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秋の黄昏編

第八十話 次に控える試練はまだ先に

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 珍しくゼリアが拒否反応を示した。
 ミディ団長と一緒の舞台に立てるというのに、一言ずばっと「嫌よ」だった。
 原作の本をぎゅっと胸の内に抱きしめて、首をふるふるとふる。

「どうして?」
「どうしてもこうしても、その役、とと様じゃなくて最終的にラクスターを選ぶじゃない。そんなの嫌よ、ゼリアは」
「で、でもこれは作り物のお噺で」
「恩人様はそれなら、嘘でもラクスターを選ぶっていう芝居を皆に見せて出来るの?」
「うっ」
「姫さあん、それはオレが傷ついちゃうよ……」
 私が言葉につまると、ラクスターがしょげた犬のように肩を落として笑った。

 夕飯時に皆に相談するとゼリアは嫌よ嫌よと言い続けていた。
 ミディ団長は珍しく私達の様子を見て黙り込んでいたかと思うと、いきなり真面目な顔をしてゼリアに声をかけた。

「ゼリア、引き受けなさい」
「でもお、とと様あ」
「引き受けるんだね、いいね」

 有無を言わさない雰囲気にゼリアが顔を赤らめ、「とと様がそう仰るなら」と頬に手を添えた。
 どうしたのかしらと思えば、ミディ団長は何らかを考え込んでいる様子であった。
 あとは皆でわいわいしながらそれについて話していたのだけれど、ミディ団長だけは晴れない顔をしていた。

 夕飯後にミディ団長の後ろに着いていき、地下図書室で一緒に本を読みながら、ふと夕飯の時の話を投げかけてみる。
 核を壊せば確かに魔崩れとしては解放されるのだけれど、それは個人で待つ魔力自体も消失しそうだからと他に方法はないかと探してる最中でもあった。
 私がミディ団長にこっそり尋ねると、ミディ団長は微苦笑を浮かべた。

「珍しく真面目にお引き受けしてくださるのですね」
「……その次に控える試練の方が厄介だからね。君がもしかしたら帰ってこれないと思えば、皆の思い出作りにもいいと思って。ゼリアもああだけど、君に懐いているからね、後悔はさせたくないね」
「まるで私がいなくなる口ぶりですね」
「……一万人に一人の乙女だ君は。神が寄越す試練くらい想像に容易いよ僕は。君は、悲しい選択肢を強いられるだろうことも。その結果、僕らを選ばない可能性だってあるんだ。そのことを責めたりはしないけれど、せめて皆と楽しい思い出くらいあってもいいんじゃあないかと思ってね」
「ミディ団長、私は何があろうと、ゼロのお嫁さんになります」
「きっと辛い選択肢になるね、それでもかぃ?」
「迷わないとは言えないけれど、でも、私は自分を曲げたくないし。何より、あの人と一緒に居る未来が欲しいんです。欲しくなったんです」
「……そう、それなら強くなったんだね、奥方様は」

 ミディ団長はやけに情けなく儚笑を浮かべ、泣きそうな笑顔を見せた。
 何でだかこの日のことがやけに私には印象に残ったの。




 脚本作りはとても難しくて書いては紙を投げ、丸めたりぐしゃりと潰したりする。
 そうやって苦労した貫徹の三日目にようやく出来て、私はきらきらとした眼差しで出来上がった脚本を持ち上げその重みに感動する。

 内容がとても壮絶とはいえ、私が初めて一から十自分で書いた物が出来上がったので喜んで写しを人数分作る。
 人数分作るときは身体が嘘のように軽くて、ご機嫌であった。

 脚本を皆に配ると、内容の壮絶さに皆は笑い転げたり顔を顰めたり多様な反応が見えた。
 ラクスターはひいひい笑い転げ内容を読んでいたし、アルギスはこめかみを抑えて苦い顔をしていた。
 ゼロや魔物達は「これが人間社会の文化か」と興味深そうに読んでいた。

「ミディさんは、そう、こういう内容がお好きで……」
「毎年一冊出るから一年に一回のお楽しみで買ってるんだね!」
「ああそう……頭痛がする」

 何とも言いがたいアルギスの顔にミディ団長は台本を読みふけると、完成度が高いと喜んでくれた。
 原作ファンが認めてくれたなら私は嬉しかった。

「あと、そうだね。劇をして収益をえるのなら、原作者や商会の承諾がいるんだけれど、それはさっきギルバートから送られてきたんだよ。相変わらず抜け目のない勇者様だ。宣伝までしてくれたみたいでね、日程の問い合わせまで伝書鳩で沢山飛んでくる」

 アルギスがほら、と認め印が押された書物を数枚と、兄様からの手紙を机に置いてくれた。
 アルギスは秋の試練の話が入って速攻で、兄様から劇の使用権の交渉をしてくれないかと根回ししてくれたらしい。
 兄様が張り切った結果、あっさりと承諾がきたことと日程が決まったら必ず教えるようにという念押しの手紙がついていた。

 兄様の名前が出ると、一瞬だけそわっとしたシラユキと目が合うと、シラユキは顔を赤らめていて微笑ましい。
 兎に角これで公式に出来ることが確定となった、あとは四人の演技力次第ね!!


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