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春は曙編

第七十三話 アナタの盾になりたい

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 時間がどれくらい経ったか分からない。
 兄様と闘っているからか分からないけれど、その日からコピーも姿を現さず。
 私はただ、部屋に監禁されていた。クロユリが沢山敷き詰められたこの部屋に。

 部屋の物に触れるつもりも出ず、ただ私は魔力を通してこの場所を伝えようとしたけれど、この場から外へ魔力を繋げるには不可能のようだ。
 何かしら魔力を封じる部屋らしい。

(ゼロ、ゼロ――!)

 大丈夫。ゼロは助けてくれる。ゼロなら、きっと大丈夫。
 ゼロが助けてくれるはず、と自分を奮い立たせながらも、春の陽気と闘う。
 眠気に震え、うとうととするけれど眠るわけにはいかない。
 眠ったらきっと試練に乗り越えられない。私が寝てしまっては駄目よ。

 しっかりしないとと、頬を叩いて、朝も昼も晩もゼロを待っていた。

 やがて、何日か分からないけれど、何日かが過ぎる頃に誰かの足音が聞こえた。

 扉を開けてくれたのは――ゼロだった。

「ウル!」
「ゼロ、……ゼロ、私、怖かった……!!」

 ゼロに飛びつくように抱きしめ、わんわんと泣けば、ゼロは私を強く抱きしめ私の手を握った。
「すまない、待たせたな」
「待ったわ、ほんとに、来てくれて有難う……一人、怖い。嫌よ、もう、嫌よ。ゼロと離ればなれになるのは」
「可愛いことを言う花嫁だ……なあ、もう三日は過ぎたはずだ……少し、だ、け、眠って良いかウル……」
「ゼロ?」
「少々……魔力を、使いすぎた、……っく」

 ずる、とゼロの身体が折り曲げられ、ゼロは不愉快そうな顔のまま眠りはじめた。
 春の陽気の試練からではないのは、何となく察した。
 此処にくるまでに、魔力を大量に消耗したのだろうと。
 ゼロの後ろには、兄様がいて兄様がゼロを見てくれた。

「大丈夫、生きてる。コピーのやつは逃げちまったけど、ヴァルシュアたちは蹴散らしたらしい。ヴァルシュア自体は……どこに居るかわかんねーけどな。兎に角、炎の陣営の勝利だ今回は」
 兄様からの慰めに、こくりと頷く頃合いに春の精霊女王が現れた。

『春の試練合格おめでとう、貴方だけよ。最後まで起ききっていたのは。いえ、そこの魔王も最後まで起きていたうちのひとりね。貴方と魔王が起きていたなら、春の試練は合格とします』
「……それなら皆を起こしてください」
『いいわ。……ねえ、どうしてそんなにこの炎牛と結婚したいの? 私にはよく分からないの。生き返らせてくれたご恩?』
「……ゼロがゼロだからよ。……私を信じ抜いて、私を守り切ってくれた人だから……私の信頼に応えることに全力だったから。私はこの人の盾になりたい」
『盾ね、素敵ねそういう関係。少し春のような素敵な惚気を聞かせてくれたご褒美に、祝福してあげるわ。私達春の精霊から』


 春の精霊女王は消えるけれど、一気にゼロの体内に魔力が蘇り湧き水のように溢れるのを感じ取る。
 ゼロがばっと顔をあげ、きょとんとあたりを見回す。
 辺りは花が咲き溢れ、私は目覚めてくれたゼロに涙をこぼした。


「ゼロ、約束を守ってくれて有難う」

 ゼロの穏やかな笑顔に、私はこの人を支えて生きていきたいと、感じ取ることが出来た。



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