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序章
──第4話──
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ふわっと浮き上がる感覚とヒュッと縮こまる身体。
声にも出せない恐怖。
不安定なバンジージャンプをした俺は泣き声も出すことも出来ずにぐったりとする。
そのまま、カイン達は歩き出し一本の大きな木の下へ辿り着いた。
幹はとてつもなく太く、真ん中には大きな穴が開いていて洞窟にも見える。
『ちょいと待っておくれ。長老が【人化】を使っておったら、またこの子が驚くであろう?』
『そうだな、分かった。』
木の前でカインは止まり、ライアは中へと入って行った。
【人化】って人間の姿になるって事か?
別にそれで驚かないんだけど。
残されたカインは、咥えていた俺をゆっくりと左右に揺らす。
おお、天然のゆりかごみたいだ。
これで、足が宙に浮いて無かったらもっと気持ちよかっただろうな。
「ぁう~、うー!」
俺が機嫌良く声を上げると、優しい笑いがカインから漏れてきた。
穏やかな時間が流れる。
それから数分後。
ライアが木の中から出てきた。
こちらに近寄り、鼻を俺の頭に押し付けてからカインを見る。
『さて、長老の元へ行こうかの。』
俺は内心ドキドキしながら、木の中へと連れられて行った。
☆
『ふむ、その子か。カインよ、その子をワシの前まで持ってきてくれるか?』
しわがれた男性の声に促され、俺はカインよりも二回り程大きい白銀の狼の前に降ろされた。
威圧感があり、鋭い目で俺を覗きこんでくる。
『ふむ……人間には珍しい容姿だな。銀色の髪に紅の瞳か……そうか、ライアが言う様に捨てられた子供なのは間違いない様だな。』
『……それはどういう事かの?』
あ、俺の容姿ってそうなんだ。
来てから鏡とか見てなかったから分からなかった。
でも、なんで捨てられたって分かるんだろう?
ある意味、神様(ry)から捨てられたって言っちゃ捨てられたんだけどな。
『この容姿の人間は生まれる事はほぼ無いんだ。それは何故かと言うと……非常に魔力とその質が高く精霊にも好かれやすい。故に多種多様な魔法が使える様になる。』
『?だったら何故捨てるのだ?』
ライアは再び疑問を口にする。
その様子をカインは静かに見守っていた。
『数千年前にとある国で生まれた子は魔力の暴走で国を半壊させ、他の国で生まれた子は私利私欲に動き内乱を引き起こし国を窮地に追いやった。別の国では魔族の元へ行き、魔族と共に人間を襲った事もある。』
えぇー……
俺と似た容姿の人たち何やってんの。
まともに平和に生きようぜ。
『だが、良い子もいた。魔物の大群から1人で国を守り、復旧にも率先して手を貸していた子もおったようだ。前者の国では〈呪い子〉と呼ばれ生まれてすぐに殺される。後者の国では〈神の子〉として、王宮に保護される様になっている。この子は〈呪い子〉としての扱いを受けたのだろう。』
『だが、この子は殺されずに深淵の森に捨てられておったぞ?』
『人間の親も我が子を殺す事が出来なかったんだろう……深淵の森に捨て置けば狂う魔物に食われるだろうしな。』
悲しそうな目で長老は俺を見ていた。
そんな目で俺を見ないで。
大丈夫、俺はまともに生きていくからさ。
『わしには人間の考える事は分からんな。自分の子供を自分の意思で殺すなど考えられん。』
カインが苦々しく呟く。
まだカインの中で人間への感情が落ち着いてないのだろう。
『のおのお、長老、この子は腹を空かせておるのだが、肉を食わんのだ。どうしたらいいかの?』
空気を読まないライアの声が静まり返った部屋に響く。
長老は驚いた顔をした後、カインに顔を向けた。
『カインよ……説明をしてもらっても良いか?』
カインは小屋であった出来事を長老に説明する。
説明を受けた長老は疲れた顔をしていた。
良かった。生肉は一般的ではないみたいだ。
『ライア……お主相変わらずだな……。子供を育てておった時、母乳を与えておっただろ。その通りにすれば良い。』
『今の妾は母乳がでないのだ……』
『その辺りは心配せんで良い。神獣王様が許してくれたのだろ?なら何も心配する事はない。』
『そうか……そうなのだな……っ!』
涙を流し喜ぶライアの頬をカインが舐める。
すごく微笑ましい。
『……カインとライアよ。この子を育てるのは大変な道になるぞ。それでも育てるか?』
二匹は静かに頷く。
それを暖かく見守る長老は、どこか安心した様子が伺えた。
『少し待ってくれるか?サンルーク様にこの子を家族として認めて貰わぬといけないからな。待っている間にでもこの子の名前を考えてくれ。』
『うむ。』
『はい。』
長老は俺の布を口に咥え、奥の部屋へと進んでいく。
カインよりも上手に持ってくれる。
安定感のある布にくるまれ、長い一本道の中を運ばれていく。
サンルークって誰なんだろう……?
声にも出せない恐怖。
不安定なバンジージャンプをした俺は泣き声も出すことも出来ずにぐったりとする。
そのまま、カイン達は歩き出し一本の大きな木の下へ辿り着いた。
幹はとてつもなく太く、真ん中には大きな穴が開いていて洞窟にも見える。
『ちょいと待っておくれ。長老が【人化】を使っておったら、またこの子が驚くであろう?』
『そうだな、分かった。』
木の前でカインは止まり、ライアは中へと入って行った。
【人化】って人間の姿になるって事か?
別にそれで驚かないんだけど。
残されたカインは、咥えていた俺をゆっくりと左右に揺らす。
おお、天然のゆりかごみたいだ。
これで、足が宙に浮いて無かったらもっと気持ちよかっただろうな。
「ぁう~、うー!」
俺が機嫌良く声を上げると、優しい笑いがカインから漏れてきた。
穏やかな時間が流れる。
それから数分後。
ライアが木の中から出てきた。
こちらに近寄り、鼻を俺の頭に押し付けてからカインを見る。
『さて、長老の元へ行こうかの。』
俺は内心ドキドキしながら、木の中へと連れられて行った。
☆
『ふむ、その子か。カインよ、その子をワシの前まで持ってきてくれるか?』
しわがれた男性の声に促され、俺はカインよりも二回り程大きい白銀の狼の前に降ろされた。
威圧感があり、鋭い目で俺を覗きこんでくる。
『ふむ……人間には珍しい容姿だな。銀色の髪に紅の瞳か……そうか、ライアが言う様に捨てられた子供なのは間違いない様だな。』
『……それはどういう事かの?』
あ、俺の容姿ってそうなんだ。
来てから鏡とか見てなかったから分からなかった。
でも、なんで捨てられたって分かるんだろう?
ある意味、神様(ry)から捨てられたって言っちゃ捨てられたんだけどな。
『この容姿の人間は生まれる事はほぼ無いんだ。それは何故かと言うと……非常に魔力とその質が高く精霊にも好かれやすい。故に多種多様な魔法が使える様になる。』
『?だったら何故捨てるのだ?』
ライアは再び疑問を口にする。
その様子をカインは静かに見守っていた。
『数千年前にとある国で生まれた子は魔力の暴走で国を半壊させ、他の国で生まれた子は私利私欲に動き内乱を引き起こし国を窮地に追いやった。別の国では魔族の元へ行き、魔族と共に人間を襲った事もある。』
えぇー……
俺と似た容姿の人たち何やってんの。
まともに平和に生きようぜ。
『だが、良い子もいた。魔物の大群から1人で国を守り、復旧にも率先して手を貸していた子もおったようだ。前者の国では〈呪い子〉と呼ばれ生まれてすぐに殺される。後者の国では〈神の子〉として、王宮に保護される様になっている。この子は〈呪い子〉としての扱いを受けたのだろう。』
『だが、この子は殺されずに深淵の森に捨てられておったぞ?』
『人間の親も我が子を殺す事が出来なかったんだろう……深淵の森に捨て置けば狂う魔物に食われるだろうしな。』
悲しそうな目で長老は俺を見ていた。
そんな目で俺を見ないで。
大丈夫、俺はまともに生きていくからさ。
『わしには人間の考える事は分からんな。自分の子供を自分の意思で殺すなど考えられん。』
カインが苦々しく呟く。
まだカインの中で人間への感情が落ち着いてないのだろう。
『のおのお、長老、この子は腹を空かせておるのだが、肉を食わんのだ。どうしたらいいかの?』
空気を読まないライアの声が静まり返った部屋に響く。
長老は驚いた顔をした後、カインに顔を向けた。
『カインよ……説明をしてもらっても良いか?』
カインは小屋であった出来事を長老に説明する。
説明を受けた長老は疲れた顔をしていた。
良かった。生肉は一般的ではないみたいだ。
『ライア……お主相変わらずだな……。子供を育てておった時、母乳を与えておっただろ。その通りにすれば良い。』
『今の妾は母乳がでないのだ……』
『その辺りは心配せんで良い。神獣王様が許してくれたのだろ?なら何も心配する事はない。』
『そうか……そうなのだな……っ!』
涙を流し喜ぶライアの頬をカインが舐める。
すごく微笑ましい。
『……カインとライアよ。この子を育てるのは大変な道になるぞ。それでも育てるか?』
二匹は静かに頷く。
それを暖かく見守る長老は、どこか安心した様子が伺えた。
『少し待ってくれるか?サンルーク様にこの子を家族として認めて貰わぬといけないからな。待っている間にでもこの子の名前を考えてくれ。』
『うむ。』
『はい。』
長老は俺の布を口に咥え、奥の部屋へと進んでいく。
カインよりも上手に持ってくれる。
安定感のある布にくるまれ、長い一本道の中を運ばれていく。
サンルークって誰なんだろう……?
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