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長内編
第十七話 かぐや姫のように
しおりを挟む同棲が始まった、僕と雪道さんと椿の不思議な三人同棲。とあるルールができた、一日交替で僕を独占する日を作ったようだ。その独占した日には、僕が拒否さえしなければ何をしてもいいし、お互い関与しない。ただし、無理矢理強いたり脅すのだけはルール違反で、僕が拒絶するなら追い出すという話。
先日の件を受けての話だが、のらりくらりと雪道さんは承諾した。雪道さんは僕に対して甘い態度で接してくるが、本性はこの人は野生の熊のようで何もかも食いちぎる印象でしかなかった。
対する椿は僕に対してあの日からも暴言や、雑な扱いばかりだが、本性がとても優しい仲間を守る狼のような印象で。だからか、お互い好き勝手言い合う行為ができた。
僕の身体は発情期自体は少し落ち着くようになった、だが二人がラットした瞬間だけは収まりが聞かずに発情し出してしまう。
――今はその、たまたまヒートが近いだけ。ヒートが近くて、二人の衣服に包まれる。
二人が揃って出かけたので、ついつい無意識に二人の服をかき集め、その中にうずくまり安堵する。
巣作りっていうんだっけか、僕は巣作りしないオメガだと思っていたのに、性的興奮をあまりしないものだから。
なのに今こうして二人の香りに包まれて落ち着いてるということは、僕は所詮オメガだったのだと身をもって知る。
かちゃりと扉が開く音がする、椿だ。
僕は部屋に入ってきた椿に唸り、睨み付ける。椿は驚いた顔つきをしてから、僕をひょいと姫抱きで抱えて、椿の寝室へ誘う。僕を無理矢理どうにかしたいわけではないのは分かるが、かといって今はそれが辛い。巣から離れさせられたことに苛立つと、椿は抱きしめ匂いを直接嗅がせた。それにより僕は機嫌をよくする。
あの日から椿は、僕に無理矢理身体を強いたりしなかった、あの乱暴者の椿が!
「どうして、椿は僕を強引に抱かないの?」
「あの野郎と同じだと思うとぞっとしたんだ、あの日から嫌でもオレはアルファなんだって自覚した。犯罪以外は何をしても何をやっても許されるアルファ。対するオメガはどうだよ、真面目に慎ましく生きても、虐げられるなんて悲しいじゃん」
「同情ってやつ? お前らしくない」
「どうだろうな、小難しいことよくわかんねぇや。ただ分かるのは、あいつみたいに無理矢理犯すのは……なんか違うって思い始めたくらいかな」
椿はこう見えて生真面目なんだ、だからこそ分かってない。
椿の真面目な一声一声に、僕がぞくりときている現在に気づいていない。
発情期なんて認めたくない。そんな、動物的なものにしたくない。
――これは恋であってほしい。
「椿、あの、さ」
僕は恋に幻想を抱いている。かぐや姫のように、強烈に求められたい。シンデレラみたいにいつまでも幸せに暮らしたい。
だから僕は一つ賭けをすることにした、駄目ならもうたとえ関係を解消されてぼろぼろになったとしてもしょうがないと覚悟することとして。
椿なら分かってくれると不思議と信頼があった。雪道さんも何だかんだで聞いてくれると思う。怒らせさえしなければ、あの人は僕には甘い人だから。
「ヒートが来たら抱いて貰った後、僕のおねだり、聞いてくれる?」
「なぁに言ってるんだ、誕生日でもねぇだ、ろ……?」
僕からの真剣な眼差しに気づいた椿が、真剣な顔をして「言ってみろ」とせかした。
「みんなで遊ぼうゆりゆらポン太郎事件簿」
「へ?」
「このゲーム持ってきたら、僕は椿に正気の時も抱かれたい。好きになるんだけどなぁ~」
気恥ずかしいながらも茶目っ気も混じらせて、ゲームソフト名を告げる。
椿は、軽率に顔を真っ赤にし、分かったと大きく頷いた。――このソフトは、入手困難なゲームソフトなんだ。子供の頃に遊んで大好きだったんだけど、いわゆるクソゲーというやつでソフトの数は少ない割にマニア受けしている。それこそ十万だしても即決で買うマニアもいるくらい。
椿は僕にキスして「かぐや姫だな」と趣旨を分かってくれて、僕はやっぱりこいつに抱くのは恋心がいいなと思い始めた。
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