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第二部――第二章 復活の黒き片翼
第十一話 この恨みは忘れない
しおりを挟む玄関から何か配達物を見つけて持ってくるのは犬の仕事、というわけで大犬座は翌日、新聞に広告――嗚呼、今日は果物屋が安い――、それからもう一つ昨日から現れた悩みの種。今起きてる状況なんかより遙かに劣るが悩みの種を発見する。その他にもう一つ封筒が見えた気がした。
その封筒は青く、何処か懐かしくて――つい、開けてしまおうとしかけたのだが、大犬座が目を一回閉じるとそれは消えていた。
白昼夢でも見たのだろうか、そんな悩みを少しこの瞬間覚えた。
それらを抱えて、大犬座は陽炎の元へ戻ろうとするが、遠くから風や木々がざわめく音が聞こえて、大犬座は大きな瞳を半目にして、見下すような冷たい視線を、これからそこをその者達が通ろうとするだろうただ一つの森林に囲まれた道を、向ける。
「……――絶対に許さないんだから。例え本当に貴方達がプラネタリウムを手にしても、あたしは鳳凰ちゃんに頼んで、封印して貰うわ。こんな手段使う貴方達に仕えるのは真っ平よ」
大犬座は駆け足で、二階にいるであろう陽炎の元へ行く。
「陽炎ちゃん!」
流石逃げ足専門というか、大犬座は素早く陽炎の元へ辿り着き、陽炎は睡眠不足なのか目の下に隈が出来たままパンケーキを食べ終え、ホットミルクで落ち着こうとしていた。
口の中にホットミルクの膜が出来るのが気持ち悪い陽炎はすぐに、水で口直しをして、大犬座の姿を見ると、配達物を受け取り確認する。
(――新聞に……わぁ)
新聞には一面トップで、「流行病のワクチン! 独り占め妖術師発見!」と飾られていた。
住所までは流石に書かれていなかったが、この屋敷を覆う少しの森林と屋敷の外装はご丁寧に模写されていた。
中々上手い絵師だな、と呆れながら感心していると、大犬座がきゃんきゃんと喚いていた。
「待っていた馬鹿どもが来たわ!」
「――助かりたいっていう気持ちは分かるから、責められねぇけど、自分本位に生きるよ、俺はね。馬鹿じゃない、皆そういう奴なんだよ、大犬座。俺みたいになりふり構ってられないだけ」
「でも馬鹿よ! なりふり構っていられなくても、皇子にリンチって流石にやんないと思うの、何十人って単位で」
「……リンチって」
大犬座にすぐに皆を屋敷の自室に待機するようげんなりしながらも頼み、それから演技力がないであろう獅子座と演技力があるだろう鷲座を此処へ呼ぶように頼む。
それから、魚座も。こっちは個人的に聞きたいことがあるからだ。
先に来たのは魚座。化粧はいつも通りに綺麗で、香水もちゃんと付けている。
服装は少し落ち着きのある柄の着物だった。
「どうされた、陽炎君。わらわも部屋に待機せねばならんのじゃろう?」
「……あーっと、魚座のねーさん。あのさ、……柘榴、此処に置いてて心配はない?」
陽炎にそう躊躇いがちに言葉をかけられた魚座は、一瞬驚き言葉を失うも普段鳳凰座並に色気の強い彼女から色気が消えて、表情も消えて、彼女は陽炎に歩み寄り、それから心臓にあたる部分を、人差し指で強く押し刺す。
「死なせたらどうなろうか、判ってるじゃろ? もしも殺したら、死よりも苦痛を与えてやろう」
そう言った後、彼女は指を離し、その人差し指を口元に当てて、苦笑を浮かべる。
その笑みは、どんな笑みよりも可愛らしく見えて、そこに柘榴への愛情が見える。
「言われて満足か?」
――そして、陽炎への忠義心も。
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