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16.元林清斗の仕事終了。

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「いやぁしかし恋に狂うと人っておかしくなるんだねぇ」

 ソファで某アイスをくわえながら、猫さんは笑った。それは確かに会えているけれど、その「おかしくなる」はある意味いい方向変える事もあるのだと僕は知っている。
 僕たちの自宅は、事務所も兼ねている。だからリビングは基本的に接待用に綺麗にはしている。猫さんのお父さんは新しく事務所を構えようとしてくれていたけれど、家事の事も考えてそれは断った。
 そして、今日は浅田くんが事務所に来ている。彼は、僕が印刷した写真たちを食い入るように見詰めていた。

「……真っ黒だったってことか」

 写真をテーブルに置きながら、浅田くんは呟いた。
 浅田くんから依頼をもらい、一ヶ月。浅田くんの奥さんの不貞の簡単に証拠は用意出来た。頻度としては週二回。不倫にしてはなかなかハイペースで事に及んでいるらしく、猫さんはその内容を大層面白がっていた。そして、相手も浅田くんの予想通りだったらしい。

「毎週月曜と木曜だね。何かこのルーティンに心当たりは?」
「月、木……相手の男の病院が午前診をしてないな」

 確かに時間帯はすべて午前中だ。すべて、正午になる前にラブホテルから出てきている。
 ただ、一つ気になるのは。

「……奥さんめちゃくちゃ乗り気だね。相手の男の顔死んでるのに」

 普段から聞いていたイメージとしては、浅田くんに余程の執着をしていたようだったのに。
 浅田くんは一つ溜息を吐き、頭を抱えた。そんな彼に「どうする?」と問う。

「正直これだけ証拠見つかってるし、これ以上掘ってもこっちが有利なのは変わらないと思うんだ。もし弁護士が必要なら紹介出来るけれど」
「そうだな。悪い、少し考えさせてくれ」

 頷くと、浅田くんは封筒を差し出してきた。中身を取り出し確認する。そして、彼は立ち上がった。

「あ、写真持って帰る?」
「いや、まだ嗅ぎ回ってる事ばれたくない」

 それもそうか。一応「また何かあればいつでも言って」と言うと、彼は短く礼を言って玄関を出て行った。鍵を閉めながら、猫さんは「よかったね、ばれなくて」と笑ってくる。
 ちらり、と仕事棚に目をやる。あそこには、同時進行で回収した……浅田くんと凪野さんの資料が入っている。さすがに浅田くんもそこは弁えているだろうし見付かるわけはなかったけれど、やはり少し肝を冷やした。

「いやーどうなるんだろうねこれ」
「ややこしい事にしかならなさそうだけどね」

 僕の言葉に、猫さんは「確かに」と笑いながら新しい棒アイスを取り出した。
 ……遡る事、一週間前。僕は三崎くんに調査結果の報告をした。浅田くんの奥さんと違いなかなか証拠を掴めなかったけれど、浅田くんが磨夢ちゃんを連れ三崎くんの家に行き……決定的な瞬間を、撮ることが出来た。その時の写真を見た時の三崎くんの顔は、一生忘れる事は無いだろう。

「三崎くん本当に可哀想だね。奥さんにも友達にも裏切られてんだから」

 などと言いつつ、猫さんは軽い調子だ。あくまで他人、と割り切っている。これを「冷たい」と言う人もいたようだけれど、僕からすれば丁度いい。それに、僕たちには……どんな気持ちを内包していようが、切れない絆がある。
 一旦二人の依頼は終了した。あとは……どうなるか。想像する。それしか出来ない。
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