱きしめられて、胸やお尻を触られていた。それは完全なる性的暴力行為である。
この時代、〝セクシャルハラスメント〟という言葉は定着していなかった。
「キャー!」
卓也がキスを迫ろうとすると、ホステス嬢は抵抗した。彼はホステスの接客態度に苛立ち、髪の毛を引っ張るなど、かまわず暴力を振るいだした。
ホステスは思わず悲鳴を上げて、それは店内に響いた。
「お客様、止めてあげてください!他のお客様のご迷惑にもなります」
騒ぎの現場に現れたのは、美しい白ドレスを身に纏ったベテランのホステス嬢であった。
「何だ、俺が悪いっていうのか?」
「はい、大変申し上げにくいんですが、当店はお客様に合ってないように思います…気に入らない点があるのならお引き取り下さい」
卓也の前に現れたホステス嬢の名はミナ(源氏名)。彼女は冷静に対応して、卓也を店内から追い出そうとした。
「ちっ分かったよ、俺の負けだ、悪かったな」
「お支払いは結構ですので…」
「そうはいかん、お詫びとして、ちゃんと払うよ」「………」
卓也は紳士を気取って、大人しく店を後にした。彼が去ったことで店はいつもの和やかな雰囲気を取り戻したが、ミナは独り、思い詰めた表情を浮かべるのであった。
その一方で、卓也は酔ったまま宿泊先に戻るかと思われたが、彼の夜は長かった。
「よう、待たせたな」
卓也は華やかな夜街から離れて、裏路地で待ち合わせをしていた。
「やっと出てきたんだな、あんたがいない間、良いネタを仕入れていた」
卓也を待っていたのは裏社会に詳しい情報屋であった。二人は寒い中、密談を交わして、その場で別れた。
卓也の寄り道は続き、次の待ち合わせ相手も裏社会に通じる人物であった。彼は取引した男から角底袋を受け取った。その中には拳銃一丁が入っていた。
卓也は悪だくみを進めて、達成に力を注ごうとしていた。ただし、独りで実現できることではないため、助け船が必要だった。そして…
季節は本格的な冬を迎えようとしていた。神戸市内も冷え込んでいて、厚着でも体を震わせている通行人が目立っていた。
港町の繁華街に有名な花屋がある。そこに独りの二十代前半の女性が訪ねてきていた。彼女は常連である。
「こんにちは~この紙に書かれた花を買いに来ました…」
女性常連客の名は夏女。彼女は完璧な容姿をベージュのコートで包み、自慢の黒長髪を靡かせて、お遣いで花屋にやってきた。
「いらっしゃい、そろそろ来ることだと思ったわ」
花屋の女性店員の名は彩友。外見は気品のある女性だが。陸上自衛隊に入隊していた過去あり。除隊後は両親が営む花屋で働いていた。
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夏女たちはいつものように世間話をして、気づけば、冬を代表する花々、クリスマス・ローズ、シクラメン、ローズマリー、ツバキが包装紙に包まれていた。
「どうも~また来ます、店長によろしく」
夏女は会計を済ませて、行きつけの花屋を後にした。
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