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金色の鐘を鳴らせ編

第八十五話 生涯一番の大勝負

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 「私」は服を抓んでお辞儀した。私らしくない可愛らしい仕草と愛嬌で。

「貴方と交代する日を長く長くお待ちしておりました、新しい神様」
「なんで、……どうし、て」
「あたしは古い中身です、もう魔力をとうに使い果たした一万年前の亡霊なの。新しき神様が、この時代には必要なのです。この世界を崩さず安定させるには新しい神様の魔力が必要です。そうしないと……貴方の愛しい人や、大好きな者も行き場を失い、この世界は壊れるでしょう」
「てめぇ、謀ったな!?」
「それくらい何よ、あたしは一万年待っていたの。ずっとずっと自由を待っていたの。魔力がなくなったんだから、この身体貰うくらいしたっていいでしょう?」
「……要するに、この天国で役目が終えるまで、待てということですか?」
「そうなるわ! 貴方の代わりに、可哀想だからゼロちゃんとはあたしが結婚してあげる!」

 私の怒った声に気づかず元神様はうきうきと夢をはせる。
 楽しげな私だった声で、私だった身体と表情で嬉しそうにする。
 それは、ゼロから貰った最初の贈り物だったのに……。

「最初は何をしようかしら、うーん、街に出てお買い物もいいし、貴方のお兄様にご挨拶でもいいかもね!」
「ええと、何でしたっけ……ちょっとお願いして、念じれば、何とかなると言ってましたね?」
「……? 怒ってるの? でも元々貴方は本来此処にいるべき、死んだ魂なのよ。ちょっとだけ長く見過ごしたなら、それがあたしからの気遣いって分かってよ」
「……嫌です。私は、何も諦めたくない」

 横に控えていたルネが「神様」と呼び止める。
 天界に雷が響き始める。ルネが慌てた様子で呼び止めるけれど知らない。知らない!

「私を神様と呼ばないで」
「神様、落ち着きください」
「私はッ、ゼロから貰った名前があるもの、神様じゃないわ!!」
「神様、それなら名前を自分で言えますか?」
「私は、××! ……!? なんで、……どうして!? ××! ××なのよ!」

 自分で名前を言おうとすると、胡乱な頭になっていく。
 ラクスターから名前を呼ばれても、正式に名前を聞き取れない。
 ラクスターがいよいよ怒り、大筒を取り出して、元神様が入り込んでいる私に大筒を向けた。

「今すぐ元に戻せ! てめぇじゃあねえんだよ、オレの主は!」
「駄目よ。じきに慣れるわ」
「ルネッ、てめえ、これでいいのかよ! これが何の幸せをよぶんだよ、てめぇ許さねえからな!! オレの、オレのあいつを返せ!! あいつはオレの全てなんだよ!」
「……それほどまでに入れ込むとは残念です、だから堕天などするんだよ」
「てめぇ……」

 ルネとラクスターは一触即発の空気で、逆に私自身が落ち着いてくる。
 此処で煽りに負けたら負けよ。煽りには煽りが正解なはず。

「……貴方たちの思惑は分かったわ。なら、勝負しましょう、元神様。貴方のことを炎の陣営の魔物一人でも私と認めたなら、私は退くわ。でも、私とあの人達との年月を舐めないで頂戴。貴方は受け入れられないわ。決して。誰一人貴方を受け入れない悲しい未来しか待ってないわ。もしそうなって嫌になったら、泣くといいわ。それを合図に貴方の負けとしましょう」
「賭け事? 賭け事ね、いいわ、元神様だもの。賭け事ってだあいすきなのよね!」
「……元神様、それとヴァルシュアが貴方を気にかけてました。いつでもスープを作って帰りを待っている、と」
「ヴァルちゃんのこと嫌いー! だから、あんなの後回しでいいわ! 炎の陣営に今すぐ行ってくるわ! ラクスターちゃんはその神様なら仕えるでしょう? 此処にこのままいてもいいわ、堕天使だったとしてもね」

 明るい笑顔で「私」の姿はあっさりと消えていく。
 「私」はすぐさま地上に戻った様子であった。
 私は元神様の言ってたとおり、少し念じると、白雲に下界の様子が鏡のように鮮明な状態で写された。


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