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第二章

──第105話──

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その小さな子供が俺の近くに寄り見上げてくる。

「あれ?……おにーさん?」

───しまった。

 俺は自分がした失言に気が付き、手で口を抑えるが、出した言葉は戻らない。

 案内してきた人間は俺よりも身長が高く見下ろされる為、フードで髪は隠れ 顔も一部しか見えていなかっただろう。
 だが、ショーンは俺よりも身長が低く見上げる為、顔も髪もフードでは隠し切れない。

誤魔化せない。

 俺がショーンの名前を呼ばなければショーンに気付かれ無かったかもしれない。
 そうで無くても、この場から立ち去る位の時間は出来た筈だ。

うん、分かってる。
分かってるってネロ。
だから、そんな怖い顔で睨まないでくれるかな?
ラルフもそんなに呆れないで。
自分の失態は分かってるから!
追い討ちをかけないでくれ!!

 俺はこの後どうすれば良いか分からずに嫌な汗が流れているのを感じていると、案内してきた人間がショーンに話かける。

「君は……この新人の事を知っているのか?」

「??  うん!銀髪のおにーさんだよ!」

「そ、そうか……。」

 二人の人間はショーンの言葉を聞いてなにやらコソコソと話をし出した。

 その間、俺達は小声で言語も変え、話を切り出したのはネロだった。

『まさか、ショーンがいるなんてな……。それにしてもルディは驚き過ぎだ。』

『誰だって驚くだろ!こんな異常空間にショーンがいたらさ!』

『ほんとにねー?なんでショーンがいるんだろーねー?……とりあえず、どーする?』

『そうだな……。“銀髪”ってショーンが言っちまったし……。“銀髪”なんてルディ位しかいないからな。』

『銀髪なのは、俺が悪い訳じゃないんだけどな……。で、だとしたら、俺達の事がバレたって考えた方が良いな。』

『それじゃー、帰るー?あ、その前に、資料とかはどーだったー?』

『俺の方は特にいるもんはねぇな。ルディは?』

『俺も。“核”を作ってそうな魔力はもう回収したからな。これで、メガネを改良すれば良いだろ。……死体を使った魔法陣はいらねぇし。』

『なんでー?ルディなら相殺出来るんじゃないのー?』

『ラルフが言うみたいに相殺は出来る。けど、相殺出来たとしても、死体に戻るだけだ。それに、止めるなら心臓部分に作った魔法陣を壊せば止められる。』

『なるほどな。……用がないなら帰るか。』

このまま帰っても良いんだけど……。
ショーンがいるんだよな……。
ほんと、何でいるんだろ。

 俺達よりも先に向こうの会話が終わった様で、人間が言葉を投げ掛けてきた。

「君達、少し待っていてくれるか?見せたいモノがあるんだ。」

「あぁ、分かった。」

 ネロが短く答えると二人の人間は扉を出た後、走っている足音が聞こえて来た。

 足音が遠くなったのを確認したネロが口を開く。

「さて、と。律儀に待ってる必要もねぇから帰るか。」

「増援が来ちゃうかもねー!」

 俺が答えようと口を開いた時にローブを くいくい と引っ張られた。

 下を見るとショーンが俺のローブを持っている。

 ショーンは俺と目が合うと疑問を発した。

「おにーさん達はどーして ここに いるの?」

それは俺が聞きたいよ!!

 俺はショーンと目線を合わせて質問を投げ返す。

「ショーンこそ。どうして、ここにいるんだ?」

「あのね!あのね!お手伝いを たのまれたの!」

 ショーンは眩しい笑顔で照れ臭そうに頬を染めながら言葉を続けた。

「最近、つかれてた から……僕もなにか お手伝い できないかなって聞いたらね!手伝ってもいいよって!」

「…………。」

「はじめて おしごとで 頼ってもらえたんだ!だから、僕!頑張ってお手伝いしてるんだよ!」

 どう?どう? とショーンは薬草を採った時の様に褒めて欲しそうにしていた。

ショーンは何も知らないのか……。
ただ、家の人の手伝いをしてる感覚なんだろうな。
こんな純真無垢な子に何て手伝いさせてんだよ……。
ショーンはまだ善悪がついてないんだろうな……。

 俺はショーンの透き通った瞳の前に、何も言葉が出なかった。
 ただ 一言。
 あの時と同じようにショーンの頭に手を乗せる。

「……ショーンはえらいな。」

「うん!えへへへへ。」

 ショーンは嬉しそうに頭に手を当てて喜んでいた。

 そんなショーンを目の前に、俺は何とも言えない気持ちになり感情が混乱していたが、俺が落ち着くのを相手は待ってくれなかった。

 ドタドタと複数の足音がこちらに向かってきたかと思うと、すぐに扉が開かれ、十人程の杖を持ったローブの人達がなだれ込んでくる。

 ネロは入ってきた人間を睨み、舌打ちをした。

「チッ……もう来やがったか。」

「速かったねー!」

 ローブの人間達の中の一人が俺達に指を差し、声を発する。

「いたぞっ!あいつらだ!!あのローブの三人を殺せっ!!」

おーおー、荒れてるねー……。
ネロとラルフは……既に臨戦態勢か。
なら、俺も……──

「ま、待って!!」

 俺が臨戦態勢をとろうとした時、ショーンが俺の前で両手を広げてローブの人間達に向き合っていた。

いや!
危ないから!
下がって!!

「そこをどけ!小僧!!」

ホントに!!
その言葉には激しく同意する!

「おにーさんは優しい人だよ!わるい 人じゃないよ!!」

「主様からの命令だ!どかぬならお前も敵とみなすぞ!!」

「っ!!……で、でも!おにーさんは僕にたくさん優しくしてくれたもん!ほめてくれたもん!わるい人じゃないよ!!おにーさんにイジワルしないで!!」

ショーン……。
気持ちは嬉しい。
嬉しいけど、本当に危ないからどいて!!!

「そうか……そこまで言うなら……。」

「わ、わかってくれた??」

 一人が杖を降ろしてショーンを見る。
 ショーンは安堵した表情を見せると、人間が睨みを効かせてきた。

ドカァアァン!

「お前も敵とみなすまでだ。」

「ショーン!!」

 俺は相手の攻撃を防ごうとしたが、ショーンに防御膜を張るのが精一杯で結界まで張れず、相手の杖から出された炎と共にショーンは吹き飛ばされた。


















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