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エピローグ

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 休業日のふだがかかった喫茶店『カフェ・ボヌール』には、三匹の動物がいた。

「この前行ったカフェの玄関に鉢植うちうえがあったんだけど、うちもどうかな?」

 キツネが口を開くと、ネコは身を乗り出して同意した。タヌキも、いいと思いますとうなずいている。


 ――彼らの正体は妖怪ようかい


 カフェ・ボヌールは、妖怪の住む幽世かくりよと人間の住む現世うつしよ狭間はざまにある。ここは、人にけられる妖怪しか通ることはできない。

 だから、基本的には妖怪がお客様なのだが、ごくまれに人間が迷い込んでしまうことがあった。その者たちはみな心が不安定で、そのまま精神的負荷がかかると、幽世に引きずり込まれる危険がある。


 この喫茶店は、できる限り人間と会話をして心を安定させてあげることで、現世に返す役割を与えられたのだ。


 安藤あんどう帆夏ほのか懸田かけだかける雪崎ゆきさき正志まさしも、迷い込んできた人間たちである。
 現世に無事戻ると、狭間での記憶はなくなるため、彼らはマスターたちのことを覚えていない。



「はいはい! オムライスとかカレーとか出しましょうよ!」

 ネコの姿をした萌花もかが、前足をあげて主張した。彼女は現世でもネコでいることが多く、店に訪れた人間の様子をこっそり見に行くこともある。

「うーん」

 キツネ姿のマスターは、萌花の提案に腕を組んで悩む。

「キッチンのスペースが足りないと思うよ?」

 タヌキ姿の静哉せいやも会話に加わった。

「静哉さんの本を撤去てっきょして、お店をもっと広くしましょうよ~」
「萌花ちゃんだって、こっそり雑誌とか置いてるでしょ」

 ギクッとした萌花は目をそらし、本棚の前に移動する。前足を合わせると周りに白い煙があがり、ネコの姿だった萌花が人間になった。整然せいぜんと並べられた本の中から一冊を取り出しパラパラとめくる。

「だって静哉さんの本って難しいやつばっかりじゃないですか。純文学だけじゃなくてエンタメ系も読みたいです」
「好きな本は家に置いているから、あまり読まない純文学が必然的に多いだけだよ」
「ほらほら二人とも、話がそれていっちゃうよ」

 二人が言い合っていると、すかさずマスターが注意する。萌花は本を棚に戻し、店内の椅子によいしょと腰をおろした。

「じゃあとりあえず、玄関に置く花を探しに行こうか」

 マスターの声かけで、早速ホームセンターに向かうことになった三人。現世に行くので、マスターと静哉もすぐに人間の姿になり、白い煙が店内に充満した。

 ――人のいない空間に三人の足音だけが響き渡る。石畳のかれた神楽坂かぐらざかの路地裏を進んだ。やがて見えた神社の鳥居。ここが、現世と繋がる場所だ。
 三人はゆっくりとその鳥居をくぐった。


 さて、明日はどんなお客様に出会えるだろうか。
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