2 / 17
第二話 失恋に一夜の淫夢
しおりを挟む
衣服を整えて消臭剤を車の中でまき散らしてから、目的の場所につけば、おねだりで買って貰った毛皮のコートを着直して一軒のアパートで呼び鈴を押す。
呼び鈴を押しても返事がないので、奏さんと顔を見合わせ、奏さんは扉をこんこんと叩く。
「おい、旋風。失恋には新しい恋がいいだろ、一夜限りの恋買ってきたぞ」
こんこんとリズムよく叩いても反応なく。
「おい、童貞。いないのか、童貞だからって恥ずかしがらなくていいんだぜ」
と奏さんが連呼しながら扉をこんこんし続けると、やがて扉がのそっと開いた。
中には、百七十五センチ……オレと奏さんの間くらいの背丈の青年がいた。
やたらと鋭い眼差しは真っ黒で、髪の色は黒髪にもみ上げにあたる箇所の髪束だけメッシュを入れた暗い青年だった。
扉を開きながら奏さんを睨み付けて、その次にオレを見つめる。
オレと目が合うと、青年は暗かった面持ちをぱあっと明るくし、顔を赤らめた。
分かりやすい反応だ、流石童貞候補。
オレは営業スマイルを浮かべながら、手をひらっと振って声をかけてみる。
「日向っていいまーす」
「ひな、た? あ、僕は旋風(つむじ)といいます」
「宜しく。そう、一夜限りの恋の相手はオレ。オンナノヒトのが良ければ、連絡して用意してもらうけれど……」
「い、いや大丈夫……というか、貴方がいい。貴方が最高です」
トロトロとした眼差しで蕩けてるなあ。ハートマークが浮かんでは消えるのが見て取れる。
やたらと色事の攻撃に弱そうな人だと思いながら、あとは任せろと奏さんに視線を送ると、奏さんは「明日迎えにくる」と帰って行った。
帰りの際に、ぽそりと「くれぐれも命が惜しければ惚れさせるな」と言われたけれど、もうこれは無理だろう。警戒するのは今からだと。
とりあえず中にお邪魔させて貰うと、旋風とやらは慌ててお茶を淹れに台所に向かった。
部屋に上がらせて貰えば、そこは1LDKの意外と広い部屋だった。
一人暮らしには十分な、だけど趣味のものが少し少ないから、旋風という人物が探りにくかった。
ふと勝手に部屋をきょろきょろしていれば、ランプで浮かび上がる星座の置物を見つけたものだから少しはしゃいでしまった。
「星空好きなのか?」
「ああ、うん。ずっと、星の中で待機してるから。星座も覚えたよ」
お茶が入ったからか良い匂いが広がり、オレはランプの置物を置いて、お茶に釣られて居間に戻る。
お茶を頂きますと飲むと、じろじろと不躾な視線が寄越される。
そこまでは慣れてるからいいんだけどさ。
「お人形みたい」って早口で十秒ごとに口走るから、若干怖い。
「えっと、オレね、一応男娼ってやつでさ」
「男娼だからこんなに美しいんですね、日々努力してる証だ……」
段取りの説明をしようとしたら、そんな言葉言われてぽかんとした。
男娼と聞いて、即座に努力してて美しいなんて言葉が出る人間に、出会った覚えがないんだ。
奏さんでさえ、オレを商売の人として扱うから、それは当たり前のことだと思っていたのに。
少しだけ旋風に興味がわいた。
「旋風は失恋しちゃったんだってね?」
「そうなんです……僕が愛してるって毎日毎晩毎朝言ってるのに、他の男に愛想振りまくから……僕、つい閉じ込めて。僕だけを見て欲しくて。愛して欲しくて」
「監禁しちゃったの?」
「後処理は完璧にしましたよ!!」
いや、誇るところそこじゃないから。
旋風は何処か危うい人だった。価値観も、感覚も、性格全て。
オレは旋風の頬に触れ、顔を間近で見つめて秋波を送りながら「可哀想に」と慰める。
それを要望されたっぽいしな。
「とっても傷ついたんだね」
「うっうっ……本当に好きだったんです。でも、あの人、今を逃したらきっと小指が一個欠けて可哀想になるから。そうなる前に、完璧な姿で愛を完成させたかったんです」
泣きながら放つ言葉を本格的には考えたくないな、と思案し、大丈夫と声にした。
「あとはオレに任せて。一晩くらいなら、埋めてあげる。その為のオレだよ」
「ひなた、さん……」
「ベッド、行こう?」
呼び鈴を押しても返事がないので、奏さんと顔を見合わせ、奏さんは扉をこんこんと叩く。
「おい、旋風。失恋には新しい恋がいいだろ、一夜限りの恋買ってきたぞ」
こんこんとリズムよく叩いても反応なく。
「おい、童貞。いないのか、童貞だからって恥ずかしがらなくていいんだぜ」
と奏さんが連呼しながら扉をこんこんし続けると、やがて扉がのそっと開いた。
中には、百七十五センチ……オレと奏さんの間くらいの背丈の青年がいた。
やたらと鋭い眼差しは真っ黒で、髪の色は黒髪にもみ上げにあたる箇所の髪束だけメッシュを入れた暗い青年だった。
扉を開きながら奏さんを睨み付けて、その次にオレを見つめる。
オレと目が合うと、青年は暗かった面持ちをぱあっと明るくし、顔を赤らめた。
分かりやすい反応だ、流石童貞候補。
オレは営業スマイルを浮かべながら、手をひらっと振って声をかけてみる。
「日向っていいまーす」
「ひな、た? あ、僕は旋風(つむじ)といいます」
「宜しく。そう、一夜限りの恋の相手はオレ。オンナノヒトのが良ければ、連絡して用意してもらうけれど……」
「い、いや大丈夫……というか、貴方がいい。貴方が最高です」
トロトロとした眼差しで蕩けてるなあ。ハートマークが浮かんでは消えるのが見て取れる。
やたらと色事の攻撃に弱そうな人だと思いながら、あとは任せろと奏さんに視線を送ると、奏さんは「明日迎えにくる」と帰って行った。
帰りの際に、ぽそりと「くれぐれも命が惜しければ惚れさせるな」と言われたけれど、もうこれは無理だろう。警戒するのは今からだと。
とりあえず中にお邪魔させて貰うと、旋風とやらは慌ててお茶を淹れに台所に向かった。
部屋に上がらせて貰えば、そこは1LDKの意外と広い部屋だった。
一人暮らしには十分な、だけど趣味のものが少し少ないから、旋風という人物が探りにくかった。
ふと勝手に部屋をきょろきょろしていれば、ランプで浮かび上がる星座の置物を見つけたものだから少しはしゃいでしまった。
「星空好きなのか?」
「ああ、うん。ずっと、星の中で待機してるから。星座も覚えたよ」
お茶が入ったからか良い匂いが広がり、オレはランプの置物を置いて、お茶に釣られて居間に戻る。
お茶を頂きますと飲むと、じろじろと不躾な視線が寄越される。
そこまでは慣れてるからいいんだけどさ。
「お人形みたい」って早口で十秒ごとに口走るから、若干怖い。
「えっと、オレね、一応男娼ってやつでさ」
「男娼だからこんなに美しいんですね、日々努力してる証だ……」
段取りの説明をしようとしたら、そんな言葉言われてぽかんとした。
男娼と聞いて、即座に努力してて美しいなんて言葉が出る人間に、出会った覚えがないんだ。
奏さんでさえ、オレを商売の人として扱うから、それは当たり前のことだと思っていたのに。
少しだけ旋風に興味がわいた。
「旋風は失恋しちゃったんだってね?」
「そうなんです……僕が愛してるって毎日毎晩毎朝言ってるのに、他の男に愛想振りまくから……僕、つい閉じ込めて。僕だけを見て欲しくて。愛して欲しくて」
「監禁しちゃったの?」
「後処理は完璧にしましたよ!!」
いや、誇るところそこじゃないから。
旋風は何処か危うい人だった。価値観も、感覚も、性格全て。
オレは旋風の頬に触れ、顔を間近で見つめて秋波を送りながら「可哀想に」と慰める。
それを要望されたっぽいしな。
「とっても傷ついたんだね」
「うっうっ……本当に好きだったんです。でも、あの人、今を逃したらきっと小指が一個欠けて可哀想になるから。そうなる前に、完璧な姿で愛を完成させたかったんです」
泣きながら放つ言葉を本格的には考えたくないな、と思案し、大丈夫と声にした。
「あとはオレに任せて。一晩くらいなら、埋めてあげる。その為のオレだよ」
「ひなた、さん……」
「ベッド、行こう?」
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ハヤトロク
白崎ぼたん
BL
中条隼人、高校二年生。
ぽっちゃりで天然パーマな外見を、クラスの人気者一ノ瀬にからかわれ、孤立してしまっている。
「ようし、今年の俺は悪役令息だ!」
しかし隼人は持ち前の前向きさと、あふれ出る創作力で日々を乗り切っていた。自分を主役にして小説を書くと、気もちが明るくなり、いじめも跳ね返せる気がする。――だから友達がいなくても大丈夫、と。
そんなある日、隼人は同学年の龍堂太一にピンチを救われる。龍堂は、一ノ瀬達ですら一目置く、一匹狼と噂の生徒だ。
「すごい、かっこいいなあ……」
隼人は、龍堂と友達になりたいと思い、彼に近づくが……!?
クーデレ一匹狼×マイペースいじめられっこの青春BL!
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
早く惚れてよ、怖がりナツ
ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。
このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。
そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。
一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて…
那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。
ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩
《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》
αの共喰いを高みの見物してきた男子校の姫だった俺(α)がイケメン番(Ω)を得るまで。
Q.➽
BL
αしか入学を許可されないその学園の中は、常に弱肉強食マウントの取り合いだった。
そんな 微王道学園出身者達の、卒業してからの話。
笠井 忠相 (かさい ただすけ) 25 Ω
×
弓月 斗和 (ゆづき とわ) 20 α
派生CPも出ます。
※ 1月8日完結しました。
後日談はその内書くと思います。
ご閲覧ありがとうございました!
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる