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長編1

第2幕 第3場B/1

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第2幕 第3場B/1

第2幕

第3場B 神女の夜会

 その日、テリカは舞台稽古、チェオンはメディア媒体の取材や打ち合わせと、本業に打ち込んでいた。昨夜、彼女たちは副業で悔しい思いをしたため、表の世界の空気を吸うことは気晴らしになっていた。

 ただ、テリカたちは諦めているわけでなかった。<神女ジャンヌ>の二人は密かに反撃の機会を窺っていた。

 場所は<アクア・アイランド>第一地区(北部)の居住区。富裕層セレブが集まる高台の閑静な住宅街。そこには藤茂邸がある。

 予定より早く公務が終わり、藤茂はまっすぐ帰宅したわけだが…

「お帰りなさい」

 藤茂を出迎えたのは、彼の妻であった。彼女は元ファッションモデルで、かつて、有名雑誌の表紙を飾るカリスマ的存在であった。

「…昼は食べて来たから要らんよ、久々にゆっくりできる」

「あの…お客さんが来ているんだけど…記者さんとか…」

 藤茂は妻の思いがけない発言で、冷静さを失った。

「…何だ、お前は?」

 藤茂が応接間の扉を開けると、独りの待ち人が座っていた。

「お邪魔してます…すみません、連絡せずに訪れて…」

 藤茂の眼前には、記者を装ったミチコの姿があった。彼女は市長夫人が用意した紅茶を啜すすり、首を長くして彼を待っていた。

「また記者か…もう取材はこりごりだ、帰れ!」

「まあまあ…すぐ済みますから」

 ミチコは機嫌の悪い藤茂を宥めて、本題に入ろうとした。



「…私、今はフリーなんですが…以前は大手新聞社に勤めていまして…」

「最近そういうのが多いな…で、用件は?」

「実は…見てほしい物があるんですが…」

 ミチコはA4サイズの白封筒を持っており、その中身を藤茂に見せようとした。



「…これは!」

 藤茂はミチコが用意した物で、思わず眼が点になった。

「昨夜の<海都学園かいとがくえん>運動場を上空から撮ったものです、随分と賑やかみたいですが…何をしているか、ご存知ですか?」

「…いや、その…私は関係ない…」

 ミチコは、藤茂の一言を聞き逃さなかった。


「それは知っている言い方ですね、住民のために運動場を開放してないとすれば…他に目的があるわけですか?」

「それは…」

 ミチコの尋問は続くが、藤茂は吐こうせず、じっと堪えた。

「これはどうでしょう…」

 ミチコはさらなる奥の手を出した。

「おい、どういうことだ?」

 藤茂は顔色が悪くなる一方で、ミチコを恐れた。



瓢箪ひょうたんから駒が出たような感じですか?」

 ミチコは、例の贈収賄現場が写っている写真を藤茂に見せた。

「どうやって手に入れたか知らんが、それで脅す気か?」

「この写真が世間に公開されれば。あなたの政治生命は終わりでしょうね、どうします?」

「え?」

「あなた次第です、いくらで買います?」

「今度は揺すりか…まいったな」

 藤茂はミチコの誘いに食いついた。二人は密約を交わすわけだが…


「………ふ」

 藤茂の家には盗聴器が仕掛けられていた。仕掛けたのは、彼の秘書であった。謎が多い女性秘書はデジタル機材が揃った薄暗い部屋で、ミチコたちの会話を聴いていた。彼女は煙草をくわえながら不敵な笑みを浮かべるのであった。



「…お邪魔しました」
 ミチコは藤茂との密談を済ませて、大人しく去ろうとした。

 それから… 

 テリカとチェオンは本業を無事終えると、寄り道せずに宿泊中のホテルへと戻った。二人は荷物を宿泊部屋に置いた後、ホテル内のレストランへと向かったが、誰かと待ち合わせしているようであった。


「先に頂いてるよ~」

 テリカたちを待っていたのは、ミチコであった。彼女はレストラン自慢のビュッフェを堪能している様子であった。

「私らも腹ペコです~」

<ジャンヌ>三人は食事をしながら、副業のミーティングを始めた。

「…それで収穫はあったんですか?」
「勿論よ、市長かれを上手く利用したわ」
「取引に応じました?」
「ええ、ちょっと揺さぶりをかけたら、言いなりになってくれたわ」

 ミチコは藤茂の弱みに付け込んで、収穫を得ていた。

 藤茂は贈収賄現場の写真、画像データが保存された記録メモリーカードを買い取り、<海都学園>運動場の極秘開放日をミチコに教えたのであった。

「開放日はいつですか?」
「二日後よ…」
「ラストチャンスですね…私は東京公演があるし…」
「そう、失敗は許されない…当日にも力を貸しましょう」
「恩に着ますわ、先輩」

<ジャンヌ>三人は特命ミッション遂行を誓い、運命の日を待った。そして… 

 運動場極秘開放日となり、テリカとチェオンはミチコの隠れ家に訪れた。
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