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シーズン1
第44話 前編
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キケンなバディ! 第一期
最終章 夏女
6
「…二階に空き部屋がある、気にせず寛いてくれ」
真部はアパートの空き部屋をミシェルに貸した。
「私についてきて」
夏女はミシェルを部屋まで案内した。
「一階は仕事場ってわけね」
「ええ、私たちの部屋は二階にあってね」
「古そうだけど、良いアパートね、しばらく世話になります」
「遠慮せず何でも言って…私も居候みたいなものよ」
「え…どういうこと?」
夏女はミシェルに自身の複雑な事情を明かそうとした。
「…そう、記憶を失って、真部さんに助けてもらったわけね」
「ええ、彼と暮らしだして一年になるわ…」
「私なんて大したことないわね…身元不明だと何かと不便でしょ?」
「ええ…でも、たまに思うの、記憶が戻らず、このままの方が幸せなんじゃないかって…」
「その理由は?」
「この街に来る前は辛い人生を送っていたような気がしてね…あなたと一緒で嫌なことを思い出したくないかも…」
「成程…記憶を失ってから充実した人生を歩んでるわけね」
ミシェルがそう言うと、夏女は照れながら静かに頷いた。そして…
ミシェルの部屋扉は若干開いており、真部は廊下の壁にもたれながら、二人の会話を盗み聞きしていた。その時の彼の表情を見ると、安堵しているのが窺えた。
「それじゃあお休み~」
夏女はミシェルと雑談した後、自分の部屋に戻ってベッドに体を沈めた。
その夜、特に何も起こらず、静かな夜であったが…
「………」
野心を抱く者が密かに存在しており、それに気づいている者もいた。
そして、夜が明けて、新たな一日が始まろうとしたが…
「お早うございます~」
「もう起きたのか?夏女はまだ寝てるぞ」
「昨日、病室で充分睡眠を取ったので…」
「そうか、朝飯はもうちょっと待ってくれ」
「おかまいなく~顔洗ってきます…それと…」
ミシェルは真部にあるお願いをした。それは…
シャァァァァァ…
真部アパートのバスルームに人影があり、湯気がシャワー使用者の裸体を優しく包んでいた。前髪を頭頂部まで掻きあげて、念入りに洗っているのはミシェルであった。彼女は夏女より先にバスルームを占領していた。
ミシェルは長い間、風呂に入っておらず、ようやく、体の疲れや汚れを洗い落とすことができた。このまま、すっきりと朝を迎えたいものだが…
思い通りに行かないのが、本作のお決まりであった。
♪
突然、真部アパートの呼び鈴が鳴り出して、最初に気づいたのはバスルームにいるミシェルであった。
「…あれ?真部さん、夏女さん?」
その時、ミシェルは訪問者に応対する者がいないことに、独り疑問を抱いていた。彼女は仕方なくバスルームを出て、玄関に向かうのであった。
「…はい、どちら様?」
ミシェルは真部たちの代わりに応対したが…
「は…え…金髪…美女…?」
ミシェルの眼前に立っているのは、傘を差した武中であった。
「真部さんに御用ですか?」
「は…はい、あの…あなたは?」
その時、武中は冷静ではいられなかった。無理もない、ミシェルは服や下着を身につけておらず、バスタオル一枚で彼女の完璧な肉体を包んでいた。
「ここの部屋を借りている者です、どうぞ、お入りになって…」
武中は顔を赤くして、俯きながらミシェルについて行った。
「…あら、ミシェルさんに…武中君じゃないの」
夏女が一階に降りてきて、話はややこしくなりそうであった。
「真部さんに用があるんだけど…」
「キッチンか庭に居るんじゃないの…ミシェルさん、お風呂入ってたの?」
「ええ…お陰ですっきりしたわ」
「着替えてきたら?彼は私に任せて」
「分かったわ、それじゃあ失礼します」
ミシェルは着替えに戻り、その後、残った二人の間に変な空気が流れていた。
「…僕は悪くないぞ、呼び鈴を鳴らしたら、あの姿で出てきたんだ」
「確かに前科があるけど、一応信じましょう…達洋には黙っとくわ」
武中はどうにか誤解が解かれて、ほっとした様子であった。
「あっ何処に居たんですか?」
武中の前には、レインコートを着た真部の姿があった。
「庭の手入れをしていた…梅雨の時期は大変だ」
「大変なのはこっちの方だ…」
武中はミシェルのことが頭の中を過り、つい、ぼやいた。
「何の用だ?昨日の詫びに来たのか?」
「それもありますけど…課長の伝言を預かってきました」
「そうか、飯の後に聞こう」
真部はレインコートを脱いで、朝食の支度を始めた。武中も朝食会に参加することとなり…
最終章 夏女
6
「…二階に空き部屋がある、気にせず寛いてくれ」
真部はアパートの空き部屋をミシェルに貸した。
「私についてきて」
夏女はミシェルを部屋まで案内した。
「一階は仕事場ってわけね」
「ええ、私たちの部屋は二階にあってね」
「古そうだけど、良いアパートね、しばらく世話になります」
「遠慮せず何でも言って…私も居候みたいなものよ」
「え…どういうこと?」
夏女はミシェルに自身の複雑な事情を明かそうとした。
「…そう、記憶を失って、真部さんに助けてもらったわけね」
「ええ、彼と暮らしだして一年になるわ…」
「私なんて大したことないわね…身元不明だと何かと不便でしょ?」
「ええ…でも、たまに思うの、記憶が戻らず、このままの方が幸せなんじゃないかって…」
「その理由は?」
「この街に来る前は辛い人生を送っていたような気がしてね…あなたと一緒で嫌なことを思い出したくないかも…」
「成程…記憶を失ってから充実した人生を歩んでるわけね」
ミシェルがそう言うと、夏女は照れながら静かに頷いた。そして…
ミシェルの部屋扉は若干開いており、真部は廊下の壁にもたれながら、二人の会話を盗み聞きしていた。その時の彼の表情を見ると、安堵しているのが窺えた。
「それじゃあお休み~」
夏女はミシェルと雑談した後、自分の部屋に戻ってベッドに体を沈めた。
その夜、特に何も起こらず、静かな夜であったが…
「………」
野心を抱く者が密かに存在しており、それに気づいている者もいた。
そして、夜が明けて、新たな一日が始まろうとしたが…
「お早うございます~」
「もう起きたのか?夏女はまだ寝てるぞ」
「昨日、病室で充分睡眠を取ったので…」
「そうか、朝飯はもうちょっと待ってくれ」
「おかまいなく~顔洗ってきます…それと…」
ミシェルは真部にあるお願いをした。それは…
シャァァァァァ…
真部アパートのバスルームに人影があり、湯気がシャワー使用者の裸体を優しく包んでいた。前髪を頭頂部まで掻きあげて、念入りに洗っているのはミシェルであった。彼女は夏女より先にバスルームを占領していた。
ミシェルは長い間、風呂に入っておらず、ようやく、体の疲れや汚れを洗い落とすことができた。このまま、すっきりと朝を迎えたいものだが…
思い通りに行かないのが、本作のお決まりであった。
♪
突然、真部アパートの呼び鈴が鳴り出して、最初に気づいたのはバスルームにいるミシェルであった。
「…あれ?真部さん、夏女さん?」
その時、ミシェルは訪問者に応対する者がいないことに、独り疑問を抱いていた。彼女は仕方なくバスルームを出て、玄関に向かうのであった。
「…はい、どちら様?」
ミシェルは真部たちの代わりに応対したが…
「は…え…金髪…美女…?」
ミシェルの眼前に立っているのは、傘を差した武中であった。
「真部さんに御用ですか?」
「は…はい、あの…あなたは?」
その時、武中は冷静ではいられなかった。無理もない、ミシェルは服や下着を身につけておらず、バスタオル一枚で彼女の完璧な肉体を包んでいた。
「ここの部屋を借りている者です、どうぞ、お入りになって…」
武中は顔を赤くして、俯きながらミシェルについて行った。
「…あら、ミシェルさんに…武中君じゃないの」
夏女が一階に降りてきて、話はややこしくなりそうであった。
「真部さんに用があるんだけど…」
「キッチンか庭に居るんじゃないの…ミシェルさん、お風呂入ってたの?」
「ええ…お陰ですっきりしたわ」
「着替えてきたら?彼は私に任せて」
「分かったわ、それじゃあ失礼します」
ミシェルは着替えに戻り、その後、残った二人の間に変な空気が流れていた。
「…僕は悪くないぞ、呼び鈴を鳴らしたら、あの姿で出てきたんだ」
「確かに前科があるけど、一応信じましょう…達洋には黙っとくわ」
武中はどうにか誤解が解かれて、ほっとした様子であった。
「あっ何処に居たんですか?」
武中の前には、レインコートを着た真部の姿があった。
「庭の手入れをしていた…梅雨の時期は大変だ」
「大変なのはこっちの方だ…」
武中はミシェルのことが頭の中を過り、つい、ぼやいた。
「何の用だ?昨日の詫びに来たのか?」
「それもありますけど…課長の伝言を預かってきました」
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