5 / 101
長編1
第1幕 第2場/2
しおりを挟む
第1幕 第2場/2
第1幕
第2場 記念式祭典
東京 霞が関 警察庁
薄暗い個室に二つの人影があり、ネット電話で話しているのは、警察庁警備局公安<IP>課の課長で、彼の前で姿勢よく立っているのは部下だった。
「今年で五十周年ですか…おめでとう!」
[ありがとう、祖父が歌劇団を世に生み出してから…もう半世紀以上…そちらの支援がなければどうなっていたか]
課長の通話相手は、<煌花歌劇団>の理事長であった。
「困った時はお互い様ですよ…これからもよろしくお願い致します」
[勿論です…久々に会いませんか?直接会ってお話ししたいことが…]
「構いませんよ、そちらに合わせます…場所も指定していただければ…」
[承知しました、決まり次第ご連絡いたします…それでは]
二人のネット電話での会話が終わり、課長はひとまず一呼吸した。
「…理事長に会われるんですか?」
部下の男がそっと課長に声を掛けた。
「…生憎、スケジュールがぎっしりだ、代わりに会ってきてくれないか?」
「分かりました」
<IP>課の課長は、劇団側との会合を部下の課長補佐に任せた。
そして…
季節は春。桜咲く心地よい空気に包まれていた。ついに運命の日が訪れた。その日は、<煌花歌劇団>五十周年を祝う祭典が行われる日であった。
劇場前には送迎車が続々と到着、マスコミ関係者やファン大勢がそれに注目していた。車を降りて現れたのは歌劇団の歴史に名を刻み、伝統を受け継いできた歴代のスターたちであった。
また、集まっているのは歌劇団OGだけではなく、現役生も祭典に参戦することになる。人の波は途切れることはなく、祭典が始まる前からお祭り騒ぎであった。
観客席は予想通り満員で、彼らは運命の瞬間を待ち望んでいた。公演チケットの一部は、ネット経由、ダフ屋の手により高額で転売され異常な事態を巻き起こした。
祭典当日、煌花劇場の楽屋では各班の現役トップスターたちが出番待ちしていた。彼女たちは待っている間、偉大な先輩と雑談したり、記念写真を撮ったりと、夢のような時間を過ごしていた。そんな中、テリカは自分の出番に備えて、気持ちを落ち着かせようと楽屋のソファーに座っていたのだが…
「…よっこいしょ~」
その時、テリカのとなりに爺臭い掛け声を発した人物が座り込んだ。
「…そろそろ出番ですね~」
「そうやね、心臓バクバクやわ~」
テリカの隣に座ったのは、彼女の先輩で現役トップスターのマユ・ラモンであった。
マユは学生時代に打ち込んだダンスが活かされ、〝踊りの神の申し子〟としてトップスターに抜擢された。また歌唱力、芝居にも定評があり、圧倒的な存在感で舞台に立ち、多くのファンを魅了した。
しかしながら、式祭典後の公演で退団することとなっている。マユは歌劇団の伝統を守り続けたスターとして名を残し、新たな道に進もうとしていた。
テリカはマユの舞台俳優論に惚れ込んでいた。
「…マユさんでも緊張しますか?」
「当たり前やんか、何処見ても伝説のスターが歩いてるんやから」
「…この祭典、式典が終われば、先輩の退団公演ですね…」
「そうやね~この夢の大イベントに参加出来てよかったわ~」
「…私が訊くことじゃないですが、心残りはありますか?」
「ないね、自分の選んだことに一切後悔はないし…<煌花歌劇団>の舞台人でいることが何より幸せやった…」
マユは真っ直ぐな眼で、後輩のテリカに答えを返した。
「…そろそろ準備お願いします~!」
そこでスタッフがテリカたちを呼びに来た。
「…さあ、派手に暴れよか~」
「はい!」
ついに現役トップスターのテリカたちの出番となり、彼女たちはOGに負けず劣らず大いに劇場内を盛り上げた。
翌日、記念式典が行われて、現役の劇団員が全員出席して、各界の有名人、著名人、皇族からも祝福された。これにて、<煌花歌劇団>の五十周年式祭典の幕が下りて、新たな伝説が始まろうとした。
第1幕
第2場 記念式祭典
東京 霞が関 警察庁
薄暗い個室に二つの人影があり、ネット電話で話しているのは、警察庁警備局公安<IP>課の課長で、彼の前で姿勢よく立っているのは部下だった。
「今年で五十周年ですか…おめでとう!」
[ありがとう、祖父が歌劇団を世に生み出してから…もう半世紀以上…そちらの支援がなければどうなっていたか]
課長の通話相手は、<煌花歌劇団>の理事長であった。
「困った時はお互い様ですよ…これからもよろしくお願い致します」
[勿論です…久々に会いませんか?直接会ってお話ししたいことが…]
「構いませんよ、そちらに合わせます…場所も指定していただければ…」
[承知しました、決まり次第ご連絡いたします…それでは]
二人のネット電話での会話が終わり、課長はひとまず一呼吸した。
「…理事長に会われるんですか?」
部下の男がそっと課長に声を掛けた。
「…生憎、スケジュールがぎっしりだ、代わりに会ってきてくれないか?」
「分かりました」
<IP>課の課長は、劇団側との会合を部下の課長補佐に任せた。
そして…
季節は春。桜咲く心地よい空気に包まれていた。ついに運命の日が訪れた。その日は、<煌花歌劇団>五十周年を祝う祭典が行われる日であった。
劇場前には送迎車が続々と到着、マスコミ関係者やファン大勢がそれに注目していた。車を降りて現れたのは歌劇団の歴史に名を刻み、伝統を受け継いできた歴代のスターたちであった。
また、集まっているのは歌劇団OGだけではなく、現役生も祭典に参戦することになる。人の波は途切れることはなく、祭典が始まる前からお祭り騒ぎであった。
観客席は予想通り満員で、彼らは運命の瞬間を待ち望んでいた。公演チケットの一部は、ネット経由、ダフ屋の手により高額で転売され異常な事態を巻き起こした。
祭典当日、煌花劇場の楽屋では各班の現役トップスターたちが出番待ちしていた。彼女たちは待っている間、偉大な先輩と雑談したり、記念写真を撮ったりと、夢のような時間を過ごしていた。そんな中、テリカは自分の出番に備えて、気持ちを落ち着かせようと楽屋のソファーに座っていたのだが…
「…よっこいしょ~」
その時、テリカのとなりに爺臭い掛け声を発した人物が座り込んだ。
「…そろそろ出番ですね~」
「そうやね、心臓バクバクやわ~」
テリカの隣に座ったのは、彼女の先輩で現役トップスターのマユ・ラモンであった。
マユは学生時代に打ち込んだダンスが活かされ、〝踊りの神の申し子〟としてトップスターに抜擢された。また歌唱力、芝居にも定評があり、圧倒的な存在感で舞台に立ち、多くのファンを魅了した。
しかしながら、式祭典後の公演で退団することとなっている。マユは歌劇団の伝統を守り続けたスターとして名を残し、新たな道に進もうとしていた。
テリカはマユの舞台俳優論に惚れ込んでいた。
「…マユさんでも緊張しますか?」
「当たり前やんか、何処見ても伝説のスターが歩いてるんやから」
「…この祭典、式典が終われば、先輩の退団公演ですね…」
「そうやね~この夢の大イベントに参加出来てよかったわ~」
「…私が訊くことじゃないですが、心残りはありますか?」
「ないね、自分の選んだことに一切後悔はないし…<煌花歌劇団>の舞台人でいることが何より幸せやった…」
マユは真っ直ぐな眼で、後輩のテリカに答えを返した。
「…そろそろ準備お願いします~!」
そこでスタッフがテリカたちを呼びに来た。
「…さあ、派手に暴れよか~」
「はい!」
ついに現役トップスターのテリカたちの出番となり、彼女たちはOGに負けず劣らず大いに劇場内を盛り上げた。
翌日、記念式典が行われて、現役の劇団員が全員出席して、各界の有名人、著名人、皇族からも祝福された。これにて、<煌花歌劇団>の五十周年式祭典の幕が下りて、新たな伝説が始まろうとした。
1
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
声の響く洋館
葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、友人の失踪をきっかけに不気味な洋館を訪れる。そこで彼らは、過去の住人たちの声を聞き、その悲劇に導かれる。失踪した友人たちの影を追い、葉羽と彩由美は声の正体を探りながら、過去の未練に囚われた人々の思いを解放するための儀式を行うことを決意する。
彼らは古びた日記を手掛かりに、恐れや不安を乗り越えながら、解放の儀式を成功させる。過去の住人たちが解放される中で、葉羽と彩由美は自らの成長を実感し、新たな未来へと歩み出す。物語は、過去の悲劇を乗り越え、希望に満ちた未来を切り開く二人の姿を描く。
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる