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18.浅田光の脱出劇。

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 ごう、と音を立てる程の勢いで火が回る。そうか、さっきから感じてた臭いはガソリンそのものだったのか。

「う、うわあああああ!!」

 雅治さんは顔を真っ青にしながら叫んだものの、一瞬にして炎に呑まれた。そして、彩も。

「……っ!!」

 急いで鼻を覆う。まずい、火の回りが早い。

「っ修治!」

 何を言えば良いのか分からない。散々傷つけた、謝る資格すら本当はない。殺されても仕方ない。それでも。

「ごめんっ……」

 悪いのは全部俺だ。どこまでも身勝手で、掻き回して。それでも、……まだ、死ねない。
 目を閉じて、覚悟を決める。炎の中に飛び込んだ。そして、勢いよく扉を蹴破る。焼けて脆くなっていたのか、簡単に外れた。服に火が燃え移ったのも、急いで脱いで払えば何とか消えた。
 断熱材が仕事しているのか、通路になかなか火は伸びない。火傷でひりつく足を引きずりながら、歩き出す。窓から外を見下ろすと……まだ修治の車があった。逃げていないのか。

「……まさか」

 記憶を必死に手繰り寄せる。どこだ。あの病室以外で、ガソリンの臭いを感じた場所は。だめだ、思い出せない。完全に上の空だった。
 ひとまず、階段を一つ降りる。俺達を集められた病室は、一番上の階だった。そして、見つけた。明かりが、唯一漏れている部屋。走る。痛くても、それどころじゃない。

「葵っ……!」

 駄目だ、それだけは。絶対駄目だ。
 病室の扉を開く。そこは、予想に反して火はついていなかった。ただ、懐中電灯を床に置く事で照らされていた。

「……葵」

 葵は震えていた。その手には。

「ひ、光、くん……」
「葵! 修治はっ!」

 恐る恐る、葵が空いた指を指す。床に、修治が伏していた。夥しい血を流しながら。
 葵の手を取り、持っていた包丁を外してやる。床に投げ捨てて、葵を抱きしめた。

「なんで……なんで、こんな」
「俺が、やったんだ」

 床から、声が聞こえる。小さな声だった。

「はは、だって……いや、お前は……なんでここに来たんだよ……やっと葵と、二人だけに、なれるって……思ったのに」
「馬鹿野郎!」

 初めて、怒鳴った。

「……、馬鹿に、なっちまったなあ」
「葵、救急車! これで!」

 葵に俺のスマートフォンを渡す。葵は震える手で操作を始めた。
 修治を引き起こす。火傷で泣きそうになるが、そんなこと言っていられない。

「よせよ……お前も、きついだろ」
「うるさい!」

 急いで触診する。大丈夫だ、急所は外れている。それでも、出血が多い。葵は電話を始めていた。

「あー……何もうまくいかねえな。ずっとだ」

 ひとまず服を脱がせ、その服で止血を始める。

「葵……」

 修治の声は、必死に電話をしている葵には気付かれない。そんな葵に、尚も「もういい」と語りかける。

「終わらせてくれよ、お前とだけいられれば……もう、いいよ俺……」

 その言葉は、かつて俺が零したものと同じだった。
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