73 / 88
春は曙編
第七十三話 アナタの盾になりたい
しおりを挟む
時間がどれくらい経ったか分からない。
兄様と闘っているからか分からないけれど、その日からコピーも姿を現さず。
私はただ、部屋に監禁されていた。クロユリが沢山敷き詰められたこの部屋に。
部屋の物に触れるつもりも出ず、ただ私は魔力を通してこの場所を伝えようとしたけれど、この場から外へ魔力を繋げるには不可能のようだ。
何かしら魔力を封じる部屋らしい。
(ゼロ、ゼロ――!)
大丈夫。ゼロは助けてくれる。ゼロなら、きっと大丈夫。
ゼロが助けてくれるはず、と自分を奮い立たせながらも、春の陽気と闘う。
眠気に震え、うとうととするけれど眠るわけにはいかない。
眠ったらきっと試練に乗り越えられない。私が寝てしまっては駄目よ。
しっかりしないとと、頬を叩いて、朝も昼も晩もゼロを待っていた。
やがて、何日か分からないけれど、何日かが過ぎる頃に誰かの足音が聞こえた。
扉を開けてくれたのは――ゼロだった。
「ウル!」
「ゼロ、……ゼロ、私、怖かった……!!」
ゼロに飛びつくように抱きしめ、わんわんと泣けば、ゼロは私を強く抱きしめ私の手を握った。
「すまない、待たせたな」
「待ったわ、ほんとに、来てくれて有難う……一人、怖い。嫌よ、もう、嫌よ。ゼロと離ればなれになるのは」
「可愛いことを言う花嫁だ……なあ、もう三日は過ぎたはずだ……少し、だ、け、眠って良いかウル……」
「ゼロ?」
「少々……魔力を、使いすぎた、……っく」
ずる、とゼロの身体が折り曲げられ、ゼロは不愉快そうな顔のまま眠りはじめた。
春の陽気の試練からではないのは、何となく察した。
此処にくるまでに、魔力を大量に消耗したのだろうと。
ゼロの後ろには、兄様がいて兄様がゼロを見てくれた。
「大丈夫、生きてる。コピーのやつは逃げちまったけど、ヴァルシュアたちは蹴散らしたらしい。ヴァルシュア自体は……どこに居るかわかんねーけどな。兎に角、炎の陣営の勝利だ今回は」
兄様からの慰めに、こくりと頷く頃合いに春の精霊女王が現れた。
『春の試練合格おめでとう、貴方だけよ。最後まで起ききっていたのは。いえ、そこの魔王も最後まで起きていたうちのひとりね。貴方と魔王が起きていたなら、春の試練は合格とします』
「……それなら皆を起こしてください」
『いいわ。……ねえ、どうしてそんなにこの炎牛と結婚したいの? 私にはよく分からないの。生き返らせてくれたご恩?』
「……ゼロがゼロだからよ。……私を信じ抜いて、私を守り切ってくれた人だから……私の信頼に応えることに全力だったから。私はこの人の盾になりたい」
『盾ね、素敵ねそういう関係。少し春のような素敵な惚気を聞かせてくれたご褒美に、祝福してあげるわ。私達春の精霊から』
春の精霊女王は消えるけれど、一気にゼロの体内に魔力が蘇り湧き水のように溢れるのを感じ取る。
ゼロがばっと顔をあげ、きょとんとあたりを見回す。
辺りは花が咲き溢れ、私は目覚めてくれたゼロに涙をこぼした。
「ゼロ、約束を守ってくれて有難う」
ゼロの穏やかな笑顔に、私はこの人を支えて生きていきたいと、感じ取ることが出来た。
兄様と闘っているからか分からないけれど、その日からコピーも姿を現さず。
私はただ、部屋に監禁されていた。クロユリが沢山敷き詰められたこの部屋に。
部屋の物に触れるつもりも出ず、ただ私は魔力を通してこの場所を伝えようとしたけれど、この場から外へ魔力を繋げるには不可能のようだ。
何かしら魔力を封じる部屋らしい。
(ゼロ、ゼロ――!)
大丈夫。ゼロは助けてくれる。ゼロなら、きっと大丈夫。
ゼロが助けてくれるはず、と自分を奮い立たせながらも、春の陽気と闘う。
眠気に震え、うとうととするけれど眠るわけにはいかない。
眠ったらきっと試練に乗り越えられない。私が寝てしまっては駄目よ。
しっかりしないとと、頬を叩いて、朝も昼も晩もゼロを待っていた。
やがて、何日か分からないけれど、何日かが過ぎる頃に誰かの足音が聞こえた。
扉を開けてくれたのは――ゼロだった。
「ウル!」
「ゼロ、……ゼロ、私、怖かった……!!」
ゼロに飛びつくように抱きしめ、わんわんと泣けば、ゼロは私を強く抱きしめ私の手を握った。
「すまない、待たせたな」
「待ったわ、ほんとに、来てくれて有難う……一人、怖い。嫌よ、もう、嫌よ。ゼロと離ればなれになるのは」
「可愛いことを言う花嫁だ……なあ、もう三日は過ぎたはずだ……少し、だ、け、眠って良いかウル……」
「ゼロ?」
「少々……魔力を、使いすぎた、……っく」
ずる、とゼロの身体が折り曲げられ、ゼロは不愉快そうな顔のまま眠りはじめた。
春の陽気の試練からではないのは、何となく察した。
此処にくるまでに、魔力を大量に消耗したのだろうと。
ゼロの後ろには、兄様がいて兄様がゼロを見てくれた。
「大丈夫、生きてる。コピーのやつは逃げちまったけど、ヴァルシュアたちは蹴散らしたらしい。ヴァルシュア自体は……どこに居るかわかんねーけどな。兎に角、炎の陣営の勝利だ今回は」
兄様からの慰めに、こくりと頷く頃合いに春の精霊女王が現れた。
『春の試練合格おめでとう、貴方だけよ。最後まで起ききっていたのは。いえ、そこの魔王も最後まで起きていたうちのひとりね。貴方と魔王が起きていたなら、春の試練は合格とします』
「……それなら皆を起こしてください」
『いいわ。……ねえ、どうしてそんなにこの炎牛と結婚したいの? 私にはよく分からないの。生き返らせてくれたご恩?』
「……ゼロがゼロだからよ。……私を信じ抜いて、私を守り切ってくれた人だから……私の信頼に応えることに全力だったから。私はこの人の盾になりたい」
『盾ね、素敵ねそういう関係。少し春のような素敵な惚気を聞かせてくれたご褒美に、祝福してあげるわ。私達春の精霊から』
春の精霊女王は消えるけれど、一気にゼロの体内に魔力が蘇り湧き水のように溢れるのを感じ取る。
ゼロがばっと顔をあげ、きょとんとあたりを見回す。
辺りは花が咲き溢れ、私は目覚めてくれたゼロに涙をこぼした。
「ゼロ、約束を守ってくれて有難う」
ゼロの穏やかな笑顔に、私はこの人を支えて生きていきたいと、感じ取ることが出来た。
0
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【実話】高1の夏休み、海の家のアルバイトはイケメンパラダイスでした☆
Rua*°
恋愛
高校1年の夏休みに、友達の彼氏の紹介で、海の家でアルバイトをすることになった筆者の実話体験談を、当時の日記を見返しながら事細かに綴っています。
高校生活では、『特別進学コースの選抜クラス』で、毎日勉強の日々で、クラスにイケメンもひとりもいない状態。ハイスペックイケメン好きの私は、これではモチベーションを保てなかった。
つまらなすぎる毎日から脱却を図り、部活動ではバスケ部マネージャーになってみたが、意地悪な先輩と反りが合わず、夏休み前に退部することに。
夏休みこそは、楽しく、イケメンに囲まれた、充実した高校生ライフを送ろう!そう誓った筆者は、海の家でバイトをする事に。
そこには女子は私1人。逆ハーレム状態。高校のミスターコンテスト優勝者のイケメンくんや、サーフ雑誌に載ってるイケメンくん、中学時代の憧れの男子と過ごしたひと夏の思い出を綴ります…。
バスケ部時代のお話はコチラ⬇
◇【実話】高1バスケ部マネ時代、個性的イケメンキャプテンにストーキングされたり集団で囲まれたり色々あったけどやっぱり退部を選択しました◇
姫金魚乙女の溺愛生活 〜「君を愛することはない」と言ったイケメン腹黒冷酷公爵様がなぜか私を溺愛してきます。〜
水垣するめ
恋愛
「あなたを愛することはありません」
──私の婚約者であるノエル・ネイジュ公爵は婚約を結んだ途端そう言った。
リナリア・マリヤックは伯爵家に生まれた。
しかしリナリアが10歳の頃母が亡くなり、父のドニールが愛人のカトリーヌとその子供のローラを屋敷に迎えてからリナリアは冷遇されるようになった。
リナリアは屋敷でまるで奴隷のように働かされることとなった。
屋敷からは追い出され、屋敷の外に建っているボロボロの小屋で生活をさせられ、食事は1日に1度だけだった。
しかしリナリアはそれに耐え続け、7年が経った。
ある日マリヤック家に対して婚約の打診が来た。
それはネイジュ公爵家からのものだった。
しかしネイジュ公爵家には一番最初に婚約した女性を必ず婚約破棄する、という習慣があり一番最初の婚約者は『生贄』と呼ばれていた。
当然ローラは嫌がり、リナリアを代わりに婚約させる。
そしてリナリアは見た目だけは美しい公爵の元へと行くことになる。
名前はノエル・ネイジュ。金髪碧眼の美しい青年だった。
公爵は「あなたのことを愛することはありません」と宣言するのだが、リナリアと接しているうちに徐々に溺愛されるようになり……?
※「小説家になろう」でも掲載しています。
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
悪役令嬢の兄に転生したみたいだけど…
八華
恋愛
悪役令嬢の兄に転生してしまった俺。
没落エンド回避に頑張ってみようとするけど、何かおかしな方向に……。
※悪役令嬢な妹は性格悪いです。ヒロインさんの方が少しまとも。
BLっぽい表現が出てきますが、そっちには行きません。妹のヘイトを吸うだけです。
**2017年に小説家になろうに投稿していたものの転載です。**
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜
よどら文鳥
恋愛
フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。
フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。
だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。
侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。
金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。
父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。
だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。
いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。
さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。
お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる