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勇者参列編

第十三話 兄である勇者との再会

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 シラユキに案内された王室に、確かに兄様とラクスター、セバスチャンはいた。
 ラクスターと目が合うと、ラクスターはにやにやと笑いながら両手でピースしたものだから私は笑ってしまった。
 ゼロの咳払いで、私ははっとし、兄様に歩み寄る。
 兄様は、じっと私を見つめると、睨み付けて隅々まで眺めて盛大なため息をついた。
 信じてくれる?
 怖い、兄様が信じてくれなかったらと思うととても怖い。
 唯一の血の繋がった家族だから、見捨てられたらと思うと怖くて身がすくむの。
 一回視線を落としてから、もう一度視線を合わせたところで、兄様はしゃんとして真面目な表情になった。

「マジにウルだ……オレの正真正銘の妹であるウルの仕草をよくするから、分かるんだ。視線の置き方も、本当にウルだ。その遠慮がちに相手を見つめる仕草だって……ウル、どうして……死なせてしまった、オレが死なせてしまったウルだ!」
 兄様が涙混じりに私を抱きしめてくれたことで、私も兄様から涙を貰ってしまい、もらい泣きした。
 静かに泣きながら、兄様を抱きしめた。

「ごめんなさい、兄様をお一人にしてしまい。苦労をおかけしました」
「いいんだよ、そんなことは! 怪我はもうないな、病もない健康体なんだな!?」
「はい、ウルはとても元気に此処で暮らしてます。皆様によくしてもらってます」
「まあよくしてもらってるっつーのはにわかに信じがたい話だが、そこの堕天使を信じてついてきて確かに良かったみたいだ」
「道中何かありましたか?」
「いや、そこの爺さんが寝るたんびに殺そうと戦いを仕掛けてくるから、手間取っていたら堕天使が助けてくれて一緒に案内するつってな」
 兄様の言葉にセバスチャンは慌てもせず、にこにことしているが、ゼロが目を細め静かに怒りを抑えた声を放つ。
「セバスチャン、どういうことだ。余は、今回に関しては丁重にもてなせと申したつもりだったが、それは余の認識とずれていたかな?」
「は、はは、老いぼれですので忘れておりましたのじゃ……」
 セバスチャンはゼロの一声ただ一つで身震いさせ、ラクスターは爆笑してる。
 ゼロはセバスチャンに下がらせると、勇者に机越しに眼差しを向ける。

「さて、勇者よ。この部屋にお前がいるのは不思議で大層な縁であるが、此度はセバスチャンが用事を告げたと思うが改めて。ウルとの婚礼の承諾を貰いたい」
「……てめえにウルが幸せに出来るのか?」
「しようとも」
「一人にもするなよ」
「お前に言われたくはない」
「てっっっめ!!!!!!! ……っち、否定したいとこだが、魔物に転生したからには、魔王の花嫁が一番安全かもしれねえのは確かだ。魔物の側にいるってんなら!」
「お兄様……!」
「くっっそむかつく相手だけど、認めてやるよ。バージンロードも歩いてやってもいい、ウルをエスコートしてな」
 私は兄様に嬉しくて抱きつくと、兄様はでれっとしてから真面目な表情に戻った。
「ただ何もお礼なしは困るな。お前にとっても悪くない話を持ってきた、魔王、引き受けて欲しい。魔崩れである……アルギス退治の協力を」
「お兄様?!!」
「はは……あの軟弱なアルギスが、結構大変なことになってるんだ、人間側にとってもな」
「申してみよ、何をあの魔崩れが行っているのか」
「……優秀な人間ばかりを狙って誘惑し、水の魔王と契約し魅了された者達が魔崩れになって人里や国を襲っている。魔崩れは、魔物じゃあない。だが間接的には関わっている。……扱いに困っているし、オレとしてもアルギスはウルの生前には大変世話になったからどうにかしたいんだ。それに情報をうちのシーフが掴んだんだが、水の魔王は近々お前の領域に何かを仕掛けるつもりらしい」
「……つまり、余にも迷惑である同胞を殺してあの魔崩れを解放させろと? 他の魔崩れも兼ねて」
「オレが世界でたった一人の大事な妹だった魂を、ゴミでくそみてぇなテメエなんざにくれてやり、妹の幸せとして心から祝福する条件がこれだ」
「……勇者としての顔だけであったら、答えは簡単で、否であった。しかしな、お前は新婦の、我が乙女の兄故に、義兄となるのよな」
「馬鹿牛ッ、オレが避けてきた単語を言うなア!! 鳥肌たつわ!!」
「いや、真面目にな。義兄としての話であれば、聞かねばな」

 にこりとゼロは笑いかけてから、薄ら笑いに変わり、冷酷な色を瞳に宿す。

「ひとつ、あの馬鹿女に戒めを与えるのに協力しよう。人相手で倒せぬのなら魔王の妨害は、お前に任せる。お前が処理をしてあいつを殺すなり捕らえるなりしろ。魔崩れは、余が何とかしよう」
「うっし、話は成立だ。それと、シーフが掴んだ情報によると……アルギスは、ウル。お前を奪おうと……攫おうと作戦を練っているらしい」
「……ッアルギスが……」
「気をつけろよ。生前にお前たちの関係は良好だったことは知ってる、恋仲にまで発展はしてなかったのもな。でも、今、アルギスは恋に狂った化け物だ。何をしてでも、魔王、てめえからウルを奪おうとするだろう」

 兄様は真剣な顔で私とゼロを交互に見やり、笑った。

「真剣な愛を育むのなら、まず排除すべきはアルギスとの問題だ。オレなんかよりもな。力尽くでウルを奪う婚礼じゃないと言うのなら、証明してみせろ魔王。ウルが、お前を選ぶのだと」

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