上 下
4 / 114
序章

──第4話──

しおりを挟む
ふわっと浮き上がる感覚とヒュッと縮こまる身体。

声にも出せない恐怖。

不安定なバンジージャンプをした俺は泣き声も出すことも出来ずにぐったりとする。

そのまま、カイン達は歩き出し一本の大きな木の下へ辿り着いた。

幹はとてつもなく太く、真ん中には大きな穴が開いていて洞窟にも見える。

『ちょいと待っておくれ。長老が【人化】を使っておったら、またこの子が驚くであろう?』

『そうだな、分かった。』

木の前でカインは止まり、ライアは中へと入って行った。

【人化】って人間の姿になるって事か?
別にそれで驚かないんだけど。

残されたカインは、咥えていた俺をゆっくりと左右に揺らす。

おお、天然のゆりかごみたいだ。
これで、足が宙に浮いて無かったらもっと気持ちよかっただろうな。

「ぁう~、うー!」

俺が機嫌良く声を上げると、優しい笑いがカインから漏れてきた。

穏やかな時間が流れる。

それから数分後。

ライアが木の中から出てきた。

こちらに近寄り、鼻を俺の頭に押し付けてからカインを見る。

『さて、長老の元へ行こうかの。』

俺は内心ドキドキしながら、木の中へと連れられて行った。



『ふむ、その子か。カインよ、その子をワシの前まで持ってきてくれるか?』

しわがれた男性の声に促され、俺はカインよりも二回り程大きい白銀の狼の前に降ろされた。
威圧感があり、鋭い目で俺を覗きこんでくる。

『ふむ……人間には珍しい容姿だな。銀色の髪に紅の瞳か……そうか、ライアが言う様に捨てられた子供なのは間違いない様だな。』

『……それはどういう事かの?』

あ、俺の容姿ってそうなんだ。
来てから鏡とか見てなかったから分からなかった。
でも、なんで捨てられたって分かるんだろう?
ある意味、神様(ry)から捨てられたって言っちゃ捨てられたんだけどな。

『この容姿の人間は生まれる事はほぼ無いんだ。それは何故かと言うと……非常に魔力とその質が高く精霊にも好かれやすい。故に多種多様な魔法が使える様になる。』

『?だったら何故捨てるのだ?』

ライアは再び疑問を口にする。
その様子をカインは静かに見守っていた。

『数千年前にとある国で生まれた子は魔力の暴走で国を半壊させ、他の国で生まれた子は私利私欲に動き内乱を引き起こし国を窮地に追いやった。別の国では魔族の元へ行き、魔族と共に人間を襲った事もある。』

えぇー……
俺と似た容姿の人たち何やってんの。
まともに平和に生きようぜ。

『だが、良い子もいた。魔物の大群から1人で国を守り、復旧にも率先して手を貸していた子もおったようだ。前者の国では〈呪い子〉と呼ばれ生まれてすぐに殺される。後者の国では〈神の子〉として、王宮に保護される様になっている。この子は〈呪い子〉としての扱いを受けたのだろう。』

『だが、この子は殺されずに深淵しんえんの森に捨てられておったぞ?』

『人間の親も我が子を殺す事が出来なかったんだろう……深淵の森に捨て置けば狂う魔物に食われるだろうしな。』

悲しそうな目で長老は俺を見ていた。

そんな目で俺を見ないで。
大丈夫、俺はまともに生きていくからさ。

『わしには人間の考える事は分からんな。自分の子供を自分の意思で殺すなど考えられん。』

カインが苦々しく呟く。

まだカインの中で人間への感情が落ち着いてないのだろう。

『のおのお、長老、この子は腹を空かせておるのだが、肉を食わんのだ。どうしたらいいかの?』

空気を読まないライアの声が静まり返った部屋に響く。
長老は驚いた顔をした後、カインに顔を向けた。

『カインよ……説明をしてもらっても良いか?』

カインは小屋であった出来事を長老に説明する。
説明を受けた長老は疲れた顔をしていた。

良かった。生肉は一般的ではないみたいだ。

『ライア……お主相変わらずだな……。子供を育てておった時、母乳を与えておっただろ。その通りにすれば良い。』

『今の妾は母乳がでないのだ……』

『その辺りは心配せんで良い。神獣王様が許してくれたのだろ?なら何も心配する事はない。』

『そうか……そうなのだな……っ!』

涙を流し喜ぶライアの頬をカインが舐める。

すごく微笑ましい。

『……カインとライアよ。この子を育てるのは大変な道になるぞ。それでも育てるか?』

二匹は静かに頷く。
それを暖かく見守る長老は、どこか安心した様子が伺えた。

『少し待ってくれるか?サンルーク様にこの子を家族として認めて貰わぬといけないからな。待っている間にでもこの子の名前を考えてくれ。』

『うむ。』
『はい。』

長老は俺の布を口に咥え、奥の部屋へと進んでいく。

カインよりも上手に持ってくれる。
安定感のある布にくるまれ、長い一本道の中を運ばれていく。

サンルークって誰なんだろう……?









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双

たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。 ゲームの知識を活かして成り上がります。 圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。

処理中です...