キケンなバディ！

シーズン１

第２３話 後編

キケンなバディ！　第一期
第四章　凍てついた過去

　　　２

　全ての発端は、今から三十年前に遡る。貸別荘が三友邸だった頃の話。
　当時、三友家長男夫婦には、十歳の息子と五歳の娘がいた。
　ある夜、三友家では実娘の誕生日を祝っており、家族の幸せな光景が広がっていた。ただ、いつまでも夢のような時間は続きそうになく、悪夢が忍び寄っていた。
　
　誕生日パーティー中の三友邸に、不法侵入する者たちが現れて、彼らはまず調理室を制圧した。不法侵入者は男二人組。彼らは数時間前に強盗殺人の罪を犯して、警察に追われていた。
〝強盗二人組〟は逃走中に偶然、三友邸を発見して、侵入を試みた。さらに、彼らは猟銃や散弾銃を所持しており、危険極まりなかった。

　強盗二人組は、騒ぐ者や抵抗する者を容赦なく撃ち殺して、三友一家の前に姿を現した。まず、強盗Ａは一人のメイドに猟銃を突きつけていた。
　そして…
　
　強盗Ａは服従させようと、三友一家の眼前でメイドを撃ち殺してみせた。三友一家は、強盗二人組の言うことを聞くしか選択肢がなかった。彼らは夜が明けるのを待って、三友家の所有車を借りて逃げようとしていた。
　だが、強盗二人組の計画は思い通りにいかなかった。

　強盗Ａは、三友家の子供を人質に取って逃亡する案を口にしたが、強盗Ｂは反論して、ついには出頭を促した。それで仲間割れとなり、強盗Ａは強盗Ｂを殺してしまった。
　
　それから強盗Ａは正気まともではいられず、邸内にいる者全員を殺そうとしていた。
三友一家に危機が迫り、父親あるじは必死に家族を守ろうとした。彼は執事と協力して、暴走する強盗Ａに立ち向かおうとした。
　一方、息子と娘は父の指示に従って、外に逃げて近所の住人に現状を知らせようとした。
　息子はしっかり者で幼い妹と手を繋いで、外に逃げることに集中した。そして…
　
　息子たちが屋敷を出た後のことであった。窓ガラスが割れる音がして、雪が積もった地面には、転落死した強盗Ａの姿があった。
　父親は致命傷を負いながらも、強盗Ａをバルコニーまで誘い込み、勢いよく突き落とした。
息子が近所の住人に強盗のことを知らせて、屋敷に戻った時は地獄であった。

　コック・メイド・執事は重傷で、母親は心に深い傷を負い、冷たくなっていく主人に寄り添っていた。
　息子の正体は、何を隠そう成本であった。彼は三友の姓を棄てて、人生が一転した。

　成本は財閥じっかの破綻に加え、親戚にたらい回しにされた挙句、里親に育てられた。それから彼の不幸は続いた。
実妹とは離れ離れ、母は主を失ったショックで精神を蝕んだ結果、天に召されるなど、もう散々であった。
　しかし、成本は三友の一族であったことを忘れたわけではない。偶然にも職場で、過去の住家いえが窮地に追い込まれていることを知り、それを守る決心をした。

「…もうあの不動産屋は終わりだ、オイタが過ぎたな」
　小霧は趣味に没頭しながら一役買っていた。
ゴルフ練習場で不動産業界に精通している者と接触して、成本の職場の裏情報を得ていた。
　
＜江守不動産えもりふどうさん＞はワケあり物件を広く扱っていた。
　老朽化で住めない状態になった建造物は解体せざるを得ない。
　ただ、江守側が所有者側に紹介した解体屋は、闇業はんざい者である。解体屋と共謀して高額の見積もりを行い、それが稼ぎとなっていた。

　ちなみに、成本の内部告発により、江守側は他にも違法営業していることが発覚した。彼らは暴力団を雇い、地主や住民を恫喝おどして立ち退かせた後、開発工事を行うという、極めて悪質な商法を行っていた。
そして、売り上げを改ざんしていたことから、急成長はでっち上げだと分かった。これにて、＜江守不動産＞は廃業に追い込まれることとなった。

　それから数日後、成本は＜真部探偵事務所＞に訪れていた。

「…あなた方のお陰で、ゴルフ場の件は白紙になりました」
「それは良かったが…あの屋敷はどうなる？」
「心配無用です、僕がちゃんと土地ごと買い取りましたから」
「え？」
　真部たちは成本の衝撃的な発言で眼を点にした。

「父が僕にお金を遺してくれたんです、初めて使いました」
「まさか、あんたが三友家の御曹司おぼっちゃまだったとはな…」
「…実は音信不通だった妹と会うことができまして…今度、一緒に改修される屋敷を見に行く予定です」
「吉報ラッキーが続くが、この先、当てはあるのか？」
「しばらく家族とのんびり過ごして、起業しようかと思います」
「何か企みがあるようだな…財閥再建とか？」
「ご想像にお任せしますよ、それではそろそろ失礼します…」
　成本（三友）は嬉しそうな表情のまま、＜真部探偵事務所＞を後にした。

「…これにて一件落着だな……あれ？」
　真部はリビングルームの机上に置かれた物に注目した。
「これ、忘れてたな…かなりの延滞料になるな…」
　真部はレンタルビデオを返すのを忘れていて、呆れ顔であった。
　さらには…

「達洋～三國さんからあなた宛てに請求書が来てるよ～」
　三國が送った請求書の内容は、成本の依頼のために提供したメイクや衣装の代金であった。今回の依頼料は、それでほとんど消えるのであった。