ジャンヌコード

daidai

文字の大きさ
上 下
74 / 101
短編2

第1幕 第1場/1

しおりを挟む
ジャンヌコード 女神の挑戦
ブルーナンバー 禁断の休暇バカンス

1 美海の香り

 厳しい暑さが続く日本の夏、<煌花歌劇団おうかかげきだん>は勢いが衰えず、観客の期待に応えようと奮闘していた。
<煌花歌劇団>は複数の舞台班カンパニーに分かれて公演を行っており、
公演スケジュールなどはそれぞれ異なる。
 さらには拠点としている劇場の公演だけでなく、全国巡業、新人スター育成のための公演などがあるため、班の中で二手に分かれることが多々ある。これにより、ファンは日本各地で<煌花歌劇団>の舞台を楽しむことが可能となった。
 当劇団舞台一班のトップスターのテリカは、大作の公演を終えて一段落ついていた。

「…ふ~焦った…」
 ある朝、テリカは一度目を覚まして慌てた素振りを見せるが、ふと休日だということに気づいた。
ほっとした彼女は、不規則と分かっていながら再びベッドに寝転がり、二度寝することにした。
その日、午前中は比較的気温が低く、テリカは冷房エアコンをつけていなかった。
 
 テリカはある夢を見ていた。しかし、夢といってもその内容は、現実でのテリカの歌劇団新人時代の出来事であった。この頃、トップスター時代に比べれば楽な方で、彼女は安心して夏休みを取っていた。
 テリカは夏に休みを取ると、決まった場所に足を運んで羽を伸ばしていた。
 その場所は神奈川県内に位置する美しい海が一望出来るのどかな観光地、<柚里浜ゆずりはま>であった。
 漁業が盛んな町であるが、春は山で花見、夏はスキューバダイビング、秋は紅葉狩り、冬は外湯巡りと一年中楽しめる観光スポットとなっていた。

「…ガトン…ゴゴ…」
 トンネルの暗闇から抜けて海沿いを走る列車には、テリカが乗っていた。その他の乗客の中には、
馬鹿騒ぎしている大人や子供がいて、それを迷惑そうに見ている者も少なくない方で…

「…コン」
 その時、酔っ払いが放ったビールの空き缶がテリカに命中した。
 しかし、彼女は少しも反応せず、サングラスをかけながら爆睡していた。

[…ご乗車ありがとうございました…まもなく<柚里浜>に到着いたします…
お降りの際、お忘れ物がないようお気を付け下さい…]
 車内に聴き心地の良いアナウンスが流れ、テリカはそれで眼を覚まして降りる準備をした。

「あ~やっと着いた~暑いね~」
 テリカは背中を軽く反らし、駅を出ると、まぶしい陽光を浴びた。外は蝉の声が鳴り響き、夏の空気が染み渡っていたが、がらんとして、これといって目立つ物はなかった。
 駅前にはタクシー乗り場と一日に二回しか来ないバスの停留所、他に小さな売店や古びた食堂がある程度だ。
「…!」
 テリカにとって見慣れた風景であったが、今年はどうも様子が違っていた。
「環境破壊するな!」「リゾートホテル建設反対!」等と書かれた旗が駅の隅の方に掲げられており、
さらには熱い中、だらだらと汗を掻きながら署名運動をしている町民を眼にした。
 そんな中…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

エロ・ファンタジー

フルーツパフェ
大衆娯楽
 物事は上手くいかない。  それは異世界でも同じこと。  夢と好奇心に溢れる異世界の少女達は、恥辱に塗れた現実を味わうことになる。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

蒼緋蔵家の番犬 2~実家編~

百門一新
ミステリー
異常な戦闘能力を持つエージェントナンバー4の雪弥は、任務を終えたら今度は実家「蒼緋蔵家」に帰省しなければならなくなる。 そこで待っていたのは美貌で顰め面の兄と執事、そして――そこで起こる新たな事件(惨劇)。動き出している「特殊筋」の者達との邂逅、そして「蒼緋蔵家」と「番犬」と呼ばれる存在の秘密も実家には眠っているようで……。 ※「小説家になろう」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...