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第5週
WEEKLY 5th 「クランクアップ!」(28)
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年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 5th 「クランクアップ!」
≪28≪
一刻が扮する主人公〝新室零〟の愛車は、ダークブルーのマセラティだった。一刻は車の免許がないため、エージェント・ヒューマノイドが彼の代理に徹した。
ナギ扮する皇女、〝ミーシャ・ユウミ・グレースバーン〟は悪党に攫われてしまい、新室(一刻)が彼女を助けようと愛車で追いかけるシーンだ。
「アクション!」
…ブォォ…ォォォ
偽首都高で車のエンジン音が鳴り響いていた。
「アクション!」
英雄監督の掛け声で、撮影場所は映画の世界に包まれた。2台の車両が制限速度を無視して、高速道路を激走していた。黒のベンツをマセラティが追う、王女(ナギ)を攫った悪党の車両は走行している一般車両を蹴散らして、逃走を続けて新室(一刻/スタント)はプロレーサー並みの運転技術で追跡した。
ポカ研班のカーチェイスシーンは何とも迫力があった。撮影はレコン・アイや高性能カメラ装置で行われて、計算されたカメラアングルにより、画が映えた。
「はい、カット!」
カーチェイスシーンは撮り直すことなく、無事に撮影が終了した。
「編集は運転手の姿以外、加えなくて大丈夫そうだね、こんな素晴らしい映像が撮れるなんて信じられないよ」
英雄はワンシーンの撮影が終わると、1人感極まっていた。
「まだ始まったばかりよ、これからたくさん撮っていくんだから」
「少し休憩するか?」
「そうね、食堂に…!」
ポカ研部員4名は撮影スタジオに向かおうとするが…
「よう、待たせたな~」
ポカ研部員の前には遅れてやって来た剛志の姿があった。
「郷田君、用事の方は大丈夫なの?」
「ああ、遅刻したお詫びをさせてくれ」
「お詫び?」
剛志は何を企んでいるのか、ポカ研部員4名は黙って、撮影スタジオの食堂に同行した。すると…
食堂のテーブルには数々の料理が並べられていた。
「これ全部、郷田君が作ったの?」
ナギは驚愕しながら、剛志に質問した。
「ああ、うちの店の賄いだが味は保証するよ、食べてくれ」
「では、お言葉に甘えて~」
まず、剛志の賄い料理を口にしたのは兼正《かねまさ》だった。
「なかなか良い味付けだね、たまには良いかも…」
「素直に美味いって言えないのか?」
兼正・剛志コンビの漫才でポカ研の食事時間は笑いに包まれた。これでポカ研部員は全員揃い、休憩後に撮影が再開された。
「俺に何かできることはないか?」
やる気満々の剛志がナギに訊ねた。
「そうね、何でもやる?」
「ああ、裏方でも良いぜ」
ナギは英雄と打ち合わせをして、何のシーンを撮るかを話し合った。
そして…
「郷田君の配役が決まったわ」
「そうか、どんな役だ?」
「皇族なんだけど…」
「皇族?重要な役なのか?」
「まあね、やってみる?」
「ああ、何か面白そうだ」
監督と助監督は剛志の承諾を得て、撮影プランを練った。
「郷田君、こっちに来て」
ナギは剛志を撮影スタジオ内、個室の一室に連れて行った。そこは鏡と椅子しかなく、実に殺風景であったが…
「ここで何を?」
「あなたは何もしなくて良いから…すぐ済むわ」
剛志はナギの言われるがまま、大人しくじっとしていた。すると、彼のいる個室に異変が起きて…
「おい!何が始まるんだ?」
剛志は個室内に収納された無数の人工作業アームに囲まれて、独り慌てふためいていた。
「ちょっとしたお化粧をしてもらうわ、痛くないから大丈夫よ…」
[これからメイク作業を始めさせてもらいます、楽にして下さい…]
人工知能の機能で人工作業アームが自動的に動き出して、短時間で剛志にメイクが施された。
「……もう終わったのか?」
[お疲れ様でした、前の鏡でご確認ください]
「…うん……ええ!!?」
剛志は自分の顔を見て、思わず仰天した。彼は西洋人っぽい顔立ちになっていた。
「未来の特殊メイク技術よ、簡単に元の顔に戻せるから、ご心配なく~」
剛志は整形した気分になり、恥ずかしそうに仲間の前でメイク後の顔を披露した。
「本当に大将なのか?」
「まるで別人だ」
「声を聞かないと分からないな」
ポカ研部員3名は、剛志の前で予想通りの反応を見せた。
「この役、俺じゃなくても良いんじゃないか?」
「そんなことないわよ、それじゃあ台詞を覚えてね」
剛志は騙された気持ちを味わうが、仕方なく引き受けた。彼の役柄はナギ演じるミーシャ皇女の異母兄妹の兄だった。
「主要人物は私たちで演じましょう、1人2役もあるかもよ」
映画撮影は始まったばかりで、ポカ研男性部員はナギの演出構想についていけてないが、それなりに楽しんでいた。
WEEKLY 5th 「クランクアップ!」
≪28≪
一刻が扮する主人公〝新室零〟の愛車は、ダークブルーのマセラティだった。一刻は車の免許がないため、エージェント・ヒューマノイドが彼の代理に徹した。
ナギ扮する皇女、〝ミーシャ・ユウミ・グレースバーン〟は悪党に攫われてしまい、新室(一刻)が彼女を助けようと愛車で追いかけるシーンだ。
「アクション!」
…ブォォ…ォォォ
偽首都高で車のエンジン音が鳴り響いていた。
「アクション!」
英雄監督の掛け声で、撮影場所は映画の世界に包まれた。2台の車両が制限速度を無視して、高速道路を激走していた。黒のベンツをマセラティが追う、王女(ナギ)を攫った悪党の車両は走行している一般車両を蹴散らして、逃走を続けて新室(一刻/スタント)はプロレーサー並みの運転技術で追跡した。
ポカ研班のカーチェイスシーンは何とも迫力があった。撮影はレコン・アイや高性能カメラ装置で行われて、計算されたカメラアングルにより、画が映えた。
「はい、カット!」
カーチェイスシーンは撮り直すことなく、無事に撮影が終了した。
「編集は運転手の姿以外、加えなくて大丈夫そうだね、こんな素晴らしい映像が撮れるなんて信じられないよ」
英雄はワンシーンの撮影が終わると、1人感極まっていた。
「まだ始まったばかりよ、これからたくさん撮っていくんだから」
「少し休憩するか?」
「そうね、食堂に…!」
ポカ研部員4名は撮影スタジオに向かおうとするが…
「よう、待たせたな~」
ポカ研部員の前には遅れてやって来た剛志の姿があった。
「郷田君、用事の方は大丈夫なの?」
「ああ、遅刻したお詫びをさせてくれ」
「お詫び?」
剛志は何を企んでいるのか、ポカ研部員4名は黙って、撮影スタジオの食堂に同行した。すると…
食堂のテーブルには数々の料理が並べられていた。
「これ全部、郷田君が作ったの?」
ナギは驚愕しながら、剛志に質問した。
「ああ、うちの店の賄いだが味は保証するよ、食べてくれ」
「では、お言葉に甘えて~」
まず、剛志の賄い料理を口にしたのは兼正《かねまさ》だった。
「なかなか良い味付けだね、たまには良いかも…」
「素直に美味いって言えないのか?」
兼正・剛志コンビの漫才でポカ研の食事時間は笑いに包まれた。これでポカ研部員は全員揃い、休憩後に撮影が再開された。
「俺に何かできることはないか?」
やる気満々の剛志がナギに訊ねた。
「そうね、何でもやる?」
「ああ、裏方でも良いぜ」
ナギは英雄と打ち合わせをして、何のシーンを撮るかを話し合った。
そして…
「郷田君の配役が決まったわ」
「そうか、どんな役だ?」
「皇族なんだけど…」
「皇族?重要な役なのか?」
「まあね、やってみる?」
「ああ、何か面白そうだ」
監督と助監督は剛志の承諾を得て、撮影プランを練った。
「郷田君、こっちに来て」
ナギは剛志を撮影スタジオ内、個室の一室に連れて行った。そこは鏡と椅子しかなく、実に殺風景であったが…
「ここで何を?」
「あなたは何もしなくて良いから…すぐ済むわ」
剛志はナギの言われるがまま、大人しくじっとしていた。すると、彼のいる個室に異変が起きて…
「おい!何が始まるんだ?」
剛志は個室内に収納された無数の人工作業アームに囲まれて、独り慌てふためいていた。
「ちょっとしたお化粧をしてもらうわ、痛くないから大丈夫よ…」
[これからメイク作業を始めさせてもらいます、楽にして下さい…]
人工知能の機能で人工作業アームが自動的に動き出して、短時間で剛志にメイクが施された。
「……もう終わったのか?」
[お疲れ様でした、前の鏡でご確認ください]
「…うん……ええ!!?」
剛志は自分の顔を見て、思わず仰天した。彼は西洋人っぽい顔立ちになっていた。
「未来の特殊メイク技術よ、簡単に元の顔に戻せるから、ご心配なく~」
剛志は整形した気分になり、恥ずかしそうに仲間の前でメイク後の顔を披露した。
「本当に大将なのか?」
「まるで別人だ」
「声を聞かないと分からないな」
ポカ研部員3名は、剛志の前で予想通りの反応を見せた。
「この役、俺じゃなくても良いんじゃないか?」
「そんなことないわよ、それじゃあ台詞を覚えてね」
剛志は騙された気持ちを味わうが、仕方なく引き受けた。彼の役柄はナギ演じるミーシャ皇女の異母兄妹の兄だった。
「主要人物は私たちで演じましょう、1人2役もあるかもよ」
映画撮影は始まったばかりで、ポカ研男性部員はナギの演出構想についていけてないが、それなりに楽しんでいた。
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