22 / 36
第4週
WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」(20)
しおりを挟む
年鑑 フューチャー・ウォーカー
WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」
≪20≪
ナギは壁に吸い込まれるようにして消えていった。これは手品ではない。
「おいおい、彼女どうしたんだ?」
「これには深い理由が…僕を信じてついてきてよ」
一刻に反論する者は誰もおらず、残された4人はナギを追いかけようとした。シートが貼られた壁に触れると、不思議な感覚が伝わり、全身がまばゆい光に包まれていくと、奇想天外な光景を目にした。
一刻たちが辿り着いたのは、果てしなく広い全体が白い土地、地平線が見えるだけの現実世界と隔離した場所だった。
「…ここは地球と同じくらいの重力…光と空気しかない空間よ、あのシートが出入り口になっているのよ」
ポカ研部室の壁に貼られたシート〝トランスレーションシート〟は超空間、異世界に移動するための道具であった。
「何故、僕らをこんな場所に?」
兼正がナギに訊ねた。
「ここで映画をつくるのよ、そのためにこの場所を借りたの」
「借りたって…こんな場所をどうやって?」
剛志は独り困惑していた。
「音代(ナギ)さん、君は一体何者なんだ?」
英雄はナギに素朴な疑問をした。一刻は頭を抱えるが…
「…ついに正体を明かす時が来たわね、私の本名はナギ、タイムマシンで24世紀からやって来た未来人なの…」
[私はナギ様の保護兼監視ロボットのドラッチと申します]
「タイムマシン…」
「24世紀…」
「未来人…」
「ロボット…」
20世紀の一般人には馴染みのない言葉が並べられていくが、兼正・剛志・英雄は戸惑う仕草を取った。
「すぐ信じることは難しいと思うけど、嘘は言ってないわ」
「野比坂君は音…ナギさんが未来人だと知っていたの?」
英雄は真面目な表情で、一刻の返答を待った。
「うん…黙っておこうと思ったんだけど…」
「お前の隣人が未来人…しかも、こんな美人が!」
「変わった人だと思ってたけど、まさか未来人とはね…」
「もう何者でも良いよ、悪い人には見えないし…」
ナギの正体に対して、それぞれ反応が違うが、彼女を受け入れるのにそう時間はかからなかった。
「細かいことは抜きにして、君を歓迎するよ、ナギさん、ようこそ20世紀へ!」
英雄が代表して、ナギに改めて挨拶した。一刻は少し納得していないようだが…
「ありがとう、歓迎してくれたお礼に、できる限りのことはするわ、ここを映画製作スタジオとして使ってよ」
「よくこんな広い場所を借りられたね」
「未来では空いた〝空間〟を借りることは珍しくないわ、ここなら何をやっても迷惑がかからないし、必要な物があれば手配するわ」
「それは助かる、野比坂君、脚本の方は順調?」
「え…うん、まあ…ちゃんと書きあげるよ」
一刻もやる気を取り戻して、自身の役割を果たそうとした。
「ナギちゃんのお陰で何とかなりそうだな」
「僕が頼りないばっかりに、本当に助かるよ」
兼正・剛志コンビは歓喜して、いつもの調子を取り戻した。
「野比坂君の脚本が完成したら、早速撮影に取り掛かろう」
ポカ研の部員は水を得た魚状態となり、積極的に活動を再開した。
その日の夜、一刻は大学祭映画の脚本を仕上げようとしていた。
「やっと完成した、さすがに疲れた~」
一刻は完成した脚本データを印刷して、一服しようとした。彼の部屋にはナギがお邪魔しており…
「お疲れ様~ビールでも飲む?」
「今は遠慮しとく…勝手に冷蔵庫開けるなよ」
「もう本格的に撮影が始まるのね、楽しみだわ」
「君には毎度驚かされてばかりだ、未来人だとバラして大丈夫か?」
「ええ、手は打ってあるから、気にしないで」
「今回ばかりは素直に喜んでいる、ありがとう」
「何よ、何か気持ち悪いわね」
ナギは一刻の妙な返答が気になっていた。
「実はこの脚本…高校時代に思いついたものでね」
一刻はナギの前で、思い出話を始めようとした。
「演劇部をやってた時の話?」
「ああ…嫌な青春さ…」
高校の文化祭で、一刻が脚本担当した演目を舞台化する予定だったが、稽古中に主役が体調を崩して、そのまま降板した。おまけに顧問が彼の脚本に不満を抱いたせいでお蔵入りに、その結果、別の部員が脚本を担当する流れになった。
「あなたの脚本、何がいけなかったの?」
「高校生向きじゃないと言われた…僕はマセてたからね」
「ボツになった脚本を復活させた理由は?」
「自分の力を認めてほしかったから…かな、未練とかもあるし…」
一刻たちは珍しく夜更けまで雑談をしていた。これで反りが合わない彼らの距離が僅かながら縮まった。かと…
WEEKLY 4th 「私(僕)が主役?」
≪20≪
ナギは壁に吸い込まれるようにして消えていった。これは手品ではない。
「おいおい、彼女どうしたんだ?」
「これには深い理由が…僕を信じてついてきてよ」
一刻に反論する者は誰もおらず、残された4人はナギを追いかけようとした。シートが貼られた壁に触れると、不思議な感覚が伝わり、全身がまばゆい光に包まれていくと、奇想天外な光景を目にした。
一刻たちが辿り着いたのは、果てしなく広い全体が白い土地、地平線が見えるだけの現実世界と隔離した場所だった。
「…ここは地球と同じくらいの重力…光と空気しかない空間よ、あのシートが出入り口になっているのよ」
ポカ研部室の壁に貼られたシート〝トランスレーションシート〟は超空間、異世界に移動するための道具であった。
「何故、僕らをこんな場所に?」
兼正がナギに訊ねた。
「ここで映画をつくるのよ、そのためにこの場所を借りたの」
「借りたって…こんな場所をどうやって?」
剛志は独り困惑していた。
「音代(ナギ)さん、君は一体何者なんだ?」
英雄はナギに素朴な疑問をした。一刻は頭を抱えるが…
「…ついに正体を明かす時が来たわね、私の本名はナギ、タイムマシンで24世紀からやって来た未来人なの…」
[私はナギ様の保護兼監視ロボットのドラッチと申します]
「タイムマシン…」
「24世紀…」
「未来人…」
「ロボット…」
20世紀の一般人には馴染みのない言葉が並べられていくが、兼正・剛志・英雄は戸惑う仕草を取った。
「すぐ信じることは難しいと思うけど、嘘は言ってないわ」
「野比坂君は音…ナギさんが未来人だと知っていたの?」
英雄は真面目な表情で、一刻の返答を待った。
「うん…黙っておこうと思ったんだけど…」
「お前の隣人が未来人…しかも、こんな美人が!」
「変わった人だと思ってたけど、まさか未来人とはね…」
「もう何者でも良いよ、悪い人には見えないし…」
ナギの正体に対して、それぞれ反応が違うが、彼女を受け入れるのにそう時間はかからなかった。
「細かいことは抜きにして、君を歓迎するよ、ナギさん、ようこそ20世紀へ!」
英雄が代表して、ナギに改めて挨拶した。一刻は少し納得していないようだが…
「ありがとう、歓迎してくれたお礼に、できる限りのことはするわ、ここを映画製作スタジオとして使ってよ」
「よくこんな広い場所を借りられたね」
「未来では空いた〝空間〟を借りることは珍しくないわ、ここなら何をやっても迷惑がかからないし、必要な物があれば手配するわ」
「それは助かる、野比坂君、脚本の方は順調?」
「え…うん、まあ…ちゃんと書きあげるよ」
一刻もやる気を取り戻して、自身の役割を果たそうとした。
「ナギちゃんのお陰で何とかなりそうだな」
「僕が頼りないばっかりに、本当に助かるよ」
兼正・剛志コンビは歓喜して、いつもの調子を取り戻した。
「野比坂君の脚本が完成したら、早速撮影に取り掛かろう」
ポカ研の部員は水を得た魚状態となり、積極的に活動を再開した。
その日の夜、一刻は大学祭映画の脚本を仕上げようとしていた。
「やっと完成した、さすがに疲れた~」
一刻は完成した脚本データを印刷して、一服しようとした。彼の部屋にはナギがお邪魔しており…
「お疲れ様~ビールでも飲む?」
「今は遠慮しとく…勝手に冷蔵庫開けるなよ」
「もう本格的に撮影が始まるのね、楽しみだわ」
「君には毎度驚かされてばかりだ、未来人だとバラして大丈夫か?」
「ええ、手は打ってあるから、気にしないで」
「今回ばかりは素直に喜んでいる、ありがとう」
「何よ、何か気持ち悪いわね」
ナギは一刻の妙な返答が気になっていた。
「実はこの脚本…高校時代に思いついたものでね」
一刻はナギの前で、思い出話を始めようとした。
「演劇部をやってた時の話?」
「ああ…嫌な青春さ…」
高校の文化祭で、一刻が脚本担当した演目を舞台化する予定だったが、稽古中に主役が体調を崩して、そのまま降板した。おまけに顧問が彼の脚本に不満を抱いたせいでお蔵入りに、その結果、別の部員が脚本を担当する流れになった。
「あなたの脚本、何がいけなかったの?」
「高校生向きじゃないと言われた…僕はマセてたからね」
「ボツになった脚本を復活させた理由は?」
「自分の力を認めてほしかったから…かな、未練とかもあるし…」
一刻たちは珍しく夜更けまで雑談をしていた。これで反りが合わない彼らの距離が僅かながら縮まった。かと…
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る
マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。
思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。
だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。
「ああ、抱きたい・・・」
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
庭木を切った隣人が刑事訴訟を恐れて小学生の娘を謝罪に来させたアホな実話
フルーツパフェ
大衆娯楽
祝!! 慰謝料30万円獲得記念の知人の体験談!
隣人宅の植木を許可なく切ることは紛れもない犯罪です。
30万円以下の罰金・過料、もしくは3年以下の懲役に処される可能性があります。
そうとは知らずに短気を起こして家の庭木を切った隣人(40代職業不詳・男)。
刑事訴訟になることを恐れた彼が取った行動は、まだ小学生の娘達を謝りに行かせることだった!?
子供ならば許してくれるとでも思ったのか。
「ごめんなさい、お尻ぺんぺんで許してくれますか?」
大人達の事情も知らず、健気に罪滅ぼしをしようとする少女を、あなたは許せるだろうか。
余りに情けない親子の末路を描く実話。
※一部、演出を含んでいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる